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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
建国編 奔走する魔導師
189/192

第四十四話 「想い出」

 その後も宴は続き、俺は知り合いに片っ端から声をかけていった。

 トロア村の面々、エルフの里の奴らや暗黒大陸で出会った人々。意外と顔が広かったんだと思い直した。

 話し疲れ、少しふらつく足で龍帝と話していたソファまで戻る。

 俺よりも先にイズモがソファに座っており、その隣に腰掛ける。


「疲れた」

「その割に、笑顔ですよ」

「そうかな」

「そうですよ」


 自分で頬をぐりぐりとしてみるが、当然わかるはずもない。

 鏡を出そうとするレイシーを手で制し、追い払うように手を振る。


「冷たいですよ」

「嫌なことをしようとするのが悪い」


 自分の緩んだ顔など見たくもない。

 俺は膝に肘を置きながら、大きく息を吐いた。


「――今日はいい日だ」


 独り言のように、小さくつぶやく。

 隣のイズモが、こちらを向く気配を感じた。そちらへと顔を向け、目を合わせてもう一度呟いた。


「今日は良い日だ」

「――ええ、そうですね」

「こんな日が、続くと良い」


 そんなことは、どうせないけれど。

 それでも、毎日がいい日だったと思えるのは大切だろう。そしてそれが明日も続けばいいと願うはずだ。ハムスターがいれば、誰だってそう語りかけるだろう?


「どうされたんですか」

「別に」


 怪訝そうに聞いてくるイズモに、切り上げるようにそう言った。

 俺はソファに寝転ぶように体勢を変える。足をソファから投げ出し、頭はイズモの膝の上。イズモの顔を見上げる形だが、腕を顔に置いて目は合わないようにする。


「明日はもっといい日になるかな?」

「どうでしょう。パーティが終われば、政務が始まりますよ」

「それは嫌だな」


 とても嫌だ。

 仕方ないとはいえ、仕事なんてしたくもない。国ともなればどんな責任を負わされるか。

 もっと責任分散させていこうぜ。民主主義を浸透させよう。そうすれば俺が楽になる。


「はぁ。まぁ。いいや。今日と変わらぬ明日が来るように――」


 俺は、そう言いながら暗闇の視界の中、ゆっくりと意識の手綱を離す。

 アレイシアが言う通りに動いていてくれたなら、道を繋いでくれているはず。消費してもいないのに魔力が失われている感覚はあったので、動いてくれているのだとは思っているけど。

 ガラハドの頼みは、要領を得なかった。あの歴史の編纂者をどうにかすれば終わりなのか、他にもあるのか。わからないけれど、どこまでを頼まれたのかわからないけれど。

 明日をまた、今日と同じように迎えられるように。

 転生者であり、異端の存在の俺が、明日も問題なく存在できるように。

 頼まれたのかは知らないが、俺は俺のためにやるとしよう。


「――マスター」


 意識を手放そうとしたその瞬間、ぺち、と軽く頬を叩かれる。たったその一度で、眠気は吹き飛んでしまった。

 俺は目を開けてイズモの目を見据えながら呆然としていた。眠気が吹っ飛んで、俺がやろうと思っていたことも一緒に吹き飛んでしまったから。

 呆然とする俺を意にも介さず、イズモはにっこりと笑いながら語りかけてくる。


「寝ないでください。戻ってこられなくては困ります」

「……別に、戻ってくるだろ」

「それはいつの話ですか? 明日? 一週間後? 100年後かもしれませんよ」

「えっと……」


 それは、確かに否定できないけれど。

 だが、寝入ったからと言って年単位で意識が戻らなかったことはない。ガラハドに魔力操作を教えてもらった時だって10日だった。そんなに長くなることは、ないと思うのだけど。


「マスターにいなくなられると困るんです。皆。だって、皆マスターのために動こうと決めたのですから」

「そんなことないだろ。俺がいなくても……皆、やってくれる」

「では言い出しっぺのくせに、逃げるんですか。面倒ごとだけ残して」

「ぐうの音も出ねぇ」


 それは、そう。

 一度寝入ってしまえば、1,2年寝入ったところで変わらんだろうとか思ってる節はある。そのうちに、俺のいない間に国家運営が軌道に乗っているといいなって思ってなくもない。

 まぁ無理だとも思ってるけど。

 おそらく俺が今いなくなったら、いいとこアクトリウム皇国の属国かな。監督員の派遣を決めているし、海皇はその辺をうまくついてくるだろう。


「これから皆と一緒に、いい国を作っていくんですよ」

「……ああ、そうだな」


 イズモに言われ、俺はゆっくりと体を起こした。

 ソファの肘掛けに頬杖をつき、息を吐いた。


「――おい、どうするんだ」


 タイミングを見計らったように、アレイシアが俺にだけ聞こえるよう問いかけてくる。


「勇者召喚だとか歴史の守り人だとか、特異点ガラハドの死だとか、いろんなものが絡み合った結果に、扉は近づき、道はつないでいられる。今を逃せば、次は冗談なく千年単位で先だぞ」

「じゃあいいよ。諦める」

「――はぁ? 諦めるって」

「別にガラハドに頼まれたことでもないだろ。明言されたわけでもなし。だから、俺のタスクから外すよ」

「お前……っ!」

「その道の先、扉の主人が俺の存在に不満があるなら、向こうからまた近づいてくるだろ。そうじゃないうちは、俺は存在していられるともいえる。だから放置だ」

「そんな簡単に言うけど」

「お前は随分と仕事熱心だな。無駄な労力使わなくて済んで、感謝されるかと思ったが」

「君のいい加減な態度に辟易しているだけさ」

「元からこんなものだろ」

「いいや。ガラハドが生きてりゃ――……まぁいいさ」

「なんだよ。言いかけたなら言っていけ」

「癪だからやめとくよ。消される時は呪術書を解いてくれよ」


 アレイシアは減らず口を残すと、気配を消した。

 俺は大きく息を吸い、吐き出した。


「お話は終わりましたか?」

「終わったよ。話し尽くした」

「尽くしましたか」

「ああ。話は尽きた」


 話し尽くして、話も尽きた。

 だからこの話はこれ以上発展しない。これ以降そんな話はしない。


「行き当たりばったりのその場凌ぎな対応になるけど」


 それでいい。もう、それでいいや。

 きっと神様も許してくれるだろ。まぁ許しを請うつもりなど毛頭ないけれど。それにこの世界の神様は皆、魔導師の手中だ。それに関して許しを請うような相手じゃない。


「それでいいんだろ?」

「ええ。構いません。本当に困ったら、ノエル様やリリー様とも一緒に解決しましょう」

「そうだな」


 もう俺1人でどうにかしようと考えるのはやめて、問題が表面化した時に、その時いる奴らで対処するとしよう。

 俺1人でどうにかしようとしてたんだ、最悪俺1人でもどうにかできる問題だろう。


 問題は全て解決しなかったけれど、今からは新たな問題――国家運営について考えるとしよう。



☆☆☆



「――もっと寄れよ。フレームに収まらねえだろ」


 式典も済み、各国代表も帰ってもらった城の中で、何をすればいいかわからなかったのでとりあえず記念写真を撮ろうとしていた。

 カメラなんてものはないし、魔法道具の水晶でカメラっぽい機能があるものを使っているのだけど。

 まぁカメラの構造事態はそんな難しいものではなかったはずなので、頑張れば作れんことはなさそうだ。そのうちホドエール商会が開発するだろう。


「あーリリック、もっと内側。グレン、表情固いぞ。ガルガドはもう少し屈め。レイシーはドレイクに持ち上げてもらえ」


 全員がフレームに収まるように、水晶に映し出される画面を見ながら指示を出す。


「グレン、笑えよ。せめて真顔」

「そう言われてもな……撮られるのは苦手で」

「魂が抜かれるってか? 隣のやつに手ぇ握っててもらえばいいだろ」

「そんなことできるか!」

「アルマ姉、握ってあげてください」

「わかったわ」


 俺の冗談を真に受けたアルマがグレンの手を握る。逃げようと抵抗するグレンだが、アルマは手を離そうとはしない。

 これはこれで面白いな。ほっとこう。


「イズモとノエルももうちょい寄ればいいだろ。謎の空間がある」

「マスターの場所ですよ」

「あなたが映らないと意味ないでしょ」

「え……まぁいいか」


 なんのために撮影者側に回っていると思っている。写らないためだろうが。

 まぁそんなことが罷り通るとも思っていないので、俺が写る時にはブレブレになるように設定しておこう。

 俺とて写真はあまり残したくない。転生者だしね! とはいえ、召喚者ではないし、ネロ・クロウドはこの世界に存在していたわけだしなぁ。魂の問題か。考えるだけ無駄だな。

 単に撮られるのが苦手なだけか。グレンと一緒だな。別に魂を抜かれるとは思っていないが。

 ていうか、写真撮影されて魂抜かれるならちょうどいいじゃねえか。そういうことではないか。


「――うん。まぁ位置はいい感じかな」

「準備できました? ならマスターも――」


 イズモの言葉を無視し、撮影水晶を起動する。魔力を流せば流すだけシャッターが切れる。まぁシャッター音がするわけではないけれど。代わりにフラッシュみたいな光を放つ。

 その機能を、俺の魔力で行うとどうなるかっていうと、流す量の調整をミスっただけで数十秒光りっぱなしの連写を放った。


「…………眩しいんだが?」

「悪い悪い。試しにやってみたんだけど、俺の魔力量だとバグる」

「じゃあそっち側にいるべきではないだろ!」

「次はちゃんとカッコよく撮ってやるから、そんな怒るなって。撮った瞬間に目を閉じるなんてあるあるだから恥ずかしがるな」

「そういう話をしているわけではないだろうが! そも、貴様が加減をして魔力を通せばこんなに長く光らんだろうに」

「なんだよ。グレンのくせに、やけに勘が鋭いな」

「貴様は俺を一体なんだと思っているんだ……いいから、さっさと終わらせろ」

「手繋いでんのが恥ずかしいのか? 心配するな。この写真は永遠に残してやるから」

「今すぐ破棄しろ」

「自分で頑張れ」


  どうしてグレンはこんな程度でばちばちに怒ってくるのだろう。短気だからか。もうちょっと落ち着こうぜ。

 俺とグレンの言い合いを苦笑いして眺めていた周りの連中も、いい加減なところで止めに入ってくる。


「ネロ。早く撮っちゃおうよ。あなただっていつまでも時間潰したくないでしょ」

「それはそう――あっ」

「あ?」


 リリーに言われ、気を取り直して、撮影水晶に手を触れた時、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 ……あーあ。ばれないようにどうにか――。


「まさか、壊れたとか言わないよね?」

「どうしてわかるんですか。気づかないふりしてくださいよ」


 ミネルバに指摘され、思わず口走ってしまった。誤魔化せば全然取り繕うことができただろうに。

 まぁ別に集合写真は撮れたし、俺いないけど、1人いないくらいでガタガタ抜かすやつはこの世にはおらんだろう。大丈夫大丈夫。当初の目的は達している。問題はない。


「……おい」

「まぁ待てグレン。怒るな怒るな。ほら、アルマ姉にお手手繋いでもらってうれちいね〜。ネリ、逆も繋いでやれ」

「ふざけるのも大概にしろよ」

「わーお……」


 グレンからでっかい火球が飛んできた。



☆☆☆



 でっかい火球が飛んできたとて、火球程度の魔導の構成だと秒で壊せるんだけども。

 ぎゃんぎゃん喚くグレンをアルマとネリとガルガドとドレイクに任せ、俺はというとなぜか魔導師全員から拘束魔導をつけられていた。

 拘束魔導程度であれば、火球同様にどうとでもなるのだけど、魔導師全員、怒っているグレンでさえも俺を押さえつけるような魔導を使ってこられては流石に処理が追いつかない。まぁ訓練にちょうどいいのでとりあえず壊して行っているが。


「おいおいおいおいおい。どうして俺一人立たせるのさ。皆で仲良く撮ろうぜ」

「それをさっきしようとしたのよ」

「どうしてマスターは余計なことしかできないんですか」

「照れるぜ」

「褒めてないのよ。全く全然」


 俺もどうしてやることなすことに余計なことが加わるのかわからない。解明したい謎だな。

 なんのための拘束魔導かと言うと、俺一人写っていなかったから俺一人写そうってことらしい。言っていることは正しそうで別にそうでもない。だって写真は皆で撮った方が盛り上がるじゃん。それに拘束されてたらポーズもくそもあったもんじゃない。証明写真みたいになっちまうぜ。


「魔導師7人掛かりでようやく拘束できるのも……化け物だな」

「まぁユカリはまだ実力不足なんで実質6人ですけど」

「魔導師一人が一国の戦力に相当するって、聞いたことないか?」

「あったようななかったような」


 あるけどね。状況と環境次第でそんなものはいくらでも変わるだろうに。

 トレイルに色々言われるけど、こんなことして生きていられるのは俺だからだということも忘れないでいただきたい。トレイルにこんなことしたらなら消し炭にもなるまい。何せ赤の魔導書の拘束は炎で行われるし、緑の魔導書なんて気圧を変えてきやがるんだから。

 魔導の効果を受けないように身の回りに空間を作り、魔導それぞれを壊している暇はないのでちょっとずつ構成に小さな穴を開けて抜け道を作ったり、結構並列処理で色々やってんだ。加えてしゃべってるなんて、いよいよ頭おかしくなるよ。


「と、とりあえず写真撮っていこうか」


 俺の状況を見かねたアレイスターがそう口火を切ってくれる。

 いやぁ、アレイスターは俺のことをよくわかってくれてて助かるなぁ。もうちょっと早くてもよかったよ。


「ていうか、一枚撮って終わりでいいだろ」

「記念撮影ですよ。マスターが大人しくしているチャンスなんて滅多にないですから、今のうちに一生分とっておこうかと」

「なるほど。暴れていいか?」

「もう少しおとなしくしててください」


 まぁ暴れようにも流石に暴れられないんだけど。


「じゃあ、撮っていくよ。まずは誰から?」


 アレイスターが声をかけると、最初にイズモが寄ってきた。

 イズモが俺の隣に立ち、アレイスターの方へと向く。

 ポーズとかとった方がいいのかな。どんなのがいいかな。まぁイズモだしな。とりあえず抱き上げとくか。成長前はよく抱えてたし。

 一旦、拘束魔導を解くために魔力を拡散させる結界を張り巡らせ、自由に動けるようにする。撮影水晶に干渉しないよう、最小限の半径で。

 動けるようになったところで、身体強化を使いながら片腕でイズモを抱き上げる。イズモが小さく悲鳴を上げた直後、水晶が光った。


「ちょっ、ちょっとマスター、いきなり……!」

「突っ立って写るよりいいだろ」


 何度か水晶が光り、アレイスターからオッケーが出た。

 よし、撮影終わり。

 イズモを下ろすと、入れ替わるようにリリーが寄ってくる。

 リリーとのポーズはどうしようか、と迷っていたらリリーの方から肩を組まれた。

 じゃあ俺はリリーの腰にでも手を回しておくか。


「いえーい!」

「いぇーい」


 リリーが中指と人差し指を立ててピースサインをする。異世界でも写真を撮るときはピースするんだな。

 同じように俺もピースサインを作っておく。

 アレイスターの水晶が数回瞬く。

 よし、次。


 リリーが離れていき、ノエルが寄ってくる。

 ノエルかー。どうしようかな。たぶんノエルはリリーのように自分からポーズを取ることはしそうにないからな。お姫様だしお姫様抱っこでいいか。

 俺の隣に立とうとするノエルの背中と膝に腕を入れて抱き上げる。両手であれば、女性なら身体強化なしでもいけるな。片腕はさすがに厳しかった。


「ふぇ!?」

「ノエル、腕を首に回して。そして前見て」


 暴れようとしたノエルにそう声をかける。腕を首に回してくれないとバランスを取りづらい。

 体勢が安定したノエルが落ち着いたところで、撮影水晶が光を放つ。

 ていうか、これ一人一人やっていくのか? さすがにないよな。一人ずつ取ってる暇はないはず。

 なんて思いながらノエルを下ろすと、ミネルバが寄ってきた。

 一人ずつやるかー……。せめて魔導師7人にしてほしいところだ。


「どんなポーズにする?」

「じゃあ……知的な感じで」

「難しい注文だね」


 ミネルバに苦笑される。俺もよくわからん注文だなと思う。

 自分で言っておいてどんなポーズをするか悩むが、とりあえず手を合わせて顔にくっつけとこう。いただきますではないぞ。

 ミネルバは握った手を口元において、微笑を浮かべている。

 水晶が何度か瞬いた。

 ミネルバとの撮影が終わり、アルマが寄ってくる。ポーズを聞かれる前に聞いてしまえば、考えなくていいのではないか?


「どうしますか、アルマ姉?」

「そうだなー……じゃあ、がおーって感じにしようか」

「了解です」


 アルマと二人で猫の手を作って顔の近くに置き、軽く口を開けてポーズをとった。

 がおーってよりにゃーって感じだけど。まぁいいか。アルマも納得してるっぽいし。

 アレイスターの手元が何度か光る。

 アルマが手を振りながら離れていき、ユカリが駆け寄ってくる。


「おんぶー!」

「はいはいはい」


 おんぶと言いながら駆け寄ってきたのに、前側に抱きついてきた。そしてしがみついたまま背中へと器用に回っていくユカリ。

 そろそろ自分の身長とか体重とかを理解してほしいんだけど。15歳前後の見た目通りの重量があるんだけどな。

 俺の後ろで暴れながらピースやらなんやらのポーズをとっているユカリに合わせ、アレイスターの手元が光る。俺、ポーズとってないけど。まぁいいか別に。俺は大して問題じゃない。

 アレイスターからオッケーが出るが、素直にユカリが降りるわけもなく。背中から引っぺがしてミネルバの方へ行くように促す。

 で、最後の魔導師だが。


「お前とどんなポーズとりゃいいんだよ」

「それはこちらのセリフだ。もう終わりでいいんじゃないか?」

「おっと、珍しく意見が一致したな」


 と二人でアレイスターの方を向くと、首を横に振られる。撮り終えた魔導師たちの方にも向くも、同じように首を横に振られた。

 二人で同時にため息を吐いてしまった。


「仕方ない。適当にグータッチしとこう」

「仕方ないな」


 グレンに向けて腕を上げる。同様に腕を上げたグレンと、裏拳同士を軽く当てる。

 撮影水晶が数回、瞬いた。



☆☆☆



「――これで終わりでいいか?」


 魔導師とのツーショットは終わったし、もう拘束魔導も飛んでこないので終わりってことでいいよな。


「え!? あたしとまだだよ!」

「そりゃ大変だな」


 おーわりっと思っていたらネリが駆け寄ってきて勝手にポーズを考え始めた。

 まぁネリとツーショットくらいいつでも撮れそうだけど。撮れと言うのなら撮るか。


「兄ちゃん魔導書ね」

「わかった」


 わかったけど、魔導書持ってねえんだよな。

 今あるの、アレイシアを封じてる呪術書だけど、魔導書みたいなものか。これでいいや。

 なんか視界の端で黒い本が飛び出した気がするけど無視しよう。お前の持ち主はもう俺じゃない。

 適当なページを開いて、魔導師っぽいポーズをとる。隣でネリは剣を構えて剣士のポーズをとる。

 アレイシアの持つ水晶が光瞬いた。


「んじゃ、このままトロア村で撮ろうぜ」

「いいね。アルさーん!」


 ネリが執事だったアルバートの名前を呼ぶ。

 トロア村から式典にやってきているのはそう多くないけど、いないわけじゃないしな。アルバートが引率してきているので、彼を呼べば皆ついてくる。


「撮影ですか。お二人を称えればよろしいですかな?」

「よろしくないね」

「仲良しで撮ろうよ」


 普通に撮ったらいいんじゃないかな。

 田舎ということもあり、式典に来ているのはそう多くない。二列横並びで十分に収まる。

 俺とネリを前列真ん中、後列真ん中にアルバートを置き、あとは適当に並んでもらう――あ。


「ミー姉もトロア村括りなんで、来てください」

「え、いいのか?」

「人数多い方がいいでしょ」


 どれくらい住んでいたのか知らないけど、住んでいたのは事実で、村の皆に受け入れられていたならトロア村括りでいいだろう。

 ミネルバも列に混ざり、各々好きなポーズをとって、アレイスターの持つ水晶がひかるのを待った。


「次はー?」

「じゃ、あたし!」


 勢いよく手を上げたのは、リリックだった。

 リリックかー。どうすっかな。商人だしな。なんか商談っぽくしとくか。


「オレも混ざろう」


 そういってリリックと一緒にトレイルも出てくる。


「あー。じゃ、リリックと握手しとこうか」

「オレが後見人位置だな!」


 理解が早くて助かる。

 俺とリリックが両手で握手をし、トレイルが後ろで俺たち二人の肩に手を置く。選手と監督とオーナーみたいだな。

 んで、皆でカメラ向いて満面の笑みを浮かべる。今日一いい作り笑顔を作れた気がするのだけど、なぜか俺の表情を見る奴らが引き攣った表情を浮かべていた。近くにいるアレイスターに聞いてみるか。


「なんで引くのさ」

「あまりにもリリックさんたちが食い物にされているようで……」

「ふざけんな。こいつから食われに来てるってのに」


 俺は別に食う気もないしなんなら口を閉じて寝ていたはずなのに、こいつらは口をこじ開けて入ってこようとする奴らだぞ。

 俺は何も悪くねえってのに。耐えかねて利用してやろうってだけなのに。


「ああ、そうだな! 世界中で商売をしたいという餌をちらつかされては、撒き餌であっても食い付かずにはおれん」

「念願かなってよかったな。商会が丸々太ったところを美味しく収穫させてもらうよ」

「好きにするが良い。その権利がお前にはある」


 はーつまらん。ちょっとは抵抗してみてほしいのだけど。

 まぁこいつらにそんなことされたら、ホウライは一気に崩壊するだろうけれど。現状、国の金策に関してはホドエール商会を足がかりにさせてもらわなければどうにもならんだろう。


「とりあえず、撮影するよ」

「あーい。仲良しこよしの証拠を残しておこうな」

「ああ。ホドエール商会はネロについていくぞ」

「ホウライについてきてくれるとありがたいんだけどなぁ」


 俺、いつかこの国捨ててどっか消えると思うし。そんな予感がヒシヒシとしている。

 それがいつになるか知らんし、たぶん今の魔導師が一人でも生きている間は近くにいるだろうけど。まぁさすがにエルフやヴァンパイアより長生きではないだろうけど。

 撮影水晶が数回光りを放った。


「次はオレたちと撮ってくれよ」

「えぇ……むさい」

「照れるな照れるな」


 ガルガドとドレイクのおっさん二人に両脇を固められ、逃げられなくなる。

 しかし、この二人とどう写真を撮れっているんだろうか。

 うーん。この二人、ガタイも背もあるので、俺を挟むと子供感がすごいんだよな。さすがに宇宙人を連れてる写真まではいかないだろうけど。

 二人を従えている感のある写真を、撮っておきたいな。


「よし、お前らそこにしゃがめ。俺が肩に土足で乗る」

「無茶苦茶言うじゃねえか……」

「言ってることもやろうとしてることも結構やばいぞ?」

「お前らだから大丈夫だ」


 不平不満を漏らすガルガドとドレイクだが、なんだかんだでしゃがみ込んでくれる。

 意外とこの二人、俺に対して忠誠心あるんだよなぁ。なんでだろ。命助けてやったからかな。でもこいつら、祖国に帰ればそこそこの厚遇してくれそうだけど。


「しっかり乗ってろよ」

「は?」

「せーのっ!」


 しゃがんだままで撮影してくれりゃよかったのに、なぜか二人は息を合わせて立ち上がった。

 おいおいおい、高い高い。こいつらの身長は2m近くある。俺の身長を合わせれば3mはゆうに超える。普通に怖い。

 まぁ俺もね、色々と経験してきたからね。龍の背に乗ってぐるんぐるん回ったり、2mに抱き上げられて振り回されたり、高いところで暴れるのなんてお手のものよ。

 とりあえず仁王立ちしておこう。画角に収まるかは知らんけど。水晶に縦横あるのかわからんし。

 ていうか、下の二人も仁王立ちしている。気持ち悪いな、三角形でそれぞれ仁王立ちしてんの。


「……あの、写りません」


 だよねー。

 俺は二人の肩の上で飛び跳ねて、しゃがむように指示する。


「いてっ、いてぇ!」

「しゃがむから跳ねるな!」


 よしよし。しゃがんでくれたな。

 下の二人は片膝をついてくれ、俺はその上で仁王立ちする。


「と、撮るよー」


 アレイスターに引き攣った笑みが浮かび、水晶が光った。


「そろそろ終わりたい」

「トロア村で撮ったなら、各地ごとで撮らないと」

「まじぃ……?」


 アレイスターに言われ、あとどれくらい残っているだろうかと周りを見回す。

 うーん。意外と多い。


 エルフの里の人たち。


「別に僕も入らなくていいんだけど」

「恥ずかしがるなよレンビア。リリーと撮れる最後かもしれんぞ」

「お前はそれでいいのか!?」

「集合写真撮ったくらいでぎゃーぎゃー言わんよ。レンビアだし。レンビアじゃないんだし」

「こいつ……! モートンも何か言ってくれ」

「まぁまぁ、レンビアもネロも、仲良く写ろう。エメロア様も」

「わ、わたくしも入っていいのかしら……?」

「ちらちら見んなキモい。ライミーと一緒だから許してやるよ」

「よかったですね、エメロア」

「ネロも根に持たないの。ほら皆、撮るよー」

「リリー、俺の顔をぐりぐりするな」


 クレスリト学園元1年7組生。

 

「おい押すな! イズモとノエルで挟んで、俺を潰そうとするな!」

「だってこの人数だと写りにくいだろ」

「そうだよ。だから我慢して」

「お前らの魂胆は見え透いてんだ……マジできついって!!」

「ちょ、ちょっと、皆さすがに押しすぎ……!」

「きついです……倒れそうです……」

「いいからいいから――わっ」

「うわっ!」

「きゃっ」

「きゃああっ!」


 カラレア神国――もとい、黒騎士団と姫騎士団のトップ。


「人数これくらいがちょうどいいな……」

「そうですね……とても楽です」

「アレイスターさんも入ってください」

「え、じゃあミュゼが撮ってくれるの?」

「え、嫌ですけど。シルヴィアさんとイズモ様と写真に写りますよ」

「アレイスター。落ち着け。遠隔でシャッター押すくらいできるだろ。キレるなキレるな」

「はっ。そうですね。遠隔で操作すればいいですよね」

「アレイスターはここにきていいぞ」

「そりゃ僕はシグレットほど身長ないから、後ろじゃなくて隣に並ぶよ」

「じゃあシルヴィアが後ろの方がバランスがいいですかね」

「わかりました、イズモ様」


 魔導師プラス俺。


「だーかーら、俺はもう真ん中じゃなくていいだろ!」

「では誰が真ん中に来ると言うのだ。貴様しかおらん」

「グレンでいいよ。その両隣にミー姉アルマ姉、んでユカリとリリー、イズモとノエル」

「またネロは……却下しにくい提案を……」

「じゃあネロはどこに入るの?」

「後ろでそれっぽくしとく」

「あれだけ撮ったならもう慣れたんじゃないの?」

「慣れる慣れないじゃない。快か不快かだ」

「い、言い切りましたね……」

「その割には楽しんでたように見えたけど……」

「やるってなったら楽しんだ方がいいだろ」

「ねーユカリ疲れたー」

「子供が駄々捏ね始めたぞ。さっさと終わらせようそうしよう」

「これ見よがしね……」

「ほら、全員魔導書構えろ。俺は黒幕ポジやっとくから。仮面つけて」

「まだ持ってたの、それ」

「フレイヤに塗ってもらった方だぜ。捨てられないね」

「それは仕方ないか」

「おい、全員水晶の方を向け」

「はいはい」


 水晶が、光を放つ。



☆★☆★☆



 撮影水晶の記録を、魔力を通して壁に映し出す。プロジェクターみたいな使い方だ。

 一覧表示でたくさんの写真が映し出される。式典の時のものから、最近のものまで。

 さすがにスマホほど手軽な撮影機とはならないが、それでもカメラのなかった世界で、一眼レフを持ち出して写真を撮るくらいには普及したんじゃないかな。ホドエール商会もたくさん潤ったみたいだし。

 一枚一枚見ていく暇はあるけど、別にそこまでしなくともいいか。

 アレイスターの撮ってくれた、建国式典の際の写真を見る。まだ撮られ慣れていない人ばかりで、目が閉じていたり半目になっていたり、見るだけで面白い。

 現像するのは少々難だったが、いくつかは王城に飾っていた。


「――あら。懐かしいのを見てるんですね」


 集合写真を眺めていたら、後ろからイズモに声をかけられた。


「ああ。掃除してたらなんか出てきた」

「それでまだお掃除が終わってないんですね」

「よくあるだろ。掃除してたら懐かしいものが出てきて、気づいたら1日が終わってるなんて」

「それはさすがに見過ぎでは……」


 そうかな。漫画とか見つかると1日終わったことない? イズモには伝わらないか。


「というより、持ってきていたんですね。王城に置いてきたのかと思っていましたが」

「あー。記録用を複製して、そっち置いてきた。気がする。確か。あんま覚えてないけど、これがここにあるってことはそう言う感じだろ」

「そうですね……あんまりよろしくないことですけど」


 別に俺のもの……だった気がするけど、持っていたのアレイスターだったかもしれない。まぁアレイスターなら許してくれるだろう。


「イズモの方は終わったのか?」

「とうに終わってます。ずっとネロ様待ちですよ」

「そう。悪かった」


 俺は映し出された水晶に魔力を通すのをやめ、映写を終わらせる。

 懐かしい気分に浸れるのは、写真のいいところだな。撮って残した分だけ、その時のことを思い出せる。


「俺は特に必要なものないから、そろそろ出ようか」

「その水晶はどうされるんですか?」

「うーん。ホウライに返してもいいけど、ツテ辿るのもだるいしなぁ」

「持っていくしかありませんよ」

「手ぶらで出られるかと思ったのに……」


 まぁいいや。適当に空間魔法で収納して持っていこう。

 俺は空間に裂け目を作り、そこに無造作に水晶を放り込む。多少雑でも割れないだろう。


「さて、行きますか」

「ええ、行きましょう」


 部屋の扉を開け、外へ出る。

 次の滞在先を求めて。

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