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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
建国編 奔走する魔導師
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第三十二話 「王と権限」

 カラレア神国の王城に到着し、俺とイズモを乗せていたマフラーを通常サイズに戻す。


「どうして城門前じゃなくて城内に降りたんですか?」

「歓迎とかされると面倒だろ」


 イズモの言った通り、俺とイズモは城門の内側に降り立っていた。

 連絡はしてあるのであんまり変わりはないかもしれないが、魔眼でチラッと城門の外側を見たときに騎士団らしき集団が集まっていたのでスルーした。

 歓迎はいらないって言ったのに。ああ、でもイズモは一応女王だからお出迎えしないといけないのか。


「悪い、お前だけ外に出そう」

「嫌ですよ……マスターが一緒じゃないなら、出なくて良いです」

「なんだよ、せっかくシルヴィアたちが歓迎の用意してくれてるかもしれないってのに」

「私だけを歓迎するつもりはありませんよ、アレイスターさんは」


 そうだろうなぁ、きっと。シルヴィアは俺なんていなくていいんだろうけど。

 アレイスターは律儀な奴だからなぁ。


「――まぁ、スルーされるとは思っていましたよ」


 と、城の入り口の方から声が聞こえた。

 そこにはアレイスターとミュゼが立っていた。副団長そろってお出迎えか。

 俺とイズモは2人に向かって歩き出す。


「流石だ。でもわかっていたなら用意をしなくてよかっただろ」

「それでも国王が戻ってくるというのに、出迎えの姿勢すらないのは国としてメンツが立たないでしょ」

「だってよ、イズモ。今からでも行った方がいいんじゃないか?」

「行きませんよ……それに、そんな良い話をしにきたわけではないんですから」

「それもそうだな」


 そりゃそうだ。

 国王をうちに引き抜くぞっていう話をしにきたのに。それに国王は乗り気なのに。そんな状態で歓迎を快く受けられるわけもないか。


「その話は中でしましょう。ちゃんと、役者は揃えていますので」

「そりゃありがたい。団長のお二方はなかなか頭が固いのでちょうどいい」

「それでうちの団長たちを外に出したんですか……?」

「説明をする前に飛び出したのは団長の方だったでしょ……」


 ミュゼがアレイスターに問うと、彼は頭を抱えるようにして答えた。

 そっかぁ……大変だったね……ちゃんと人の説明は最後まで聞いた方がいいぞ。

 ってことは城門の外の集団は団長による独断によるものだったのか……予想を超えてきてくれるぜ……。

 イズモ、アレイスター、ミュゼとともに城内へと入る。城内にいた騎士がこちらを見てぎょっとするのがわかる。多分団長たちに盛大に歓迎されながら入ってくると思っていたのだろう。


「いいのか、団長放っといて」

「一応連絡役をいかせたから直に戻ってくるよ」


 流石アレイスター。ちゃんとしてる。その割りにミュゼはいつの間に、みたいな顔をしている。

 姫騎士団、もうちょい上をなんとかした方が良いんじゃなかろうか……エキドナとか入れた方がまだマシになりそうだぞ。


「シルヴィアもミュゼも、有能なんだよ。抜けてるところがあるだけで」

「勝手に思考を読むな……いや、お前が良いなら良いんだよ」


 だってアレイスター、実質二つの騎士団の副団長みたいなことになってるし。そのアレイスターが良いと言うなら良いんだ。


「ははは。300年以上の付き合いだから」

「重みが違う……」


 そういや魔人族の寿命は長いんだった。イズモも歳だけなら300超えてるんだよな……って考えると相当最近まで子供だったんだな。

 いろんな生態の奴がいるなぁ。調べまわりたいなぁ。魔眼でじっくり眺めまわしたい。


「マスター」

「いやいやいや。しないって。今はしないってば」


 イズモが親指と人差し指と中指で何かをえぐりとるような構えを取る。

 なんでお前らは勝手に俺の思考を読み取るんだ。あと目はやめろ。魔眼はとても便利なんだから取らないで欲しい。ガラハドの置き土産だし。

 はぁ、とイズモが呆れたように大きくため息を吐いた。よくもまぁ、飽きもせずこんな俺についてきてくれるよ。とても嬉しいことだ。

 やがてアレイスターが部屋の扉の前で止まり、その扉を開けた。

 中は豪華な内装をしていた。応接間だろう。中は大きめの机と椅子、そこに国王代行のレイアとロビントス、馬頭がいた。


「ずいぶんと出世したな、馬頭」

「お前のおかげでな……面倒な仕事も増やされたよ」

「良いことじゃねえか。感謝しろよ」

「感謝しすぎて夜も眠れねえよ」


 あっはっはっは、と俺と馬頭の高笑いが重なった。おや、こんなに暗黒面が似ているとは思わなかった。あとでアレイスターに業務減らすように提言してやるか。

 部屋に入った俺含む四人、各々が席につく。


「――遠路遥々ご苦労様です」

「いいえ。こちらこそ、わざわざお時間を割いていただきありがとうございます」


 口を開いたレイアに向けて、俺も答えた。

 さて、どう話を進めようかな。こちらとしては当然承諾してくれるもの、として話してはよくないだろう。

 だが最終的には友好関係を結んでおきたい。


「何から話すか――」

「レイアさん。アレイスターさん。私は黒の魔導師として、魔導国家ホウライに行きます」


 俺が切り口に悩んでいると、イズモがいきなりそう宣言した。

 ……いや、良いんだけど。いいんだけどさ。イズモが自分から宣言してくれた方がそりゃ良いのは良いんだけど。

 果たして、これに相手はどう返してくるか。

 下手したら、女王としての責務を放棄し自国を見捨てると捉えられてもおかしくはない発言。


「国政は今まで通りレイアさんにお任せいたします。私よりも適任だとも思っていますので」

「ずいぶんと潔いじゃない。だったら、あなたがこの国を統一した意味がないわ。無責任すぎる」

「はい。その通りです。私は内戦を起こして分断された祖国のために、私が役に立つのなら、そう思って統一を願い、マスターに助けてもらいました。ですが、国政を任されるにはあまりに未熟です。なので、勉強してまいります」

「そう――馬鹿じゃないみたいね」

「その代わり、アレイスターさんやシルヴィア、騎士団との連絡はこまめにとります。もちろんレイアさんとも。共同統治――とはなりませんが、私とレイアさんの地位は同等とし、権力を半分ずつにいたしましょう」

「半分? あなたがいない間、ずっと国を任せられるのよ?」

「半分です。私と、同等です」

「せめて2:1でしょう?」

「私が2ですか?」

「なにを――」

「どうあれ統一したのは私ですよね。飲んでいただけないなら、レイアさんに頼まなくてもいいんですよ」

「この……」


 割とやるようになったな、イズモも。めっちゃ強引だけど。

 だが、筋は通る。どうあれ統一したのはイズモだし、カラレア神国の国民の認識としても二人とも王族と見做されている。なので、同等で十分。レイアに自分以上の権力を与える必要はない。

 まぁ、与えたところで騎士団がイズモにひっついているのでどうにもならないとは思うが。

 レイアは頭痛がするように額に手を当てるが、一息吐いて顔を上げた。


「――……良いわ、それで」

「2:1ですか?」

「ええ、そうよ。あなたが2、あたしが1」


 うん?

 イズモがレイアの返答に、ぽかんとする。俺も少し奇妙に思った。

 2:1というのは、権力の分散の話。わざわざ自分の権力を低くする必要があるのか?


「でもそれだけじゃない。黒騎士団に1、姫騎士団に1。カラレア神国の国政を担うんだから、当然でしょ?」


 ……ああ、なるほど。そうか。

 レイアは騎士団がいることを込めて、この条件を飲んだのか。

 つまり、両騎士団がイズモの味方をする限りは、そのままイズモの決定がカラレア神国の決定になる。が、両騎士団にイズモの決定を覆す権限を与えろ、というわけだ。

 確かにレイアにとってみれば、どれだけいこうとも騎士団がいる限りは勝てないと踏み、もし万が一にも騎士団がイズモの元を離れた瞬間、レイアが実権を握れる……ていうほどうまくはいかないだろうけれど、レイアの狙いはそんなところだろう。

 騎士団がイズモと意見が割れたところで、レイアの意見に賛同しなければひっくり返ることはないし、レイアの意見に賛同し続けない限り実権は握れないし。

 懸念するとすれば……。


「アレイスター、ミュゼ」

「大丈夫です。内部統制はいつも通り厳しくしております」

「あたしの専門は諜報ですので」


 懸念すべきは騎士団内部にレイアの手の物を潜り込まされることであるが、二人がいるなら大丈夫そうか。


「それに、姫騎士団の団長があれですからね」


 ミュゼが応接間の扉を指差した瞬間、扉が勢いよく開け放たれ、銀髪の女騎士がイズモに飛びついた。

 そして声にならない叫びを上げながら抱きしめている。

 まぁ……そうだな。


「あれの下でイズモに反感持つのも難しそうか」


 で、黒騎士団にはアレイスターがいるので、黒騎士団が反対するってことは、きっと本当によくないことなんだろうとは思う。俺は。

 イズモがその辺をどう判断するかはわからないが、当面は大丈夫そうだ。


「とはいえ、ぎりぎりで面倒な奴がきたな……」

「時間的にはちょうどですからね。とりあえず抱きついている間に承認してしまいますよ」

「それは良いのか悪いのか……」


 アイレスターの申し出は嬉しいが、それはそれでよくない気も……まぁどうあれイズモはホウライに連れていくが。


「じゃあ、こいつに署名してくれ」

「わかった」

「オレからはこれを頼む」

「へいへい――って紛れ込めると思うなよシグレット」


 シグレットから渡された書面にサインした後に破り捨てる。

 内容なんてみずともわかる。どうせイズモの護衛だなんだという適当な理由をつけてホウライについてこようとしてるだけだ。


「チッ」

「なんでそこまでして来たがるかね……面白くないぞ」

「面白くないんですか!?」

「イズモはややこしくなるから黙っててくれ」


 そりゃ国政に面白いもくそもあるかよ。面倒極まりないことだらけだろうよ。


「ネロにはこれを」

「あいよ」


 アレイスターに渡された書類にざっと目を通す。

 恒久的な友好関係の構築だとか同盟の締結だとか、諸々国家間で仲良くしていきましょう的なやつだ。


「今は俺が仕切ってるけど、そのうち魔導師たちに権力を譲渡していくから、そしたらまた新しく結び直してくれ」

「ん、わかった。容赦しなくていい?」

「いらんよ」


 たぶんね。大丈夫だろう。アルマとかミネルバとかいるし。

 とはいえアレイスターの手加減なしってのはなかなか怖いなぁ。その時は俺は一介の市民になってるはずなのでどうでもいいが。いや、一介の市民は無理か……気持ちだけ、ね。


「イズモ様にしてもらう手続きはたくさんありますし、諸侯への挨拶回りも必要ですので」

「あー……はい……頑張ります……」


 わかりやすく意気消沈するイズモ。まぁ挨拶回りなんてしたくもないだろうな。

 けど、しないわけにもいかない。国を空けるわけだし、レイアがいるとはいえ、そこは筋を通しておかなければならない。


「で、その間にネロにはヴァトラ神国に行ってきてほしい」

「ヴァトラに? どうして」

「僕もヴァトラ神国……というか、国王様から、ネロがきたら寄るように伝えて欲しい、としか言われてなくて」

「リュートに……? 何かやらかしたか……?」

「真っ先に何をやらかしたのかを考えるのは……日頃の行いか……」


 否定できない。

 というか、本当になんだろうか? それくらいなら世界会議開いた後に直接言いにきくればいいのに。なんでこんな回りくどいことを……。

 しかもカラレア神国にくることは見越していたというのに……何を企んでやがる……?


「諸侯たちを回るのには時間がかかるから、その間にそっちの用事を済ませてきて欲しいんだ」

「ああ……あ? 用事済ませたらまたこっちくるのか?」

「そう。帰ってきて」

「なんで……」

「いろいろあるんだ、いいでしょ」

「いいけど……」


 アレイスターの有無を言わせない圧力……こいつも何を企んでやがるのやら……。

 まぁ、とにもかくにも一度ヴァトラ神国に行ってリュートに会わなければならないのか……嫌だなぁ。


「嫌だろうけれど、この先嫌でも顔を合わせる機会は増えるでしょ。慣れおきなよ」

「まぁ……そう言われればそうだけど」

「護衛するか?」

「俺の護衛なんかいるかよ」

「シグレットはイズモ様の護衛だよ」


 シグレットがついてきたそうな顔を向けてきたが、即答で却下。シルヴィアがいるとはいえ、シグレットを俺につけるほど戦力の無駄遣いはないだろう。

 自分のお守りくらい自分でできる。今ならそこらの魔族にだって負ける気がしないね。

 しゅんとした様子のシグレットを横目に、俺はイズモに顔を向ける。


「じゃあ、とりあえず俺はヴァトラに行ってくる」

「わかりました。おかえりをお待ちしております」

「ああ。また連絡する。水晶あるよな?」

「はい。アレイスターさんもお持ちですよね」

「僕も持ってるから大丈夫だよ」

「ん。じゃ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃいませ」


 イズモたちに見送られながら、応接間を出た。

 さて、出たはいいものの、ヴァトラ神国へはどうやっていけば良いのだろう。以前カラレア神国からいく時はヴァルテリア山脈の麓まで馬車で移動、その後転移魔法陣を使ったのだけど。


「――意気揚々と出たくせに、迷うなんて面白いわね」

「うお、びっくりした」


 城内を適当に歩き回っていたら、不意にレイアが隣に立っていた。


「なんだよ、行き方教えてくれるのかよ」

「そのマフラーで上からいけば良いじゃない?」

「いや、そりゃそうだけど」


 別にそれで良いなら良いけど……リュート相手だしいいか。俺はヴァトラ神国の内情を知ってるわけだし。


「それをしないってことは、ほんの少しだけは相手を思いやる気持ちがあるのね」

「あ? ねえよ」

「かっこつけなくていいわよ」

「やけにつかかってくるな。ご機嫌ナナメか?」

「ええ、おかげさまで」

「自分の機嫌くらい自分で取りやがれ」

「それ、あなたのメイドにも行ってあげるといいわ」

「イズモはメイドじゃねえよ」

「メイドと国王様が直結するなんて、失礼な人ね」

「アビスに落として良いか……?」

「そうしていただきたいのは山々だけど、残念ながらあなたは黒の魔導書を持っていないでしょ」

「あっはっはっは」


 魔導書がないと魔導が使えないなんて誰が言ったというのか……まぁ魔導にはならないんですけどね。魔導書や魔術書を使わないものは全て魔法に分類されてしまうんですけどね。

 とはいえ魔導並みの魔力と命令式を込めれば魔導並みの魔法は作れるわけで。


「……面倒くせえな。さっさと用件伝えておかえりくださいませんか? 次口答えしたら落とす」

「あら、ずいぶん健気な――」

「【奈落】」


 レイアの足下に直径1mの穴が開く。ひっ、というレイアの声が聞こえるが、俺は見向きもせず進む。

 そして穴から羽ばたく音が響いてきたかと思うとレイアが焦った声音で怒鳴ってくる。


「あな、あなたねっ!? いきなり落とす人がどこに――」

「ここに。早く用件言え。今度は閉じるぞ」

「……っ、わかったわよ。地下に行きなさい。そこに転移魔法陣があるわ」

「はいよ」


 俺は地下へと続く階段がある方へと足を向ける。


「で、用件はなんだったんだ?」

「別に。この国の王になるなら、あなたを少しでも知っておこうと思っただけ」

「殊勝な心掛けだな」


 俺はレイアに苦笑を向け、手を振って別れた。

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