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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
建国編 奔走する魔導師
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第三十一話 「ここに」

 各国代表を見送り、ガリックたち呼んだ護衛も見送り、ようやく夢物語ではなくなった国を建てる準備を進めていける。

 そう思って、まずは魔導師たちと話し合いだと思ったら。

 急に意識がどこかに持っていかれるのを、感じた。



☆☆☆



「君の、会議を、ずっと見てた」

「……ああ、そうかい」


 気づけば、俺はあの歴史改変をしていた男の部屋に立っていた。

 どうやって帰ればいいのかもわからないので、今はこいつと楽しくおしゃべりをするしかない。


「僕も、同じだった。同じ、思いだった、はずだった」

「平和な世界を望んだ、って?」

「勇者として、純色神を倒し、権限を人に、分け与えた。けれど、人は、その権利を求め、さらに争った。僕ら勇者は、平和のために呼ばれ、戦争に利用される、それだけの、存在だった」

「……悲しいな」

「でも、皆、喜んで、くれた。勇者も、それで、納得してた。でも、僕は、違った。僕は、世界中が、喜んで欲しかった。だから――」

「それは無理な話だな」

「――そう。無理だった。思想が、価値観が、寿命が、種族が、何もかも違う、皆を、世界を、喜ばせるのは、無理だった。けど、君は――」

「違う。俺は切り捨てた。俺が知らない相手、知らない世界の誰かの幸せを、喜びを、切り捨てた。だからお前とは違う結末がある。俺はお前ほど優しくないよ」

「……僕も、そうできたら、どれだけよかった、だろう」

「そもそもスタートが違うからな。無い物ねだりをするより、今あるものから選んだ方が建設的だぞ」

「そうかも、しれない。けれど、言わせてくれ。ありがとう。戦争が、なくなる。その可能性が、未来が、視えた、気がする」

「そうかい。じゃあ、休む気になったか?」

「そう、だね。一度、君に任せてみよう、と思う。どうやら、僕の妨害程度、物ともしない、みたいだし」

「海皇操ってたの、お前だろ」

「うん。彼は、僕の存在に気付いてる、数少ない、人物」

「――なるほど。だから、あいつは」

「僕は、ピラミッド型の支配を考えた。でも君は、円形の、牽制による支配を選んだ」

「ま、どっちが正しいと言えないけど。俺の選んだのはただの冷戦だとも言える。まだ通信機器が発達していないから大丈夫だろうが、この先は情報戦が始まるだろうよ」

「君は、この先も、読んでる。だから、対処、できるだろ」

「できる範囲で、な」

「僕は、一度、筆を置く。成り行きに、任せてみる」

「それが良い」

「そうさせて、もらう」


 まぁ、これで。

 あの婆さん――歴史の守り人だっけか? あいつらの思い通りとはいかないかもしれないが、ある程度は守られると考えて良いのだろう。

 全く。

 あれこれやることが多すぎるんだよ。勝手に期待して勝手に任せてくるんじゃねえってのに。


「ありがとう。この世界を、よろしく」

「やるだけやってみるさ」


 やるだけ、ね。

 どうなるかなんて知ったこっちゃないが、俺が生きているうちはどうにかするだろうさ。


「――そう、言えば、君は、世界を憎んで、いたんじゃないか?」

「ああ、あったな。そんな時も」

「今は、良いのかい?」

「良いも悪いも。世界壊したら、愛する人も死んじゃうだろ」

「あはは、はは。君、らしい。変わった、ね」

「変わらざるを得なかっただけ、だ」

「お疲れ、様。また、会う日、まで」

「縁が合ったら、また」


 俺は男に手を振る。

 男もペンを置き、机に広げられていた本を閉じ、下手くそな笑みを浮かべて、手を振り返してくれた。



☆☆☆



 目を覚ますと、やはりというかベッドの上に寝かされていた。

 ベッドから抜け出し、軽く伸びをする。全身からバキバキと音が鳴る。……鳴りすぎでは? これは1日2日寝込んだ程度ではなさそうだな。


「ネロ様、ようやく起きられましたか」


 振り返ると、着替えを持ったレイシーが立っていた。

 レイシーから着替えを受け取る。


「会議からは一週間ほど経ちました。その間、ずっと眠られていました」

「ああ……そうなの。もう慣れてきたよ」


 変な空間に飛ばされると、案外時間が経ってたりするからなぁ。

 

「他の奴らは?」

「建国のための準備を進めてくれています。アクトリウム皇国から顧問が派遣されており、その人を中心に」

「なるほど」


 そこまで聞いた俺は、もう一度ベッドにダイブした。


「……今、俺いなくて良いやって思いました?」

「いなくて良いだろ?」

「確かに滞りなく進んではいる様ですが、海皇様が駆け引きをなさらないと思っているのですか?」

「ミー姉もアルマ姉もいるし、なんとかならんかね」

「なんともならんですね」

「そうかー」


 そうかなー?

 ガルガドとか、ドレイク……はちょっと頼れないか。まぁでも将軍いたらどうにかならんか。


「いきなり魔導師のみなさんに国政を全て任せるのですか?」

「ダメかな」

「無責任だと思います」

「そうだな」


 確かにそうだな。

 お膳立てはしてやったけど、俺の考えも共有させてもらったけど、いきなり任せるのは無責任か。


「会議室に向かってください。みなさん、きっとお待ちですよ」

「わかったよ」


 俺はベッドから立ち上がり、レイシーと一緒に部屋を出て行った。

 会議室にいくと、皆一安心って顔をしてくれたけど、どこかいつものことだという空気も流れていた気がしなくもない。



☆☆☆



 煩雑な作業は海皇が派遣してくれたという海人族に、良い様に言いくるめて押し付けることで、こっちはこっちの話を進めることができた。

 話といっても、魔導師の中にはイズモを筆頭に身分が身分な奴もいるので、彼女らの処遇についてを主に話したのだが。

 とりあえずイズモに関してはカラレア神国と直接対話が必要だし、ノエルもそう。グレンは自分でなんとかすると言っていたので任せるとして、あとはミネルバもそうか。彼女の実家も双神流の総本山だが、家出状態から独り立ちすることを説明にいくとのこと。

 まぁ各々でやることがあるってことで。


 俺はとりあえずイズモにひっついてカラレア神国にいくとしよう。シグレットにお礼も言わなきゃだしな。

 あ、そうだそうだ。各国を動き回るのに船だと時間かかるしかといって俺の空飛ぶマフラーでいちいち運んでやることもままならないので、転移魔法陣を設置させてもらう話をさせてもらわなければ。

 もう少し消費魔力を抑える改良ができそうだが、どうだろう。その辺はノエル次第なところもあるが、まぁ一緒にやったらすぐできるだろ。改良できたらその都度変えていけば良い。

 ともあれ、今は空飛ぶマフラーを使って、イズモとカラレア神国に向かった。

 その道中、マフラーの制御をしていたら後ろからイズモに抱きつかれた。


「どうした?」

「少し、昔を思い出しまして」

「……ああ、ガルーダに乗った時か?」


 確か、学園時代にネリからの手紙でゼノス帝国とユートレア共和国が同時に攻め込むって言われた時。

 トロア村でゼノス帝国を追い払ったあと、ユートレア共和国に向かう際にガルーダを使って空路で向かった時だ。


「あんまり派手にやると、ガルーダと違って落ちるぞ」

「あの時も派手にはしてませんよ」


 マフラーは完全に俺の制御下だから、気を抜きすぎるとただの布に戻ってしまう。今はイズモも翼を出して飛べるはずだし、墜落する心配はないだろうけれど。俺も重力制御で浮くくらいはできる。ただの魔法と空飛ぶマフラーでは魔力効率が段違いなので、消費の少ないマフラーを使っているのだけど。


「私には、つい最近の様なことなのですが」

「魔晶に閉じ込められてたもんな」

「ええ……マスターは、ずいぶんと変わりました」

「そうでもないだろ」


 変わったと言われるほど変わったとは思わないけれど。

 ……ああ、まぁ。

 そうか。魔導書集めの旅に、イズモは一切関与してなかったから。その時ずっと一緒にいたのは、フレイヤとグレンだった。


「いつの間にか、遠い存在になった気がします」


 ぐ、とイズモの腕に力が込められる。

 俺はイズモの手に自分の手を重ねる。


「あの時は私が一番、マスターのお側にいたはずなのに。今では――」

「イズモ。俺はここにいる」


 俺はどこにも行ってないし、ずっとここにいる。


「イズモを置いて遠くに行ったつもりもないし、行くつもりもない。その時はお前も一緒だ」

「……ですが」

「それでも遠くに感じるなら、俺を呼べ。俺はいつだってお前の元に駆けつける」


 俺はイズモの頭に手をやって優しく撫でる。

 さらさらとした指通りの黒髪。この感触も久々だ、とそう感じる。

 学園時代はあれほど近くにいたのに。イズモのためにカラレア神国を統一したというのに。あんなにずっと、一緒だったはずなのに。

 なのに、こんなに懐かしく感じてしまう。


「……イズモ。戻ってきてくれてありがとう」

「マスターこそ、迎えにきてくれてありがとうございます」


 イズモの腕に、さらに力が込められるのを感じた。彼女の頭を撫でていた手を、彼女の頬へと移動させる。

 俺はゆっくりとイズモへと体重を預けながら、空を仰ぐように彼女の顔を見上げる。

 彼女の、黒の魔導書の影響で漆黒になっている目を、まっすぐに見つめた。それだけで自然と自分の頬が緩むのがわかる。

 居心地が良い。そう思う。

 ここが、この居場所が、イズモといることが、安らぎを与えてくれるようで心地良い。

 イズモの表情も同じように緩んでいるのがわかる。泣きそうな顔だけど、とても嬉しそう。


「――ありがとう、イズモ」


 イズモの頬に添えていた手を、彼女の後頭部へと回し、ぐっと引き寄せる。俺の意図にイズモも合わせてくれる。

 お互いがそばにいることを確かめるようにキスをした。

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