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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
建国編 奔走する魔導師
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第三十話 「建国宣言」

「――魔導師を一つの国に集めるのはやはり危険ですの」

「かといって魔導師を野放しにもできないだろ。ならいっそのこと集めて管理した方が安全だ」


 アニェーゼとリュートの意見。


「そも、魔導師を御しきれるという証拠はあるのか。私的利用されるのが落ちだ」

「ならば全力を以て潰せば良いのだ、国ごとな」

「その通りですね。我らの国だけでやっても構いませんが」


 ビーホーク、龍帝、海皇の意見。


「邪魔されないなら構わないのだけれどね」

「あら、貴国は魔導師を集めると都合が悪いようね」


 獣帝、レイアの意見。


「あのー……」


 そんで、俺はというと蚊帳の外。

 最初こそ議論の先導をしていたのだが、一度魔導師の扱いについてヒートアップしたこの場はもう収拾がつかないまでになっていた。


「どうしたものか」


 かといって中断させてしまえば、後からイチャモンをつけられないとも限らない。

 うーん。しかし。

 一応、建国について過半数は取れそうだ。が、まぁ皆納得して、というのは無理そうだ。そもそもビーホークがいる時点で無理なんだけど、満場一致の可決は。

 うんうん悩んでいると、グレンが近寄って耳打ちしてきた。


「ネロ、どうするのだ。これでは埒が明かないぞ」

「そうなんだよな……時間はどれくらい経った?」

「もう日が暮れる。明日に持ち越すか?」

「……いや。待て」


 現状、反対しているのはデトロア王国、ユートレア共和国。中立がゼノス帝国。賛成がドラゴニア帝国、アクトリウム皇国、ヴァトラ神国、カラレア神国。

 そんで、ユートレア共和国に関して言えば、もう少し押せば賛成に引き込める。そうなれば、ゼノス帝国も自ずとこちらにくるだろう。

 となれば、障害は残されていない。

 俺は一度、会議室に鳴り響くように手を打ち鳴らす。


「我が国のためにこんなに白熱した議論をありがとうございます。中断させるには心苦しいのですが、時間は無限ではありません。皆様の今後のご予定もあります。この辺りで一度、私が話をさせていただきたいと思います」

「また猫をかぶる」

「静粛に」


 龍帝に言葉を飛ばすが、効いてないよな。まぁ、今は良い。とはいえ、突っ込まれて話を中断させられるのも嫌だしな。

 俺は髪をガシガシと掻き毟る。


「ああ、もう。現状の把握をさせてもらうぞ。魔導国家ホウライの建国について、反対の者は意見を述べよ」

「何度もいいますように、魔導師を一つの国に集めるのはパワーバランス的にもよくありませんの」

「そもそも貴様が私欲で使わないという保証がない」

「そうだな。その通りだ。全くもって100点満点の回答だ」


 ホウライの存在意義。それは魔導師の実力によってパワーバランスを保つというものだ。魔導師は人であり、しかも俺ととても仲が良い。仲良しこよしだ。俺の意思でどうにかできてしまう可能性は十分考えられるし、魔導師による干渉を十全に防ぐというのならば散らばした方が良いに決まっている。各個撃破した方が有利に戦える。龍帝だって魔導師7人を一気に相手取って闘うのは骨が折れるどころじゃすまないだろうし。


「では、魔導師を一つの国に集めるメリットを答えよう。それは、魔導書の管理が楽になる」

「あら。それはメリットと言えるんですの?」

「言えるだろ。なぁ、思い返してくれエルフクイーン。あんたは長命だ。その人生の中で、魔導書が火種となった戦争はどれだけあった?」

「思い出したくありませんの」

「じゃあ、今まで7人の魔導師がそろったことは? 龍帝でも良い」

「ありませんの」

「ないな」


 そう。

 魔導師は、そもそも同時代にそう多く存在するものではない。はずなのだ。今、7人そろっていることが奇跡に等しいのだ。

 が、もし。

 もしも、それが奇跡ではないとしたら。

 俺が集めた魔導書の在り処を思い出してみよう。

 赤の魔導書は、元はアクトリウム皇国の蔵書の一冊だ。青の魔導書は、デトロア王国内の町の地下水道。黄の魔導書はラカトニア。緑の魔導書は暗黒大陸からの行商人。紫の魔導書は暗黒大陸のドラゴンの隠れ家。黒の魔導書はトロア村近くの神殿。白の魔導書はデトロア王国の王城。

 全く関係のない種族の国に、魔導書が存在していたことになる。そしてこれは、意図的であるとも考えられる。

 魔導書はその色に対応した種族が使うことで真価を発揮するし、であればその種族が選定される可能性が高いとも考えられる。まぁ選定に関して言えば、精霊に聞くのが一番手っ取り早いけど。

 そう考えれば、誰かが魔導師の存在、その力を危惧してわざわざ散らばしたと考えて良いのではないか。となれば、対応していない種族が魔導書に選ばれる可能性は著しく低いと考え、魔導師は同時代に揃うことがなかった。

 今、この時代においては、俺が魔導書を集め、そして同時に魔導師を探していたことを合わせれば、魔導師が揃う可能性は今までよりも格段に高いと言える。


「魔導書を保管する部屋を作り、魔導師の存在ごと管理する。つまり――今この国を認めたところで、百年もすりゃ魔導師の数は減るし、潰そうと思うならその時に潰すのが最も効率的だ。そして潰すことができれば魔導書まで総取りできる。良い話だろう?」


 あっけらかんと説明した。

 今、ホウライの建国を認めたところで、百年すれば潰してもらって構わん、そう捉えられても仕方ない言い方だ。

 なんてことはない。百年後にホウライの存在意義がなくなったなら潰せと言っているのだ。


「――ネロっ!?」


 魔導師――いやさ俺が呼んだ護衛やら何やらが声を揃えて叫んだ。


「エルフクイーンにとって百年なんてそう長いものではありませんでしょう? 龍帝にとっても同じでしょう?」

「それは――そうですの」

「まぁ一部の種族は寿命が百年もないけれど、2代3代後の世代に功績を残してやる考えならどうだろう? 結構良い取引だと思うんだが」

「しかしネロよ。それでは魔導師がそろっている今、貴様らが総出で戦争を仕掛けてくる可能性が浮上するな?」

「そうなれば龍帝様の出番でしょう? 存分にやりあえば良いのですよ」

「それもそうか」


 龍帝は単純で嬉しいなぁ。

 とはいえ、そういうことなのだけれど。今、この時代に、魔導師がそろっている間に何か起こしたとあれば、七大国総出で潰せば良い。

 今潰すより百年後に潰した方が簡単なだけであって、今でも物量差で押し切れば良いだけなのだから。

 と適当に考えながら話を進めようとしたら、魔導師たちが持つ魔導書から精霊が勝手に出現した。そして7人……いや人じゃないしな。精霊ってなんて数えるんだろう。7柱とかかな? まぁ、精霊皆で俺を取り囲んできた。どうやらご立腹の様子だ。


「ちょうど良いや。彼らにも聞いてみれば良い。あなたたちが選んだ人、魔導師は、戦争を引き起こすような奴らなのか、ってな?」


 これが一番早い。

 魔導書が選定するといっても、その中身は純色神であり、その化身である彼ら精霊たちだ。答えられるのだから聞けば良い。


「なぁ、イフリート」

「そのような奴を我らは嫌う」

「じゃポセイドンは」

「みくびらないで欲しいわ」

「ジン」

「我らが視るのは魔力だけにあらず」

「トールは」

「大事なのは未来の在り様」

「ベヒモス」

「心の在り方が大切」

「レム」

「我が選択に間違いはない」

「グリム――いやプルート」

「楽しい方」


 黒の精霊とハイタッチしとく。すると2人仲良く残りの精霊に叩かれた。

 何だよ、楽しい方で良いじゃねえか。誰も戦争が楽しいものだって言ってないだろ。


「とまぁ、彼らは彼らなりの信条を以て選んでるわけだ。その信条と魔導師がこれから先に違えば、そりゃ選定を切ることもあり得るだろう」


 建設的な話をしよう。

 魔導師どうこうではなく、もっと単純な話をしよう。


「簡単に言えば、今俺たちと敵対するのはよくない――ただそれだけだ。潰すべきは今じゃない」


 俺の発言に、代表たちは押し黙る――が、1人だけ喚き散らす奴がいる。


「それではただの脅迫ではないか! そんな奴が率いる国など認められるか!」

「そういう話じゃないんだよビーホーク。わからねえのか」

「何だと?」

「ったく……最低でもタレイガーを出してこいよ。なんでこいつなんだ……」


 理解してくれないビーホークに、俺は説明をする。


「この場の全員、あんた以外がもう納得してんだよ。ホウライを潰すなら――百年後で良いってな」

「何を言っている。戦争の火種になるというなら今摘んでおくべきだろう」

「あんたがどこで誰とどんな裏取引をして、ただの喚くおもちゃになってようと知ったこっちゃないが――」


 俺は視線を一瞬だけ海皇に向ける。ま、こんなので反応を示すほどわかりやすかったら楽なんだけど。

 当然、海皇は表情一つ変えず、静聴してくれている。

 視線をビーホークに向ければ、こちらはわかりやすくも数瞬海皇の方へ視線を向けていた。図星のようだ。まぁ、そうでもしなければデトロア王国の立場が危険すぎるものな。


「俺が建国を認められず、ヤケを起こして開戦しようものなら甚大な被害が出る。俺1人でも、な。だったら、この百年でホウライの動向を見定めようってんだ。百年も待てないと喚く気が短いのは、あんただけだってこと」

「……っ、ぜ、ゼノスは!」

「元から我が国の立場は変わっておりません。変な動きを見せた時、百年待たずとも潰せば良いのですから。ただ、世界中から剣豪や魔導師を集めてくるような人物がべったりいる時は、流石に手を出そうとは思えませんが」

「嬉しいね」

「安心しろ。貴様らが攻め込む時は、我も一緒に乗り込んでやるぞ」

「こちらに足並みを揃えてもらっても構いませんよ」

「嬉しくないね……」


 だが、龍帝と海皇のいう通り。

 皆、潰すのは今じゃないと納得した。

 長命な種のいるユートレア共和国やドラゴニア帝国は、実際に百年待つことくらいなんてことはないだろう。そういう話になったのだ。


「確かに魔導師が集まるのは危険かもしれないが、中央海域を自由に行き来できること、ホウライを中継点にできることの方がメリットが大きい」

「その通りよ。極致海域が使えない以上、中央海域を使えるようにしてくれる程度の見返りはいるでしょ」

「そうなれば、確かにできることが広がりそうですの」


 ああ、これは前回にも出てたな。ホウライがある海域が中央海域。デトロア王国の東側、ヴァトラ神国の西側が中央海域だ。その反対側が極致海域であり、常に荒れた天候で船の航行は難しい。

 今までは中央海域の真ん中にホウライ――魔王ガラハドが住んでおり、見つからないようにいろいろ手を加えられていて、霧が深く簡単に抜けられなかった。ユートレア共和国からカラレア神国、アクトリウム皇国からゼノス帝国という北東や南東と言った斜めの移動が大回りになっていたのだが、それもなくなる。

 とはいえ斜めの移動も距離が短いわけではないので、ホウライを中継点として使ってもらう――海皇との最初にこの話をした時に俺が発言した内容でもあるな。


「それぞれメリットを考えてくれたようだが、それでも建国に反対だって人は、立ち上がって意見でも述べてくれ」


 こういうと1人は絶対に意気揚々と立ち上がるんだけど。

 案の定、ビーホークが机を叩きつけながら立ち上がった。


「貴様の思想は、危険すぎる。故に監視役をおくべきなのではないか?」


 怒りに任せて怒鳴りつけてくるのかと思ったら、予想外にも真っ当な意見を述べてきた。

 確かに、それはそうだろう。監視役。それはこちらとしても譲歩すべきものだ。その監視役、お目付役、そういう存在がいた方が今後のホウライの方針決定もスムーズにいく。

 その提案が、まさかビーホークから上がるとは。

 だが、なぜいきなり奴からこの様な真っ当な意見が出てきたのか……ちゃんとできるなら最初からちゃんとしておいて欲しいのだが。

 視線を海皇に向ける。素知らぬフリをしているが、十中八九こいつの影響だろう。随分と仲良しこよしだなぁ、デトロア王国とアクトリウム皇国。いつからだろうか。赤の魔導書関連でこじれていたはずなんだけどな。


「……ああ、その通りだ。監視役を置くのはこちらとしてもメリットになる」

「ならば、その人物を選ばなくてはな。それまでは――」

「いいや今から採決をする。このためだけに何度も召集するわけにもいかないだろ」

「それもそうですの。あなたはいつだって突然ですのよ」

「このために予定を空けるのはもう勘弁して欲しいわ」

「……ま、そういうことなので」


 まぁ、前回は通信水晶での会議だったからまだマシだったのだろうけれど。

 とすれば次は通信水晶を使った方が良さげか。一度集めておくべきだったとは思うが、もうわざわざ集める議題も俺はないし。


「決議を取るぞ。魔導国家ホウライの建国宣言を承認するかどうか」

「ユートレア共和国は賛成しますの。百年後、また同じ会議をいたしましょう」

「ゼノス帝国も賛成する。危険だと判れば容赦しない」

「アクトリウム皇国も賛成します。以前と同様に」

「ドラゴニア帝国も賛成だ。せいぜい頑張るのだな」

「ヴァトラ神国も賛成するよ。航行が楽になることを願うよ」

「カラレア神国も賛成。変わらずね」

「デトロア王国は反対――」


 これで建国はほぼ承認されたも同然だが、デトロア王国だけは反対しようとした。

 その発言を遮るように、ビーホークの護衛の1人が前に出て封書を机に置いた。


「この決議に関しては、王勅が下っております故、こちらをご確認ください」


 その封書をビーホークが開く。内容を読んだ彼は、手を細かく震わせ始める。自分の意に沿わない内容なのだろう。

 怒りに任せて破り捨てようとしたビーホークの手を、護衛が掴んで止める。


「王勅です、ビーホーク様。勝手なことをされてはあなたの立場が危うくなるだけです」

「くそっ!」


 放り投げた封書を、俺は魔法で気流を操作して手元に寄せる。

 封書に王印もあるので正式なものだ。それを破ろうなんて、よくやろうと思えたな……。

 内容を読む。


「――我が国以外が賛成を表明した場合は、我が国も賛成。反対が一つでもあれば判断を委ねる、と」


 大意はそんな感じだ。そんで、反対は一つもない。

 まぁ反対が一つでもあればビーホークは自信を持ってNOと言えたようだが、残念な結果に終わってしまったと。


「そういうことですので、我が国も賛成です」


 そっぽを向いて口を閉ざしてしまったビーホークに代わり、護衛が伝えてきた。


「そうか。ありがとうタレイガー。ご苦労さん」

「……今呼ばないでもらえます?」

「それは悪かった」


 兜被ってるし、今まで声は出さないし、見た目から判断できなかったけど、一応まともそうな奴も送り込まれていたようだな。

 普通ビーホークと立場逆じゃねえかなぁ。確かにタレイガーは若いが、ビーホークよりはマシだと思うけど。ま、王国の判断だし。


「――さて! では魔導国家ホウライの建国は、これにて承認されました」


 ようやくホウライの建国が承認された。


「ホウライはまだまだやらなければならないことはたくさんあるが、皆様のご期待に添えるよう、日々魔導師と共に尽力していく。この世界がより良い平和になるよう、より良い未来に進めるよう、奮闘していきます。この世界から、1人でも理不尽な悲しみから救えるよう――邁進していきます。どうか、ご協力の方もよろしくお願いいたします」

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