第二十五話 「復讐」
崩落する城の天井。降ってきたのは1人の男。
その男はネロが燃やした騎士たちを踏み砕き、怒りの形相を浮かべて歩み寄る。
「――待ってたぜ、亮磨」
「お兄ちゃん!」
「てめえがなんで俺の名前を知ってるのかは知らねえが、俺の妹を押さえつけることは許さねえ」
亮磨が、まだ距離のあるネロに向けて手を伸ばす。そして掴むようにその手を閉じ、横へと放る。その挙動に合わせてネロの体も掴まれたような感覚と、亮磨が腕を振った方向へと飛ばされる。
ネロはすぐさま受け身をとって着地し、すぐさま亮磨の方へと向き直る。
「空間系か――みんな豪華だな」
「麻理! 大丈夫か?」
「ありがとうお兄ちゃん」
亮磨に支えられるようにして麻理が立ち上がる。
「――あぁ、いいよな。そういう兄弟愛。俺も憧れた。やっと手に入れて、ずっと続くもんだと思ってた。こんな世界にまで飛ばされて、最初に感謝した瞬間だった。でも奪われた」
「なんのことを言っているのか知らねえが」
「どうして――俺の時はダメだったんだろうなぁ」
「……てめえは、一体誰なんだ」
「なぁ、亮磨――りょうにぃ。どうして、俺じゃダメだったんだ?」
ネロの目から、光が失われていく。
暗く、昏く、闇へと呑まれていく。闇のさらにその先――虚無へと堕ちていく。
「――その言い方」
「でも、いいや。俺はこの世界で、それに替わるものを手に入れたから。だから――奪う奴は許さねえ。絶望と地獄の果てに落として泣き叫び鳴き喚き悲鳴を上げて心も精神も肉体も脳味噌もあらゆるもの全部ぶち壊すような体験を与えて不条理に理不尽に――その頭に風穴開けてやるよ」
「何を言って――」
亮磨の言葉を遮り、ネロは彼のすぐ横に【イビルゲート】を開いた。その中から、ネロによって【アビス】に落とされていた2人――和眞と辰馬が吐き出される。
「和眞! 辰馬!」
だが、2人とも亮磨の呼びかけに応じない。見たところ外傷もないが、抜け殻のように倒れ伏している。
「流石にかずにぃとたつにぃの能力は厄介だから、アレイシアにあとは任せてたんだよね。あ、わかる? アレイシア。無の精霊。精神崩壊くらいしてそうだね」
「しっかりしろ! 起きるんだ」
「ちょっと、2人とも起きなさいよ!」
亮磨と麻理が2人を起こそうとするが反応は一切ない。ネロの話も彼らには届いていない。
「眼中になし、か……まぁいいや。これで揃ったし」
そういってネロは懐から一つの鉄の塊を取り出す。そしてそれの狙いを麻理へと定めた。
狙われていることに気づいた麻理が、ネロの持つモノに一瞬目を見開く。
「うそよ――」
「現実さ」
ネロは鉄の塊――リボルバー式の拳銃の引き金を引いた。
パァン、と乾いた音が鳴る。麻理の額の真ん中に、赤い穴が空く。
亮磨が麻理へと振り返る。その時にはすでに、麻理の体は後ろへと倒れ込んでいた。
「麻理――ッ!」
亮磨が麻理に手を伸ばし、倒れる体を支えようとする。
その隙に彼らへと接近したネロは、和眞と辰馬の体を踏みつけ、先に和眞の頭に狙いを定めた。
それに気づいた亮磨が、そちらへも手を伸ばそうとする。
「やめっ――」
「ない」
ネロは、引き金を引く。
麻理と同じように、和眞の頭に穴が空く。
すぐさま辰馬に狙いを定めたネロは、またも躊躇なく発砲した。
亮磨は、ただただ絶望していた。
「――良い、顔だ。亮磨。それが絶望。これが絶望だ。愛する者が目の前で奪われるのは、とても悲しいだろう。とても辛いだろう。大丈夫――すぐ会える」
ネロは亮磨に向けて拳銃を構えた。
「どうして――お前は、一体――?」
「……俺も、蒼馬だったから」
「何――?」
「昔話さ」
引き金を引く。乾いた音。破裂音。
亮磨の体がゆっくり倒れる。
銃口から硝煙が上がる。ゆっくりと揺蕩い、やがて消えていく。
ネロは4人の亡骸を冷たい目で眺めていた。やがて気持ちを鎮めるように深く、深く息を吐いた。
――そして、監視カメラへと振り返った。
ネロの射殺シーンを一目たりとも逃さず見ていたであろう人物に向かって、鋭く睨む。
カメラの向こうにいる男――蒼馬は口を弧に曲げ、呟く。
「おいで、ネロ」




