第二十三話 「傲慢」
デトロア王国。その城門に、和眞と辰馬が見張りに立っていた。だが、二人は熱心に見張りをしているわけではない。二人でトランプを使って遊んでいる。
「……二人でトランプもつまんねーな」
「俺らじゃ、お互いに何を思ってるかわかっちまうし。ほかの兵士は仕事熱心だし」
「はーあ。早く魔王様こねーかな」
「ほんとに来るのかよ」
「蒼真がそういってたんだし」
「つっても、あいつ監視カメラを城下町につけたんだろ。それで見つかってからでいいじゃん、出るの」
「ま、城内でもやることなんてそうそうないだろ」
「さっさと終わらせて、豪遊してーな」
「勇者の醍醐味つったら、やっぱ魔王倒した後の褒美だよな」
「何がもらえんのかな。まず女は絶対だろ」
「金ももらえるだろ」
「あとはー酒は亮磨がゆるしてくれねーし」
「でもこの国の連中、15で成人して酒飲めるんだろ。俺ら18だし別に飲んでもいいよな」
「18で大学に入ったら、たいていの奴らは酒飲むしよ」
「あーあ、つまんね」
「――じゃ、退屈しのぎだ」
和眞と辰馬、どちらでもない声がした。
二人が声のほうへと顔を向ける。だが、それよりも早く声の主の手が、二人の顔へと迫る。
瞬間、声の主の手が止まる。和眞の視界の中で世界から色が消え、すべてが静止する。その世界で、ただ一人和眞だけが動く。
和眞は辰馬を蹴り飛ばし、その声の主から遠ざける。
そして世界に色が戻る。声の主の手から爆発が上がる。が、そこにはもう誰もいない。
「さんきゅ、和眞」
「貸し1だぞ」
二人は声の主に向き直る。
黒いローブを羽織り、奇妙な面をつけている。その姿に、二人はすぐにピンとくる。ホウライの魔王である。
「まさか、魔王様から直々にお出ましとはな。確かにいい退屈しのぎだ」
いうが早いか、今度は辰馬が動く。だが、その動きは誰の目にも止まらない。
色づく世界で、辰馬の速度には何も追いつけない。
そして辰馬の拳が魔王の顔にヒットする。仮面にひびが入り、魔王の体がぐらりと揺らぐ。
「……なるほど」
魔王の口が小さく動く。
「ハッ! 何悟った風な口きいてやがる。てめえにゃ何も見えてねえだろうに」
「見えてないのだから簡単だ――和眞、お前は時間を止める能力。辰馬、お前は光速による移動能力だ」
「……丁寧に答え合わせできると思うなよ」
「思っちゃいない。ただ、答えを出さなきゃ納得できねえだけさ」
和眞と辰馬、二人は警戒を怠らない。じっと魔王の動きを注視している。
「お前らには、これだな」
魔王が足を踏み鳴らす。その瞬間、和眞と辰馬、二人を中心に真っ黒い円が足元に広がっていく。
「なっ――!」
驚く二人、咄嗟に能力を使う。和眞は時を止め、辰馬は光速で動き出す。
だが――。
「時間を止めたところで対処できる広さじゃない。光速で動けたところで踏む地面がなけりゃ意味がない。奈落へ、落ちろ」
魔導【アビス】が、すでに半径10mを超えて発動されていた。
時を止めたところで、落ちることを先延ばしするだけだ。光速で動こうにも、蹴りつける地面がそもそもない。
二人は成すすべなく、奈落へと落ちるしかない。
どれだけ時を止めようとも、どれだけ光速で動こうとしても。
魔王の目には、落ちていくその姿しか映らない。
「さようなら」
魔王は、踵を鳴らして【アビス】を閉じる。




