第十一話 「条件」
ヴァトラ神国から島へと帰り着くと、俺はまず後回しにしていた先住民への説得を再開した。
花火は作るし、コンパスは作るし、世界地図は描くし、火器は作るし、農業改革はするし、前世で知り得た知識を最大限有効活用してあらゆる問題に対処した。
その後、とにかく建国へ向けて様々な問題を解決していった。
だが、時間はどれだけあっても足りないもので、その上俺には時間制限まである。
ヴァトラ神国は、ノエルを差し出す条件に、借金の支払いを最後の最後まで待つよう、たとえ式典の途中であっても、というなかなか無茶な条件で受け入れた。
その無茶な条件ですら飲んだデトロア王国も、どういった魂胆なのか……まぁ、フレイヤがもう主導権を握れているだろうから、飲んだ可能性もあるが。
ともあれ、これで猶予は最後の最後までできたことになる。
それまでにやることをやり切らなければならない。
☆☆☆
「――ネロ」
体を揺さぶられる感覚に、俺は目を覚ました。
同時に勢いよく体を起こし、時計を探す。
そして近くに置いてあった懐中時計を見つけ、手に取って時間を確認した。
「……いや、いやいや。レイシー、何日過ぎた?」
「二日ですよ」
「なら良い」
まだ、大丈夫。
そこでようやくレイシー以外にもう一人部屋にいることに気付いた。
俺を揺さぶって起こした張本人、リリーだ。
リリーは呆れた表情を浮かべている。
「悪い、寝てた。何だ?」
「寝てたじゃなくて気絶してた、でしょ」
「否定はしない」
「もっと自分を大切にしなさいよ……海皇様から、回答が来たわよ」
「来たか!」
リリーが差し出してきた書簡を受け取り、バッと広げる。
「――建国宣言を認める。ただし、条件として魔導師には各国の許しを得ること……?」
俺が海皇へと送った、建国宣言に対する、事前の態度を問うた手紙。その回答。
認める、とはいえ、魔導師はタダでは認めない……。
「……紫に関しては、承認する。青は実家に通せ、と」
つまり、ユカリに関しては、許しは必要ない、というか、許す。が、ミネルバは、海皇自身は認めるが実家に話は通せ、と。
「くそ、めんどくせーな……」
かなり遠回りになるうえ、俺が介入できないところでの問題だ。
別に彼彼女らを信用していないわけではない。だが、結果を待ち続けなければならないのは今の精神上かなりしんどい。
「レイシー……とりあえず、魔導師を集めてくれ」
「かしこまりました。ガラハド様はどうされますか?」
「後で通す」
「はい」
レイシーが退室していく。
俺が海皇からの手紙を机の上に投げようとすると、リリーが手紙を奪って広げて中を読む。
「どうするの?」
「どうもしない。いや、言われたとおりにそれぞれ行かせるつもりだけど」
だけど。
魔導師は、その脅威は、計り知れない。
その力は一国に相当すると言われ、実際にその力は秘められている。
まぁ、大群の龍人族に襲われ、その後に龍帝とやるってなると、どうなるかはわからないけれど。
ガラハドという、魔導師三人を相手に大立ち周りした存在だっているわけだし。
つまりは、各国それぞれ魔導書が、魔導師が使役できるならしたいと思っていても不思議はない。
魔導師を巡って、駆け引きが行われているわけだし。デトロア王国とヴァトラ神国の間では。
だから話を通せ、というのは、各国を説得させろ、ということだ。
海皇や龍帝は別に魔導師の存在など気にもならない、という意思表示でもあるのだろう。龍帝はまさにそれだ。
しかし海皇は、だからといって双神流の宗家のミネルバを勝手に渡すわけにもいかないのだろう。
ゆえに実家に向かわせろ、と。
「とりあえず、問題になりそうな魔導師はイズモとノエルとグレン……くらいか」
「ユートレアは許すかな?」
「おそらくな。ダメそうなら決闘法を使えばいい。勝てるだろ?」
「あんまりネロと一緒にしないでほしいんだけど」
まぁでも、勝てるだろ。魔導師だし。
だからこそ、渡したくないってなるんだろうけれど。
「困ったら人権の下に、とか、法の下にって言っとけ。たぶんどうにかなる」
「そうね。そうする」
割と冗談なつもりで言ったのに通じてしまった。まぁ、そんな感じの国なのだろう、ユートレア共和国は。かなり簡単な感じになっているけど。
俺は髪を掻きむしり、いったん思考をリセットする。
「……とりあえず会議だ。リリー、行くぞ」
「うん」
☆☆☆
「ほんじゃま、会議開始といこうか」
俺はそう、円卓のテーブルについてそう唱えた。
テーブルに着くのは俺を含め7人。二席の空白があり、一つの椅子は白い。もう一つは黒で塗り潰している。
魔導師たちは各人、自分の魔導書の色の椅子に座り、自身の前に魔導書を出している。
ここにいない魔導師は、通信水晶によって映像を映し出し、出席しているように見せている。
ちなみに俺の椅子は透明だ。
「会議だけで、部屋だけでどうしてここまでする必要がある……」
「バッカお前、こういうのは雰囲気も必要だろ!」
グレンが呆れたように言ってきたので激しく反論した。
こういうのは雰囲気が最も大事だからな。それに周りへの誇示も必要だ。
「まだ建国宣言できていないし、名目上まだ俺の国なので俺が仕切らせてもらうぜ。議題は一つ。単純明快、誰にだってできる簡単なものだ」
俺のホラに、リリーが額を抑えた。まぁわからんでもない。
「――お前ら、自分の国を抜けろ」




