第七話 「王の死」
空飛ぶマフラーを使い、デトロア王国の王城へ飛んでいく。
まずは学園長から問い質した方が良さそうか。そっちから行くとしよう。
その後王城行って、グレンとフレイヤを問い詰めて、それでもダメだったらクロウド家にでも押し掛けるか。
どこかしらで何かしらの手がかりは手に入るだろう。
衛兵に見つからない高さから城門を越え、適当な窓から侵入する。
すぐに姿を魔法で消して、城内に探索結界を張る。
フレイヤとグレンの魔力反応を見つける。二人は別々にいるようだ。フレイヤの近くには複数の人がいる。護衛だろう。
ついでにフレンとフレイも探しとくか。
こっちの二人にも周りに複数の反応があるな。ま、暗殺が本当であれば当然の対応だろう。
フレイの居場所は地下か? 下の方にいるな。
フレンはまた中庭か。何をしているんだ、こっちは。
俺はとりあえず近くに反応したグレンの方へ向かう。
城内を進み、グレンを見つける。が、他の兵がいる。そいつらがいなくなるまで彼らの後を追う。
途中、グレンが立ち止まって取り巻きに指示を下し、散っていく。残ったグレンも少しだけ歩き、足を止めた。
「ばれたか」
「そう仕向けただろ。気配を消していなかった」
振り向いてくるグレンに合わせ、俺も姿を見せる。
「そんなことはない。消していないとばれるだろ、他の連中に」
「そういうのはいい。何の用だ?」
「それこそわかってるだろ。王様について」
「俺の口からは何も言わん」
「何か知っているのは否定しないと」
「……ま、この身分だとな」
そりゃそうか。公爵家の跡取りだもんな。
さて、こっからどう情報を引き出そうかな。
「言っとくが、何も教えるつもりはない」
「教えてもらわなくてもいいよ」
箝口令でも敷かれているんだろう。が、話してもらわなくても情報は得られるのだ。
「どうしてもダメなら姫様のとこに行くだけさ」
「やめておけ。さすがに今は、誰も面会できん」
「ふーん。即位式か」
「……それくらいなら、明日にも発布される」
「では、王は死んだと」
「そうだ」
「どうして」
「事故だ」
「事故なら公表すればいい。他国にも、早く言わなきゃ余計な詮索をされる。どうしてしない?」
「大臣たちの意向だ」
「それだけじゃないはずだ。もし、本当に事故なら――」
「ネロ、その口を閉じろ」
グレンが、手をこちらへと向けてくる。
魔導書の無い今、魔導師のグレンとまともに戦って無事で済むか……いや、魔導師と争う時点で無事で済まない。
だが、黒の魔導書の無い今、大きな魔法を使う際には一瞬のラグも生じる。今戦いたくはない。
「……じゃあ、取引はどうだ?」
「貴様と取引することなど何もない」
「――その犯人、フレイだよ」
俺の言葉を聞いたグレンは、突進をしてきて壁に叩きつけられ、押さえつけられる。
背中の痛みに顔をしかめるが、間近のグレンの顔は怒りで歪んでいるようだった。
何だ、どうしてこんなに怒っている? 何か、おかしくないか?
「ネロ、もう一度言う――口を閉じろ」
「――――」
グレンの顔、目、息遣い。
嘘は、ない。
なるほど。
そうか。
お前も気付いたか。
俺は頷きを返す。グレンは押さえつけていた腕を放してくれる。
再三の忠告は誰が聞いているかわからないここで、話すべきことではない、そういうことだろう。
軽くせき込みながら、こちらに背を向けて歩き去るグレンに声をかける。
「……姫様から離れるな」
「わかっている」
力強い返事に、俺もグレンに背を向けた。
☆☆☆
グレン、フレイヤに情報を聞けないとなると、次は学園長の家に行くとするか。
王城を出て、学園長の家へと向かう。
玄関から行くのも面倒くさいな。学園長のいる部屋に直接入るか。
ということで探索結界で学園長宅をサーチする。
ミネルバとキルラもいるな……後は学園長と、この反応は……王妃?
王妃が、来ているのか?
空から玄関の方を見ると、確かに四頭立ての豪華な馬車が止まっている。
王妃が学園長の家に、か……まぁ、王様が暗殺されたとして、何かしらの相談があるのなら、分からなくもない。
あの学園長に相談して解決するかは謎だが。
そういやクォーターだっけあの人。それだけ苦労しているなら人生経験もある……んだろう。
まぁいいや知ーらない。
ってことで、学園長と王妃がいる部屋の窓をガンガン叩く。
突然の音と、それが俺がやっていることに驚く二人。とりあえず開けてくんねぇかな。
学園長がなんかジェスチャーで下降りろ的なことを言っている気がするが知らんな。開けてくれないなら自分で開けるか。
魔法でちょちょいとすれば簡単に開いた。
悠々と侵入する俺を見て頭を抱える学園長。
「……クロウド様の気持ちが何となくわかる」
「失敬な。クロウド家でこんなことしませんよ」
「どこでも普通はしないからな!」
まったく、と呆れたようにため息を吐く学園長。
「クレスリトが常識を教えるなんて……」
と驚愕を表しているのは王妃だ。
俺もまさか学園長に常識を教えられるとは思わなかった。大丈夫大丈夫、非常識ってのは十分承知の上でやってるから、まだ大丈夫。
「……で、何の用だ」
「わかってるでしょうに」
「……フロウ、今日は帰った方が身のためだと思うが」
「いえ、魔導師様にも意見をお伺いしたいのですが」
「やめておけ。この魔導師だけはやめておけ」
学園長が必死に諭そうとしているが、王妃は聞く耳を持たない。
まぁ、俺も止めておいた方が良いと思う。だって俺だぜ?
とはいえ情報が得られそうなのでこのまま進めるが。
「あ、でも俺、魔導師じゃないんで」
「えっ?」
「はっ?」
「魔導書、持ってないので」
俺は手をひらひらさせる。
「……つまり君のその姿は趣味だったというわけか」
「ああ!? かっこいいだろ黒のローブ!! ふざけてんのか!!」
「本気で怒られた……!?」
「姉さんのセンス馬鹿にすんじゃねえぞ」
「ただのシスコンか……」
ファミコンだよ。
その話は今はいい。
「で、俺はどんな意見を言えばいいですかね?」
「……魔導師でないのなら、別に」
「おいこいつどんだけ魔導師に飢えてんだ」
「そういう人だ」
うーん。
あ、そうか。
「ちょっと待っててください」
そういい残し、俺は部屋を出て行った。
そしてミネルバを連れて戻ってきた。
「魔導師を連れてきましたよ」
「ちょっとネロ、どういうことだ?」
「あの王妃様が魔導師としか話したくないっていうから」
「ああ……えっと」
「あなた、魔導師なのですかっ?」
「い、一応……」
嬉々として迫る王妃にミネルバが引き気味に答える。
「そ、それで聞きたいことというのは……?」
「それは――夫の、王の死について」
「フロウ!」
「私はこれでも魔法については長けています。頭も悪い方ではありません……が、王の死についてはどうやっても見当がつかないのです」
ミネルバがこちらを見てくる。
俺は話を続けるように促す。
「……見当がつかないとは、死因についてですか?」
「すべてです」
「すべて?」
「いつ、だれが、どうやって、死因も、動機も、そのすべてがわからないのです」
ふーん。まぁ、そりゃそうか。
そうだろうな。
ミネルバがまたこちらを向いてくる。俺は耳打ちをする。
「犯人の心当たりを聞いてください」
「わかった。……王妃様、王を殺した者に心当たりは?」
「……身内は疑いたくありません。大臣たちも」
馬鹿かな。王が殺されるなど、身内以外にどうやって暗殺するというのだ。外は堅い城壁に囲まれ、中は多くの警備が配属されている。
俺以外にどうやって侵入して殺しまで行える?
グレンのいるところで。あの騎士の監視をどう掻い潜った。
フレイヤのいるところで。魔導師ではなくなったが、魔力操作を覚えた彼女に治せない傷はほぼないのに。
「黒幕は身内だ。そこは断言してやる」
「魔導師でないものには用はありません」
「そうかい。じゃあ学園長にでも。黒幕は王族。数は限られているので、誰を疑うべきかはわかるはず」
「……まぁ、一応。だが方法は?」
「魔法に長けた者ですらわからない、となれば……魔法でも、凶器でもない」
「どういうことだ?」
「学園長なら知っているでしょう? それ以外の方法は」
「…………それが君の、推理の果てか」
「ええ。何か、間違いがありそうですか?」
「間違いしかない……と言いたいが、今のままでは状況証拠すらない。ただの憶測だろう?」
「まぁ、ね」
「何か、まだ持っているのか?」
俺は曖昧に笑ってごまかす。これ以上の情報は、やらない。
が、まぁ王が死んだ、暗殺されたことが事実であることが分かっただけでも十分だ。
「ミー姉、王妃、学園長。ありがとうございました。後は、何とかします。ただ、王族の動向にはご注意を」
☆☆☆
その後、国へと帰った俺は王が暗殺された事実は確認できたと、会議に呼んだ者たちに伝えた。
そして翌日、王の死とともにフレイヤの即位式の開催を告知された。
同時に、面倒なことも着々と進行していた。




