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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
家族編 小さな魔法師
15/192

魔導書の仰せのままに!

 王都の招集から約一年が経過した。

 この一年、特に大きい出来事と言えば、ゼノス帝国が一度攻めてきたことだろうか。


 だが、それでもアレルの森の踏破に時間と体力を使い果たしたようで、ニューラ率いる騎士団と自警団の連合だけでなんとか追い返すことに成功していた。

 援軍ももうすぐ着くというころになって、ようやくゼノス帝国の兵は引き上げていった。


 それでも油断はできないらしい。

 確かにアレルの森は自然の要塞として活躍し、帝国兵を疲弊させてくれるが、今回の戦力は弱いらしい。

 なんでも、ゼノス帝国には“人喰い将軍”と呼ばれる、魔剣持ちの軍人がいるらしい。

 その軍人、剣の腕はそれほどでもないらしいのだが、兵の扱いに長けているらしく、どんな苦境でも兵を鼓舞し、士気を上げることができるんだとか。


 さて、ここで出た魔剣とは何か。


 その話をする前に知っておかなければならないことがある。その一つがダンジョンだ。

 この世界には、無数のダンジョンがある。一度攻略されたダンジョンは次の日には消え失せ、また別の場所に出現するらしい。

 どのダンジョンにも魔物が多く棲みついており、その魔物を束ねるボスがダンジョンの最奥に待ち構えている。

 そのボスを倒すことで、財宝が手に入る。ボスは蒸発するように消えるんだとか。元冒険者サナの談である。

 ここまではよくあるゲームみたいだな。


 だが、極稀にそのボスが使っている武器がそのまま残ることがある。

 普通ならボスの消滅と共に消えるのだが、消えないことがあるのだ。

 その武器が魔剣、または聖剣と呼ばれている。


 魔剣と聖剣の違いははっきりとはない。

 あ、なんか禍々しいな、って思ったら魔剣で、神々しいな、って思ったら聖剣という、見た目は大雑把な分け方だ。

 そして、その魔剣や聖剣には固有の効果があるらしい。

 それが何なのかは使ってみるまでわからないらしいが、それでも魔剣は人に害をなすもの、聖剣は人に益をなすものだと決められているようだ。


 そして、“人喰い将軍”が持つ魔剣とは、文字通り人を食う剣だ。

 【マンイーター】と呼ばれるその魔剣は、斬った人の数だけ能力が向上するというもの。

 “人喰い将軍”は初めて戦場でマンイーターを使った時、なんと1000人斬りを達成したというのだ。

 こうして“人喰い将軍”はたちまち世界中で有名になり、帝国の抱えるトップクラスの戦力となった。


 うーん……この“人喰い将軍”……いや、なんでもない。


 ニューラ曰く、“人喰い将軍”さえいなければどうとでもなるのが帝国、らしい。どこまで恐ろしいんだよ、その将軍。

 いや、ニューラの自信なんだろうけど。流石にそれはないだろうと思う。



 あとは……王都でのノエルが襲われた事件についてか。

 ナトラが報告しに行った時、ナトラは騎士学校の校長か上官に伝えようと思っていたらしいのだが、ちょうど王様が視察に来ていたらしく、ナトラは王様に報告したらしい。

 すると、王様は血相を変えてすぐさまそのキツネの殺し屋について調査を開始したらしい。しかも、お抱えの騎士団すべてを使って。


 その甲斐あって、そのキツネを雇った貴族がすぐに見つかり、即刻処断されたらしい。

 ただ、キツネはすでに逃げた後で、実行犯を捕らえることはできなかったらしい。

 ……確かに逃げ足は素晴らしいな。


 ノエル関連で言えば、どうやらグレンとの婚約は破棄になったらしい。

 どういう経緯があったのかは詳しく知らないらしいが、それでも婚約は破棄。無かったことに。


 そしてどういうわけか、俺に白羽の矢が立ったらしい。

『今度の婚約者は、是非ともクロウド家から出して欲しい』と、ウルフディア家の当主直々に言ってきたらしい。どういうこっちゃ。

 絶対ヤだよ、あんなお嬢様。一緒に居るだけで疲れるじゃないか。それにクロウド家なんて、分家いっぱいあるらしいじゃん。そのどっかから出してもらえ。



 で、今日も今日とてネリと手合せ中である。

 最近、ネリに無声詠唱でも対処されるようになってきて、兄としての威厳がかなり危険に。

 こうなると早く詠唱破棄を覚えるしかないのか……だけど、魔力の流れをいつも意識して読んでいるのだが、どうもうまくいかない。何か別の理由でもあるのだろうか?

 まあ、詠唱破棄できる魔術師の方が少ないらしいし、威厳ぐらいいつでも捨てられる覚悟ではいるが。



 あ、あと魔導書についてだが。

 やはり、俺には魔導書を開くことはできない。うんともすんとも言わない。

 なので、部屋に放置していたりするのだが、案の定いつの間にか俺の懐に入っているのだ。


 魔導書に選定されたことは王様たちしか知らないし、使えるわけでもないので公言されてはいない。俺としてもその方が楽なので助かる。

 ただ、王妃とノーラの通っているクレスリト魔法学園の学園長から、うざくなるほどの量の招待状が届く。もちろん、魔法学校入学の招待状だ。


 ネリの方も、騎士学校の方で剣技を披露したのか、俺と同じくらいの量の招待状が届く。

 ニューラもサナも入学には大賛成のようだが、やはり子供全員がいなくなるのはさみしいのか、時々二人で話し合っていたりする。


 ネリは、俺が入学するならと言っている。そんなに何もかも俺と一緒にしようとされても困るのだが……。

 だけど、俺はまだ入学する気はない。学校自体いい思い出がないし、いかなくて済むならいかないでいいのだ。

 それに行くとしても、やはり魔導書が使えるようになってからと思っている。魔導書に選定された癖に使えないのかよ、とか言われてもうざいだけだし。


 だから、当分はトロア村で過ごすことになりそうだ。ナトラやノーラと同じ歳くらいまでは。



 だが、そんなささやかな願いも、世界は受け入れてはくれなかった。



☆☆☆



 その日、俺とネリは12歳の誕生日を迎える。

 俺とネリの誕生日には、無理してナトラとノーラも帰って来てくれる。


 ナトラもノーラも、国に仕えるようになってようやく落ち着いてきたらしく、プレゼントも用意してくれているらしい。

 この世界で誕生日にプレゼントを渡すような習慣はないらしいが、それでも何年かに一回くらいはくれたりする。


 ミーネは一足先に祝ってくれた。

 というのも、ミーネは家出同然のように飛び出したらしく、それでこのトロア村に住んでいたのだとか。けれど、最近になってとうとう親に居場所がばれ、迷惑がかかるかもしれないと村を出て行ってしまったのだ。

 どこに行くのかも教えてくれなかったので、また会えるだろうか……。



 そして誕生日の前日にナトラとノーラが帰ってきた。

 3年ぶりくらいだろうか。あれ以来、王都にはいかなかったし、ナトラとノーラも忙しくて帰ってこなかったし。


 俺もネリも、きっと両親も久々に揃う家族に喜んでいる。



 誕生日当日。

 俺は朝早くに家を抜け出し、とある場所を目指した。


 黒の魔導書があった神殿だ。


 ナトラとノーラにも、王都に行った時に魔導書に選定されたことを話したし、家族全員が知っていることになる。

 だけど、俺はまだ魔導書が使えないのだ。

 何とかして魔導書を使えるところを、ノーラに見せたかった。


 魔導書を開く手がかりが神殿にないか、そう思ったのだ。

 前から考えていたことではあったが、ネリを連れていくには少し憚られるし、見つかればやはり両親に怒られてしまう。

 それにあの時は無我夢中だったため、神殿の正確な位置はわからないのだ。

 自警団や騎士団が時々アレルの森を偵察するが、彼らも神殿の存在を知らなかった。これはつまり、魔導書が選んだ者しか見つけられないのではないか。そう思って、家族に見つからない様に朝早くに家を出て、アレルの森を捜索していた。

 家に戻るのは、家族が起き出す頃だ。その頃に、散歩してきたと言って戻れば、怪しまれずに済む。ただ、これだと毎日捜索にいけないのだが。毎朝家抜け出して散歩する子供なんか普通いないだろ。


 で、最近になってようやく見つけたのだ。あの神殿を。

 ただ、神殿を見つけた時には既に戻らなければならない時間だったため、神殿の探索は諦めて別の日にすることにしたのだが、その日がなかなか来なかった。


 一度くらい2回連続で言い訳ができるかと思ったのだが、ネリが一緒に寝ると言い出したり、ニューラが早朝から仕事で出たりと都合が悪かった。

 そうこうしているうちに、誕生日が近づき、ナトラとノーラが帰ってきてしまったのだ。


 そして、今日を逃せばノーラに魔導書を使うところを見せることができない。

 今日はノーラが一緒に寝ると言ってきたのだが、ノーラの目覚めの悪さは体験済み。大丈夫だろうと思って、ノーラが寝息を立て始めると同時に抜け出した。

 いつもよりかなり早く家を出る。両親が起きているかもしれないと警戒したが、二人とも寝室で仲良く寝ていた。たぶん大丈夫だ。

外へと出るが辺りは真っ暗で、目を凝らさないと小石にも躓きそうだ。


 アレルの森へと一直線に向かい、さらに神殿まで走る。

 できることなら家族が起きる前に戻り、ベッドに入っておきたい。


 神殿に着くと、急いで中へと入り、内部を隈なく探る。

 初めて来たときは焦って周囲をよく見る余裕なんてなかったからわからなかったが、祭壇がある部屋以外にもいくつか部屋があった。


 そのうちの一つは居住スペースみたいな部屋だ。机とベッドがあり、生活に必要最低限のものがあった。まあ、当然食糧はないんだが。あったとしてどうせ腐っている。

 その部屋を手始めに捜索する。

 すると、机の引き出しに手記のようなものが入っていた。だが、辺りが暗すぎて文字が読めない。

 仕方ない、明るくなったら読もう。


 手記のようなものを懐に入れ、別の部屋へと移る。

 懐には当然のように黒の魔導書が入っていた。い、いつものことだから驚かない……!


 次の部屋は……治療室? よくわからないが、机があってベッドが複数あるから、そんな感じの部屋だろう。

 神殿ではこんなこともしてたのか。大変だな。

 隈なく調べたが、特に目ぼしいものは無かった。


 とまあ、こんな感じで全部の部屋を隈なく探ったが、手記以外に一目で怪しいと思うものは無かった。


 さて、残るはあの祭壇のある大部屋だけだ。

 ここは礼拝堂のような場所だろう。椅子やオルガンとかはないが、燭台とかあるし。間違ってはいまい。

 裏口は初めて訪れた時と同じ場所にちゃんとある。……当然か。


 まずは祭壇だな。

 俺は火魔法で燭台に火をつけ、それから祭壇を調べ始める。

 この燭台、何か特殊な魔法でもかかっているのだろうか? ろうそくが全く短くなっていない。魔導書があったんだから、別に驚くことでもないのだが。

 燭台を持ち上げてみようとするが、祭壇に引っ付いて力づくでは外せなかった。祭壇とワンセットなのかな?


 祭壇を調べるが、燭台の間の魔導書があった場所に複雑な魔法陣があること以外、特に変わったところはなかった。

 祭壇をどけたら階段でもあるかと思ったが、特にそんなことはなかった。ていうか、祭壇が動かなかった。


 まだ探していない場所は、と。

 ステンドグラスか? でも特になさそうなんだがなぁ……。

 まあ、調べないよりかはましか。

 俺は【スカイウォーク】を唱え、宙に浮くと、ステンドグラスに近づいてぺたぺた触る。が、特に何もなし。


「んー……もう探しつくしたかなぁ……」


 俺は地面に降り、辺りを見回す。

 神殿内はたぶん、調べつくした。だとすれば、ここには魔導書を使えるようになるようなものはない、ということか。


「……手記でも読むか」


 俺は祭壇に近づき、燭台の明かりを頼りに手記を開く。

『なぜ・・・導書・・・・ある・・? こ・魔・・・は・・・陸にあ・・・・・・。

 人・・・の魔・・・使・・い。な・に、な・・・にある?

 そうい・・ば、こ・・・・は赤も・・・もな・。これは・・しい』


 かすれていてまともに読めやしない。

 読む気が失せるな……。


『神の悪・だ・・・いうつ・・・?

 だとすれ・、・・は無・・・う。

 ・・大地を分・・・らえ・・かっ・・・・怒り、・・・魔物・・いて・・てきた。

 ・かし、・神は・・・・何・だ?

 どの歴・・・読・・でも、必・・の純・神・・・先・生まれ・・・・されて・・』


 まだ続くのか? 疲れてきた……。

 それでも、手がかりを求めて読み進める。


『ア・・シア……奴・・者・?

 ・・奴・・用・・ない。

 かとい・・・らえ・、何を・・・か・・・・ものでは・・』


 そこからは落丁やほとんど読めないものばかりで、最後のページへと飛んでしまった。

 だが、最後のページを読んだとき、背中に悪寒が走った。


『Hello、こんにちは、你好、Здравствуйте、Guten Tag、Bonjour、Buenas tasrdes、Buongiorno。

 もしこ・・記を見・・・者が転生・・、アレイ・・・会・た・・・ある・・・。

 忠告・・。決して信・・な』


 こいつ……!

 最初の一文。ここだけは魔法がかけられていたかのように、きれいに残されていた。

 そしてこれは……!


「俺の世界の言葉……!?」


 英語、日本語、中国語、ロシア語、ドイツ語、フランス語、……スペイン語にイタリア語か……?

 最後の二つは確信が持てないが、それでも英語と日本語があれば十分理解できる。

 こいつは……この手記を書いた奴は、俺の世界の転生者だ。


「……不思議……じゃ、ないのか……」


 アレイシアに会ったとき、奴は俺を転生者だと理解していた。

 だとすれば、アレイシアは以前に俺と同じように転生した者と会ったことがあるのだ。


「あいつ……変なペースで話すからなぁ」


 アレイシアのペースに呑まれてしまっていた。


 だが、最後のページ。最後の一文。

 忠告と書いているし……信用するな、とでもいいたいのか?

 ……まあ、あんな得体のしれない奴を信用する奴はいないと思うが……。


「なんにせよ、今度会ったら詳しく教えてもらうか」


 俺は手記を閉じ、懐に入れる。

 これは随分といい拾い物をしたな。時間がある時に、他のページも隈なく読むべきだな。


 さて、そろそろ帰るか。時間はまだ大丈夫だろうが……早く帰った方が見つかる可能性は低いし。


 そう思ったとき、いきなり懐に入れていた黒の魔導書が飛び出てきた。

 黒の魔導書は数秒ほど宙を漂うと、勝手にどこかへと向かってしまう。


 ……まあいいか。どうせいつの間にか懐に戻ってるのだろうし。

 だが、その考えが見抜かれたのか、黒の魔導書がすごいスピードで戻ってくると、俺の頭を叩き出した。


「痛っ! 痛い痛い! 角はやめろ!」


 俺は頭を押さえて必死に防御するが、手の上からでも容赦なく叩いてくる魔導書。

 人を叩く本なんて聞いたことねえぞ! ……ああ、いや、ファンタジーなら何でもありか。


「わ、わかった! ついて行くから!」


 そういうと、魔導書はようやく叩くのをやめてくれた。

 人の言葉を理解する本か……珍しすぎる。

 魔導書に常識は通用しないようだ。


 俺はため息を吐きながら、宙を漂って移動を始めた魔導書について行く。

 魔導書は礼拝堂から出ると、廊下の壁にしきりに体当たりを始めた。


「本がドMプレイを……ごめんなさい叩かないで」


 なんで本がドMとかわかるんだよ。……本だからわかるのか。超どうでもいい。


 俺は魔導書が体当たりをしていた場所を手で押してみる。……反応なし。

 引いて……は無理か。

 どうしろっちゅうねん。


 すると魔導書が横に動く。

 ああ、スライド式なのね。


 俺は魔導書が動くように壁をスライドさせる。すると、簡単に壁がスライドし、地下への階段が現れた。

 ははぁ、こうなっていたのか。

 ていうか、本のくせによくわかるな。お前が作った神殿でもないだろうに。


 魔導書がその階段を下りていくので、俺もそれに続いて下りていく。……帰ろうなんて思わないよ? 叩かれるの、案外痛いんだから。


 階段を下り切ると、そこには小さな部屋が一つだけあった。

 机やベッドなんかは一切なし。ただ、薬品棚みたいなものが並べられ、中に何かが陳列されていた。


 よく見ると、標本のようにその中のものの名称が書かれていた。


「えーと……『獅子人の爪』に『海獣人の牙』、うげ……『エルフの耳』とかグロいな」


 他には『竜人の鱗』や『火山熊の皮』などがある。

 うーん、これはあれだな。各種族の一部とかだろう。


 魔物とその他種族の違いは、知能の有無の他に人になれるかどうかというのがある。

 だから、人ってついていたり種族名だったりするのはその種族の一部で、着いていないのは魔物の一部だな。『火山熊』は魔物で、『獅子人の爪』は獣人族の中のレオ族と呼ばれるライオンのような種族の一部だろう。


 しかし、こんな場所に連れてきて何をするつもりだ?

 ……まさか俺から人族の一部を取ったりしないよな? 『転生人の脳みそ』とかラベルつけないよな?


 本に怯えるのもどうかと思うが、俺はびくびくしながら魔導書について行く。

 ここで逃げても叩かれて、気絶しているうちに体の一部を持ってかれるのも嫌だしな……。脳みそなら死ぬけど。


 が、そんな不安は余所に、魔導書は一つの棚の前で止まる。

 そして、その中に陳列されているものの一つを示す。

 それを取り出し、名称を読む。


「なになに? ……『吸血人の血』?」


 そして魔導書に視線をやると、魔導書が上下に、少しそるように移動する。


「……飲めと申すか」


 正解らしく、魔導書がぶんぶんと、今度は上下に直線的に動く。


「えぇー……誰のものかも知らん血を飲むのは……」


 すると、魔導書は別のものを示した。

 それの名称は――『腐人の肉』……。


「いやー! 吸血人の血かー!! 一度飲んでみたかったんだー!」


 冷や汗がだらだら零れてくる。

 その原因は二つ。腐った人の肉を食わさせそうなのと、血を今から飲むということだ。


 吸血人の血を持ち上げ、唾を飲み込む。

 これ……飲んで腹とか壊さないかな……? あ、違う? そこじゃない?


 でもまあ、飲まないと腐った人の肉を食わされそうなので、飲むしかあるまい。

 ええい、ままよ!

 俺は腰に手を当てて『吸血人の血』を一気に飲み干す。


「ゲファッ! まっず! クソまっず!!」


 美味いわけがない。

 それでも何とか飲み干すことに成功する。


 魔導書はなんか嬉しそうにぶんぶんと動き回っている。……なんか梨のゆるキャラを思い出しそうである。


 だが、そんな喜ぶ魔導書とは対照的に、俺はどうしようもない不快感に襲われた。

 腹の底から何かが這い出てくるような感じがし、そしてその何かが何かとぶつかり合い、混ざり合うような……。

 しかも腹が捩じ切れるように痛い。腹を壊したときとは比較にならないほどの痛さだ。


「ぐがッ……! か、はッ……!!」


 俺はその場に倒れ込み、痛みに耐えきれずに暴れまわる。

 薬品棚を容赦なく蹴りつけたりもするが、頑丈に固定されているのか倒れる気配はない。中に入れられているものも同じだ。


 そして、少しずつ意識が遠退いて行った。

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