第三話 「試射」
先住民族の行脚を終え、一度アルマとユカリがいる城跡まで戻る。
魔導を駆使して城の補修をしていたアルマはこちらに気付いて作業をいったん止めた。城はもう半分ほど修理されているように見える。
「お帰り。どうだった?」
「血の気の多い民族は何とかなりましたけど、それ以外は今すぐにってのは難しかったです」
「そっか。じゃあ、これからはそれに取り掛かる?」
「はい。そのためにも、一度ユートレアに行こうかと」
理科系はユートレア共和国で探るのが一番いいだろう。錬金術とかなら、たぶんあの国ならやってそうだし。
それ以外の国でもやってるかもしれないけれど、一番発展してそうなのはユートレア共和国な気がする。
亜人族だから、何かに特化した種族が多いし。アルラウネとかね。
「それじゃ、一度ここを離れるのね」
「そうですね。任せても良いですか?」
「ええ、任せて。お城も外観はどうにかなりそうだけど、内装はまだ手つかずだし」
「ではお任せします。リリーは?」
「エルフの里でしょ? 行く」
よし行くかと思ったら、不意に影が差した。
ああ……見つかっちまった……。
ちょうどアルマの指示で材料の運搬に向かっていたユカリが戻ってきた。その背にはレイシーもいる。
「ユカリはー!?」
「凄く置いていきたい」
「えええええええええええええ!!!」
「うるさい」
龍の姿で駄々をこねないで欲しい。とてもうるさい。ので、ユカリの体に触れて、人化のトリガーを引く。
ユカリのトリガーを引くのは怖いのだが、慣れて行った方が絶対に都合がいいので訓練していくことにする。一応、細心の注意を払ってやっているつもりだが、周りからは片手間にやっているように言われる。
人の姿に戻ったユカリ。その背に乗っていたレイシーが重力に従って落ちてくる。その周辺の重力を操作して安全に着地させる。
「また随分と魔法の扱いに長けましたね」
「そうか? まぁ、経験値は増えたけど」
戦闘民族との戦闘とかでね。
十五歳児くらいのユカリが抱き着いてくる。
「ユカリも行くー!」
「えー……」
「静かにしてるから! 大人しくしてるから!!」
「絶対だぞ」
「絶対!」
そこまで言うなら……まぁ、いいか。
「そしたらレイシーも来るか?」
「そうですね。ユカリ様も行くなら、ついていきます」
「とするとこっちの人数が足りなくなるのね……」
「あ、それは大丈夫です」
島に残る人数が極端に少なくなってしまうことを懸念するアルマ。だが、先住民族に会いに行く前に、ある奴らに連絡は取っていたのでそろそろ着くのではないだろうか。
と思っていたら、通信水晶が光り出した。
それを取り出し、魔力を通す。
「よー、ドレイク。ついたか?」
『着いたのは着いたが、どこに進めばいい?』
「そこから城が見えねえか?」
『城……? あの傾いた城はねえぞ。新しいのがあるが、別モンだろ』
「この島に城は一つしかないぞ。そこに向かって来い」
『直るの早すぎねえか……?』
「魔導師様様だ」
通信を切り、アルマに向き直る。
「ということで、助っ人呼んどきました。海の男どもなので陸に弱いかもしれませんが、ケツ叩いたら喜んで働くと思いますよ」
「そう? じゃあ遠慮なく使わせてもらうね」
シャーキング海賊団全員召集させたし、人手はまだ足りないかもしれないが、もう一つツテがある。そちらが来るまでは凌げるだろう。
さて、これでここは大丈夫そうだな。
そんでガラハドはっていうとー……城の中でも見に行ったのだろう。姿が見えない。あいつは頭数に入れちゃダメな奴だし、どうでもいいか。
「それでは、ちょっとユートレアに行ってきますね」
「わかった。行ってらっしゃい」
俺はマフラーを外して魔力を通し、拡大させて全員を乗せる。
アルマに見送られながら、島を後にした。
☆☆☆
そして海越え山越え森を越えて、帰ってきたエルフの里。
とりあえずリリーに先に向かってもらい、入る許可が出るまで何となくジキルタイドの洞穴にやってきた。
『おお我が主! お会いしとうございました!』
ジキルタイドは両手を広げて歓迎してくれる。
いつも通り俺というかガラハドというか、まぁこちらを盲信してくれる馬鹿な良い奴だ。
「よう、久しぶり。なんか変わったこととかなかった?」
『ございますとも! ご覧くださいこの体! 新調いたしました!』
「それはどうでもいい」
パッと見でジキルタイドの変化はわかるからいいんだよ。
前は確か鵺だったか。今はなんかよくわからん。人型は保っているが、ちぐはぐだ。いつも通り。ドラゴンの翼と虎の体と馬の四肢はわかる。後は知らん。きもいな。
『そういえば、新種の魔物を見つけましてございますが』
「どこのパーツだ?」
『ここです!』
といって示したのは尻尾だ。
尻尾だけでどんな魔物か想像しろって、どんな無理ゲーだ。やっぱ馬鹿だ。
『すべて従えました!』
「じゃあいいや。他には?」
『そうですね……先日、異質な魔力を感じました。この国ではありません』
「異質な魔力?」
『ええ。ガラハド様のものと似ていたようですが……今はもうわかりません。ハッ! もしや新たな我が主……!』
「それってこいつか?」
俺は隣にいるレイシーを指差す。
レイシーもアレイシアの魔力を持っている。ガラハドもアレイシアと接触して魔力の譲渡を受けたはずだし、ありえなくはない。
『ん……ンン? 我が主……あるじ?』
「違うか」
『違いますな』
「そうか」
じゃあ何なんだろうな。
まぁこいつ馬鹿だし、勘違いの可能性もある。今は詳しいことを調べることはできないし、後回しだな。
案外アレイシアを封印する際の魔力だったりするのかもしれないし。
「そういやレイシーはこいつの言葉はわかるのか?」
「聞き取りづらいですが、まったくわからないわけではないです」
「そうか」
うん? あれ、じゃあなんで俺はあの時初っ端からわかったんだろうか。
うーん……? 黒色を持っていたから……? よくわからんなぁ、基準が。
もっと別のところかもしれないし。
「あの、ネロ様。何か大事な話があるといっていたのでは?」
「あ、そうだそうだ。ジキルタイド」
『はい、何でしょう?』
「これからガラハドの下に行ってくれねえか?」
『かしこまりました! すぐに?』
「すぐに」
言うが早いか、ジキルタイドはドラゴンの翼を大きくはためかせて、洞穴の天井をぶち破って飛んで行った。
あいつ、俺がこの崩落から身を守れなかったら、とか考えないのかなぁ。
片手間で全員を守れるくらいではあるけれど。
「すっごーい! かっこいー!」
ジキルタイドの飛翔する姿を、ユカリが興奮した様子で眺める。
キラッキラした目で見やがるなぁ……確かにユカリも龍だけどさ。
「ユカリもしていい?」
「ちゃんと帰ってこいよ」
「わかった!」
といってユカリも龍の姿へと変わると、ジキルタイドと同じように飛んで行った。
まぁ、龍の巨体のおかげで洞穴は消え去ったけれど。
☆☆☆
日差しのある元洞穴で待つこと小一時間。
帰ってきたユカリは疲れたのか人に戻るなり俺の膝を枕に寝ていた。
男の膝枕って固いと思うんだけど……何がいいのやら。
「あーいたいた……洞穴は?」
「崩壊した」
「そう……」
許可をもらいに行っていたリリーが帰ってくる。崩壊した洞穴と眠るユカリを交互に見て察してくれるリリー。理解力高くて嬉しい。
「許可は出た?」
「うん。レンビアがいたからすぐだった」
「そっか。じゃあ行くか。ユカリ起きろ」
ユカリを揺すって起こし、エルフの里へと向かう。
エルフの里へと到着すると、ラトメアが出迎えてくれた。
とりあえず両腕を広げてホールドして来ようとするのはやめてほしい。反射的に蹴り飛ばしてしまうだろ。
「俺よりリリーにしてくれません?」
「リリーは手加減ないだろ!」
「俺だったら手加減してくれるって思ってんのか」
今度から本気で蹴るぞ。
「それでいつごろうちに来るんだ?」
「気がはえぇ……こっちも用事あるんです。暇じゃないんです」
「馬鹿! 故郷に帰ってきたならゆっくりしていきなさい!」
「今は無理です」
その言葉自体は嬉しいけど。
でも今はゆっくりしていくことはできないんだよ。せめて用事が済むまで待ってほしい。
「あの、ネロ様? あちらの方はいつまで無視するのですか?」
「いいかいレイシー。この世には見えてはならない存在もいるんだ。あれは見えない、いいね?」
「はぁ……?」
レイシーが指差す先には何もいないことを、俺は優しく諭す。
いないったらいないのだ。
金髪のエルフだなんてたくさんいるけれど、あれは見えてはいけない金髪のエルフだ。
そう、見えないし聞こえない。
「ネロ、そろそろ許してあげたら? 一応、エメロアの監視の下で動かなきゃいけないんだから」
「はぁぁぁあああ? チェンジだチェンジ! ライミーがいるだろそっちでもいいはずだ! 今すぐレンビアを呼んで来い!」
「ライミーはいないってば。今首都にいるんだから。ていうか、ホントに聞いてないのね、エメロアの声」
「ったりめえだ! 舐めるなよ俺の魔力操作を! 人一人の声の遮断なんざ朝飯前だ! ついでに眼にも移しちゃいねえ!」
「無駄に実力を発揮しないで!」
「リリーにもかけてやろうか?」
「いらないよ!」
「ついでにこの魔法、ある言葉をトリガーに解けるようになってる」
「本当に無駄な実力ですね……」
リリーとレイシーが同時に呆れた様なため息を吐いた。
「ていうか、あいつにとって俺はどうでもいいはずだろ? 人族だし、エルフの里に住んでいるわけでもない。だったら、俺一人から見えなかろうが声が届かなかろうがどうでもいいはずだ。俺はあいつが嫌いで、あいつも俺が嫌い。俺からは見えないし聞こえないからあいつも無視すればお互いに無視し合える存在。別に何か困るわけでもないしwin-winの関係だろ」
「よくもまぁペラペラと喋れるね……」
「お父さん、そういうの良くないと思うな……」
「あまり良いものとは思えませんが……」
おっとまさかの総スカンだ。
でもまぁ仕方ないよね。俺の偏見だし。
「パパあのうるさい声聞こえないの?」
「うん聞こえない」
「いいなー。ユカリも聞きたくない」
「そうかそうか」
一人味方ができた。
というわけでユカリにも俺と同じ魔法を施した。
「わっ! すごいホントに聞こえない! ついでに見えない!」
「教育上よろしくないのですけど……」
「ここは譲れません」
「はぁ……」
ため息を吐きすぎるのはよくないと思うぞ、レイシー。
とりあえず会いたい奴はいるから、そっちから回るか。
「じゃあ俺は勝手に回らせてもらうわ」
「だから勝手に回っちゃダメなんだって!」
歩き出そうとしたところ、リリーにマフラーを引っ張られて止められる。
「いいだろ別に。モートンとレンビアとバルドと……ライミーいないから、あとはセリーヌか」
「同窓会でもする気……?」
「セリーヌは顔見せるだけ見せとこうかと」
まぁ、亜人族自体人種のるつぼだし、ハブられていることはないだろうけれど。
ともかく、会うだけ会っておこうかって感じ。
「だってさ、エメロア。皆いる?」
「見つけたから行くぞ」
「ネロ……」
そいつに訊いたって、俺には声が届かないからどうしようもないしな。見つけるくらいわけないさ。
「用事が済むんだら行くので、ラトメアさんは家に帰っていてくれて構いませんよ」
「ああ、わかったが……わかってると思うが、あんまりよくないぞ、そういうの」
「ええ、知ってます。だから最大限の譲歩で、解除のトリガーを付けているんです」
「はぁ……母さんに説教されるぞ」
「それでも、譲りませんから」
絶対に、譲らない。
追い出されるきっかけになったし、何より関係ないリリーを巻き込んだのだから。
実行犯共はどうなっているやら。あんな奴らどうでもいいさ。
その後、ラトメアが帰っていき、俺たちはエルフの里を散策する。
魔力探知で会うべき者の居場所はわかっているので、さっさと向かって終わらせよう。
ということで、まずはモートンに会いに行く。
モートンは薬草の栽培所にいた。
「あ、ネロ!」
「久しぶり、モートン」
片手を上げて挨拶をする。モートンは手元の作業をいったん止めると、こちらに寄ってきた。
「今日はどうしたの?」
「前に言ってたことがどうなったかなって」
「火薬だよね。そっちはバルドと一緒にやってたし、ここにはないから……バルドのところにいこう」
「おっけ」
ということでモートンを仲間に加え、バルドの下へ向かう。
バルドはドワーフが良く使っている鍛冶場にいた。そこで親か親戚か師匠か、同じドワーフの大人にこき使われていた。
彼が休憩に入ったのを見計らって連れ出す。
「ようバルド。前にお願いした奴はどうなった?」
「ああ、あの設計図の奴? 完成したよ」
そういってバルドはどこかに走っていくと、前世の教科書によく出てきていた火縄銃を持ってきた。
それを渡され、俺は適当に見定める。まぁ、別に前世で本物の火縄銃を見たこともなければ触ったこともないんだけれど。教科書の中だけだ。
「それともう一つ、こっちも」
バルドがもう一つ手渡してくる。そちらは拳銃だ。回転式の方。
弾丸を込める場所もあるが、薬きょうの開発はまだだし、設計図通りにとりあえず作った、って感じか。
「それとこれだね。木炭と硫黄、それに硝石。少量だけどいいの?」
「いいよ。じゃあ、こいつらちょっと借りるぞ」
「え……どこ行くの?」
「森」
「森?」
☆☆☆
森に向かう途中でレンビアも見つけたので、レンビアも連れていく。
バルドは何とか親に許可をもらい、見学に来てもらっている。
ある程度里から離れ、適当なところで足を止める。
そこで火縄銃の準備をする。
「とりあえずどんなものかでも見せよう」
俺は設計図に親切にも書かれている使い方を読みながら、手順通りに構える。
そして火縄銃を構える。狙いは――グリーンウルフ。一匹だし、おそらくはぐれだろう。
狙いを定め、そして引き金を引いた。
込めた鉛玉が、爆音を上げてグリーンウルフの脳天目がけて跳んでいき、貫通した。
頭を貫かれたグリーンウルフは、即死だ。
「――と、まぁ、こんな感じ」
周りを見ると、いきなりの爆音に驚いて眼と耳を塞いでいた。
確かにこの音は予想していないとびっくりするな。
だが、バルドは違った。
火縄銃の威力と怖さに、一番に気付いて詰め寄ってきた。
「お、おま、お前……僕になんてものを作らせるんだ!」
「落ち着けバルド。俺の言ったことは守ったか?」
「お前の言ったことなんか今関係ないだろ」
「関係ある。作ったのは、この二つだけだな?」
「あ……ああ、その二つだけだ」
興奮していたバルドだが、落ち着いている俺に感化されてか少しずつ冷静になっていく。
「それじゃ、誰かにこの設計図は見せたか?」
「親に……助言をもらう際」
「親は作れるか?」
「無理だと思う……見せたのはその一度きりだ」
「お前は、設計図なしに作れるか?」
「……難しい。一度しか作ってないから」
「じゃあ問題ない」
俺は持っていた設計図を、火魔法を使って燃やす。
メラメラと燃えていき、ついには灰となって風にさらわれていった。
「これで、ここにある二つしかもうない」
「……でも」
「これらは俺が管理する。それでいいな?」
「……わかった」
よし、これでいい。
怒涛の勢いで攻めたおかげで、俺を疑うことはなかった。
これでこの世界に、銃はこの二つだけ。
もしかすれば、技術の発展の末に開発されるかもしれない。いや、きっとされるだろう。
そもそも俺のような転生者がいる。その上設計図を作った奴だっていた。
時間の問題かもしれない。
それでも今は、この世界に銃は俺が持つこの二つだけ。
「モートン、お前もそれでいいか?」
「う、うん。ネロなら……任せられる」
「ありがとう」
モートンも承諾してくれた。
「……お前のことだからもう何を言っても持って帰るんだろうけど、だったらどうして僕にも見せたんだ?」
「レンビアにはこいつの怖さが理解できただろ」
「そりゃ……」
「そして作ったのは、バルドだ」
「……監視しろってのか」
「いいや違う。もしこの先同じものが生まれた時、バルドが作っていないことの証明をしてくれ」
「はぁ……物は言いようだな。わかった」
レンビアも承諾してくれた。
試射はこれくらいにしておこう。
「確かにこいつの威力は凄まじいが、でも魔法のあるこの世界じゃそこまで重要視はされないはずだ。こんなものを量産するくらいなら、魔法を浴びせた方が早いし威力も高いからな。だから、大丈夫だ」
そういって皆を安心させる。
――銃の本質は、その威力ではないけれど。
音と光による存在の強調。明確に狙われるという恐怖。
何より、一つ持てば魔法すら扱えない奴隷や低級魔法がせいぜいの貧困層、農夫ですら兵士となり、将軍を殺せる逸材となること。
そして遠距離という、人を殺すことにおいての罪悪感を物理的に、精神的に遠ざける。
そのことに気付かれる前に。
俺は、この話を切り上げた。
☆☆☆
試射の後、一度里に戻ってレンビア、モートン、バルドと化学や錬金術について議論した。
化学の発展は錬金術あってのものだし、錬金術が不可能でもそこから発展していろんな発見があるはずだし、無駄ではないはず。
まぁ、この世界には魔法もあるし、なんか不思議な力で錬金術が完成するかもしれない。いや、無いか。鋼の方ができるようになるかも。
ともあれ、そうしているうちに日も暮れはじめた。そろそろラトメアさんの家に帰るか。
「そうだ、なぁお前ら。俺の国に来ないか?」
「は?」
「へ?」
「何だって?」
三人とも呆気にとられた表情をした。当然の反応だな。
「これから国を建てるから、そのお誘い」
「はぁぁぁあああああ!?」
「ちょっとちょっとちょっと待って! いきなりすぎない!?」
「お前本気か?」
伝えるのはいきなりだけど、もうそのために動き出しているし。
「国を建てるのはいいんだけど、人材不足なんだよ。だからお前らを引き抜こうと」
「いやいやいやいや! レンビアはいいかもしれないけど、僕はただのアルラウネだよ?」
「僕だってただのドワーフだ! 優秀な人は他にいくらでもいる! それこそ首都とかにさ」
「ただ優秀な人材が欲しいんじゃない。信頼できること前提で、優秀な人材が欲しい。その点で言えば、まずお前ら以外はいない」
金でも積めば、そりゃ優秀なドワーフやアルラウネを雇い入れることはできるだろう。
けれど、それではダメなんだよな。
ただ単に俺の感情の問題もあるし、信頼できない奴を雇いたくはない。
何せ第一陣だ。まずは、信頼できる奴で固めたい。
「国の運営自体は魔導師たちにやらせる。けれどおそらく運営以外のことになると魔導師はほぼ動けない。だから、それ以外の専門的なところを任せたい」
「け、けどそんな……」
「わかってる。急に言われてすぐに頷けるとは思ってない。また誘いに来るし、来たいと思ったときに頷いてくれればいい。まぁ、頷くまで何度だって来るけど」
「それ断れない奴……」
「特にレンビアは、おじい様の許可やら何やらが必要だろ」
「……ああ、そうだな。でも、僕も首都にいることが多いだろうし何度も来る必要はない」
レンビアはそういうと笑って言った。
「必ず行こう。お前の国は、学べるものが多そうだ」
「そりゃありがたい」
よし、これで優秀な人材一人確保だ。
レンビア、性格はあれだけど能力は優秀だからな。
「お前今失礼なこと考えただろ」
「何のことやら。元いじめっ子リーダー君?」
「いつまで引きずるつもりだ!」
「そりゃ一生だろ」
まぁ、よくよく思い出して見れば、レンビアだけはそういうことしてなかったんだけど。
「ぼ、僕も! 今は即答できないけど……でも、いつかは絶対行く!」
「そっか。ありがとうモートン」
モートンも約束をしてくれた。
やっぱりこの里の連中は良い奴らが多いなぁ。
と、バルドの方へ顔を向ける。
ドワーフも欲しい人材の上位に食い込むんだよ。
「……はぁ。それ、僕だけ断れないだろ」
「来てくれるか?」
「二人と一緒で今すぐは無理だけど、でも行くまでにもっと鍛冶の技術を上げておく。それでいいだろ?」
「ああ、検討してくれるだけでも大歓迎だったけど、とても嬉しいよ」
これで、とりあえず三人確保だ。




