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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
魔導書編 集める魔導師
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第三十六話 「黄の魔導書、蒐集終了」

 目を覚ますと、屋内に移されていた。

 少しの間、部屋の天井を眺めてぼーっとしていた。


 包帯だらけ……というわけでもなさそうか。まぁ、傷だけは受けるたびに直していたからな。

 そもそもフレイヤがいるなら、包帯なんて必要ない。

 削られたものといえば、精神力と集中力くらいか。魔力はもう十分回復している。

 ということは半日以上寝ていたのか。


 つーかここどこだよ。パッと見、ネリの道場か?

 あれからどれくらい経った? 終わったならすぐに行かなきゃあ行けないというのに。


「……兄ちゃん」

「あん? なんだよ」


 隣からネリの声が聞こえた。

 気配は感じていたし、どうせ同じ状態で担ぎ込まれたことは予想できる。

 だから、特に驚くことではない。


「あたし、初めて負けた」

「あ? お前、忘れたか? 八歳の時に俺に水球ぶつけられまくって泣き喚いたの」

「そ、それは……! じゃなくて!」


 何が違うのだ。

 それに俺に何度も負けていたのに、何を言いだす、この妹。


「強くなって! それから! 誰にも負けてなかったのに!」

「ああ、そう」


 それはなんというか……。


「可哀そうに」

「……は?」

「だって負けたことがないって、悲しくない? よかったじゃん。俺に負けて、目標できたじゃん」

「……元から、兄ちゃんしか目標じゃないし」

「まー別にそれでもいいけどさ」


 それは別に俺としても嬉しいけどさ。

 俺に、負けたんだぞ。


「今まで頑張って、負けたんだろ。や、別に俺を目標でも十分だけどさ。もっといろんなところを見ようぜ」

「いろんなところ?」

「ラカトニアは良い国だ。ここにいれば、七大国からいろんな奴が入ってくる。でも、入ってきた奴が全員強くないだろ」

「そりゃそうでしょ」

「じゃあ、強い奴は国に残っているわけだ」

「そりゃ……」


「今まで通りにやって、俺に勝てなかった。なら、また今まで通りやっていて俺に勝てるのか?」

「……」

「お前は、たぶんガリックにも勝てるだろうよ。そしたら、お前はこの国で一番だ。

 その次は? この国の王になって、ふんぞり返るか?」

「そんなのはしないよ」

「なら、また国を変えないとな。ゼノスは前にいたんだから外すとして、ドラゴニアかカラレアあたりが妥当か」

「……そうだね」

「どっちにも俺のツテがある。ガルガドが頼りになりそうになかったら、頼ってこい」


 龍帝も話を通すくらいはできるはずだ。できなくても、サーカラのところに行けばいい。

 ああ、でもその前に一回デトロア王国に帰ろうかな……。

 じいさんに会わせるって言っていたし、まぁついでに学園長にも会わせておこうかな。

 それもこれも、ネリがこの国で一番を取ってからだが。


「お前は、あーでもそうか。バトロワで勝つとお前が王になるのか。

 じゃあ、国奪り合戦の前に残りの二人とやっちまえ。その後、さっさと国出ろ。ガリックから許可出ているんだから」

「……わかった。頑張る」

「おう、頑張れ。俺はそのうちにさらに強くなっておく」

「うー……少しは休めよ」

「悪いが休んだところでお前に追いつかれるほどでもない」


 実際は、魔法の引き出し増やしたり、魔力操作で新しい魔法を生み出したり、案外地味なことなんだがね。

 魔導師って、俺の場合魔導書に書いてある魔導全部使えるので、精進のしようがないというか。

 剣使うから習うにも、グレン相手とかだとあんまり訓練にならないし……。


「とりあえず、俺はまだやることがある」


 俺はベッドから体を起こし、ネリの方を向いて腰掛ける状態になる。

 素晴らしいほどの倦怠感に襲われるが、痛みなんかは一切ないので、動けるには動ける。

 精神と集中を使い過ぎるとこうなるのか……いや、体の酷使だろうな。


「封印を解くんだよね、ヴァトラ神国の」

「おう。そのために集めてきたからな」


 立ち上がり、大きく伸びをする。

 サイドテーブルに置かれていた仮面を手に持つが、今はつけなくていいだろう。

 さて、グレンたちを集めて、さっさとヴァトラ神国に向かうとしよう。


「頑張ってね。あたしは、そのうちにガリックを倒すよ」

「わかった。お前も頑張れ」


 ネリは起き上がる様子はない。俺よりも外傷がひどかったし、まだ起きられないのだろう。


「ばいばい。また」

「ああ、じゃあな」


 軽く手を振り合い、俺はその場を後にした。



☆☆☆



 部屋を出ると、ちょうどレイシーとかち合った。


「あ、起きられたのですか」

「おー。グレンたちは?」

「向こうにいます」

「わかった」


 レイシーが指差した方へ向かう。

 たぶん道場の方だ。ここも居住スペースだろうし。


「どれくらい寝てた?」

「一日半ですね。ネリ様はどうでしたか?」

「あいつも起きた。けど、まだ体力がないんじゃないか?」

「なるほど。ネロ様よりも外傷は多かったですものね」


 そうだな。

 でも、ちょっとやり過ぎただろうか……いや、そんなことはないな。あれくらいやらないと、俺も負けそうだし。

 さて、これでヴァトラ神国に行ける。

 魔天牢を解くには……まぁ、純色神たちの搾りかすである精霊がわかるだろう。


 道場への扉を開く。そこでは、グレンたちが待っていた。

 床に座布団を敷いて、座り込んで話しているようだ。まぁ、確かに机とかは似合わないよな。


「あ、ネロ。もう大丈夫なの?」

「問題ない」


 リリーに答えながら、皆が集まっているところまで行く。


「すぐに出発したいんだけど、いいか?」

「休まなくていいのですか?」

「俺は構わない。で、アルマ姉もきてもらうけど」

「わかってるよ。あたしもすぐに行ける」


 よし、じゃあすぐに行こうか。

 とりあえず移動手段をどうするかな。

 船は……ドレイクを呼ぶ暇があるなら、竜車あたりを捕まえた方がいいか。

 竜車でどこまで行けるか……大陸が違うからな。そう距離は離れていないから、もしかしたら暗黒大陸までいけるかもしれない。


「んー、と。まずはカラレア神国だな。連絡は取るし、たぶん迎えくらいは寄越してくれる。そのまま転移魔法陣に乗ってヴァトラ神国に入る」

「王城まではどうするのだ?」

「そっちも連絡を付ける。たぶん馬車を用意される。他国の者だから、国の様子は見せてくれないよ」


 馬車に詰め込まれて直行だな。

 窓からの風景は、俺は寝ていたせいで見えなかったが。まぁ、転移した先で見た景色だけでも十分把握できそうなくらいのものだ。


「なんにせよ、足がいる。さっさと拾いに行こう」


 そういうと、座っていた皆が立ち上がってくれる。

 龍帝は行きの竜車だけだからな……自力で拾うとしても、金がかなりかかりそうだ。


「ネリはもう大丈夫なの?」

「起きたからもう大丈夫でしょ。あいつ、昔からそう寝込んだことないですし」


 フレイヤが傷は治してくれている。後は体力さえ戻れば、いつも通りのネリになる。


「じゃあ、ガルガド。引き続きネリを頼むな」

「まぁ、ここまで来たら最後まで付き合うさ。その代わり、お前にはアルマを頼むぞ」

「うはは。いきなり父親アピールすんなきめぇ」


 ガルガドにアイアンクローされた。

 ぐぉぉぉ……めっちゃ痛ぇ……。


「……ま、お前のことだから、心配はしねえけど」

「だったら言うなよ。お前、人を助けに行くのに、人を殺すと思ってんのかよ」

「ああ、そいつは悪かった」


 ガルガドが手を離してくれる。

 まったく、手を出すのが早いんだよ、まったくもう。


 道場から外に出る。ガルガドもそこまで見送りでついてきた。


「じゃあな。今度はネリに勝たせる」

「期待しといてやる」


 ガルガドが差し出した手を叩き、軽く手を振る。


「手厳しいな」

「ネリのことがあるから、生かしているだけだ。忘れんな」


 お前が、俺の家族を殺したのだろう?


「……」

「今度会う時に丸刈りにしてたら許してやろう」

「考えとく」


 ガルガドが苦笑いを浮かべた。

 そうして、俺たちはラカトニアを後にした。

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