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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
魔導書編 集める魔導師
133/192

第三十二話 「黄の魔導師」

 犯罪組織としてはまだ良心的なブレイズを取り込むことに成功し、その事務所から表通りまで戻ってきた。

 さて、犯罪組織の撲滅に関してはこれでいいだろう。

 あとは害悪な犯罪組織を一つずつ潰していけば、そのうち数は減る。


「じゃあ、あたしはオッサンに報告してくるね」

「お前のオッサンは数が多すぎて誰だかわかんねえよ」


 ガルガドもオッサンといっていたし、たぶん指南した相手も全員オッサンの括りなんじゃないかな。

 せめて誰おじさんなのか言ってほしい。


「えーと、ガルガドのオッサンとガリックのオッサン」

「両方か……。ガルガドは俺もついていくよ」


 まだいろいろと聞きたいことがある。

 それに、もしかしたらあのオッサンでも魔導師の素質があるかもしれない。

 リリーにもいろいろと説明しなければならないことが多いし……。


「で、あいつらどこにいるんだっけ?」

「道場のはず。十傑には道場が与えられるから、何もない時はそこにいるはず」

「はぁ? じゃあ、お前も持ってんの?」


 つーか教えられるの?

 まぁ、剣士は感覚派が多いのかもしれないし、教えるというか見習いとかなら出来そうか。


「ううん。アルマ姉とあたしで一つの道場にしてもらった。オッサンは十傑に入ってない」

「なるほど。繁盛しそうだな」


 剣舞唯一の女性だし、その上十傑二人ともなればな。

 それにどちらも女性だし。男とか多そう。ネリは……身内補正が入っているから正確じゃないかもしれないが、一応美人だし、アルマも同じだ。

 これで群がらない方がおかしい。


「最近は男の入門者は減ったよ。アルマ姉の策でね」

「あ? 入門条件にお前から一本とか?」

「うん」

「そりゃ無理だ」


 こいつから一本とか、俺でも難しいのに。

 初心者というか、下心しかない奴に、一本とれるわけがない。


「でも、試合したりしなかったりだよ。全部アルマ姉が決めてるけど」

「……すごく感謝しないと」


 ここまでお世話になるとは……もうちょっと自立して欲しい。

 なんで双子なのにこうも違うのか。俺が転生者だからかそうかそうか。

 でももう二十歳なんだよ……もうちょっと自分で考えようよ……。


「兄ちゃん、お前の将来がちょっと……いや、かなり心配……」

「大丈夫! 兄ちゃんがいてくれるから!」

「ああ、うん。頼りにしてくれるのは嬉しいけどね?」


 頼り切られても困るんですけど。

 ため息を吐きながら、その道場へと歩を進めた。



 ネリとアルマのものだという道場に入ると、木剣を打ち合う音が響いていた。

 訓練でもしているのだろうかと稽古場の方を見てみると、なぜかグレンが木剣を持ってガルガドと打ち合っていた。


「……何してんの?」


 グレン、お前昔はもっと他種族に敵対意識とか持っていただろうに。

 いいことだけどね。悪いことでは全然ないんだけどね。


 他に、フレイヤたちも二人の試合を壁の近くで眺めていた。

 皆ここにいるようだ。


「あ? いや、こいつが戦えとか言ってくるからよ。相手してた」

「クソ! なぜ一本がとれんのだ!」


 そりゃ、お前の太刀筋が綺麗すぎるからだよ。

 ガルガドがグレンの太刀筋を見切って躱し、その隙に木剣を叩き込んでいったん休止となる。

 グレンはよほど悔しいのか、木剣を握り締めたまま荒く呼吸している。


「もっと極神流を習えば、可能性は出るかもな」

「極神流は好かん!」

「だったら王級くらいにならねえと、そのオッサンからは一本とれねえよ」


 グレンが現在どれくらいなのか、正確にはわからないけど。


「ほう、お前も見る目が出て来たな」

「俺なら五分で一本とれる」

「言うじゃねえか……」


 そりゃ、言うだけならタダだしね。

 まぁ、実際やれって言われると微妙だな。魔導ありなら確実に一本とれるが、なしだと五分は怪しい。

 取れるには取れるだろうけど。


「やるか?」

「やんねえ。とりあえず事後報告だ。

 ブレイズを手懐けた。これから犯罪組織を撲滅した際には、ブレイズに話を通せ。じゃないと残党が湧き上がる」

「……いつも思うが、貴様はどこでそんな知識を得てくる?」


 グレンに訊かれるが、説明しにくいので無視する。


「で、ネリがガリックに報告に行くっていうから、ガルガドも行くんだろ? つーか行け」

「過保護かよ……いや、行くが」


 過保護じゃない。誰かいないとマジで話ができそうにないから。

 そしてまた厄介事を抱えてきそうだから。


「お前はどうすんだ?」

「あー……たぶんここで適当に過ごさせてもらう。お前にも訊きたいことがあるし」


 主にネリのこととか。

 あ、ガルガドが行く前に黄の魔導書の選定者を調べるか。

 俺はリュックから黄の魔導書を取り出す。


「それは……魔導書か?」

「魔導師がいないんでね。もしかすれば、お前がなってくれるかなって」

「はぁ?」


 ガルガドが馬鹿にしたような声を出す。うぜぇ。

 だが、黄の魔導書は勝手に浮かび上がると、選定されていない者の前に移動する。


 まずはネリ、その次にレイシーへと向かい、ガルガドの前で一瞬止まり、やがてアルマの前で止まった。


「あら」

「そっち行ったか……」

「取っていいのかしら?」

「えっと」


 どうしようか……ていうか、選択肢はほぼないんだけど。

 ガルガドに行くか、もしくはいないと思っていたから、ちょっと予想外だ。


「アルマさんには――」

「アルマ姉だよ」

「……。アルマさ」

「アルマ姉だよ!」

「ちょっと黙れ」

「ぐえぇぇ……!」


 ネリにアイアンクローをする。

 何その姉押し。俺がミネルバをそう呼ばせたことを根に持ってんの? いや、俺は別に強制していないはずだ。


「あたしはどう呼ばれても構わないよ」

「……では、アルマ姉」


 アルマがいいなら、俺も構わないけどさ。

 姉さん好きだから別にいいけどさ。


「黄の魔導師になってもらうと、この後について来てほしいところがあるんです」

「あら、ヴァトラ神国かしら?」

「ええ。魔晶を解くのに、魔導書が必要だと言われていますので」


 特に、黒と白以外の魔導書は必須だろう。黒神と白神を封印した魔晶を、残りの五神で解いたと言っていたのだし。


「そのために、俺は集めて回っているので、もし魔導師になってから逃げるようなことすれば、容赦しませんので」

「アルマ姉はそんなことしないよ!」

「それだけ俺も本気だってことだ」


 ネリにこれだけ付き合ってくれているのだから、そんなことをするような人ではないのはわかっているつもりだ。

 だけど、俺だってそのためにこの四年間、必死になってやってきたのだから。

 今更諦めるようなことは絶対にしない。


「うん、わかった。ついて行かせてもらうよ」

「お願いします。すぐに済むと思いますので」


 そう長くはかからないはずだ。

 アルマが黄の魔導書に触れると、魔導書が強く光を放つ。

 そしてアルマの髪や目の色が黄色へ……元が金だからあんまり変化がないな……。

 しかし、アルマは既に感情を溢れさせていたのか。黄は確か……楽しさ、だっけ。まぁ、人生楽しんではいそうだな。

 ネリで苦労してそうなものだが……。


 黄の魔導師に選定されたアルマを眺めていると、グレンに肩を引かれ、耳打ちされる。


「ネロ、貴様の計画は話さないのか?」

「まだ早い。それに、ヴァトラ神国の後までついて来てくれるかわからないし」


 魔晶を解いた後まで連れ回すことはできないだろう。


「それに、魔導師は揃っている方がより良いってだけで、たぶん四、五人いれば十分回るはずだ」

「……まぁ、貴様が言うならいいが」


 グレンは大人しく退いてくれる。

 確かに俺の計画では魔導師全員がいてくれた方がいい。だが、それも相当難しい。

 白の魔導師のフレイヤは王女だし、ユカリだって魔導師としての戦力でまだ数えられそうもないし。


「で、ネリ。ガリックに報告に行くんだよな?」

「うん。行くよ」

「勝負はいつになりそう?」

「えー……」

「コロシアムを借りる」


 ネリが答えあぐねていると、ガルガドが口を挟んできた。

 つーかコロシアム? 随分とでかいところを借りるな。


「金がかかるんじゃないのか?」

「いや、ネリが出るなら集客ができる。逆に儲かる」

「えげつねぇ……」

「そこで相談がある」

「なんだ?」


 相談っていうよりも商談?

 まぁ、別に無茶な話でもなければいいけど。


「三本勝負にしねえか?」

「はぁ? お前もやんのか?」

「いいや。リリー、アルマ、ネリの三人だ。リリーからは許可を取っている」


 リリーの方へ顔を向けると、頷かれる。


「で、お前の方も三人いるなら、三本勝負にしねえか?」

「あー……まぁ、いいけど。

 なら、こっちはミー姉とグレンと俺か。組み合わせもそれでいいだろ」


 剣で戦えそうなのって、この三人なんだよな。

 フレイヤとユカリは剣士じゃないし。

 確認のために、二人に顔を向ける。


「あたしは構わないけど」


 ミネルバは二つ返事で了解してくれた。

 さて、後はグレンだけど……嫌そうな顔しているなぁ。


「グレンは?」

「面白そうですね。わたくしはいいと思いますが?」

「……わかりました。出ましょう」


 結局、フレイヤの後押しでグレンも了解した。


「日程は?」

「少なくとも一週間は先だろうな。コロシアムも一番でかいところが必要だろうし、広告なんかもするだろうしな」

「わかった。それまでに、こいつ鍛えるわ」


 グレンを親指で指す。

 ガルガドから一本も取れないようでは、アルマにも勝てるかわからない。

 リリーとミネルバは、どちらが強いかと言われると微妙なところ。グレンとアルマでは、たぶんアルマの方が今はまだ強いんじゃないかな。闘気が使える分。


「貴様に教わることなどない」

「バカいうな。闘気が使えるようになるぞ」

「……貴様も使えんではないか」

「だけど魔力の流れはわかった」


 試験官の闘気を使う様子を見ていたので、十分わかっている。

 俺は身体強化の方が慣れているから、闘気を使うつもりはないが。

 グレンはどちらかというと、魔導師よりも騎士だからな。闘気の方が使い勝手がいいはずだ。


「身体強化なんて細かい魔力の流れができるのなら、別に闘気を覚える必要はないと思うが?」

「……チッ」


 あからさまに舌打ちするなよ……。


「わかった。貴様に習おう」

「それでいい」


 グレンの剣の型は既に出来上がっているので、いじくるよりは相手とのアドバンテージを埋めるようにした方がいいだろう。

 どちらも魔導師だし、一応対等なところまでは持っていこう。


「じゃあ、オレはネリとガリックのところに行ってくる」

「行ってくるね」

「おー、行ってらっしゃい」


 軽く手を振って見送る。

 ネリとガルガドがいなくなり、一息吐こうとしたところで。


「ネロ、ちょっといい?」

「な、何かな、リリー?」

「聞きたいことがたくさんあるんだけど?」

「聞かれたくないことがたくさんあるんだけど?」


 声が低くて怖いんですけど。あと笑顔なのが。

 リリーは俺の肩に腕を回しながら、逃がさないようにとしてくる。

 いや、腕が気道を塞ごうとしているな。殺意がある。怖い。


「ほ、ほら、俺はグレンを教えるっていう用事が」

「俺は後回しでも構わんぞ」

「ふざけんな!」

「ネロ様も諦めてください。いつまでも話さないわけにはいきませんよ」

「その通りだけど、もうちょっと落ち着いてからにして欲しい!」


 リリーの拘束から逃れようとしてみるが、全然うまくいかない。

 ていうか、暴れると締め上げが強くなる。


「じゃあ、ちょっと借りてくねー」


 ずるずると引きずられ、道場の奥の方へ連れて行かれる。

 俺はもう抵抗をやめ、ため息をつく。


「あー、グレン。闘気だけど、闘争本能全開で集中しといて」

「……意味が解らん」

「がんばって」


 俺もちゃんと教えたいけど、お前もこの状況を作った一人なんだぞ。

 グレンがわからないなりに木剣を握り、適当に構えながら集中している姿を見て、奥の方へと連行された。



 道場から扉で隔てられた奥側は、廊下があり両脇に部屋がいくつかある居住スペースになっていた。

 やべぇな、ラカトニア。十傑に入りさえすれば安泰じゃねえか。

 まぁ、十傑に入り続けることも難しいんだろうけど。


 そのうちの一つの部屋に押し込まれる。リリーの部屋だろう。

 内装はそんなに派手ではない。家具といえば机と本棚とソファとベッドくらいだ。


 俺はベッドへと放り投げられる。手心だろうか。

 何発か殴られる覚悟でもしようかと思っていると、同じようにベッドに乗ってきたリリーにいきなりキスされた。

 ……は?


「ちょ、おま!」


 いきなりすぎて、リリーの肩を掴んで引き剥がす。


「え、なに?」

「なにじゃねえよ! いきなり何すんだ!」

「だって、ネロは子作りができないだけで、他のことはできるでしょ?」

「いや、確かにそうだけどな? 俺が、前に言ったこと」

「忘れた! それさえしなければ大丈夫だって!」

「ざけんな! ――あ、コラ! ちょ……っ!」



「お前マジでふざけんな……」


 俺は腕出顔を覆いながら、荒く呼吸をしていた。

 ベッドの上で、一体何時間が過ぎた……? 今から皆の前に行くのが怖い。

 本当に子作り以外のことをされてしまった。……乗った俺も悪かったけど。


「マフラーがとれない……」


 よかった、マフラー常備にしておいて。

 いきなり装備が増えれば、誰でも怪しむだろう。特にこういうことの後は。

 あとローブも。長袖でよかった。


「あー、たのしかった」


 リリーはというと、脱いだ服を着直している。肌のツヤが若干増したような気がする。

 俺もはだけた服を直しながら、深く呼吸をする。


「一体お前は何がしたいんだよ……」

「ネロってさ、大事なことはいつも言ってくれないよね」

「ああ?」


 何を言いだすのだ、こいつは。

 大事なことは言っている気がするが。言っていないのは、まだ言う必要がないからだろう。


「あたしはネロが好きだよ。愛してる。たとえ犯罪者でも」

「それはそれで怖い……」

「でも、ネロが理由もなく犯罪しないって信じてるから」

「あー、はいはい。ありがとー」

「ちゃんと聞いて」


 吐息しながら、リリーの方へ向く。

 リリーは少し怒った表情をしている。


「ネロが何か考えているのはわかる。でも、いつか教えてくれるなら、無理に訊こうとは思わない。

 ネロの方が頭はいいから、そうした方がいいのかなって納得できる。

 だから、ちゃんと知ってて。あたしはネロを信じてるって」

「……そんなの、ちゃんと知ってるよ」


 信じてくれていないと、俺が困る。


「俺が何も言わないのは、俺もお前を信じているからだ。

 リリーも、ちゃんと知っといてよ」

「……うん!」


 リリーの威勢のいい返事に、苦笑が漏れた。

 俺はベッドから立ち上がり、道場の方へ戻ろうとする。


 部屋の扉を開くと、そこにはユカリの目を塞いだレイシーがいた。


「あ、パパ出てきたー?」

「出てきましたね。もう大丈夫ですよ」

「わーい!」


 手を離されたユカリが俺へと突っ込んできて、そのまま後ろに倒れる。

 ちょうど頭でも打って、気絶しないかなー……。



☆☆☆



「なぁネロ。そのマフラー取ってみてくれよ」

「ふざけんなぶっ殺すぞ」


 運よく気絶なんてすることもなく、道場の方へ戻ってくると、ネリとガルガドがすでに帰ってきていた。

 グレンは今ミネルバと手合せをしている。

 闘気のコツは掴んだらしく、実戦での素早い発動などをしているそうだ。


 その様子を壁際で見ながら、ガルガドにからかわれていた。

 というか、レイシーの話ではあの扉の外にいたのは何も二人だけだったわけでもないらしい。

 グレン以外いたとか。

 マジでふざけんな。


「記憶消去の魔法陣ないかなー……」

「そんなモン売ってるわけねえだろ」

「仕方ない。直接やるか。脳に魔力を流すから、下手すると殺しちゃうかもしれないが」

「ハッハッハ。面白い冗談だな」

「え?」


 ガルガドの頭に手を伸ばして鷲掴みする。

 ガルガドが引きつった笑みを浮かべてくれる。


「お、おいおい。冗談は笑える程度に……」

「大丈夫。記憶が消えれば笑いものだし、もしうっかり死んでも笑いものだ」

「オレが笑えねえ!」


 お前が笑う必要など微塵もないと思うのだが。


「おいネロ! ちゃんと見ているのか? 貴様が俺の戦闘を見ると言ったのだぞ」

「ちゃんと見てるよ」


 ガルガドから手を離し、グレンの方へ向き直る。

 ミネルバに一本取られた後なのか、グレンはこちらを向いて怒鳴っている。

 今までのグレンの動きを思い返しながら、助言を考える。


「なぁ、グレン。どれくらい意識して動いている?」

「意識していては対応に遅れる」

「今は試合だ。ぶちのめされろ」

「……」

「いいか? どんなものでも、運動神経が良ければある程度のことはこなせるんだ」


 野球部の連中とかに、異様にサッカーが上手い奴がいたりするように。


「だけど、できるのはある程度だ。それは才能であって、何も意識せずにできるのはある程度で打ち止めだ」

「つまり、何だ?」

「上手くなるには意識しなきゃいけないんだよ。

 手の動き、腕の動き、足の動き、体の動き、目の動き、相手の動き。

 全部見て、どう動いているのか考えて、意識して改良して、そうやって上手くなる」

「……」

「腕に力を込めすぎると、逆に動きが遅くなったりするだろ? だから、相手に当たる直前まで力を抜いて、当たる瞬間に力を入れて、ていうことを、最初は意識してやらなければならないんだよ」

「まぁ……」

「だから意識しろ。慣れれば必要なくなる。今は練習で本番じゃない。

 相手は人だ。魔物は単調な動きが多いが、人は考えて動く。だから、まずは相手が人であることにも慣れることだな」

「……対人戦は学校でやった」

「バカだなお前。学校の誰が公爵の嫡男相手に本気でやってくれるっていうんだ?」

「…………」

「ミー姉も容赦しなくていいですよ。木剣だから死ぬことはないですし、何かあっても姫様が治してくれますし」

「えっと……うん。わかった」

「じゃ、グレン。もう一回。今度は意識しながらやってみ。まぁ、最初のうちはぶちのめされるだろうけど」

「……チッ」


 だから堂々と舌打ちをするなってのに。


「あ、リリーとアルマ姉、ちょっと来て」


 グレンの稽古中、ほぼ暇だからな。

 二人に覚えてもらうことがあるし、ちょうどいいから今やっておこう。


「何?」

「ちょい手出して」


 寄ってきた二人にそういい、手を取る。


「魔力操作を覚えてもらうから。まぁ、二人はすぐ覚えられると思う」

「魔力操作?」

「ええ。簡単に言えば、魔力で属性魔法とは違う魔法を使えるようになります」

「ネロが魔法を壊すのに使ってた奴?」

「ちょっと違う」


 あれは単純に魔法の命令式を読み解いて構成を破壊するだけのものだ。

 これはもっと応用が効いたものだし、効くものだ。


「やれることはたくさんあるから、無駄にはならないと思う」


 二人の手から自分の魔力を流し込み、ミネルバの時のように滅茶苦茶に動かしまくる。


「気持ち悪っ!」

「我慢しろ。手離すな」


 反射的に手を離そうとしたリリーの手をがっしりと掴み、逃がさない。

 ミネルバもすぐできるようになったので、二人もすぐできるだろう。


「とりあえずコツがわかるまではこのままで」

「教えてくれていいの?」

「構いません。こちら側は皆できるはずですので」


 ユカリだけできないけど。どうせ教えてもできないだろうし。

 そのユカリはレイシーの膝枕でぐっすりだ。何なんだこいつ……。


「兄ちゃん、それあたしにもできる?」

「え、たぶん無理」

「なんで?」

「魔力総量が多くないと、ほぼ無意味なものだから」


 魔導書に選定されるということは、それだけ魔力総量が多いということだ。

 それくらいの量がないと、操作できる量が少なすぎて意味がほとんどない。


「なんだー……」

「こんな小手先なくても、お前は強いだろ」

「まあね。兄ちゃんにも負けないかもよ」

「そうだと嬉しいね」


 かもっていうのがちょっと気になるけど。

 ちゃんと勝てるって言ってくれた方が嬉しいんだけどな。


「じゃ、アルマ姉とリリーさん頑張ってねー。オッサン相手しろ!」

「ああ? ったく面倒くせぇな……」


 アルマが相手にできないからか、ネリはガルガドを相手に手合せを始めた。

 グレンは闘気を、リリーとアルマは魔力操作を習い始め。

 そんな感じで、一日が終わった。

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