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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
魔導書編 集める魔導師
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第十九話 「魔法の授業」

 学園長の家に帰る途中でユカリが目を覚ました。

 寝て元気になったユカリに付き合い、日が暮れだしたころに学園長の家に帰り着いた。


「おや、遅かったね。もっと早く帰ってくるかと思った」

「……ええ、まぁ、王妃に頼まれたってところで帰ろうかとも思いましたが」


 結局、学園長でもじいさんでもどうしようもできないのはわかった。


「それで、どうするのだ?」

「徹底的にぶっ潰す」

「ははははは! 君ならそういうと思ったよ」


 ハッ、どうだか。

 学園長は俺が出ようが出まいが、どちらだって構わないはずだ。

 戦争しょうがしまいが、学園長には関係ないから。


「ならば、そのための仕込みも頼んだのだろう?」

「情報を集めさせるだけです。別に仕込む必要もないですよ」


 どうせ平和ボケした貴族の馬鹿どもを言い負かせばいいだけだろ。

 負けても別に構わない。この国が潰れるだけだ。

 討論会で止められないのならば、奥の手である実力行使も不可能ではない。

 そもそも、討論会で俺と対等に話し合いになるかどうか、そこが疑問だ。


「……。まぁ、情報が集まって、それを叩き込む期間が欲しいので、王妃に掛け合って開催日を少しでも伸ばしてくれるとありがたいです」

「ふむ、まぁ、そのくらいならば可能かな」


 断られても納得はできるが、学園長は頷いてくれた。

 じいさんにも頼みはしたが、学園長なら直々に王妃に伝えられる。開催を伸ばすには、学園長の方が可能性はありそうか。


「グレンたちは?」

「グレン様もフレイヤ様も来ているぞ。私もお腹が減ったよ」

「自分で作ればいいのに。これまではどうしていたんですか?」

「外食ばかりだな」


 金遣いの荒い……。

 いや、余っているなら、楽だからそっちの方が多くなるのもわかるが。

 学園やって儲けでているんだろうかね。相手が貴族や豪商の子供だし、生徒数も少なくないので損にはなっていないだろうが。


 そういや、学園って私立だったっけ……。でも王妃が口出すなら、王立か?

 まぁいいや。俺はもう、生徒じゃないし。


「キルラさんはいるんですか?」

「いや。キルラは師団の寮に帰ったよ」

「んじゃ、いつも通り六人前ですね」


 ノエルがミネルバに、イズモがユカリに。

 あの時と同じように作れば、いいわけか。



☆☆☆



 夕食後。

 ユカリに魔法を教えるため、以前使っていた部屋で、学園の教科書などを引っ張り出した。

 小型の黒板もあったので、学園長に借りてきた。


「……で、なんでお前らもいるの?」


 ユカリの隣に、フレイヤとグレンが並んで座っていた。

 おかしいな。俺はユカリに教えるはずなんだが。


「貴様が来いと言ったのだろう?」

「ああ、うん。確かに言ったな。じゃあ質問を変えよう。なんでそっちにいるの?」


 フレイヤやグレンにもユカリに何か教えさせようと思って呼びはした。

 だが、この二人は教える側として呼んだのであって、教わる側ではないはずだ。


「グレンはいい。良くないけど、まだ許容できる。剣より魔法の方が苦手だもんな。

 けど姫様。お前魔法十分できるだろう?」

「十分できないからこちら側にいるんです。ネロの授業はわかりやすいと評判でしたから」


 どこの評判だよ。

 確かに七組を教えていた時期もあった。だが、自分が教えるのが特段うまいとも思っていない。


 説明が下手な奴の特徴の一つとして、教えることを十分に理解していないことがあげられる。

 つまりは知ったかぶりだな。そのせいで、少し突っ込んだ説明や質問をされると、すぐにわからなくなる。

 その点、俺はノーラに魔法理論を詰め込まれ、エルフの里の学校にも通った。魔法については、十分理解しているつもりだ。

 しかし、教師のように教える訓練をしていない。

 わかりやすいとは思わないのだが。


「……まぁいい。その代わり、情報を寄越せ」

「構わん。が、俺が知り得て、なおかつ秘匿性の低いものになるが」

「わたくしはもともとあまり持っていませんが、それで良いなら」

「いいよ、それで。知らない情報の穴埋め程度でしか思っていないから」


 討論会を額面通りに受け取っているバカどもには、それで十分だし。

 フレイヤに関しては、特に期待していない。何せデトロア王からも期待されていないのだから。まぁ、彼女の性格では仕方ないだろうが。

 それにホドエールでも、公爵などの情報が皆無というわけでもないだろう。まぁ、グレンが知っている程度のものかもしれない可能性は高いが。


「ユカリ、寝るな」

「お、おきてる……よ」

「嘘吐け。涎を拭きなさい」


 二人と話したせいで、寝落ちしかけたユカリを起こす。

 ユカリは袖口で口元の涎を拭きとるが、垂れた涎は教科書をくしゃくしゃにしてしまっている。

 あーあー、俺の教科書が。まぁ、もう使わないし必要ないのだけど。


「ミー姉もごめんね。引っ張り出して」

「構わないよ。部屋にいたって、どうせ暇だし」


 夕食の直後、部屋に戻ったミネルバを誘いに行ったのだが、二つ返事で引き受けてくれた。

 ミネルバもいてくれれば、間違っていれば教えてくれるだろう。


 さて、と。

 気持ちを切り替えるように、一度両手を打ち合わせる。


「んじゃ、とりあえず始めるぞ」


 まずは、魔法理論からいくか。



☆☆☆



 王都に帰還してから、数日が経過した。

 討論会の日時は、大体三日前ほどに発表されるそうだが、まだ発表されていない。討論会に参加する奴らは王都に召集されるので、討論会が終わるまでは王都暮らしだ。


 あまりにも開催が遅かったり、都合が合わなければ、別に不参加でも構わないらしい。

 まぁ、他の貴族に、次は自分が当主だ、と見せ示す程度の場であり、公爵たちの考えを知る場である。


 さて、そんな中俺はというと。

 昨日、ホドエール商会から分厚い紙束が届いた。これがすべて貴族の情報だと思うと、気が滅入る……。調べる家を限定すべきだったか。

 まぁいい。基本的に朝夜は暇しているからな。ユカリの勉強は昼間に行っている。


 そのユカリなのだが……教科書に沿って教えて、ようやく魔法が一つ撃てるようになった。

 これは早い方だろう。俺が初めて魔法を撃ったのは、確か勉強を始めて一か月くらいだったか。


 ……嘘吐いた。ホントは二歳のころに一発放った。

 まぁ、魔力総量は生まれもって決められているので、別に魔力枯渇などで死ぬことはなかったんだが。

 けど、一発だ。家族のいないところで魔法書を適当に読みながら、何となく詠唱してみると発動したってだけだ。


 確かその時は、火魔法を撃ってしまって、小火騒ぎになったんだよな。

 飛び火したのは、運よくキッチンあたりだったので、誰も俺が魔法を撃ったとは思わなかったようだが。……ノーラだけ、俺の方を見ていた気がしなくもない。


 ユカリが魔法を撃てるようになって。

 とりあえず詠唱破棄を覚えさせるため、亜人式の組み立ても教えている。

 人族式の組み立ても命令式が重要視されているので、疎かにはできないが。


 とはいえ……、


「ネロ、亜人式というものは何か違うのですか?」

「だから、命令式が詠唱に組み込まれているんだって」

「組み込まれているからといって、なぜ詠唱破棄が可能になる?」

「詠唱に慣れると魔力の流れがわかるだろ。そこに命令式も加えられているから、必要なくなるんだよ」


 現状はこんな感じだ。

 ユカリに教えているはずが、なぜかフレイヤとグレンがメインになってしまっている気がする。


「亜人式は初めて知るが……あたしのともそんなに違いはないな」

「まぁ、人族式が特殊なだけですから」


 ミネルバはアクトリウム皇国で魔法を習ったのだろうが、詠唱破棄を使えることから亜人式とそう違いはないだろう。

 人族式も知っているので、魔導師としては俺の次に強いだろうな。魔力操作も教えたし。


 ……あ、そういやリリーに魔力操作教えるの忘れたな。

 大丈夫か、な? なんか、自分だけ教えてもらってないとか言ってふてくされそうだ……。


「あ、おいユカリ! 火魔法は使うなっていったろ!」


 ふとユカリの方へ目を向ければ、ユカリの手のひらに小さいが火球ができていた。

 急いで水球をぶつけて消火する。


「えー!?」

「室内では風だけだ」

「ぶー! つまんなーい!」

「今度火を使ったらくすぐるよ。ちゃんとできたら、おやつ上げるから」

「ほんと!?」


 目を輝かせ、今度は風球を作り出すユカリ。

 小さい子は扱いやすくていい。皆これくらい単純だったら生きるのも楽なのに。


「手慣れているな……」

「そうか? イズモもいたし、ネリも結構世話してからかな」

「ネリは確かに手がかかるな……あの子を一人で構ってきたのか?」

「いえ、俺5:兄さん3:姉さん2くらいですかね。兄さんと姉さんが学園入ってからは、大変でしたけど途中からミー姉も付き合ってくれましたし」

「ネロは子育て上手なのです。きっといい夫になりますよ」

「ああ、うん……なれると、いいな……」


 すっごい心が抉られた気がする……。

 まず結婚できるのかよ。結婚すらしてないのに子育て上手とか言われても悲しくなるんだけど。

 せめてリリーは……ラカトニアって、剣士一杯だよな。剣士ってことは、当然体を鍛えているわけで……。

 うわ……リリーに愛想を尽かされたら、立ち直れない……。

 やっぱり一人で行かせない方が良かったか……。


 足から力が抜け、床に両手をつく。


「お、おいどうしたネロ! 本気で落ち込むお前は初めてみるぞ!?」

「まぁ! これはレアです!」

「やめてあげて。聞いた話じゃ、こっちに帰ってから大人たち皆に結婚の話をされたと言っていたんだから」


 学園長にトレイルにじいさん、それにニルバリアもか。

 くそ……あれ? おい待て。学園長結婚してないよな。俺に偉そうに言えないじゃないか。

 ……ダメだ。学園長とは別に結婚の話をしていないな。生き遅れたのだろうか? だとしたら、たぶん地雷だ。俺も学園長も傷つく。


「ま、いっか」


 立ち上がり、吐息一つ。

 何事も切り替えが大事だよな。うん、大丈夫だ。

 結婚できなかったとして、まったくもって無問題。そもそも結婚は人生の墓場ともいうし。

 ならば、別にしなくたっていいじゃないか。


「それにミー姉に言われると嫌味にしか聞こえないし」

「っ、何のことかな?」


 ミネルバに仕返しをしてやると、分かりやすく一瞬身じろいだ。が、さすが盗賊の頭領をしていたというのか、本当に一瞬だった。


「おっと、気付いていないとでも? わかっていますよ?」


 笑みを浮かべ、睨むように見る。

 知っているんだからな、ミネルバがキルラとデキているのは。


「見ていてすごくわかりやすいです」

「くっ……」

「え、え? ミネルバさんは……あっ」


 フレイヤがミネルバの相手に気付いて、手を合わせた。

 早かったな。まぁ、これまでのことを考えれば、相手はそう多くないからな。

 グレンだけは気付いていない……というより、興味なしって感じだな。くそ、この野郎……。


 さて。無駄話はこの辺にしておくか。

 俺は手を一回打ち合わせて気持ちを切り替える。


「よし。じゃあ、今日はとりあえず魔力操作からいくか」

「……立ち直りが早いですね」

「まぁな。いない奴のこと考えても意味ないし」

「いない奴のことを考えて、貴様は絶望したりしていたのか」

「時にはそういうことも必要だろ。

 いいから、詠唱破棄を口で説明してやるよ」


 とはいえ、詠唱破棄は結構感覚的な部分が多い。口で上手く説明できるかはちょっとわからない。


「ふむ。では、お願いしよう。正直、俺にはさっぱりだ」

「俺が感じていることを文字化しただけだから、ちょっと感じ方が違うかもしれないけど」


 そう前置きをしておき、グレンとフレイヤに説明をする。

 ユカリは、後でまた感覚的に教えるからいいだろう。どうせ理解できるとも思えない。

 ユカリのための授業ではあるが、二人にもちゃんと詠唱破棄ができるようになってもらいたいし。


「ノエルには学園の実技テストの際に教えたんだが、お前ら魔力の流れを感じ取るようになって、なんかわかったことないか?」

「そうですね……魔力が同じ動きをしている? と感じる時はあります」

「同じ動き、ね。及第点か。あ、グレンは別に答えを期待していないから、答えられなくてもいいぞ」

「……」


 グレンが睨んでくる。でも反論してこないから、たぶんわからないんだろうな。


「魔力って、魔臓にたまるのは知っているだろ? 魔臓って、腹開いても目に見えないけど、魔法を使う際は微妙にだが、感じられる。そういう部位だ。

 これは、目に見えないから共通かはわからないが、大体下腹部あたり、へその下にある」


 俺もアレイシアに教えてもらったときには、意識すれば何とかわかる程度だったが。

 今ではちゃんとあるのがわかる。


「魔臓は、大きく分けて七つに分割することができる。七つ。つまり、この世界の純色の数に」

「そうなのか?」

「まぁ、分けられると言っても実際には本当に微妙な違いだし、はっきりとした仕切りがあるわけでもない。これは本当に感じることでしかわからないだろうな」


 ミネルバも知らないのか……もしかして、これで詠唱破棄しているのって俺だけかな?

 俺は黒板に、とりあえず魔臓に見立てた円をかき、七つに割る。

 まぁ、魔臓が丸いかどうかは知らないけど。ていうか、感じる限り形なんてない。不定形だ。


「魔臓は、脳が指令を出すと同時に、魔法を放つために魔力を魔力回路に流す。その時、大体決まった部分から出るんだよ

 火魔法ならここ、水魔法ならここ、ってな具合に、決まっている」


 円に書き込みながら教える。


「んで、属性の魔法によって、通る魔力回路も決まっている」

「……そうなのか?」

「個人差があるから、俺とお前の通り道は同じとは限らんがな」


 亜人族の学校では、そういっていた。

 魔力回路の通り道を大雑把でもいいので、覚えてそこに魔力を流せば、大体属性に関しては完成する。


「あー、ユカリが寝落ちした……。今日は終了」

「ええ!? もう少し詳しくお願いします!」

「明日な」


 フレイヤが抗議の声を上げるが、取り合わない。グレンもこちらを見ている気がするが、終了ったら終了なのだ。


 基本ユカリに教えているので、ユカリのやる気がゼロになると大体終わる。

 まぁ、最低でも二時間は教えるつもりなので、それ以前に寝たりすれば起こすが。

 今日はもう三時間くらいやっているので、もういいだろう。あんまりやり過ぎると心が壊れてしまう可能性もある。俺も疲れたし。


 集中が切れて、興味も失せた授業ほどやっている意味などない。と、俺自身が思っているので、せめて俺の授業でくらいは実践させてもらっている。

 とはいえ、まだ日も暮れていない昼だ。

 ユカリを起こすのは、難しくない。


「ユカリ、外行くか?」

「いく!」


 涎を垂らして寝ていたユカリが、勢いよく跳ね起きる。

 椅子から立ち上がると、部屋に置いていた俺の帽子をかぶって、こっちに来る。


「じゃあ、外行ってきますんで」

「ああ、わかった。学園長にはあたしからいっておくよ」


 ミネルバに軽く頭を下げ、腕を引っ張ってくるユカリについて外へ向かった。

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