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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
家族編 小さな魔法師
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トラブルメーカー

 報奨として与えられたのは、デトロア銀貨が大量に入った袋だった。こんくらい謁見の間で渡せよ。

 金貨でないのは、きっと扱いにくいからだろう。


 それを受け取り、ようやく城を出ることができた。

 ニューラとサナは、一応実家であるクロウド家の方へ顔を出すらしい。笑いながら「追い返されるだろうがな」とか言っていた辺り、関係は予想に難くない。


 で、両親から銀貨を少し多めにもらい、俺は魔法学校へ、ネリは騎士学校へと向かった。ナトラとノーラについていてもらえ、との両親からのお達しだ。


 魔法学校と騎士学校は向かい合うように設置されており、近くまでは一緒に向かった。

 そしてネリと別れ、俺は魔法学校の敷地内へと入った。


 魔法学校の門には、クレスリト魔法学園と表札がついていた。

 さて、どうするかな……。


 王国最大の魔法学校であるだけに、敷地面積も広い。闇雲に探したって見つかりそうにないな。ネリなら本能的に探して見つけそうだけど。

 一応、王都に来ることは伝えているらしいが、いつ着くかまではわからないので待ち合わせなどはできないのだ。


 事務室に行くか。寮にいるのかもしれないし、そうならどこの部屋かを聞かなければ。

 俺は魔法学校の入り口へと向かった。


 魔法学校にも制服があるようで、敷地内は同じ服装の人ばかりだ。

 髪の色がばれないよう、俺は帽子を目深にかぶりながら歩く。


 一般人が入ってくるのが珍しいのか、それとも子供だからか、周りの生徒からは必ず一度は見られる。

 だが、それでも話しかけようとする者はおらず、気に留めるだけで終わる。


 さてさて、事務室はどこかなー?


 学校内に入るが、見当たらないな……。

 なら職員室か? というか、その辺にいる生徒に聞けばいいのか。


 だが、うーん……。

 自分から話しかけるのって、かなり勇気がいるよね。俺にはその勇気を絞り出すのに時間がかかってしまう。

 こうなると、話しかけてくれた方がいっそ楽なのだが……。


「君、どうしたの?」


 そう思っていると、誰かが話しかけてくれた。

 そちらの方へ向くと、外で見た制服姿ではない。教師だな。大人の雰囲気が出てる。けど……ちっさい。身長ではないぞ。夢が詰まってないのかな?


 ……あれ? この人、どっかで見たか?

 見覚えがあるわけでもないし、会ったことももちろんない。


 なのに、何か引っ掛かるような……思い出せない。

 仕方ない。今はノーラを探そう。


「あ、えっと。人を探してて……」

「ふむ。誰を探してるの?」


「姉のノーラ・クロウドです」

「ああ、君、ノーラの弟か。誰かに似てると思ったら、彼女だったか」


 その女性は納得したように何度も頷く。

 そして、俺を値踏みするかのように眺める。

一通り眺めると、手に持っていた扇子をバッと広げ、それを水平にして俺へと向けてくる。


「君、うちに入学しない?」

「へ?」


 突然、何を言い出すんだ? この人。


「……ああ、すまない。良い人材がいると、どうしても引き込みたくなるんだ。今はノーラだったね」

「はぁ……。姉さんがどこにいるか、わかりますか?」

「わかるとも。扇子を見てなさい」


 言われた通り、視線をその女性から扇子へと移す。

 すると、その扇子から何かが立体的に映し出された。


 その映し出された映像には、ノーラが映っていた。

 これは……ノーラがいる場所を映しているのか? だとしたら、背景からして……。


「ふむ、どうやらノーラは自分の寮の部屋にいるようだね。場所はわかるかい?」

「いえ……」

「なら、案内してあげる。着いてきなさい」

「はい」


 俺はその女性に着いて、さらに移動を開始した。



☆☆☆



 ノーラのいる部屋までの道中、俺は質問攻めを受けていた。


「ノーラの言っていた通り、君には魔法のセンスがあるね」

「そうですか?」

「ああ。きっと魔導書を見つければ選定されるだろう」


 ……見抜かれた? そんなわけないか。


「そうですかね」

「そうとも。私の、人を見抜く目には定評がある。この学校でも、私が目を付けた生徒は必ず大物になる」

「それはすごいですね」


「信じてないな?」

「……いきなり言われましても」

「ノーラを合格にしたのは私だと言ったら?」

「いい目をしています」


 なんだ本物か。


「……君はもっと疑うことを知った方がいいのでは?」

「家族を疑うことなどしません。それに、僕の魔法技術を育てたのは姉さんですよ」

「ほう。やはり私の目に狂いはなかった。……と、着いたな。ここだ」


 そういうと、その女性は目の前の扉をノックした。

 ……ていうか、ここ女子寮だよな? 男の俺がいていいのか? 子供だからいいのか。


 中から返事がして、すぐに扉が開かれた。

 扉からはノーラが顔を出した。


「あ、学園長。どうしました?」


 学園長!?

 この人、学園長だったのか。いや、そうじゃないと女子寮のノーラの部屋まで一直線にいけないか。……学園長だったとしても無理そうだが。


「君の弟を連れてきた。ほら」

「あら、ネロ! もう来てたの? 疲れてない?」


 ノーラが学園長から俺へと視線を移すと、目を輝かせて抱っこしてきた。


「はい、大丈夫です。お城での用事も済んだので、城下町を回っても良いと言われて。父さんと母さんが兄妹で行動しなさいと」

「ええ、わかったわ。学園長、外出の許可をいただいても?」


「ああ、いいとも。ちょうど休校日だし、ゆっくり遊んでくるといい」

「ありがとうございます」


 学園長はノーラの外出を快諾してくれた。

 ……休校日でも外出の許可がいるのか。


「あ、そうだ。学園長、私の弟はどうですか? 私以上に資質があるでしょう?」


 ニコニコ満面の笑みで、俺を校長の方へ向ける。


「そうだな。まだ粗削りだが、良い環境で育てれば必ず輝く。正直、君以上の資質がまだいるとは思っていなかったのだが、この子の資質は素晴らしいね」

「だって。よかったね、ネロ。学園長、人の資質を見抜くことについてはズバ抜けてるのよ」


「その話ならしたぞ。最初は信じなかったが、私が君の資質を見抜いたというと」

「あ、あー! 姉さん、早くいきましょう! ネリと兄さんが待ってるかもしれません! さあ、早くいきましょう!」


 そんな恥ずかしい話を勝手にするんじゃねえよ!

 露骨に俺が騒ぎ出すが、ノーラは不思議そうな顔を浮かべるだけで特に気に留めている様子はない。

 学園長はというと、扇子を開いて口元にあてている。目からして笑っている。


「ふふ、そうだな。早く行ってあげるといい」

「はい。それでは失礼します」

「ありがとうございました!」


 お礼を忘れずに言い、ノーラに下ろしてもらって寮の外へと向かった。



☆☆☆



 魔法学校の校門前では、既にネリとナトラが待っていた。


 ナトラは校庭で上級生と手合せをしていたのだとか。

 実力があるため、いろんな人から手合せをお願いされていて、休日返上で相手をしないと消化できないとか。

 だが、その手合せよりも俺やネリと城下町を回ることを優先してくれるとは……良い兄である。

 もちろんノーラも、自室で勉強していたらしいし、こちらも良い姉である。


 城下町へと繰り出した俺たちではあるが、ネリの好きなところでいいと言った手前、行き場所がほとんど武器関連となってしまっている。

 その状況に、ノーラが額を抑えて嘆く。


「どうしてもっと女の子らしいところに行かないのかしら……」


 その言葉に、俺とナトラは苦笑しか返せない。

 ホント、ネリってなんであそこまで男勝りなのだろうか……。


 その後もいろいろと巡っていると、ナトラがしきりに時計を確認しだした。

 すると、今度はノーラに耳打ちを始めた。


「ノーラ、ちょっとネリを頼んでいい?」

「どうしたの?」


「鍛冶屋に用があるんだけど、ネリを連れていくと」

「ああ、なるほどね……。わかったわ。何とかしてみる」

「ありがとう」


 ナトラが両手を合わせて謝っている。

 確かに、ネリを鍛冶屋に連れて行くと騒がしくなりそうだけど。


「ネリ、ちょっとこのお店に入りましょ」

「えー、なんでー? ただの服屋さんじゃん。服なんてどれも一緒でしょ」

「いいから」


 ノーラが、嫌がるネリを半ば引っ張る形で近くにあった服屋へと入っていく。

 ……女性用の服しか売ってなさそうだから、俺やナトラはついていけない。


 二人を見送った俺とナトラ。


「ネロはどうする?」

「兄さん、それはネリに悪いですよ」

「はは、そうだね。じゃ、ちょっと行ってくるよ」


 俺の方へ向いて聞いてくるが、さすがにネリを置いて俺が行くわけにはいかないだろう。


 ナトラは駆け足で、工業区の方へと行ってしまった。


 さて、俺はどうしたものかな。

 一人取り残された俺は、特に行くあてもないので本屋でも探そうと足を踏み出す。


 露店などを物色しながら、城下町を散策する。

 トロア村でしか生活をしていなかったからな。この辺りの相場も知っておかないと、将来困りそうだし。


 露店には掘り出し物も多く、その中には魔法書なども混じってはいるが、どれも高価だ。

 価値がわからないので買うなんてことはしないが、さすがに高すぎるだろと思う値段のものも多い。

 歴史書なども売っており、思わず手が出かけたが我慢した。まずは本屋で相場を知らないとな。


 そう思いながら城下町を練り歩いていると、屋台の数が増えてきた。

 ……こっちじゃないのか? 飲食店っぽいし、違いそうだな。

 だがまあ、知らない場所を適当に歩くのも一つの楽しみ方だ。適当に歩いていよう。


「なんで買えないのよ!? 早く出しなさいよ!」


 屋台の立ち並ぶ区画へと入ってきたのだが、その屋台の一つの店先で、なんか少女が店主と口論をしていた。


「だからね、嬢ちゃん。お金が足りないんだよ」

「そんなの後でパパが払うわよ。私は早く食べたいんだけど」


「そういうわけにはいかんよ。こっちだって商売だ。嬢ちゃんみたいな初のお客さんに、いきなりツケにしろと言われてもね」

「……いくら足りないのよ」


「ちょうど銀貨1枚」

「そんなに高いの!?」


 なんとなく眺めているが、どうやらあの少女、すでに銀貨も持ってなさそうだ。

 財布の中とにらめっこしている少女だが、いつまでたっても出さない辺り、銅貨以下しか入ってないのだろう。

 店主も既に相手をするのをやめ、料理を再開しているし。


 ……なんか可哀想だしなぁ。

 俺は自分の財布の中から銀貨一枚を取り出し、その少女に近づく。


「ねぇ、落ちてたよ」


 そういいながら、その少女に銀貨を一枚渡す。

 一度やってみたかったシチュエーションではある。だが、それが異世界ってどうよ……いや、細かいことは気にしちゃいけないな。

 すると、その少女は驚いたような表情をする。店主は呆れたように俺を見ている。店主には見られていたようだ。


「あ、あらそうだったの? ほら、これで売ってちょうだい」

「おい、坊主……」


 呆れたようにつぶやく店主に、俺は苦笑を返しておく。


「はぁ……わかったよ。ほらよ」


 店主はため息を吐きながら、フランクフルトみたいな食べ物を二本少女に渡す。


「一本しか頼んでないんだけど?」

「そっちの坊主にあげてやれ」


「……なんで?」

「はあ? あのなぁ……」

「私が落としたお金を拾ってくれて、なんで私のお金でこんな奴にあげないといけないの?」


 うわぁ……助けなきゃよかった。店主も困惑してるよ。

 いやさ、そりゃちょっとはかっこいいとこを見せたいとか思ったよ? 偽善だったとしても、それは承知だったさ。

 だけど、さあ? ほら、……いや、もういいです。


「別にいいですよ。どっかのお嬢様は食い意地を張った我儘さんだった、ってだけですし」

「……なんですって?」


 俺の嫌味たっぷりな言い方に、その少女が青筋を浮かべて睨んでくる。

 唖然とした表情で店主が見てくる。


 うーん、あの驚き具合、この少女はどっかの令嬢だったか? まあいいか。知らん。


「いえいえ、どうぞお食べください。僕のような庶民が、あなたのような食い意地を張ったお嬢様と一緒にされても困るでしょう。だから、どうぞお食べください。そして将来の体型を想像してください」

「……ふぐっ」


 泣いたっ!?

 必死に堪えているように見えるが、大粒の雫がぽろぽろと頬を伝っている。

 店主も額に手を置いて天を仰ぎ、あーあ、みたいな表情をしているし。


 え? 俺が悪いの? 俺は悪くねぇ!

 ……なんてことは置いておいて。

 やばい。逃げよう。こういう素性の知れない相手を泣かしたときは、逃げるに限る。


「じゃあね! 未来の体型を期待しているよ!」

「ふわあああああああああん!!」


 トドメとばかりに言葉を残すと、ついに声を上げて泣き出してしまった。

 すぐさま俺は一目散に逃げ出すが、その少女がなぜか追いかけてきた。


「ちょ、ついてくんじゃねえよ!」

「許さない! 許さないんだからあああああああああああ!!」


 ああもう! テンパって言葉遣いが素になったじゃねえか!

 ていうか怖い! 全速力のはずなのに、全然振り切れない! 両手に持ったフランクフルトっぽいのを振り回しながら走ってるし!


 曲がり角を多用して少女を撒こうと必死になるも、どうしても撒けない。

 一定距離を保って、その少女が追いかけてくるのだ。


 やがて、何度目かの右折をする。

 路地裏に入っているため、周囲は少し薄暗い。

 ここまでは清掃が行き届いていないのか、少々汚い。ゴミなどを躱しながら走る。


「はうっ!」


 後ろからずしゃあ、という盛大なこける音が聞こえてきた。

 よし、これで逃げ切れる!


「う、うぅ……あああああああああああああああん!!」


 逃げ切れ――


「あああああああああああ!! ああああああああん!!」

「うるッせええええええええ!!」


 少女が泣き止むまで、俺はあやす羽目になってしまった。

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