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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
魔導書編 集める魔導師
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第十五話 「緑の魔導書、蒐集終了」

 エルフの里に到着し、レンビアとはここでお別れだ。

 見送りというか、そんな感じに俺はレンビアの家まで同行していた。


「そういや、ライミーとかってどうしてんの?」

「会っていなかったのか? 特に何かしているわけではないけど、エメロアよりはいい奴だとは思う」

「まぁな。そりゃ、奴隷やってりゃ、極端などっちかになるだろうけど」


 皆に優しくなるか、厳しくなるか。

 ライミーがエルフの里に帰った後に一回会った時には、前者の印象だったし。

 あー、エメロアの姉だっけ。ライミーが領主になってくれれば、もっと良くなると思うな。レンビアは首都に戻るだろうし。


「それと、ニンフの子もいたな」

「いたな、そんな奴も」


 ノエルのお守りの時に、助けたどっかの奴隷だったな。

 詳しいことは全然知らないからな。なんで狙われたのかも、別に気にもしていない。


「モートンはいつも通りだな。学年は三年まで上がって、今年卒業試験だな」

「そんなのあるのか。大変だな」

「一年だったとはいえ、お前だって見ていただろ」

「ああ。バカみたいだった」


 だって卒業試験、筆記なんだもの。魔法って実戦で使えて何ぼじゃないのか。

 筆記で魔法の理解度はわかっても、使えるかどうかまではわかるわけがない。


「そうだけど、何にせよ、まずは理解からだろ」


 理解したからって使えるわけでもないんだよ……。

 まぁ、こいつらがいいのならそれでいいのだろうけど。

 学校自体、ボランティアみたいなものだ。運営側が良いと思っているなら良いのだ。


「あ、そういやドワーフに頼みたいことがあったんだけど」

「頼みたいこと?」

「ちょっと作ってもらいたいものがあってな。設計図もある」


 銃のことだ。

 科学兵器に関する知識がほとんどないこの世界では、少々異質なものだろうけど。

 ドワーフなら、作れないこともないだろう。


 まぁ、火縄銃になるか拳銃になるかはわからないが。

 そうなると火薬とかが必要になってくるのか……火「薬」っていうくらいだから、薬なのか? 薬なら、アルラウネにも頼めそうだが……。

 確か、原料は硝石と木炭と硫黄、だっけか。採掘はドワーフの分野か。

 どこで採れるんだろう……。今度探さないといけないな。


 拳銃にしても、雷管とかが必要なんだっけ?

 その辺は錬金術とかの発展が必要なのかなぁ……。錬金術は成功しなかったようだけど、そのおかげで化学が発展したのも事実だしな。


「あ、ネロ」


 俺が銃についてうんうん唸っていると、誰かに呼ばれた。

 そちらに目を向けると、モートンがいた。


「おう、モートン」

「久しぶりだね」


 モートンがこちらに駆け寄ってくる。

 その腕には何やら、俺には葉っぱとしかわからないものを抱えていた。


「また薬草?」

「うん。コタバの葉だよ」


 タバコか。

 そういや、特に依存性とかないんだよな。形状が明らかにタバコなのに。

 エルフの里を出る際にモートンにもらった奴が無くなってから、これまで一切吸っていないし。

 まぁ、アルラウネの作ったものだから、という可能性もあるんだけど。


「余ったのならあげられるけど」

「いや、遠慮しておくよ。ちょっと、いろいろとあるから」


 苦笑しながら返す。

 別に体に悪いものでもないし、依存性があるわけでもなさそうなので、断つ必要はないんだろうけど。何となく、前世の人がやっていたような、一種の願掛けみたいなものだ。


「そっか。ネロは……帰りかな?」

「そうそう。首都でいろいろ終わった帰りだな」


 エルフの里に来てから、モートンと会っていなかったから、俺がなぜ来たのかも知らないのだろうけど。

 俺がちょっと疲れたようにため息を吐くと、近くのレンビアが苦笑を漏らした。

 モートンはその意味がわからず、俺とレンビアを交互に見る。


「詳しいことは後で訊いてくれると助かる。今、あんまり思い出したくない……」

「そ、そっか。いろいろ大変だったね」

「本当だよ……」


 俺は少し遠い目をする。

 モートンもレンビアも乾いたような笑いを漏らしていた。

 と、少し長話になってしまったのか、いつの間にか俺の周りに人だかりができてしまっている。

 それも、どいつもなんか見覚えがある。学校に行っていたときにいた連中だろう。


「レンビア、こいつ誰だ?」

「ネロだよ。前にいただろ」

「ネロ!? お前、白髪どうしたんだよ。アイデンティティが無くなってるぞ」

「ふざけんな! なんで俺の存在証明が白髪だけなんだよ! 他にももっとあるだろ」


 ほら、えっと……そう、魔法とか!

 魔法って皆使えるよな。あれ、だったら魔法が使える奴が全員俺だと……? なんだそれ滅茶苦茶嫌だな。


「ほかに何があるんだよ」

「うぐっ……! あ、ほら! 乱読家とか!」

「初めて聞いたよ、そんなこと」

「リリーとか!」

「他人に委ねていいのか、お前の存在証明……あとリリーいないし」

「魔法とか!」

「皆使えるだろ」

「……ま、魔導書とか」

「それも初耳だ」

「こいつらに通じる俺のアイデンティティがない!」


 ちなみにこれまで喋ってきた奴に同一人物はいない。どんだけ増えてんだよ。

 レンビアとモートンが一緒にいてくれるからか、なんかどんどん増えている気がするのはきっと気のせいだよな。

 つーか身動きができなくなりつつあるんだが。どけてくれないのかな。


「あ、バルド。ちょっと作ってほしいものがあるんだけど」

「え? 何を?」


 ちょうど集まってきた中で、知っているドワーフがいたので手招きして呼び寄せる。

 俺はリュックから銃の設計図を取り出し、それらを渡す。


「これ、作れる?」

「うーん……時間がかかるかも。こっちの奴は、すぐにできそうだけど」


 そういって示したのは、火縄銃の方だ。まぁ、そりゃそうだろうな。


「ついでに硝石とか木炭とか硫黄もある?」

「ないことはないけど……何に使うんだ? それに、これも見たことない道具だし」

「一つ作るだけでいいから。何に使うかは……知らない方がいいと思う」

「ヤバいものを作らせようとするなよ……まぁ、一応作ってみるけど」


 優しいな。けど何に使うか聞けば、きっと作ってくれないだろうしなぁ。

 俺も人前で使おうなんて思わないから、大丈夫だと信じたい。


「ネロ様、来ていたんですか」

「おう、ライミー」


 呼ばれた方に目を向ければ、ライミーが見えた。

 今来たところなのか、人垣のせいで少し距離がある。ライミーはその人垣を通してもらいながら近づいてきた。

 ライミーについて、もう二人ほど近づいてきているのだが、そのうちの一人がなぜ近づいてきているのか全く分からない。

 俺はすっと手を腰の剣の柄に置く。


「ちょ、何でよ!」

「寄らば斬る!」


 ライミーを盾にして近づいてきていたエメロアが叫んできたので、俺も答えてやった。

 ていうか、自分に対しての行動だってのは理解しているのか。なかなか鋭いじゃないか。

 俺が柄に手を置いたというのに、周りの連中は少し身を引くだけで、散開しようとしない。こいつらには効果無しかよ……。


「そ、そろそろ許してあげては……」

「無理」

「即答しないでくださる!?」


 え、だって普通に即答するだろ、そこは。


「だってお前、別に俺には何もしてないだろ?」

「へ?」

「俺のローブ奪ったのは、取り返したからそこまで恨んじゃいない」

「あ、そ、そうですの……?」

「でも、リリーに謝って、リリーが許すっていうまでは、俺は態度を変えない」

「うぐっ……」


 謝ってないのかよ。最悪だな、こいつ。

 実行犯の二人はどこかで奴隷になっているだろうから、もう巡り会うこともないだろうけど。だから、あの二人はとりあえず保留として。

 主犯のエメロアには、ちゃんと謝らせないと気が済まない。リリーがいらないと言ったとしても。


「わ、わたくしだって危険な目に……!」

「知るかボケ。そのまま奴隷になってりゃよかったんだよアホ。そんな泣き落としが効くかバーカ」

「酷過ぎますわっ!」


 どこがだよ。これでもまだ穏便な方だろうに。

 斬りかかられないだけマシだと思えよ。


「ネロ、そろそろその辺に……」


 モートンに言われたので、大人しく構えを解いて手を柄から離す。

 ほっと一息ついたのは、エメロア一人だ。

 その反応に、周りが笑いを起こした。


「な、何なんですの……?」

「だって、ネロが人前で斬りかかるとかするわけないじゃん」

「エメロア様、怯えすぎだよ」


「んだとテメエ! 前髪ぱっつんにするぞコラ!」

「ほらー。人を斬ろうとしないじゃない」

「人斬ったら死ぬだろうが!」

「その考えがもうおかしいよね……」


 再度柄に置いた手を抜き放ちかけたが、レンビアに抑え込まれる。チッ、ちゃんと前髪だけ切りそろえる自信はあるのに。

 今度からかってきやがったら奈落に落としてやる。


「で、その子は……」


 俺はライミーと一緒に近づいてきたもう一人に目を向ける。

 見た目は人族とそう区別がないように見えるが、背中に薄らと羽が生えているな。成長した証だろうか。


「ニンフのセリーヌです」


 ぺこっと頭を下げてくる。やっぱりニンフか。

 まぁ、そうなるとやっぱり気になるのは手に持っている首飾りかな。

 ノエルに買ってあげて、別れ際にこの子へと渡ったものだ。


「助けてくれたお礼を、改めて言いに……ありがとうございました」

「そう」

「えっと、それで……やっぱり、これは返した方がいいかな、と」


 そういっておずおずと差し出してきたのは、首飾りだ。

 ノエルに返すのが普通なんだけど、今ノエルはいないしなぁ……。

 俺はそれを受け取って、彼女の首にかける。


「え……?」

「それはお姉さんに返してくれるかな。俺のじゃないし。

 お姉さんは、ちょっと今大変なことになってるから、今すぐ会えるわけじゃないけど」


 来年くらいには、会えるといいな。

 そう思いながら、言葉を続ける。


「また、お姉さんと一緒に絶対に来るから、その時に返してくれると嬉しい」

「……はい!」


 威勢よく返事をしてくれた。

 まぁ、ノエルが返されて受け取るかどうかわからないけど。たぶん受け取らないな、俺と一緒で。

 だけど、それを俺から言っても意味が無いし、今はこれで切り抜けるとしよう。


「テメー、リリーがいながらまた誑し込んだのかよ!」

「痛って! 違うわボケ!」


 俺が言い包めに成功すると、後ろから蹴りが放たれていた。

 別に誑し込んでないし! どちらかというと誑し込まれた方だし!


「行く先々で女増やしてんじゃねえよ色魔!」

「んなことするか! それともなんだ、羨ましいのか? 女ができないからって羨ましがってんのか?」

「違う! つーかムカつく!」

「ほらほら羨ましいんだろ! だが今の俺の周りにはいねえんだよボケェ!」

「うっ……なんか、ごめん」

「そんな目すんな泣きたくなるだろ!」

「いや、だって……なぁ?」

「テメエらも頷くな! テンション下げるなバカみたいだろ!」


「実際バカだろ」

「冷静に返されると本当に泣きそうになるからやめてくれるかな、レンビア」

「でもバカだろ」

「いや、確かに否定しないけど。バカかもしれないけど。でも有能だよ?」

「終始助けが必要な奴を有能と言っていいのだろうか?」


「……もうやだレンビア怖い。モートン助けて」

「え!? えっと……き、きっとレンビアは機嫌が悪いんだよ」

「そんな原因あったっけ……あ、リリーに完全にフラれたか」

「うっさい!!」

「この反応は図星だっ!」

「なんでお前らが叫ぶんだよ!?」


 集まった奴らと騒いでいるうちに。

 時間をかけすぎたか、グレンとフレイヤが様子を見に来た。

 それを見て、これ以上騒いでいるわけにはいかない。長く待たせるのはダメだろうし、完全に無駄な騒ぎだし。


「もう散れ! 邪魔! レンビア送って帰るんだから」

「なんだよ、ゆっくりしていかないのか?」

「急ぎの用なんだよ。また今度な」


 何とか集まった人たちを散開させることに成功し、ようやく身動きがしやすくなった。


「悪い、姫様。時間がかかって」

「いえ、構いませんよ。しかし、すごいですね……」


 グレン、フレイヤを加えてレンビアの家へと再度歩き出す。


「何が?」

「ネロが、人に囲まれていました」


 囲まれちゃいけねえのかよ……。

 いや、分かるよ。俺を囲おうなんて思う奴、普通いないもん。


「俺が囲まれていたわけじゃないしな」


 確かに俺は中心にいたかもしれないが、俺だけが中心にいたわけじゃない。

 レンビアがいたし、モートンもいた。

 途中からだがライミーだっていたのだ。

 俺だけを囲んでいるわけではないだろう。


「それはそうですが……」

「お前、変なところで謙虚だよな」

「は? どこが?」

「あ、自覚ないのか。うざい奴だ」


 なんでいきなり暴言吐かれなきゃいけないんだよ。

 レンビアを半目になって睨むが、取り合ってくれるそうもない。


「それにしたって、ネロは人族でしょう? 亜人族とは、一応敵対関係ではないですか?」

「国同士はそうかもしれないけど」


 フレイヤの疑問が、ちょっとわかった。

 つまりは敵国同士の人間が、なんで仲良くやっているのか、ってことだろう。

 しかし、だからって別に疑問に思うことでもなさそうなものだが。


「国は敵同士かもしれないけど、個々人は別に敵じゃないだろ」

「それは……そうですね」

「昨日まで殺し合っていたわけじゃないんだから、いきなり険悪にはならないと思うが」


 敵対意識を持っていないのだから、変に意識する方が疲れる。

 歴史から仲が悪い国同士ってのはわかるが、ユートレア共和国は多民族国家だ。色がぐちゃぐちゃなのだ。

 人の思想を色に例えるなら、ユートレア共和国はパレットにすべての絵の具をぶちまけてかき混ぜた感じじゃないだろうか。エルフやドワーフやジャイアントやアルラウネ、姿形が違う者が多すぎるのだ。

 だから、思想に統一性がない。もともと姿形が違う者がたくさんいるから、そこに一人くらい敵が混じっても意味をなさない。


 それに対して、デトロア王国なんかは、民族が一つしかない。人間らしい、ヒューマン一択。

 だから、色も複雑にならない。赤を基本としたら、朱や紅はあるかもしれないが、青や緑は混ざっていない。混ざれない。

 デトロア王国の民は敵と見るかもしれないが、俺はちょっと異色だからな。


 まぁ、俺を色でたとえるなら、無色だろうかね。

 世界中のどの国も、特に意識をしているわけもないからな。

 思想なんかない。前世の記憶のせいで、あったとしてもこの世界の色にはたとえられないだろう。


 何より、三年間ここに住んでいたし。

 領主の娘と親しいというか命の恩人だし。レンビアとも仲良いし。

 そりゃ、この里の連中だけとはいえ、警戒心も薄まるだろう。


「世界中の人が皆ネロと同じ考えなら、戦争もなくなりそうなものだが……」

「それとこれとは話が別だろうな」


 グレンのつぶやきに、苦笑交じりに返す。

 戦争はなくならない。思想や感情がある限り。


「戦争を失くすのは、より強い脅迫だ」

「それが貴様の答えか?」

「さてね。ただの一般論さ」


 大国に核兵器があって、どちらも牽制し合っている間。

 そこに戦争はなく、戦争がないのであれば平和だ。

 裏で何をやっていようとも、ね。


「お前が言うと、何をしでかすか怖いんだが……」

「おいおい、心外だな。俺はちゃんと考えているんだぜ」


 考えているだけだがな。実行に移すだけの要素がまだまだ足りない。


「見送りはここまでで良いよ。早く帰りたいんだろ?」

「そうだが……まぁ、お前が言うなら」


 まだ少しレンビアの家まで距離があるが、レンビアがいいというならいいだろう。

 それに、国境からは反対方向なので結構離れてしまっているし。


「皆も言っていたけど、次来たときはもっとゆっくりして行け。まだ、話し足りないだろ?」

「そうだな。そうさせてもらうよ」


 リリーもいなかったし。

 俺たちはそこでレンビアと別れ、デトロア王国へと続く森に入った。


 そして、ようやくユートレア共和国の国境を越えた。

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