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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
魔導書編 集める魔導師
102/192

第一話 「イナバ砂漠へ」

 人族の領地、デトロア王国の王都にある、王城。

 その城門前。巨大なそれを、俺は見上げていた。

 城門の上には、門兵が複数人で哨戒を行っており、ネズミ一匹通さないという鋭い眼光をしていた。

 その門兵のうち一人が、城門前でうろつく俺を警戒していた。

 それも仕方ない。俺は今、帽子をかぶって仮面をつけている。不審者にしか映らないだろう。


 俺は城門に背を向け、外に向かって歩き出す。

 左眼の魔眼で確認し、俺を警戒していた門兵が完全に俺を意識から外した、その一瞬の隙を突き。

 振り返り、全速力で駆け抜ける。

 そして門兵に気付かれることなく、閉ざされた城門まで辿り着き、


「【イビルゲート】」


 黒い裂け目に向かって、飛び込んだ。



☆☆☆



 庭園を駆け抜け、城内へと侵入する。

 よくわからん絵画や壺が置かれているが、これって何の意味があるんだろうね。金を現物に変えて保管しているんだろうか。

 廊下を適当に走り抜ける。はてさて、あの二人は一体どこにおられることやら。

 次の角を右へと曲がる。するとそこには赤いマントを羽織った見知った顔が。

 俺は慌ててブレーキを掛け、相手の様子を見る。


「……何だ貴様。賊か?」

「賊っちゃ賊だな。不正に入ってきたし」


 俺の声を聴いたグレンが、腰に差した剣の柄にかけていた手を止め、目を見開いた。


「その声、ネロか……?」

「おう、3年ぶりか? 久しぶりだな、グレン」


 仮面を外しながら、笑みを浮かべてそういう。

 まだ3年しか経っていないというのに、随分と久しぶりに感じるものだな。

 感動とまでいかなくとも、感慨深く思っていると、手を止めたはずのグレンが斬りかかってきた。


「ちょおっ!?」


 それを何とか半身になって回避するが、追撃が来る。

 俺は一目散に、グレンに背を向けて逃げ出す。


「いきなり何しやがる!?」

「うるさい! 貴様のせいでどうなったか、わかっているのか!?」

「ああ!? 俺が何をしたって?」


 いろいろと心当たりがありすぎるが、この国デトロア王国に帰ってからはまだ何もしていなはずだ。

 グレンから必死に逃げ回るが、俺はこの王城内を隈なく調べたわけではない。

 さっさと王女様のいる場所まで行きたいのだが。


「カラレア神国で随分と暴れたそうじゃないか! 人相書がこちらにも来たぞ!」

「あのへったくそな絵で俺だとよくわかったな!」

「わかるわけないだろ! 時期的にお前しかいないんだよ!」


 その通りだけどなんか釈然としない!

 俺の顔を映した録画水晶については、身動きが取れなくなるので広めないように言っている。

 代わりに似顔絵で手を打ったのだが、ひどい出来だった。


「というか、わかんないなら俺だって決めつけんなよ!」

「今さっき自供しただろ!」

「誘導尋問だ! そんなの無効だクソッタレ!」


 それよりも剣を振り上げて追いかけて欲しくない。王城で抜刀していいのかよ。

 くそ、とにかくフレイヤを探さなければ! あいつがいないと、グレンが落ち着かないだろう。


 走りながら魔力操作を行う。探索結界を張り、フレイヤの反応が出るまで広げていく。

 反応が出た。あいつ、この状況を楽しんでやがる。

 舌打ち一つ、俺はフレイヤへ向けて全力疾走する。次の角を曲がり、その先のホールへと向かう。


 後ろから火球が飛んでくるが、すべて回避。

 今グレンに構う必要はない。


 そして、ホールへと出る。


「楽しそうだなぁ、学園長」


 ホールから見える、二階部分。

 そこには、王女であるフレイヤともう一人、クレスリト魔法学園の学園長がいた。

 フレイヤは記憶通りの笑みを浮かべ、学園長は口元を扇子で隠していた。


「元気そうで何よりだ、ネロ。暗黒大陸では随分と楽しげだったではないか」

「徹頭徹尾、そうとは限らんさ」


 後ろから追ってきたグレンが、フレイヤを視界に収めると剣をすぐに納めた。

 俺は階段を上がり、彼女らのもとへと向かう。


「ふむ、何かあったのか? 教えてみな」

「あんたに言っても解決はできそうにないがな」

「まぁまぁ、話の続きはわたくしの部屋でいたしましょう」


 フレイヤにそういわれ、俺たちは場所を移した。



☆☆☆



 フレイヤの部屋は、特に変わったものではなかった。普通の王女様の部屋といった感じだ。

 まぁ、学園長の家で広い部屋やでかいベッドに慣れてしまったせいもあるのだろうけど。

 しかし、天蓋付きのベッドは予想していたが、それ以上に豪華だ。これだけで一財産はありそう。


 俺は部屋の中心に置かれていたソファに座る。

 対面に学園長とフレイヤ、その後ろにグレン。1対3の構図だ。


「さて、まずはお疲れ様、かな? ネロよ」


 学園長がそう口火を切った。


「別に疲れちゃいない。まぁ、何回か死にそうになったし、ひどい傷痕も残ったけどな」


 俺はイズモに刺された腹を見せる。

 そこには、自分でも痛々しいと思う傷痕が残っている。

 回復魔法と再生魔法は違うので、元通りとはいかないのだ。


 腹の傷を見た三人が顔をしかめる。


「名誉の負傷だ、別に悲観するもんじゃねえよ」


 服の裾を戻し、傷を隠す。


「……それで? 暗黒大陸で一体何があった?」

「そうです。ヴァトラ神国とカラレア神国から大体の事情は訊いていますが、詳しく教えて欲しいです」

「国に迷惑をかけているのだから、ちゃんとした理由があるのだろうな」


 三人がそれぞれ訊いてくる。

 とはいえ、きっと聞いている話とそうそう変わりはないとおもうのだが。

 俺の主観が入る分、余計にややこしくなるだろうし。


「まぁ、話すくらいは良いけどよ」


 その結果がどうあれ、俺のやることは一つなのだから。

 魔導書を集める。抵抗されれば、力づくで。



☆☆☆



「――そして、俺は暴君となり、二国の目を俺に向けさせた、というわけだな」


 暗黒大陸で過ごした半年程度を、ダイジェストにしてお送りいたしました。

 あの戦乱をたったの十数分で話し終えるなんて、軽く話し過ぎただろうか。

 とはいえ、こいつら全員が真剣な表情をしてくるせいで早く済ませたくなったのだ。


「勘違いすんなよ、これは俺がやりたくてやったことだ。無理矢理やらされたんじゃない」


 注意しておく。

 暴君だって俺から進んでやったことだったし、魔晶化の罪をかぶったのだってもっとも効率的だったからだ。

 嫌々やったのではない。自ら進んでやったのだ。


「……ネロは、その、悲しくないんですか?」


 フレイヤが、なぜか言いにくそうに聞いてくる。


「悲しい?」

「だってほら、イズモとはいつも一緒にいましたし、ノエルとも仲良かったですし」


 まぁ、確かにイズモは俺の奴隷だったし、ずっと近くにいたな。暗黒大陸でも、それは同じだ。

 ノエルとも、フレイヤよりは仲が良かったとは思うが。


「でも、魔導書集めればいいし?」


 ただ、それだけのことだろう、と。

 俺がフレイヤに問い返すように、小首を傾げながら言うが、三人が呆気にとられたような表情をした。

 グレンまでもがやっていることに腹が立つのはなぜだろうな。


 だが、本当になんで呆気にとられているだろうか。

 変なことを言っただろうか? なんにせよ、魔導書を集めなければ二人は魔晶化したままだし。


「……えっと。そう、ですね。その通りなんですけど」

「君、二人にもう少し何か思うところがないのかね?」

「思うところ? ……寂しいって言えばいいのか? でも、家族が死んでいるんだし、二人はまだ死んでないし……」

「いや、いい。確かに、君の言う通りだ」


 学園長が俺に何を言わせたいのかわからず、彼女から強引に話を切られた。一体なんだったのか。

 まぁ、そんなことよりも本題に入りたいのだが。


「俺はこれから、魔導書集めに行く。学園長には悪いが、学園に戻っている暇はない」

「ああ、それはわかっている。時間制限付きなのは聞いていたからな」


「姫様とグレンは、来るか?」


 俺の本題。

 魔導書集めは、すべての魔導書が必要だ。

 城の魔導書は結局ノエルが持って帰らなかったので、フレイヤが持っているはずだ。


 魔導書を使うには、魔導書に選定された魔導師が必要なのだが、集めろとしか言われていないのでアレイシアが何とかしてくれるのだろう。

 行き詰れば、縛って連れて行けばいいだろうし。


「来ないなら、魔導書を渡せ。嫌なら、奪う」


 真剣な表情で、問う。

 こいつら二人は、どちらも国の重要人物だ。

 第一王女と、その近衛隊長。

 ついて来るというのなら、それなりの面倒事が発生するだろう。


 俺だって力づくで奪うようなことは、できればしたくない。

 魔導師と2対1なのだ、手加減できるわけがない。

 国ごと潰す……とまではいかないが、それでも王都一つくらい潰れるのではないだろうか。


「二人の生命の期限はあと2年弱。隠されても困るから、まずはお前らの魔導書から蒐集したいんだがな」


 あるものから蒐集した方が効率的だろう。

 すぐに返事はできないだろうと思っていると、フレイヤが笑顔を浮かべた。


「行きますよ。お父様の許可は既にとってあります。ついていく条件に、グレンの同行もあります」

「……ずいぶんと準備が良いな」


 あの王様が許可をするとは。

 いや、集めた魔導書をすべて自分の国のものにできるとでも思っているのだろうか。

 それとも、別の思惑か。


 まぁ、いいか。

 今はそんなことを考えなくてもいいだろう。


「話はまとまったようだな」


 フレイヤの返答を知っていただろう学園長が、そう聞いてきた。

 とりあえず三人で、魔導書集めに行く。これでまとまったのなら。


「では、ネロよ。まずはイナバ砂漠へいくことを薦めるよ」

「イナバ砂漠……塔の盗賊狩りですか?」

「そんなところだ。盗賊の頭領が、魔導師だという噂がある」

「なるほど」


 好都合、というわけか。

 イナバ砂漠は王都から西へ数日程度の場所にある。その中心あたりに立つ、中間の休憩地点として作られた塔。

 その天辺に転移型のダンジョンの入り口があり、また盗賊も住み着いている。


「なら、逃げられる前に乗り込もう。すぐに行けるのか?」

「はい。馬車は用意してあります」

「貴様が帰ってくれば、こうなるだろうと思っていたからな」


 まったくその通りなんですけどね。


「学園の方は?」

「実際、貴族の贅沢のようなものだ。別に構わんさ」


 学園長からも承諾済み、と。まぁフレイヤの両親が認めたなら反対は無理そうか。


「それでは参りましょう! わたくし、冒険というものには憧れがあるのです」


 フレイヤが元気よく立ち上がりながら、手を叩く。

 冒険に憧れるのはいいけども、命がけだというのを忘れないで欲しい。

 まぁ、魔導師だから大丈夫だとは思うけど。


「準備はできている。さっさと行くぞ」

「はいはい、と」


 フレイヤとグレンが扉へと向かう。それに遅れないようについていく。

 学園長も見送りのためについてくる。


「ネロ」


 城内の廊下を歩いていると、後ろから学園長に呼び寄せられた。


「ドライバーから伝言がある」

「伝言?」

「ああ。君の探している、海人族の女性だ」


 ミーネのことか。

 ということは、ドライバーのネットワークにようやく引っ掛かったのか。それか、引っ掛かっていたのか。

 魔導書を優先するけど、立ち寄るくらいはできるだろう。


 そう考えていたのだが、ドライバーからの伝言は俺の予想を上回った。


「盗賊の頭領が、海人族の女性だという話だ」

「……は?」

「ユーゼディア大陸に海人族は多くない。全くの別人物かもしれないが、な」


 つまり、ミーネが盗賊の頭領?

 ……信じられない、だろうか。

 俺の記憶を探れば、そのような人物ではないと言える。だが、ミーネは親から逃げてきたと言っていた。

 俺にとっては第二の姉みたいな存在だったが、彼女について知っていることは、今考えれば非常に少ない。


「……まぁ、別に魔導師を殺してまで魔導書を奪おうなんて思っていませんから、大丈夫でしょう」

「そうか。そうだな。君が親しい人物を殺すとは思わない」


 俺も殺したくないよ。

 そうなったら、きっと立ち直れないだろうし。


 城から出ると、馬車がすでに用意されていた。御者台には見知った顔がいた。


「キルラさん」

「や、ネロくん。久しぶりだね」


 学園内トーナメント決勝で戦った、魔法剣士のキルラがいた。

 最後にあったのは……確かクロウド家に行った帰りだっただろうか。


「なんでキルラさんが?」


 キルラは魔術師団に入団する予定だったはずだ。

 学園を2年課程で、俺が入学した際には2年だったから卒業済みのはず。

 魔法剣の使えるキルラにこんな雑用をさせるだろうか。


「一度イナバ砂漠の塔にいっているから、案内役に選ばれたんだよ」

「ってのが建前で、貴族の子たちを守れなかったための嫌がらせ?」

「そんなところ。やっぱりばれちゃうか」


 キルラは苦笑を浮かべる。

 以前にキルラはクラスメイトとダンジョン攻略に行き、その帰りに申請していないイナバ砂漠のダンジョンまで攻略しようとした。

 その際に塔の盗賊たちに捕まって、身包み剥がされたことがある。


「まったく知らない人よりは安心ですけど」

「そう? なら嬉しいんだけど」


 キルラとの会話もそこそこにして、俺たちは馬車に乗り込む。

 フレイヤ、グレンと乗り込んでいき、最後に俺が馬車に足を掛けた。


「ネロ、帰ってきたら……ガラハドについて教えて欲しいね」

「……いいですよ? その時は、学園長が奴隷商で誰を探しているのかも、教えてもらいますけどね」

「食えないやつだな」

「お互い様でしょう」


 俺と学園長は同時に苦笑していた。

 一息ついた学園長は、小さく笑って言った。


「いってらっしゃい、ネロ」

「……いってきます」


「フレイヤ様とグレン様も」

「はい。いってきます」

「いってきます」


「キルラもな」

「はい」


 全員で返事をして、馬車の戸を閉める。

 そして、馬車はゆっくりと走り出した。



☆☆☆



「まずはイナバ砂漠の手前まで馬車で行く。砂地は馬車ではいけないので、そこからは徒歩になるだろう」

「俺とお前は問題ないとして……」


 グレンがイナバ砂漠への行き方について説明をしてくれる。

 イナバ砂漠の手前にあるリヴという町で馬車を預け、そこから徒歩でイナバ砂漠を行く。

 俺とグレンは問題ない。体力に自信はあるし、休憩さえ取っていれば大事はないだろう。


 問題は目の前で、一時間と経たずに寝てしまった王女様だ。

 ……なんで連れてきたんだろう。


「貴様の魔法でどうにかしろ」

「横暴だ……」


 グレンが当然だとでもいうように言ってくる。こいつら連れて来たのは間違いだったかな……。

 俺はため息を吐きながら、窓の外を見る。

 王都から約3時間、今は草原を走っている。

 イナバ砂漠まで馬車で大体三日。そこから塔までは、フレイヤの体力を加味して4,5日だろう。


「塔に盗賊がまだいるってことは、まだダンジョンが残っているんだよな?」

「ああ。攻略はまだされていない。盗賊の討伐ができないせいで、入り口にたどり着けないのだ」

「盗賊がそこまで強いのか……」


 盗賊の頭領が魔導師だという信憑性も、一応あるのか。

 とはいえ、こちらは魔導師三人。フレイヤは戦闘系ではないにしても、2対1なら負けはないだろう。


 白の魔導書は攻撃魔法よりも回復魔法が多いらしいからな。

 光属性ではなく、聖属性なんて専用の属性を与えられていたりもする。

 白の魔導書には転生の魔導もかかれているとも言われている。本当かどうかはわからないし、フレイヤに使えるかどうかもわからない。

 本当にあったとしても、魔力の消費が激しすぎて使えないだろうけど。


「ダンジョンも攻略する気か?」

「どうかな。攻略したいけど、時間がわからない」


 転移型ダンジョンの特徴の一つは、転移と同時に時間軸まで変わってしまうことだ。

 2,3時間のダンジョン滞在で、外に出てみると1か月経っていることもあるのだ。転移型のダンジョンは。

 時間軸がずれ過ぎて、5年や10年経ってもらっては困る。

 現状で言うならば、ダンジョンを攻略するにしても転移型は避けたい。


「……それもそうだな。転移型のダンジョンを攻略したからといって、砂漠が消えるわけでもないだろう」


 周辺の自然環境を変化させて生まれる自然型ダンジョンは、その変化した地域のどこかにいる強力な魔物、いわゆるボスを倒せば元の環境に戻るとされている。

 イナバ砂漠は既に、砂漠地帯でボスを倒したといわれている。それなのに砂漠が消えないのは、別の理由でしかないだろう。

 ダンジョンは未だ謎の部分が多い。何が起こっても、ダンジョンだからで片付けることも可能なのだ。


 この世界は本当に飽きないな。


「そういえば貴様、眼帯はどうした? 目の色も黒に戻っているし」

「ん? ああ、魔眼の新しい使い方で、変色眼ってのがあってさ」


 読んで字の如く、ただ瞳の色を変えるだけというものなのだが。

 俺は左眼に魔力を込めながら、瞳の色を変えてみせる。色は思い浮かべられる種類だけ変更できる。

 すると、グレンが若干首を後ろに引いた。


「きもい……」

「真剣に言うなよ。傷つくだろ……」


 まぁ、確かに瞳の色だけ目まぐるしく変われば、当然の反応だろうけども。



☆☆☆



 王都を出て三日。

 イナバ砂漠の手前にあるリヴという町に到着した。

 ここで砂漠に入るための準備をした後、馬車を預けてさらに4,5日でイナバ砂漠の中間にある塔につく。


 俺たちは馬車を厩舎に預け、四人でリヴの町を歩いている。


「砂漠の行軍ってどうすんだ? ラクダでも使うのか?」

「基本は徒歩だ。この国には基本砂漠がない。そのため、ラクダもいない」

「魔物の調教は?」

「野生の魔物の調教は難しい。それに需要もあまりないのでされていない」


 結局徒歩か。きつそうだな。

 ……どこかで捕らえてくるか。一応、調教の仕方は教わったし。

 まぁ、それをグレンたちに問い詰められれば面倒にしかならないけど。

 時間短縮のためにも乗り物は欲しいところなのだが。


「この後はどうするの? 時間的には、宿に泊まるくらいだと思うんだけど」


 町を適当に散策していると、キルラがそういってきた。

 すでに日は傾いており、空は赤く染まっている。これから砂漠に入っても、すぐに夜になるだろう。

 前の世界と同じならば、夜の砂漠は急激に冷える。無理に今から行く必要もないだろう。


「まぁ、いつ行くにしても環境は最悪なんだろうけど」


 昼は酷暑で、夜は酷寒。

 体験したことはないから、どのくらいになるのかは知らないけど。


「そうだな。では、今日は宿に泊まり、明日の朝一で出るとしよう。フレイヤ様もそれでよろしいですか?」

「はい。構いません」


 フレイヤの了承も取れたので、適当な宿に入る。

 ちなみにうちの財布はグレンである。銀行はフレイヤ。いくらでも出てくるから豪遊ができる。させてくれないけど。


 部屋割りをどうするのかと思ったら、一人一部屋くれた。計四部屋だ。豪遊だろうか。

 フレイヤの警護については、グレンが魔導書の聖域を張るので問題はないらしい。

 聖域というのは、黒の魔導書でいうダークサンクチュアリだ。効果までは一緒か知らない。

 あれ、術者の意識が途切れたら消えるのにどうするのだろうか。……寝ずの番かな。姫様のお守りも大変だ。


 俺は自分にあてがわれた部屋に入ると、大きく息を吐いた。

 馬車で三日だ。魔物との遭遇もなかったので、ほとんど座っていただけ。結構疲れた。

 暗黒大陸では魔物とのエンカウント率が高かったので、馬車から出て体を動かすことは多かった。

 ずっと動いているのも疲れるが、座っているだけというのも疲れる。


 一人部屋なのでそこまで広くない。ベッドと机と椅子が一つずつだ。

 荷物を机の上に置くと、ベッドに横になる。

 部屋の明かりを消し、腕を顔の上へと持っていく。

 細く長い息を吐くと意識が闇に沈んだ。



☆☆☆



 翌日からは砂漠の中に入った。

 砂避けの外套を纏い、焼けつくような暑さの中を行軍した。


 魔物のエンカウント率も、砂漠の中では段違いに多い。ダンジョンの一部だということだけはあるようだ。

 主にワームやリザード系の魔物だ。

 サンドワームの攻撃は面倒臭い。地中から襲ってくるので、常に気を配っていないといけないのだ。


 魔物に加え、フレイヤにも気を配らなければいけない。

 彼女は体力がないのに、無理に俺やグレンに合わせようとするせいで疲れなどを自己申告してこない。

 少なくとも、彼女の体力では砂漠を一時間も歩き続けることは無理だ。

 俺やグレンが休憩すると言わない限り、フレイヤは休憩を取ろうとしない。


 今もまた、フレイヤの顔が俯き気味になり、荒く息を吐いている。

 先ほど休憩を取ってから、まだそれほど時間は経っていないはずなのだが。


「グレン、キルラさん」

「ああ」


 順番としては、前からキルラ、グレン、フレイヤ、俺という順で並んでいる。

 俺の声に、すぐに足を止めてくれる二人。それに伴って、行軍も止まる。


「申し訳ありません……足手まといになってしまって」

「気にするな。姫様が気絶しちゃ、いったん帰る破目になる」


 すでにリヴは見えなくなっている。ここから帰るというのも、それなりに骨だ。

 グレンが荷物の中からシートを取り出し、砂の上に敷く。

 その上にフレイヤが座り込み、俺も座らせてもらう。キルラとグレンはあたりを警戒している。

 気休め程度だが、魔法で日陰を作っておく。


「休憩したかったらちゃんと言え。無理をするな」

「はい……」


 何度も注意はしているが、弱々しい返事だけで実行はしてくれない。

 おかげで余計な気を使うことになっているのだが。


 俺はフレイヤから顔を逸らし、頭を掻く。

 冒険に興味を持つのは構わないのだが、それを実行する体がないことに気付いて欲しい。

 まぁ、砂漠の暑さは俺でもかなりきついのだけど。


「極端に言えば、あの二人が死ぬ前に魔導書が揃えばいいんだ。早く蒐集したいのは、俺のわがままなわけだし」


 魔晶化しているノエルとイズモの命は、アレイシアの言葉を信じれば五年は持つ。

 五年経つ前に、集め終われば構わないのだ。

 それで死ぬことはないのだから。


「……そう、なんですけど」


 返ってくる声は、やはり弱々しい。


「でも、ノエルもイズモも、わたくしにとって大切な人です。だから、早く助けたくて……」

「そのせいで倒れて、遅れたら本末転倒だ」


「……わたくしは、嬉しいんですよ。ネロの手伝いができることや、二人のために動けることが。

 デトロア王国に帰ってから今まで、ほとんど王都から出たことがありませんでしたし、誰かのために動けるのは初めてです。

 二人を助けたい、ネロの手助けをしたい、グレンに迷惑をかけないようになりたい。

 そんなことを想いながら、ここにいるんです」


 フレイヤは、特に恥ずかしがることもなく、そんなことを言う。


「ノエルやイズモとは、当然ですけど三年以上会話をしていないのです。

 女の子同士、話したいこともたくさんあったのですけどね」


 そう力なく笑うフレイヤは、砂漠での疲れとはまた違うものを感じさせる。

 ……まぁ、そりゃそうなんだけど。

 暗黒大陸にいた一年間はよく知らないけど、俺が学園にいたときはノエルとイズモが一番仲の良い奴らだっただろう。

 その二人が、あと二年で死ぬかもしれない。

 フレイヤの王城での対応は空元気だったというわけだ。


 俺はため息を吐きながら、汗でべたつく髪を強引に掻きあげる。

 そして立ち上がり、一人日陰から出る。


「もう行くのですか?」

「いや。お前らはここで休んでいればいいよ」

「どこに行くんだ?」

「足を捕まえに」


 グレンの問いに返しながら、軽く手を振って歩き出す。

 探索結界を張ったので、範囲内の魔物の居場所はすべて割れている。

 早いに越したことはない。それはそうだろう。

 わざと遅くしてまでぎりぎりを狙う必要はないのだし、期限が設けられているなら早い方がいいに決まっている。


 フレイヤは、二人に早く会いたいのだろう。

 グレンは知らない。キルラも、別に任務だからついてきているだけかもしれないし。


 だけど、まぁ。

 うちのパーティで一番位が高いのはフレイヤであって。

 だったら、彼女の言う通りにすればいいだろう。


 お姫様の、仰せのままに。



☆☆☆



「……なんだそれは」

「だから、足」

「…………」


 グレンが頭痛でもするように額を押さえた。


「えーと……ネロくん、もうちょっと説明ないの?」

「そうですね……デザートリザードといって、砂漠地帯に生息する魔物。体長は頭から尻尾の先まで5m、大きいと7,8mもあるそうですよ。尻尾の先端が扇のように広がっているので、日傘代わりにもできます」

「違う、確かに説明なんだけど、僕たちの欲しい説明じゃないんだ」


 キルラまで額を押さえてしまった。

 みんな暑さで頭がイカれてしまったのだろうか。


 俺が足として連れて来たのは、イナバ砂漠に生息する魔物であるデザートリザード。砂漠に生息するでかいトカゲだ。

 ワームでもよかったんだが、あれは見た目がきもいしグロいからやめた。


「わ、すごい、すごいですよグレン! 早く皆さんも乗っていきましょう」

「フレイヤ様! むやみに魔物に乗らないでください!」


 早速デザートリザードの背に乗って大はしゃぎのフレイヤを、グレンが注意する。

 だが、フレイヤは注意を無視して降りようとはしない。


「別に大丈夫だって。なんかあれば殺せばいい」

「そういう問題ではない! 何かが起こってからでは遅いのだ!」

「大丈夫だって。嫌なら乗らなきゃいいんだし」


 俺もデザートリザードの背に乗りながら、そう返す。


 魔物の調教の仕方は教わったからな。これで魔獣を介さずに、その辺の魔物を使役することができる。

 まぁ、デトロア王国にいる魔獣ヨルドメアは一応話の通じる奴だし、魔物の統治の仕方もうまい方だ。

 暗黒大陸ではひどい目にあったからな。それでも、フェニキスの助けがなかったら海の藻屑になっていたんだろうけど。


「乗るなら早くしろよ。夜になったら活動しなくなるんだから、昼のうちに距離を稼がないと」

「……あーもう!」


 何か悩んでいるようだったグレンが、いきなり髪を掻き毟りながら叫んだ。

 一体何なんだ。何が気に食わないのか。

 乗り物は野生の魔物だし、金を払って手に入れたわけではないので乗り捨て可能だ。

 どこに不満があるのか。


「貴様は魔王のつもりか!?」

「うん」

「魔王でもないのに魔物の使役など――魔王なのか!?」

「いや、別になんでもいいけど、乗るなら早く乗れよ。置いて行くぞ」


 グレンが助けを求めるようにキルラへと顔を向けるが、キルラも微妙な笑みを浮かべるだけだ。

 やがて諦めたのか、二人ともが背に乗った。


 全員乗ったので、俺はデザートリザードの頭を軽く叩いて発進させる。

 自分で歩かないでいい分、行軍速度はあがるだろう。それに人よりも砂漠で生きている魔物の方が進みは速いだろうし。

 デザートリザードに尻尾を持ち上げさせ、日陰を作らせる。走っているので、一応風もくる。

 これで幾分かマシになった。フレイヤの望み通り、早く塔につけるだろう。



☆☆☆



 砂漠の夜は冷え込む。

 が、うちには暖炉代わりの赤の魔導師がいるので、そこまで寒いとは感じない。

 夜はグレンが見張りをする。聖域を保つためでもあるようだ。


 砂に敷かれたシートの上で、フレイヤとキルラが寝息を立てていた。

 聖域の外では、昼に捕まえたデザートリザードが丸くなって寝ている。

 俺は眠くないため、所持していた本を読んでいる。


「……寝ないのなら代われ」

「ヤだよ。どうせ眠くなる」


 まぁ、別に極端に少ない睡眠にも慣れたんだけど。

 それに昼もデザートリザードの背に乗っているだけなので、歩く必要はないから寝られる。


 グレンがため息を吐いたのが聞こえた。

 それでも強要してこないところをみると、少しは大人しくなったのだろう。


「そういや、お前、勇者召喚ってどうなったの?」


 訊くのを忘れていた。

 今までいろいろと訊く機会はあったのだが、すっぽりと抜けてしまっていた。

 俺の問いに、グレンは軽く首を傾げながら答えた。


「なんでも、召喚陣が起動しないらしい。何度か試したそうだが、不発で終わっているとのことだ」

「ふぅん。召喚陣と神級魔晶以外にも、条件があるのか」


 どんな条件だろうか。

 勇者というくらいだから、魔王の存在が必要なのだろうか。

 けど、魔王認定のガラハドはまだ生きているし、一応条件としてはあっているはずなのだが。


 他にあるとすれば……世界の危機とかだろうか。

 世界の危機とか、どんなことが起こればいいんだろう。隕石でも近づけばいいのか?


「王さんはなんて?」

「できないのなら仕方ない、だそうだ。まぁ、戦争の準備は進めているようだが」

「勇者がいつ召喚できてもいいように、か」


 戦争する必要性がなさそうなのだが。

 ゼノス帝国とは裏でいろいろとやっていたようだし、ユートレア共和国ともわざわざ開戦する必要はないだろう。

 まぁ、基本この世界の国々は他大陸に不干渉だからな。

 それでも、このデトロア王国はいろんな国に干渉しているせいで目の仇にされているんだけど。


「バカらしいな。戦争するくらいなら、自国の発展でもすればいいのに」


 俺は本から目を離さず、そうつぶやく。

 結局、どんな世界でも戦争はなくならないようだ。


 人がいて、考えが違うなら当然なのだろうけど。

 それに、この世界は種族からして違う。前の世界よりも戦争が起きやすいだろう。

 戦争を防ぐには、やはり抑止力しかないだろう。それも目に見える脅威で。


「貴様なら、戦争を失くそうと思ったら何をする?」


 唐突に、そんなことを聞かれた。


「……何をするったってなぁ。人間一人で何をするっていうんだ」

「何か思いつかないのか?」

「……そうだな。まずは、神にでも祈ろうかな」


 この世界には神がいるんだから。前の世界のように抽象的なものではなく、ちゃんとした純色神っていう神様が。

 まぁ、魔導書に封印されているせいで本来の力はないんだろうけど。


「随分と非現実的な答えだな」

「とても現実的だぜ? 神ってのは、今の世ではイコール魔導師だからな。魔導師全員集めて、国を作る」

「……国を作る?」

「ドラゴニア帝国をも凌ぐ武力をもつ国。それで十分だ。後は、平和的な王様だな」


 魔導師の戦闘力は一国に相当する。それが、一か所に集まったとして。

 この世界に、今なら4人の魔導師が確認されているわけだから、単純に自国よりも4倍の力を持つ国に喧嘩を売るバカはいない。

 ニートがヤーさんに喧嘩売るようなものだろう。そんな自殺行為をする奴がいるわけがない。


 もし7人集まれば、それはもう世界全七か国を相手に立ち回れるわけだ。単純に言えば。

 そうなると、絶対に喧嘩を売られることはない。そして平和的な王様なら、自分から侵略をすることもない。


「そのあと、世界のすべての国と同盟を結ぶ」

「……なぜすべての国と?」


「もし仮に、デトロア王国がゼノス帝国に攻め込んだとする。その場合、ゼノス帝国に味方をしてデトロア王国を叩き潰す。

 逆に今度はゼノス帝国がデトロア王国に攻め込んだとして、その時はデトロア王国に味方をしてゼノス帝国を叩き潰す。

 この繰り返し。まぁ、時には傍観したりも必要かもしれないけど」


 集めた魔導師全員で一国を相手にするのだ。相手の負けは必然、すぐに降伏してくれるだろう。

 どちらが悪いかを、こちらの判断で決めなければいけないのは、ちょっと怖いんだけどな。


「そうすると宣言しておけば、仮に攻めても負けるんだ。わざわざ負ける戦いをする奴はバカだ。国主になりえない」


 国民の反発ですぐに落ちるだろう。


「ま、ただの理想だ。それで戦争がなくなるなんて思わないよ。一時の平和があるだけだ。永遠の平和なんて、存在しない」


 人に心がある限り。

 そこに争いは必ずある。


「……なるほど。貴様は、平和には武力による脅迫が一番だ、と。貴様らしい、悪だな」

「グレン、正義が強いんじゃないんだぜ? 強いからこそ正義なんだよ。

 強いから勝つんじゃなく、勝つから強いように、な?」


 悪は滅ぼされる運命だ。それは前の世界でも変わらないだろう。

 ならば、滅ぼされない悪は何だ? 決まっている、正義だ。

 最後まで残った者こそ、正義なのだから。


「貴様は捻じ曲がっている」

「知ってるよ」


 そんなこと、言われずとも。


 だって俺は、奪われて初めて、それが大切だったんだと気付くような奴だから。

 いなくなって初めて、愛しいと感じるように。

 知った気になって、その実何もわかっちゃいない。


「そろそろ寝る。見張りよろしく」

「わかっている」


 俺は本を閉じ、リュックに突っ込むとそれを枕にして横になる。


 ひどい耳鳴りがする。

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