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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
家族編 小さな魔法師
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世界の裏切りと転生先

 世界は簡単に俺を裏切った。


 特別裕福でもない家庭に、5人兄弟の末っ子として生まれた俺は、兄たちのような才能は一切なかった。

 勉強ができなければ、運動も中の下。教えられた通り、見た通りにやっても、全くうまくいかない。

 それでも、親は末っ子である俺には甘かった。

 ただ、それが兄たちには気に入らないようで、必要以上に罵られてきた。

だけど、これらが俺に対する裏切りというわけではない。


 小学校からバカだののろまだなどと、クラス、いや学年の誰もが罵ってきた中、幼馴染の女の子だけは優しくしてくれていた。

 だけど、それも中学に上がると同時に無くなった。

 どうやら、その女の子は中学校の中でも派手なグループに入り、いじめ対象である俺を庇うのをやめるように言ったらしい。

 そんなことを相談されたが、俺は言うとおりにするように言った。いや、頼んだ。俺のせいで、優しい彼女に標的が移るのも嫌だったからだ。


 俺は中学三年間、いじめ抜かれた。

 昼休みには当然のようにたかられるし、放課後になればサンドバックだ。 その中で衝撃を和らげる術を身につけたといっても、全く自慢にはならないが。

 そんな中でも、俺はこの三年間さえ耐え抜けば、この呪縛から逃れられると信じていた。

 どれだけバカだと罵られようとも、俺は勉強をし続けた。理解できない箇所は無理矢理覚え、解けない箇所は嫌でも兄たちに訊いた。


 そうして、ようやく高校の入試が終わり、俺は喜んだ。

 俺の進学先は、俺をいじめてきたバカどもや、兄たちでは入れないような場所を選んだ。それに、できるだけ高い場所ならばいじめはないと思っていたからだ。

 結果は、補欠ではあったが合格した。そして、入学もできた。なんと幼馴染の女の子も同じ高校に合格していた。


 ようやく、ようやくここから俺の人生は始まるのだと、そう思っていた。


 ……思っていたのに。


 俺はこの世界を信じたのに。


 世界は、いとも簡単に俺を裏切った。


 入学初日、俺はクラスの数人と何とか仲良くなることができ、その日は満足して家へと帰った。

 次の日学校に行ってみれば、周りの目がおかしかった。俺を見る目が、とても厳しいものになっていたのだ。

 俺は意味が分からず、昨日仲良くなったと思っていたクラスメイトに話しかけると、いきなり怒鳴られ、拒絶された。

 その日は頭の中が整理できずに終わってしまい、真相を知ることはできなかった。

 帰り道、幼馴染の女の子が家の前で待っており、今日の皆の様子の変化の原因を教えてくれた。


 その原因とは、俺の過去についてあることないことを書かれたチェーンメールが回っていたのだ。

 差出人は調べなくてもわかる。中学時代、俺をいじめていた奴だろう。

 俺はため息を吐き、彼女にお礼を言って帰ってもらった。心配そうな表情はとても心を抉られた。


 それから一週間、俺は誰とも話すことができずに過ごした。幼馴染の女の子だけは、何かと話してかけてきた。だけど、それらを冷たくあしらい、できるだけ独りで過ごすようにした。


 そして、悪夢は起きた。


 その日、俺はメールの着信音で目が覚めた。

 眠い目を擦り、送られてきたメールを見る。差出人は、あの女の子。

 メールを開き、内容を確認する。そのメールには一枚の写真が添付されているだけで、本文は一切なかった。

 何も疑問を持たず、スクロールしてその写真を見た瞬間、俺の目と頭は一気に覚醒した。


 女の子が身包み剥がされ、数人の男と映っていたのだ。


 冷水をぶちまけられたような感覚がし、全身から汗が噴き出した。

 俺はすぐに着替え、朝食も取らずに家を飛び出した。

 全力で走り、女の子の家へと急いだ。

 彼女の両親は共働きで、朝早くに出勤して夜遅くに帰宅する。

 俺が向かった時も、既に彼女の両親の車はなく、休みの日だというのに仕事に出ていた。


 俺は彼女の家のチャイムを何度も鳴らしたが、出てくる気配はなかった。

 俺は我慢できず、ドアノブに手を掛ける。そして、鍵がかかっていないことに気付き、急いで中に入った。

 彼女の部屋がある二階へと駆け上り、勢いよく部屋のドアを開けた。


 彼女は、――――。


 ……それからはよく覚えていない。

 彼女がどうなったのか、生きていたのか死んでいたのかさえも俺は知らない。


 俺はその日から部屋に立てこもり、一切の外出を断った。

 ネットに入り浸り、ニート生活の始まりだなー、とか能天気にも考えていた。

 だけど、あの日以上の衝撃が俺を襲った。


 それは適当にネットを閲覧していた時のこと。

「弟とその幼馴染の末路」と書かれた掲示板のまとめを見つけ、興味本位で覗いてみた。

 その掲示板のまとめは、やはりというか、そこまで考えるのを拒否していただけなのだが、案の定、俺と彼女についてのことだった。


 別にここまではよかった。何とか激情を押さえつけ、眺めることはできた。

 だけど、それを読み進めていけば、俺は感情を抑えきれなくなった。

 それを読んでいくと、チェーンメールの件も含め、どうも犯人は中学時代のいじめてきた奴らではないようだった。

 そして、その真犯人がわかった時、俺は奇声のような絶叫を発した。


 真犯人は、兄たちだったのだから。


 それからすぐ後、両親が部屋の扉を壊して押し入ってきた。

 それでも俺の絶叫は止まらなかった。

 両親は俺の見ていたサイトに気が付き、その画面を読んだのだろう。二人そろって口元に手を当て、何ともいえない表情をしていた。


 その日の晩、両親は家族会議を開いた。だけど、俺は出席できるような状態ではなかった。

 それでも、かすかに聞こえてくる声だけを聴いて、本当に兄たちがやったのかを確認しようとした。

 そして、兄たちは一切悪びれることもなく、自分たちがやったと、告白した。

 絶叫しそうな自分の喉を押さえつけ、なおも進行していく会議を聞いていた。

 そして両親は、恐るべき決断を行った。


 兄たちを不問としたのだ。


 俺には意味がわからず、遠退いて行く兄たちの喜ぶ声だけを聞いていた。


 意味が分からい。どうして、彼らを許すのだ? 俺が悪いのか? 俺が、何かしたのか?

 兄たちはなぜ、俺を嫌っていた? 一人だけ甘やかしてもらっていたからか? 俺の存在がそんなに気に食わなかったか?

 確かに、俺は兄たちのような才能は無い。努力をしても、結局そこそこ止まりだ。だから兄たちに教えを乞うた。それがいけなかったのか?


 俺が、兄たちに、嫌われていたから、彼女が、穢された?



 ぶち壊れたドアに家具を積み、バリケードを作った。

 ネット通販で、必要なものを買い揃えた。

 高校でもらった物理や化学の教科書を引っ張り出し、穴が開くまで読み込んだ。


 その結果、どうやら俺は古いことを習うよりも、新しいことを生み出す方が得意だということに気が付いた。


 新しい法則を導き、新しい兵器を創り出した。

 ちょっとした偉人感覚が、その時にはあった。

 ニュートンやアインシュタインも、こんな気持ちになったのだろうか。いや、なるわけがないか。

 彼らは純粋に、わからないことを探求し続けたのだから。


 対して俺は、ただただどす黒い感情の赴くままに開発したのだから。


 俺が作り上げた、最新の兵器。未来の兵器といっても過言ではない。


 一辺20㎝程度の箱。


 だけど、これはびっくり箱とかそんなものではない。

 ある意味びっくり箱だが、開いたってその人がびっくりできるような設計はしていない。

 こんな小さな箱だけど。


 都市一つ破壊するだけの威力が詰め込まれている。


 さて、と。

 この箱、どこに置こうかなぁ。

 兄たちの勤務先でもいいな。この家の中だってかまわない。


 だけどまぁ。


 世界は俺を裏切ったわけだし。


 今度は俺が、世界を裏切るとしよう。


 俺はその日、何年ぶりかになる外出を心に決めた。


 気分がいいし、鼻歌交じりにステップ踏んで。


 世界はもう、いらないよ。



☆☆☆



 ゆっくりと目を開ける。近くから赤ちゃんの泣き声が響いてくる。

 ……あれ? なんでまだ生きてんだ?

 俺の最高傑作の兵器は正常に作動した。俺の住んでいた町だけではなく、地方一つ吹っ飛ばすほどの威力のはずだ。生きてるなんてありえない。

 あの爆弾だけで、少なくとも数百万の人が消し飛んだはずだ。俺も例外ではないはずだ。なのに、なぜ、目を開けた?


 しかも、俺の視界に映るのは見たことのない大人の男女二人だ。どうやら俺は、その女性の方に抱かれているようだ。

 だが、俺は既に大人の体格のはずだ。高校は辞めたが、行っていればとっくに卒業している年齢だ。

 なのに、この女性は俺を軽々と持ち上げている。

 ……何、この人。まさかの超マッチョウーマン?


 混乱し、この状況の把握に努めようとしていると、いきなり息苦しくなってきた。

 普通に呼吸しているはずなのに、なぜだ?

 だが、その答えが出るよりも先に、尻を思いっきり叩かれた。


「おぎゃー!!」


 ……おぎゃー?

 なんだ、この泣き声? 俺はちゃんと「痛い」と叫んだはずだが……?

 俺の疑問を余所に、俺の体は空気を求めるように泣き叫ぶ。


 その声を聴き、二人の男女がほっとした表情を浮かべる。

 そして二人で話し合いを始めてしまうが、その言語が聞いたこともないものだった。


 どうやら俺は、転生してしまったらしい。

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