Ⅵ/圧倒的に終わっているパーティー
「やあ、こんばんわ」
イケメンな声とは裏腹な、ものゴツい赤鬼がにゅう、と入り口から角を突き出していた。
「ひっ!」
アレが喉から搾り出すように声をあげた。
初対面でコレは実際刺激が強すぎるだろう。
しかし他の三人があまりにノーリアクションだというのもそれはそれでつまらないものだとベトは思う。
約一名は目も見えていないからあれだが。
鬼は、ものゴツい体格──に見える素ン晴らしい鎧を全身にまとった、重騎兵だった。
「失礼するよ、愛すべき我が臣民の皆さん?」
ズカズカとダイニングの真ん中までやってきて、やたら爽やかな仕草でその厳しくも豪奢なヘルムを、取る。
2メートル近いその体躯から現れたのは、この暗さの中でもなお輝きを失わない白金の長髪。
疎ましいほどの、お上品で高貴な美貌あぁこの描写も二回目だなとベトはややうんざいりした気持ちになる。
その青年、
「やあやあやあやあご機嫌麗しゅう、合流遅れて申し訳ない。いやこれでもボクは王子としてそれなりに忙しい身でしてね、スケジュール通りにこなすことのほんに難しいこと、一度体験してみるとよいぞ。貴族の生活というものは臣民には疎まれがちだが、その実情なぞ――」
「あーハイハイ、わかったからさっさと本題に入れって」
つい、という感じでベトは口を挟んでいた。
それに隣から戦慄と猛烈な非難する視線を感じたが、あえて無視。
他のせんせいとシスターからは特にリアクションを感じなかった。
アレは、わからなかった。
この国の第四位王位継承者たる、ヴィルフォローゼ=ステア=ネビ=トール=アイゼン=ギタラノーレ=オル=ローザガルド――略してヴィルは涼しげに笑い、
「フフっ、すまないね、話が長いというのはよく爺やにも注意されたよ。懐かしいね……そういえばこうして外に出るのも、実は数年ぶりのことなんだよ? なにげにボクも囚われの籠の鳥のような生活を送っていてね、これで少女だったら深窓の令嬢として絵にもなるのだろうけれど、残念ながら王子のボクは流れに流されたこの運命に抗うことも逆らうこともできず……」
長い、桁外れに。
「…………」
既にさっさと本題に入れと指摘してなこれなのだから、さすがは貴族というより王族だった。
自分たちとは根本的に頭の構造が違うらしい、正直相手にしたくないタイプの人間だ。
まあこの場合そうもいえないのが世知辛さ、とりあえず3分弱――心の中で数えて170秒ほど我慢、
「……そういうわけで、フフっ、そういえばすまないね、すっかり話し込んでしまったようだ。一応気を遣おうと普段から考えてはいるのだが、いざ話し始めると心に描いている心像図を少しでも臣民の皆と共有したくてね、そんな自分でも謙虚といえる気持ちが首をもたげると、どうにも――」
「ッるっせぇえええ!!」
爆発、無理だったわりぃなエミルダ。
「あんたこの国の王子様になんて口きいてるのぉぉおおおおおおおお!」
思うや否や、超速でツッコミがキタ。
「っせぇえよぉおババァァアアアこんなん我慢できるかァアアアアこんなん王子でもなんでもねぇぇえええええええ」
「王子でしょうがァァアアア紛うことなくぅぅうううこの、金髪! 碧眼っ! 超絶美形お前今すぐ黙れボサ髪のちょび髭がァァアアアアアアアアアアア!!」
『――――』
最後の言葉に、思わずベトは黙り込む。
だけじゃなく周り全部静まり返ったというかドン引きだった。
さすがにアレだけは、安定のぽかんとした様子でアゴに人差し指を当てていたが。
そして当人が、一番大変なことになっていた。
「あ……いや……い、今のちょっとなし」
「――ハ? いやなにいってんのオバさん無しとか無ぇし、ギャハハハ」
「っ、く……ぎゃ、ギャハハじゃないわよこのバカ! えぇ、と……人殺しが、この、バカっ!」
「なんだよそのえぇっとって? キモっ、そういうのが許されるのはアレだとかの純粋無垢な女の子女の子してる女の子だけだってのうひゃひゃひゃバカか人殺しとかボキャブラリー少ねぇなァ年の功無ぇ!」
「っ、く、あ……あんたこの……バカがッ!!」
「ギャハハハハハッ!!」
『…………』
白熱する中年と、盛り上がるバカだった。
そんな異様なふたりに、周囲は白い目を向ける。
もちろんアレだけは別の話だったが、初参加のヴィルすら呆れ顔だったお前が言うな。
「……あの、ちょっと、いいかな?」
「あ? あーかまわねぇが――」
「よくないわよこのバカッ! あんた散々あたしにかました無礼の数々――!」
「くっ、ハハハ! そ、そのバカやめてくれぇ、もう限界だァアハハハハハっ!」
「っ、くぅ……!!」
「――――」
所在なさげなヴィルはお手上げと肩をすくめる。
それを見たプライヤがぷっ、と顔を背け、オレアンは一応と諌めつつも微妙に口元は歪んでいた。
この場に集まった人間は変態だらけだった。
そしてしばしの時間が流れた。
ヴィルは、少しだけおとなしくなった様子で話を再開する。
「……というわけで、本題に入らせてもらうよ? 早速で申し訳ないが、ボクをキミたちのパーティーに加えてもらえないかな?」
「いやお前早速も糞も散っ々どうしようもねぇ話かましたあとによく……ハ?」
さすがのベトも、言葉を失っていた。
貴族が。
王の息子が。
この国の第四位王位継承者が。
この、汚らしい首切り傭兵と、妄言使いの足不自由と、親に捨てられた盲目と、捻くれ元処女検査ババァという圧倒的に終わっているパーティーに?
「……血迷ってンのか、あんた?」
「気持ちイーくらいに真っ直ぐな物言いだね、キミはっ!」
むしろ清々しく褒められた。
そして更になにか言いかけた王子様だったが、ハッとして口をつぐんでいた。
うん、これが俗世なのだよハハ。
「こ、こほん……とまぁ、確かに並の臣民の頭ではご理解いただきかねる事案ではあるだろうね。ではひとつひとつ、順を追って説明をば――」
「いや、いいや」
ベトは再度始まりそうな長口上を、掌を突きつけて止めた。
それにヴィル、そしてアレは疑問を頭に浮かべ、オレアンはほぉ? と顎に手を当て、エミルダは呆れたようにため息をつき、プライヤはぽやーっとした反応を示す。
ベトは苦笑いを浮かべてそれらを見回し、
「……とまぁ、ここにいるやつらは変なのばっかりだからな。どうせあんた一人増えようが減ろうが、大して変わんねーよ、歓迎するぜ?」
めいっぱい皮肉げに、ベトは笑う。
それにヴィルは爽やかな笑みを浮かべ、握手を求めた。
それをベトは普通に無視した。
これから先どうなるか、まったく悩ましいことだった。




