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聖女アレ・クロア  作者: ひろい
人形 -doll-
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Ⅱ/運命の日

 世界は、少しづつ、滅びに向かっている。


 それはきっと、みんなわかっている事実だった。

 情勢、状況、日々送られてくる情報が、それが確実に近い決定事項だとあらゆる人々に伝えていた。


 なのに、誰もなにも出来ない。


 しない。

 それに疑問を持つことすらない。


 ただ、生きるために生き、死ぬために生きている。

 その営みを、ただ繰り返していた。


 その時代に生きる、誰もかれもが。


 それは、村自身も寸分たがわず、例外に漏れないことだった。


 アレ=クロアには窺い知れないことだったが、村は徐々に外敵の脅威に晒されつつあった。

 少しづつ包囲網を狭まれ、一つづつ軍の拠点は潰され、真綿で絞められるように襲撃の日は近づいていた。


 それでも村人に出来ることは、なにもなかった。

 なんの手段すら、持ち合わせてはいなかった。


 そんな中、アレの祖母は決して変わることはなかった。


 もっといえば、変わらないように見せる術に、長けていた。

 アレに変わりなく接し、変わりない日々を送る、演出する。


 それは長くこの村で暮らし、そして争いの世に慣れた老人の、処世術に近いものだった。


 週に一度だけ外に出て、教会に行き、食べ物を恵んでもらった。


 そのおり、神に祈りを捧げた。

 なにを願って、ではない。


 ただただ、祈りのためだけに祈りをささげた。

 無学な祖母は、何かを願うという発想そのものをすら、持っていなかった。


「……熱心ですね、ヴィレムさん」


 不意にかけられた声に、祖母は振り返った。


 白の生地に鮮やかな赤による装飾がなされた、神父服。


 一歩離れたそこで、神父さまが慈悲の笑顔でこちらを見つめていた。


 祖母は慌てて居住まいを正し、


「いえ、そんな……神の子たる我々の義務のようなものですし……」 


 作られた笑みに、神父は温和な笑みを浮かべる。


「義務ではありません、権利です。それをみんな、なぜかお忘れのようだ。我々は神に、祈ることができるのです。それは神の子たる我々が与えられし最大の幸福であり、権利なのですよ?」


 わかりきっている。


 その言葉を祖母は、口をつぐんで抑えた。

 神父はなおも声を上げ続ける。


 たったひとりしか観客がいない、オペラでもやるかのように。


「しかしその権利を、幸福を行使しようとしない残念な人々が、巷にははびこり過ぎている。だがヴィレムさん、あなたは違う。あなたはこうして毎日その権利を行使し、幸福を享受されておられる。素晴らしい! 感服いたします。まったく、みなそのようになられればこの時代ももっとよくなるというのに……」


 そして芝居がかったように神父は頭を抱える。

 その仕草に、祖母は帰宅したくてたまらない心地になっていた。


 祈るだけで時代がよくなるなら、そんな苦労はない。


 だけどこうして祈りに来ている自分がいることもまた、事実だった。


 そしてそんな自分は決して神父のこんな口上を聞きに来たわけでもないと、理解もしていた。


「しかしヴィレムさんは毎日教会にこられ、本当に熱心に祈られておりますね。いったいなにをそんなに祈っておられるのか、正直興味があるところではありますね」


 そして詮索まで始める始末だ。


 正直さっさと退散しようかと考えた。

 だけどなぜか、気まぐれが働いた。


 なにがきっかけかはわからない。

 しかし祖母はなんとなく、この大仰で好奇心旺盛な神父にことの真相を離してやる気分になった。


「――私はただ、たったひとつのことを願うだけですよ」


「ほう、たったひとつのことですか? それはよほど重要なことなのでしょうね。いったい、どんなこと――」


「あなたはなにか、願いがありますか?」


 唐突な言葉に、神父の猜疑心が一瞬かき消える。


 まさか懺悔を聞く立場の自分が逆に質問を受けるなどと、考えたこともないという顔だった。


「……私の願い、ですかな?」


「そうです、あなたには願いがありますか?」


「そう……ですね。あまり自身の願いなどと大それたことは抜きにして、世の平穏、神の子たちの幸福を念じてきた身なのですが……」


 嘘をつけ。


 反射的に祖母は思っていた。

 そんな御仁が祈りに来ただけの信者にここまで話し込むわけがない。


 結局この男は、ただ暇なだけなのだ。


 しばらく考える素振りを見せたあと神父は、


「……あえて言えば、お金でしょうか?」


 これはまたストレートにきたものだ。


 祖母は感心すらした。

 そこまで真っ正直にこられると、こちらもぐうの音も出ない。


 そう思っていたのだが、


「こういうと俗な響きがするかもしれませんが、そうではありませんよ? いまのこの時代、なにをするにもお金がいるでしょう? 逆にいえばお金がないというのは、手足がないにもひとしい状態とも言えなくはないですか? そういうわけではわたしは必要最低限のお金があればことたりるかな、と」


 その必要最低限の具体的な金額を知りたくもなったが、まぁこの男らしい解答かとも思った。


「それで、ヴィレムさんの祈りとはいったい?」


 相手も答えたのだからというもっともらしい理由をつけて祖母は、


「ただ、たったひとつ……私の可愛いアレ=クロアが、どうか生涯を穏やかに過ごしてくれますようにと――」


 それは、その時だった。

 教会の扉が、大きな音を立てて刎ね開かれたのは。


「え……」


 神父はそれに、呆気にとられたような声を出す。


 突然の出来事が、理解出来なかった。

 なぜこの神の家に、自身が予測できない事態が起こるのかと。


 しかしそれとは対照的に、無学な祖母は理解していた。


 なまじ学などなく、そして予測など出来ようもない世界に生きてきたため、祖母は体感として、理解していた。


「アレ……」


 これが、終わりの始まりだということを。




 その日も、アレにとっては何も変わらない一日のはずだった。


 少しづつ滅んでいく世界を、俯瞰するようにベッドの上で横になる。

 そして一日は、何事もなく終わる。


 そうだろうと思っていた。

 それをただ、嘆くだけだろうと思っていた。


 何かが変わるのにきっかけなど必要ないということを、アレは知らなかった。


 それを知るには、アレにはあまりに経験がなさすぎた。

 あまりに条理、不条理というものを、知らな過ぎた。


 だから部屋のドアが荒々しく開かれた時、その反応は奇しくも神父と同じものとなってしまった。


「え……?」


 その瞬間、アレの脳裏には神父のように多くのことが駆け巡ることはなく――唯一浮かんだのは純粋な状況に対する、疑問だけだった。


 ――なに?


 しかしそれはいずれにしても、あまり変わりがあることではなかった。


 両者とも単に、この事態に対する覚悟が決まっていなかった、と一点に他ならないのだから。


 結局世を憂いながらもアレ=クロアがしてきたことは、ただ悲しむということだけだったのだから。


「イャッハァ――――っ! 燃やせ、奪え、犯せ、殺せ――――――――ッ!!」


 開け放たれたそこから飛び込んできたのは、耳をつんざくような痛々しい怒声、罵声、濁声だみごえだった。


「…………っ!」


 それに反射的にアレは、両耳を塞いだ。


 こんなに大音量の声を鼓膜に叩きこまれたのは、初めてのことだった。

 まるで音の暴力ともいえた。


 こちらの状況など構うこともなく、一方的に押し付ける。


 そして次の瞬間。


 アレの真横にある窓が、叩き割られた。


「!?」


 ずっとこの部屋と向こうの世界を分け隔てていた、絶対の境界。


 そう思っていた。

 そう認識していた。


 だからアレは窓には触ることすらせず、埃まみれのそこからずっと向こうを観察してきた。

 それはアレにとって、神聖さすら含むものだった。


 それが目の前であっさり破られ、そしてその破片が自分の身の上に――降り注いできた。


「ぅわ……わ、わ……!」


 それに必死になって両腕で顔を、身体を庇う。


 恐かった。


 今まで一度もそんな経験がなかったから、それで身体を切るだとかそういう具体的に思うよりも純粋に、初めての経験に、恐れおののいていた。


 身体が――前に、引っ張られた。


「っ!?」


「あァ? おい、女がいたぜ?」


 気づけば目の前に、男の顔があった。


 髭もじゃで、脂ぎってて、それは見てはいられないものだった。

 しかもその目は真っ赤に充血し、ギョロギョロと動きこちらを観察している。


 否、舐めまわすようにしている。


 アレは耐えられず視線を外し、男から離れようとした。


 しかし、動けなかった。

 自分の身体は、胸倉を掴まれ男に拘束されていた。


「ッ? っく、ぅ……!」


「えっひゃはは! こりゃまた上玉だぜ? しかも若ぇ。若すぎる気もするがな……ぐひゃハハハハ!」


 ジタバタ足掻いてもビクともせず、そして男は自分を掴んだまま耳元で、笑い続けた。


 それも、大音量で。

 それにアレは顔をしかめた。


 なぜこんなに近いのにこんなに大きな声を出すのかが、理解できなかった。

 理解できないものに捕まった自分の状況が、理解できなかった。


 世の中は、理解できないものばかりだった。


「おいおいおい、俺たちの分も残しておけよ?」

「いーやそいつは期待しねぇほうがいい、あいつはアナルマニアだ。文字通りケツの毛までむしりとられるだろうよ」

「違ぇねえ」


『ギャハハハハハ』


 気づけば。


 声は、周囲360°すべてで、巻き起こっていた。


「…………」


 それにアレの意識は急速に冷えていった。

 落ち着いた、わけではない。

 ただ純粋に、冷静になっていったのだ。


 いつもと、変わらない。


 周りの出来事は、自分を置いていく。

 それが窓の向こうで行われるか、こちら側で行われるかの違いだけだ。


 アレはそう思った。

 事実このひとたちは自分のことを話しているようで、その実自分など見ていない。


 考えているのは、自身のことだけ。

 なら、やることはただひとつ。


 いつものように悲しさに、心を痛めるだけ。

 その対象が世界から自分に、変わっただけだ。


「お前らにゃわかんねーよ、アナルの良さはよ、ヒャハハハ! んじゃまぁ……」


 胸ぐらから、衣服へと手が伸ばされる。

 白い粗末な一枚服は、簡単にまくし上げられる。


「げへへへ、役得役得……じゃあまぁ、いただくかァ」


 肌に、手が触れられた。


 気持ち悪かった。

 だからアレは、瞼を閉じた。


 最悪の瞬間を、見たくはなかった。


 もう、終わったと思った。


 ずっと気づいていた、終わりの予感。

 それが訪れた。


 ただそれだけの話だった。

 今まで一切なにもしてこなかったのだから、これは当然の帰結だった。


 だからもう、終わればいいと思った。


「げへへへ、やーらかいねぇ……って、うぉ!? なんだお前?」


 周りで男が、騒いでいる。


 もう意味もわからない。

 どうでもいい。


 どうせ自分には、手の届かない出来事だ。


「離れろ……っ、ババァ!」


 男の感触が、消えた。

 刃が肉を抉る音が、聞こえた。


「…………」


 刺された、と思った。


 なぜかなんてわからない。

 わかりようがないし、わかろうとも思えない。

 だけどこれで、本当に終わったのかと思った。


 だけどなぜか、痛みがなかった。


 それはさすがに無視できなかった。

 どうして痛みがこないのか?


 ひょっとして人間死ぬ時は、痛みを感じないものなのか?

 ならばいま自分は、天国にいるのか?


 アレは無意識に眼を、開けていた。


「おばあ、さん……?」


 おばあさんが目の前に、立っていた。


 こちらに背を向ける形で。

 いつも自分には笑いかけていたので、その背中を見ることはほとんどなかった。


 それは広く、頼もしかった。

 その右上から、ナイフが生えていた。


「おばあ、さん……ナイフが、出てるよ?」


 アレは呟き、いつの間にか地にべた座りしてた状態からベッドフレームに手をついて、ふらつきながらも上半身を持ち上げ、そのナイフに手を伸ばす。


 そんな場所に、ナイフが生えてはダメなはずだ。

 だから早く、取らないと。


 取らないと。


「……ったく、つまんねー殺しさせやがって」


 意味のわからない言葉とともに、そのナイフが向こうへ消える。


 よかった。

 ナイフが取れた。


 アレは安堵の笑みを見せた。

 あとは早く、いつものようにおばあさんがこちらを振り返ってくれないかと思った。


 そうすれば自分はいつものように人形のような、いつも可愛いといってくれた笑みを見せるから。


 しかし次の瞬間アレに浴びせられたのは祖母の笑みではなく、ナイフが引き抜かれた背中から溢れ迸る――鮮血だった。


「あ――――」


 それにアレは、言葉を失う。


 これはいつも見てきたものだった。

 食べ物を盗み、男に捕まり、殴られた子供たちが鼻や口から流していたものだった。


 その時子供たちは苦しそうな顔をしていた。

 だからアレは思う。


 おばあさんもきっと、苦しそうな顔をしてるんじゃないかと。


 おばあさんが、振り返る。


 そこにいつも通りの笑みを見つけた。


 口元から、赤いそれを溢れさせながら。


「あ……お、おばあさん……お、おはようございます」


 アレは震える口元を制して、いつもの挨拶を送った。


 いつも通りだ。


 アレは必死に自分に言い聞かせていた。

 いつも通り。

 なにも変わらない。


 祖母はいつものように自分に食事を届けに来てくれたのだ。

 それだけだ。


 だって祖母は笑っているじゃないか。

 だから自分も笑え。


 笑っていつものように話せ。

 なにも変えるな。


 変えてはいけない。

 変えた瞬間、世界は変わってしまう。


 まるで言い聞かせるように、アレは必死に思った。


「きょ、今日は少し早いんですね? どうしたんですか? なにかあったんですか? ち、ちなみわたしはなにもありませんよ? いつも通りです。いつも通りベッドで横になって、待ってました。待ってましたよ、おばあさんを? きょ……今日の食事は、なんですか? 楽しみです、お腹空いてるんですよ、はは……」


 だが悲しいかなその必死さのせいで、アレはいつも通りを演じることは叶わなかった。


 こんなにアレの方から話しかけることは、通常ありえない。


 普段は祖母の方から畳みかけるように質問が浴びせられ、そして――今の祖母のように、アレはただ微笑むだけなのだから。


「……アレ、クロア」


「は、はいっ。なんですか?」


 祖母の身体が、ゆっくりと崩れ落ちた。


 アレの方に、突然。

 それにアレは驚き対応できず、そのまま下敷きになってしまう。


「っ、ぅ……お、おばあさん?」


 そこからもぞもぞと這い出て、アレは祖母の手を握る。


 しかしその時すでに、祖母の目は濁り光を映してはいなかった。


「アレ=クロア……これを」


「これ、は……?」


 アレに手渡されたのは、自身の血に塗れたロザリオだった。


 それにアレは、激しく動揺する。


 どういうこと?

 これはなに?

 いったいなにを伝えたいの?


 しかし結局どの疑問も口にすることは、叶わなかった。


 祖母は既に光を映していない瞳で天を仰ぎ、呟いた。


「どうか、アレ=クロアに……神のご加護が、あらんことを」


 それが最期の、言葉だった。


 そしてアレが握る祖母の手から、力が抜けた。

 同時に瞼も、閉じられた。


 アレは結局なにも語りかけることは、なかった。

 もう終わったのだと、直感として理解してしまったから。


「――――」


 ドクン、ドクン、と心臓が脈打つ。


 嘘だと思いたかった。


 祖母の手を、強く握る。

 だけど返ってくるものはない。


 祖母は、既に祖母ではなくなっていた。


 こんな世界は、望んでいない。


「お別れは済んだかい、お嬢ちゃん? じゃあ今度はおじさんと、いいことしようかァ?」


 男の手が、肩に触れた。


 それに超反応ともいえる動きを見せて、アレは男の手を叩いた。

 生まれて初めて、ひとを拒否した。


 激しい嫌悪感だった。

 これまで一度も、味わったことがない類の。


 俯瞰感覚が、消え去っていた。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」


 息が、荒くなる。

 頭が漂白されていく。

 なにが起こってるのか、理解していく。


 生きたい。


 生まれて初めて、心の底から、そう願った。


 生きたい。

 死にたくない。


 そう思った。死ぬのは嫌だと。

 しかし男はその抵抗に、露骨に顔を歪めた。


「……あァ? んだてめこら、なにしてくれてん、だっ!」


 パン、と思い切りアレは、頬を張られた。


 それにアレは、一瞬音が消えるほどの衝撃を受けた。


 生まれて初めての、暴力を味わった。

 意識がぼぅ、とする。


 そこにすかさず男が、乱暴にアレの衣服に手をかける。

 それにアレの意識は、覚醒する。


「ッ……イヤ! イヤイヤイヤイヤだ離して触らないでッ!!」


 それはアレ自身も想像すらしていなかった激しい抵抗だった。


 両手を振りまわし、髪を振りみだし、金切り声をあげる。

 それに男はもう一度、二度と頬を張るが、抵抗が止まるのは一瞬だけで、すぐにアレは暴れ出した。


 ただアレは、思っていた。


 祈った。


 心から、神に。

 神様に。

 神様に――!


 心の底から、叫んだ。


「お……お願いです、神様ッ!!」


 母の死体にのしかかられ、全身咽かえるような血の塊に頭からかぶり、白い天使から赤い悪魔のような様相になりながら、アレ=クロアは、喉の奥から絶叫を、振り絞った。


「た、助けてください! お願いです、助けてください、助けて、助けて、助けて、お願――」


 アレは男たちに捕まり、そして乱暴に拘束される。


「い、いやだッ! お願い、お願いしますッ!! 助けて、助けてください! 救って、わたしを救って! こんな、こんな世界は嫌だ! こんな風に終わるのは、嫌だッ! お願いです、神様ッ!!


 その胸を裂くような絶叫に、男たちに動揺が走る。


「な、なんだこいつ?」

「やべぇな……イカレてんじゃねぇか?」

「どうする?」


 問われ、男は服を剥ぐ手を離し――得物を手に、取った。


 その切っ先が、アレ=クロアの胸に――心臓に、向けられる。


「殺しちまおう」


 そしてあっさり、突き刺さる。


 世界がひび割れたような、激痛。


「――――!!」


 声すら出せない。


 それは信じられないような感覚だった。

 身体が無理やり開かれ、異物がねじ込まれるような。


 痛みとともに、それは同時に悪寒ともいえる感覚を呼び起こしていた。


 わたしの世界が、侵される。


 そんなこと、嫌で嫌で、我慢できなかった。

 耐えられなかった。


 これを本当に、心から――変えたいと、願った。


 そのためだったら、すべてを捨ててもいいとさえ、思った。


 命を、捧げる。


「――命を、捧げます」


 そう呟いた瞬間、細胞ひとつひとつが、わなないだ。


 その瞬間、アレクロアは確かに死んだ。


 しかし剣は、それ以上突き刺さることはなかった。

 そのあと何が起こったか、アレクロアは覚えていない。

 しかしどこからかやってきた兵がアレを介抱し、アレはそれにされるがままになっていた。


 ただ神と、契約していた。


 わたしはこの世界を救う、と。


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