第8話 スライム魔王、主張する
スライム魔王は改めて、自己紹介を開始した。
「ワラワはスライムの魔王じゃ!」
それはすでに聞いていたわけだが。
「名前はライムじゃ! 気軽にライムちゃんと呼んでよいぞ! むしろ、そう呼ぶべきじゃ!」
魔王をちゃんづけで……。
さすがに困惑するデビル。
「おう、わかったぜ、ライムちゃん!」
「可愛らしい名前です、ライムちゃん!」
しかし、アクマとサタンは一瞬で受け入れていた。
それはまぁ、いいとして。
ライムちゃんが詳しい話を語る。
「ワラワは魔王を名乗っておるが、実際にはスライムの国の女王じゃ。ここに居を構えておるのは、人間との共存を目指しているからなのじゃ!」
「共存目的なんだ……」
デビルは酒場でのことを思い出す。
やけにスライムの客が多く、椅子やらテーブルやらが粘液だらけでべちょべちょしていた。
あれは、そういう理由からだったのか、と納得する。
「いやいや、納得すんなよ! どうして人間がスライムなんかと共存しなきゃならね~んだ!」
「スライムなんかとは、ひどい言い草じゃの! ワラワたちにも人権はあると、さっきも言うたであろう!?」
アクマとライムちゃんのあいだで言い争いが勃発してはいたが、それも華麗にスルーしておくとして。
「でも、酒場のウェイトレスさんは、困っている様子もあったかも……? 店内がベタベタしちゃうし……」
デビルが控えめに提言すると、ライムちゃんは怒涛の勢いで反論してくる。
「それは仕方がないと思ってもらうしかなかろう! なにせワラワたちはスライムじゃからな!」
確かに、仕方がないのかもしれない。
今アクマたちがいるこの小屋にしても、ライムちゃんが暮らしていることで、全体的に湿っていてネチョネチョしている。
それどころか、虫も湧いている。
「とっても不潔で不衛生で最低最悪の家です! こんな場所で生活するなんて、信じられないです!」
サタンが失礼なことを叫ぶ。
「うるさいのじゃ! そもそも人間だって、ゴキブリと共存しておるではないか!」
「そ……それは共存じゃないような……」
「勝手に住み着きやがるんだよな、あいつら! 朝起きたら目の前にいたときには、飛び上がりそうになったぜ!」
「うぎゃうっ! 想像しちゃったじゃないですか、勇者様! 変なこと言うなです!」
「ワ……ワラワでも鳥肌が立ってしまったぞよ!」
スライムでも鳥肌が立つものなのか。
と、それはともかく。
「まぁ、ワラワとしても、このベトベトはどうにかできるならしたい、と考えておるのじゃが……」
ライムちゃんの言葉に、アクマがキラリーンと目を輝かせる。
「よっしゃ! だったらオレたちがいろいろ実験してやるよ!」
こうしてスライムのベトベト解消のための実験をすることになったアクマたち。
デビルと、そしてライムちゃん自身も、かなり不安げな顔をしていたわけだが……。
――――とぅ~び~こんてぃにゅ~どぅっ!