第35話 勇者たち、見送られる
デビルを先頭に、アクマたち一行は王の間へと突撃した。
「国王シタタカ、お願いがあります! シトヤカさんをスパイに出すのはやめてください!」
相手の反応を待つことなく、デビルは叫ぶ。
「それはならぬ!」
一蹴。
国王シタタカは玉座に座りながら、地を這うような重い声を響かせる。
「この国はスパイの国。スパイの任務をこなすのは、国民の義務と言ってもいい」
「で……でもっ! ほとんどの国民が国から出るなんて、そもそもおかしいです!」
デビルも負けじと言い返す。
国王の勢いに押されながらも、懸命に。
ここで、意外な反応が返ってくる。
「おかしいか。ふっ……確かにそうかもしれんな」
国王の声は、急に弱々しげなものへと変わる。
「だが、食料の乏しいこの国では、そうするしか生き残っていく手段はなかったのだ」
「えっ?」
国王シタタカは語る。
肥沃な大地を持たないこの国では、国民全員が満足に食べられるほどの食料はどうしても確保できない。
ならば、他国に出てもらうのが一番。
その考えのもと、スパイとして国民を育成する方針を打ち出したのだと。
「いや……輸入でもすればいいのでは……」
「それよりも、国外で直接生活するほうが手っ取り早い。ここは貧しく立場も弱い国だからな。不利な条件での輸入となったら、国民たちを苦しめるだけなのは目に見えておる」
国王はさらに語り続ける。
「スパイとして他国の様々な情報を仕入れてくるのも、我が国の存続には必要不可欠。よりよい国のいしずえを築くためにも、国民には引き続き、頑張ってもらわねばならぬのだ!」
偏った考え方ではある。
しかし、国の状況が一番よくわかっているのは、この国に住む人々だ。
スパイとして他国に出てはいても、国民の多くが疑問もなく従い、健康に生活できているのであれば、それは正しいことと言えるのかもしれない。
デビルの勢いは完全に止まっていた。
アクマたちも、ただ黙って国王を睨みつけるのみ。
「お主らは秘密を知ってしまった。悪いが……ここで死んでもらうしかない」
国王が指を鳴らす。
次の瞬間、多くの兵士たちが現れ、侵入者である4人を取り囲んだ。
と、そこでさらに別の声が響き渡る。
「やめてください、お父様!」
飛び込んできたのは、シトヤカだった。
「え……? お父様!?」
「そうだ、シトヤカはワシの娘! つまり、この国の姫だ!」
国王シタタカが、本人に代わって答える。
「姫なのに他の国にスパイに……?」
「そうだ」
「城にも住まわせずに?」
「そうだ。王家だろうと普通の国民だろうと、平等なのだ!」
「だったら、国王は……」
「ワシだけは特別だ!」
「そんなの、納得できるか!」
デビルは思わず怒鳴りつけていた。
「待ってください、デビルさん!」
すかさず、シトヤカが止めに入る。
「この国のことですから、ワタクシたちで解決します。ここまでしていただいたのに、申し訳ありませんが……。デビルさん、もうお帰りください」
深々と頭を下げるシトヤカ。
「シトヤカ、勝手に帰すでない!」
と声を荒げる国王に、いつの間に来ていたのか、サワヤカが歩み寄る。
サワヤカはシトヤカの兄。すなわち、王子ということになる。
「父上、我が国は今、変わるべき岐路に立たされております。そのきっかけを、この者たちが与えてくれたとも言えるでしょう。どうか、勇気あるご決断を」
「…………わかった」
国王は瞳を閉じ、小さくそう答えた。
「さようなら、みなさん」
夕陽が周囲を赤く染める中、勇者アクマたち一行は、シトヤカ・サワヤカ兄妹と最後の挨拶を交わす。
「そちらも、頑張ってください」
デビルはそう返したのち、心の奥にある熱い想いをぶつける。
「……シトヤカさん、もしよかったらボクたちと一緒に……」
「それは無理です」
食い気味の拒否。
「…………。さようなら、シトヤカさん……」
「はい。お元気で、デビルさん」
こうして、デビルの失恋があったりもしつつ。
珍しく追われる身になることなく、見送りを受けて国外へと出る勇者たち一行であった。
――――とぅ~び~こんてぃにゅ~どぅっ!




