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あ、もうすこしプロローグです
不快な眩しさに目を開けるとそこには見慣れた天井があった。
携帯を見るとまだ7時前、目覚ましの鳴る少し前だ。
体を起し、夢で彼女に触れようとした右手を見る。
「・・・・もうちょっとだったんだけどなぁ」
ため息交じりに布団から抜け出し、ぼさぼさの髪の毛を掻きながらまず朝は何をするんだっけ?とボケた頭で洗面所に向かう。
もうあの夢も何回目かも分からない、最初はただの暗闇だった。それから日を重ねることによって視界が開け、彼女が見えと、どんどん進展していった。
夢なんて物語の始まりにはありがちなことだ。もし俺にこれから何かが起きるとして重要なのはその夢が意図することと、俺がどうするかということ。
実の処俺は彼女の話を聞いて何がしたいのか自分でもよくわかってない。死んでくださいとか言われたらどうしよう。
洗面所で水を飲み顔を洗う。
もしも彼女の言葉が聞けたとして、俺に何が出来る?もしも助けを求められたとして救えるのか?ダメだ、俺には誰にも救えない。だって俺は・・・。
ふと鏡を見る。
「ひでぇ顔」
鏡の向こうに居る、まるで死んだような目をしている野郎に嫌悪しつつキッチンに向かう。
キッチンからはみそ汁の良い香りがした。
「やぁおはようコウ君、今朝は少し早いね」
「おはよう葵さん、なんか暑くてさ」
「そうか、もう七月も中盤だしね」
葵さんは俺の両親の遠い親戚の人らしい。物心つく前に災害孤児となった俺を引き取ってくれた人の妹さんで、俺にとって姉見たいな人。因みに年の方は20代後半で絶賛彼氏募集中だそうだ。
朝食の最中、葵さんがおもむろに箸を置いた。
「ねぇ、コウ君」
なんだろう、珍しく言いずらそうにしている。
「最近元気がないようだが大丈夫か?心なしか顔色も良くないみたい」
「あぁ、ちょっと最近寝つきが悪くてさ。寝不足なんだ」
「そうか寝不足かぁ~、最近暑いからね。私はてっきり学校の方で何か悩みがあるのかと思ったよ。なんかあったらちゃんと言いなよ?」
「分かってる、頼りにしてるよ」
まさかこの年で夢のせいなんて言えない。もしそんなこと言ったら最後この人は間違いなく「悪い夢なら私にまかせろー!」といって添い寝してくるに違いない。そんなことしてみろ!健全な男子高校生は俺のグングニールがラグナロクだろうが!
朝食を済ませ、いい時間になったところで家を出る。
そういえば今日は終業式、明日から夏休みだった。
放課後
下校中の事だった。
学校でクラスメイト達との挨拶もそこそこに、真夏の太陽にじりじりと責め立てられながら俺は家路についていた。
「あら?」
「あ?」
目の前の信号に日傘をさした女性が立っていた。なんだか高級感あふれる格好をしている如何にも御婦人って感じだ。
「貴方・・・酷く疲れた顔をしているわ」
「寝不足なだけですよ、じゃあ」
なんかよく分からんし、怪しさMAXなのでそそくさと信号を無視しその場を離れる事にした。
女性は追ってこない。ひょっとしたら本当にただの親切だったのかもしれない、だったら少し悪い事をしたのかもしれないと思った。
「あの子は」
女性の少し大きな声に驚き立ち止まる。
「・・・あの子は何が言いたいのかしらねぇ?」
「っ!?あ、あんた!!」
とっさに振り返ると女性は何かを確信したようにクスリと笑った。その時大型トラックが目の前を横切る。
「っ!」
そしてトラックが走り去った一瞬で女性は消えてしまった。
「トラックタイミング良すぎだろ・・・・・」