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二日後、春一は再び夏輝と共に神社へ向かった。
「こんにちは~。善良な市民の春一です」
「まだ根に持ってたんですか……」
隣でため息をつく夏輝を無視して春一は境内の中へ歩を進めた。掃除をしていた沙耶がこちらに気付く。
「あ……その、すみません」
「沙耶さん、お気になさらず。ウチの店主は何も気にしていませんので。それで、進展がありましたので、ご報告に」
夏輝が再び隣にやってきて、進展があったことを報告する。その言葉を聞いた途端、沙耶の顔がパッと明るくなった。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「沙耶さん、妖怪にはね、普通の人間が思い描く妖精のようなタイプの奴もいるんだよ。本当、体長なんて三十センチくらいでさ。そんで、ここにいるのもその手の奴。木に棲むタイプの奴で、聞いたらこの桂は立派だから住みやすいんだと。良く手入れされてるらしーな。で、それだけ」
「それだけ?だって、妖怪のせいで転落事故が起きてて……」
「転落は事故じゃねー。事件だ」
「ど、どういうこと?」
不安そうな顔をする沙耶に、春一はボリボリと髪を掻いて続きを話した。
「この神社に恨みをもった奴らが、意図的に転落して妖怪の仕業に仕立て上げたんだ。そうやってこの神社の評判を落とそうってな」
「え!?」
「嘘みてーだけど、本当だ」
春一がやってきたのはとある事務所。地元の有志の事務所だ。ノックをすると、中から入ってもいいと声が聞こえた。
「こんちはー」
黒いジャージ姿の春一が姿を現す。事務所の主である男は、怪訝そうに春一を見た。本来ならば秘書に追い返してもらうところだが、あいにく今外出中で自分しかいない。
「オッチャンさー、ちょっと悪いことしちゃったんだって?」
「は?」
いきなり応接用のソファにどっかりと腰かけ、笑いながら話す少年。違和感がありすぎる。
「マンション建設に邪魔な神社に嫌がらせして、潰そうって?全く、罰当たりだね~」
「……どこでそれを知った?」
男の顔が急に険しくなる。何故目の前の少年はその話を知っているのか。
「情報ってのはどこからか漏れるもんだからね。秘密ってのはないんだよ。覚えといたほうがいいよ」
「何が目的だ?金か?」
このまま話を続けるのは得策ではないと考えた男は、相手の要求を呑もうとした。しかし、相手から提示された要求は予想と全く違うものだった。
「マンション建設から手を引けとは言わない。でも、神社の買収は諦めるんだね。あそこにある立派な桂の木を知ってるか?あれも切るんだろ?それは個人的に許さない。それとまぁ、こっちにも色々と事情があってね」
「そ、そんなんで引けるか!お前が何者だろうと、私は諦めんぞ!あんなオンボロ神社、さっさと取り壊してやる!こっちのバックを知ってるか?」
「知らねーよ……」
春一は急に顔から笑顔を消して、ソファから立ち上がった。そのまま男が座っている机の正面に行くと、その机に飛び乗った。机の上で例の如くヤンキー座りをした春一の顔が男の眼前に迫る。
「テメーのバックなんざ知ったこっちゃねー。だがよ、あんまオイタしてっと、俺も黙ってねーぞ……?」
そして春一は男の胸倉をつかんで、こちらにぐいっと引き寄せた。
「脱税やら暴力団への献金やらをばらされたくなかったら、おとなしくこの件から手を引け。いいな?」
「は……はい」
春一に気圧された男は、そのまま急いで頷いた。春一はそれを聞き届けると男から手を離し、事務所から去った。