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「ヤンキーが読書してる!」
叫ばれた高い声に、春一は眠たそうな目を向けた。その先には、女子高生。
彼は今本屋で読書中であり、女子高生は自分に合っているであろう参考書を抱えていた。
「す、すみませんっ!」
叫んだ彼女は頭をばっと下げると、そのままレジの方へ行ってしまった。春一は二秒ほど停止し、その後再び本を読み始めた。
春一は読書家であり、暇な時は大抵本を読んでいる。夏輝が彼を上回る読書家なので、よく夏輝の部屋へ勝手に上がりこんで読みたい本を勝手に取ってくる。
彼は勉強が終わったり大学から帰ってくるとよく本屋へ行く。出版社、更に五十音順に並んでいる本棚に目を通して、面白そうなタイトルを見つけるとその本を読み出す。おもしろかったらそれを買ったり、短い話ならば読んでしまったりする。それが彼流の楽しみ方だった。しかし、読む時に本棚の前でヤンキー座りをして座り込んでしまうので、今のようなことを周りからも思われていた。声にして叫ばれることは稀だが。
春一は本を読み終え、特に買い物をするわけでもなく本屋から出た。暑い中車を運転して家へ帰ると、クーラーのよく効いた部屋が出迎えた。
「ただいまー」
春一が帰ってきたことを告げても、返事はなかった。二階の玄関から入ったため、夏輝が一階にいる場合返事は返ってこない。ということは、彼は今一階の文房具店舗にいるということだ。
リビングに入り、一階に通じる階段の上で耳を澄ませると、夏輝が何やら人と話をしていた。そして、下で二回ノックをする音が聞こえた。これは夏輝が春一を呼ぶための合図で、恐らく物音を聞いて春一が帰宅したと思ったのだろう。春一は一階へと降りた。
「ハル、クライアントの錦沙耶さんです」
「あっ!」
高い声が叫ばれた。
「・・・・・・どーも」
春一の眠そうな声が狭い店内に木霊した。