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校舎に怪しい影が現れる。ポツリ、ポツリ。
窓ガラスに怪しい人影が近付く。一人は窓を探っている。もう一人はその人影が離れてから、棒のようなものを振りかぶる。そこで、止まる。
「はーい、ヤンチャ終了ね」
春一の明るい声が響く。懐中電灯が照らされる。そこには、地元中学のジャージを来た二人組がいた。一人は手にガムテープを持ち、もう一人はバットを振りかぶった所で春一に掴まれている。
「なっ!」
「おっと、逃げるなよ」
バットが動かない。それから逃げ出そうとバットを離すが、その頃にはすでに襟首を掴まれている。
「夏」
その男子生徒を捨て置き、逃げようとしたもう一人の男子を夏輝が腕を止めて捕まえる。
「全くもー。お前ら、この大きさのガラス一枚でいくらすると思ってんだ。学校赤字だぞ?」
春一が生徒をずるずると引き摺り、後ろ手を縛って近くの木に縛り付ける。もう一人も同様だ。
春一が彼らのポケットを探ると、煙草とライターが入っていた。ここで喫煙するつもりだったのだろう。
「命縮めて嬉しけりゃー勝手にどーぞ。俺はオススメしない」
「何だよお前ら!」
「そりゃこっちの台詞。まぁ、中学はわかるけどね。東中だろ? そのジャージ。入ってるラインの色からすると二年か。まったく、若けりゃ何でも許されるわけじゃねーぞ」
彼らの持ち物をポイポイと地面に捨てていると、新校舎の方から人が歩いてきた。一人は明るい茶髪に黒いメッシュを三本入れて、子どもっぽい笑みを浮かべている。もう一人は女性で、肩まである金髪は先がカールしている。絶世の美女とはまさに彼女のことだろうと思えるほどの美少女で、目は大きくくりくりとしている。
「ハル、捕まえたゼ」
「夏兄ー!」
春一の幼馴染である丈と琉妃香がもう二人の男子生徒を連れてやってきた。彼らも同じように木に縛り付ける。
「くそっ! 何でわかったんだ!」
「あのねー、中学生と大学生、どっちが頭いいと思う?」
噛み付く中学生の頭をポンポンと叩いて、撫でる。完全に子ども扱いだ。
「しっかし考えたナ。新校舎に忍び込んで窓に人型に切った黒い画用紙を貼り付ける。遠くから見れば怪しい人影ってわけダ」
「つけたりはがしたりしてリアリティ出してたんだねー。だから旧校舎で画用紙を物色してたんだね。美術は評価五確定」
「画用紙の付け替えを交替で一人を回して、本当は旧校舎でこそこそ喫煙ってわけだ。吸殻を残さなかったのは褒めてやる。そんでストレス発散、遊び感覚で窓ガラス割り? 青春を謳歌してるな、お前ら。ガムテープ貼って割ると音がしないって、どっから教わったんだか。ただ、ガラス片を持ち帰ったのは感心しないな。人影を作るくらいなら、ガムテープをはがして置いとけばまだ怪しまれない」
次々と自分たちの非行をばらされ、後が無くなった中学生達はぐうの音も出ない。
「な、何でわかったんだよ!」
「何で? 俺らもやったからに決まってんだろ」
にいっと笑う春一は反則だ。丈と琉妃香が思い出し笑いをする。
「まぁ、俺らの時は鍵の横をバールで割るだけだったし、人影なんかも作んなかったけどな。喫煙のためじゃなくて、肝試しのために忍び込んだんだかからな。あれはおもしろかった。学校でやって、その後墓場に行ったんだ」
中学生達は何も言えない。
「まぁ、お前らも中学生なんだし、補導で済むから良いだろ。これに懲りたら二度とオイタはしないことだな」
言うだけ言って、春一は地面に置いた持ち物をポケットに戻し、そこを接着剤でくっつけた。そして木から四人を放し、丈と手分けして二人ずつ前を歩かせた。新校舎の中に入って、四人の少年達の内一人だけ縄を外す。
「他の三人助けて、さっさとここから逃げるんだな。逃げれたら、だけど」
そう少年達に告げると、春一は校舎の扉を閉めて、さっさとそこから立ち去った。
「逃がしていいんですか?」
「逃げられやしないさ」
少しすると、校舎の中からがたがたという音が聞こえてきた。中学生達は扉を開けようと奮闘するが、扉が動かない。春一達が扉の隙間に砂利を詰めておいただけなのだが、開かない。
四人は力でそれを開けようと、扉を押しにかかった。そして、声変わりして間もない声の悲鳴が周囲に響き渡った。
「ハル、何をしたんですか?」
「なんてことないさ。あの戸の内側・・・・・・ちょうど四人が手をかけている位置にゴキブリホイホイを貼っといた。それだけだよ」
遊んでいる、と思いつつ、夏輝は何も言えずに彼の後ろについた。