表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TRUMPⅡ  作者: 四季 華
39/43

8-5

8-5


 次の日、春一はスタジアムのチケット売り場で当日券を買い、中に入った。ピッチでは若い男の子たちがウォームアップをしていた。観客はほとんどが父母やその関係者で、時折サッカーチームの関係者らしき人たちの姿も認められる。高校生たちの試合といえど人数はそれなりに入っており、人間の気配に混じって妖気はわからない。春一は赤い点が印してあった場所へと足を向けた。すると、段々妖気が濃くなってくる。

 問題の場所には、二匹の妖怪がいた。何やら話をしながら紙を交換している。春一は気配を一切絶ち、その妖怪達に近づいた。

「よう、こんちは」

 その二匹の妖怪の背後を取り、二人に肩を組む格好で春一は顔を出した。突然現れた春一に、妖怪達はびくりと身を震わせたが、肩を組まれてしまっている以上身動きが取れない。強く体を動かそうとしても、春一の押さえつける力の方が上手だ。

「まぁまぁ、まだゲームも始まってないんだし、そんな急ぐなよ。自己紹介が遅れたな、俺は四季春一。妖万屋だ。何でここに来たかは、わかるよな?」

「どうしてあの暗号がわかった……?」

 二匹の内、格が上とみられる方の妖怪が口を開く。横目で春一の顔を見ると、彼は憎たらしいほど笑顔満面だった。

「現場に残されてた図形も、文字も、どこか見覚えがあった。図形はそりゃ覚えてるよな。一ヶ月に一回は必ず来てるスタジアムの座席表なんだから」

 そこで春一はあははと笑った。若干自嘲的な意味の笑いだが、それでも表情は爽やかで清々しい。

「13の文字の方は、俺の真面目さが功を奏したっていうのかな」

 にやりと冗談っぽく笑う春一に、妖怪は何も言えない。続きを待っている。

「俺心理学科なんだけどさ、心理学の授業中にあの文字を見てるんだ。あれは文脈効果の説明で出される文字だ。隙間が狭い13は、12と14の間にあれば13に見えるが、AとCの間にあればBに見える。人間は、同じ文字でもその前後の文字や自分の持つ知識などによって、知覚や認知が影響される。それが文脈効果。そんで、大事なのはその次だ。この文脈効果のように、情報を処理する際に知覚や認知が影響を受けることを、概念駆動型処理という。言い換えると、トップダウン処理だ」

 妖怪の喉からごくりという音が聞こえる。唾を飲み込んだのが、はっきりとわかった。

「このトップダウンという言葉だが、これは心理学の言葉ってわけじゃない。本当は経済用語だ。経済用語でトップダウンとは、会社の上層部が意思決定をして、それを下部へ支持する管理方式のことを言う。だから思ったわけさ。お前らコバルトは犯罪組織。組織の上層部が犯罪の計画を立て、それを下部の実行部隊に伝えるための合図が、この13って文字の意味なんじゃないかと。それに加えあの図形。つまり、あの図形と文字の意味は、『上層部から下部へ伝達。次の犯行計画はスタジアムのこの場所で授ける』ってことだ。だから、ここに来ればコバルトに接触することができると思った」

 そこで春一は顔から笑みを消した。冷たい表情になって、肩を組んでいる腕に力を込めて妖怪の首を圧迫する。

「俺をコバルトの頭首に会わせろ」

 ギリギリと締め付けるその苦しさには敵わず、妖怪は首をぶんぶんと縦に振った。

「わかった、教える。教えるから腕を離してくれ」

 呻き声とも取れる聞き取りにくい言葉に春一は腕の力を緩めた。妖怪は二、三度深呼吸をして、息を整えた。

「場所は……数珠市の北西にある森の小屋だ。元々森にある電灯とかの電力管理をしてる小屋だ。わかるだろ?市役所の裏手にあるあの森だよ」

「ああ、あそこか。よし、お前らは今日のところは見逃してやる。だが、もしこれに懲りず犯罪行為を繰り返したら……その時は、わかってるよな?」

 妖怪達はさっきよりも大きく首を振った。ちぎれんばかりに振っている。春一はそれを見届けると、席を立った。向かうは、市役所裏の森にある小屋。そこでコバルトと、決着をつける。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ