8-3
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春一は一回美術館に戻った。そこから東に逃げた妖怪の足取りを掴もうと、戻ってきたのだ。妖怪は東に逃げたというだけで、どこまで逃げたかはわからない。春一は情報収集のために、近くにいた高校生に声をかけた。
「ちょっと聞きたいんだけどさ」
「ああ?」
いかにも高校デビューを果たしましたという風貌の相手は、春一のことを睨み上げるように見た。春一はにっこり笑って、高校生の胸倉を掴み、ぐいっと引き寄せた。
「こっから逃げてった犯人の行方を捜してるんだけど、協力してくんない?」
「な、何でオレが!第一テメー誰だよ!オレはあの菊泉高校のモンだぞ」
「菊泉?ああ、あのヤンキー校ね。じゃあ俺のこと知ってるかな?あんまりこの名称は名乗りたくないんだが……」
「何ブツブツ言ってやがる!」
「俺はトランプの春一だ。わかるな?」
「トランプッ!?」
トランプというのは春一と丈、琉妃香の三人をまとめて呼んだチーム名で、いつの間にか誰かに付けられ、それが広まった。切り札を意味するトランプという単語が、春一のエース、丈のジョーカー、そして琉妃香のクイーンにあてはまるため、いつしかそう呼ばれるようになった。トランプといえば無敗の化け物チームで、相手にしたらただでは済まされないと噂されている。春一はトランプという名前を不良のレッテルを貼られたようだと不快に思っていたが、この際そんなことは言っていられない。
「トランプのエースがこの窃盗事件の犯人を捜していると仲間に伝えろ。些細な情報でもいい。俺は六時にもう一度ここに来るから、その時に成果を聞かせてくれ。いいな?」
「はいっ!」
高校生はすくみ上った身を震わせ、一目散にそこから立ち去った。走りながら携帯電話で仲間たちに電話をかけているところを見ると、情報収集の方は任せて大丈夫らしい。
「さてと……」
春一は再びバイクに跨り、今度は図書館に向かった。