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春一は最初、何を言われているか全くわからなかった。頭の回転は速い方だが、それでもうまく飲み込めない。
「俺が狙われてる?妖怪に?」
「そうだ」
「……詳しく話を聞こう」
奈多は犯人とそれらを拘束する他の妖怪達が部屋から出たのを見計らって、話を切り出した。
「今日、情報屋の夢亜から連絡が来た」
夢亜というのは春一の学友である情報屋で、彼は様々な情報を扱っている。春一に入る枢要院からの依頼は、夢亜を介して伝わる。いわば枢要院と春一の中継地点にいる、なくてはならない存在だ。
「ここのところ、妖怪の世界では犯罪が多発している。傷害から窃盗、強盗まで、種類は問わない。そして、その犯罪を起こしている犯人は、全員ある組織に属していることが分かった」
「組織?」
「名を、コバルトという。彼らの目的は、この妖怪世界を統べること、そして、四季春一、お前を潰すことだ」
その言葉に、春一は黙った。職業上、妖怪たちの恨みを買うことはよくある。今回のような事件は今までに何回もあった。妖怪達を助けてきた一方で、枢要院に差し出したことも何回もある。だから逆恨みをしたいつかの妖怪が、自分を狙っても不思議はなかった。だが、今回のことは腑に落ちない。
「何で、組織まで作った?俺を潰すだけなら、直接来ればいい。何で枢要院まで敵に回すような真似を?」
「さっきも言ったが、奴らの目的は、妖怪達の頂上に君臨することだ。たてつく者達を暴力的に抑え込み、自分たちが妖怪の秩序であると言わんばかりに世界を闊歩することこそが、奴らの真の目的。それには四季春一、お前が邪魔なのだ。目の敵にされているのはお前だけではない。勿論枢要院も的にされている。だが、枢要院は妖怪世界の警察ともいえる組織。それに比べ、お前は差し詰め私立探偵といったところ。だから、まずはお前を潰そうということなのだろう」
そこで奈多は一息ついた。そして春一を若干の憐憫を込めた目で見る。春一は真剣な顔をして床の一点を見つめていた。
「お前がこれを機に妖怪の世界から手を引くというなら、コバルトの連中には私から言っておこう。そうすればお前に危害が及ぶことはない。人間としての生を心行くまで堪能すればいい。それもまたお前の道だろう」
その言葉に、春一は頭をポリポリと掻いて、奈多に向き直った。そして自信満々に、二カッとした笑顔を見せて言い切った。
「俺は四季春一、妖万屋だ。売られた喧嘩は、買ってやる」