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口と鼻から血をだらだらと垂らして倒れる妖怪の後ろ手を縛り、春一は枢要院へと連絡を付けた。彼が電話を切ろうとすると、相手がそれを引きとめた。
『話がある。そのままそこで待っていてくれ』
「は?話?……何の?」
『大事な話だ。すぐに行く』
相手はそれだけ言って、一方的に電話を切った。
春一はその場で頭の上にクエスチョンマークを並べた。自分が枢要院を嫌っていることは向こうも承知済みだ。それどころか枢要院も春一とはなるべく接点を避けようとしているきらいがある。そんな関係を続けていた両者だが、突然枢要院の方から話があると申し出てきた。今までにないことだ。
本当は枢要院の申し出なんて無視して帰ってしまおうとも考えたのだが、先ほどの相手の声がどうしても鼓膜にこびりついている。非常に重要なことを告げるような、そんな声だった。
春一はドアの前と部屋の中を五往復した結果、そのままそこで待つことにした。
十分後、枢要院の妖怪がやってきた。その面子を見て、滅多に見開かれることのない春一の目が驚きで丸くなった。
「アンタ……。なんで、トップのうちの一人がここにいる」
そこにやって来たのは、犯人を拘束するための警察官のような妖怪達数人。そして、その他に、枢要院を仕切る「長老」と呼ばれる三人の妖怪たちの内の一人、奈多。つまり、枢要院のボスの一人が、直々に春一の元を訪れたわけである。
奈多は白い長髪をオールバックにして背に流し、口の周りを覆うひげも髪の毛と同じ色をしていた。身長は春一と同じほどだが、春一を上回る威圧感があった。
「話があると言っただろう。よく、逃げずに待っていたな」
高圧的な態度と言葉が大嫌いな春一にとって、この老妖怪に頭突きをかまして逃げてやろうかとも思ったのだが、どうにもそういう雰囲気ではないらしい。
「話ってのは何なんだよ?俺さっさと野球観戦してーんだけど?」
球場では既に試合が始まっている時間だったが、この器具庫は静謐を維持していた。すべての音が彼らの周りからなくなってしまったようだ。
「お前は回りくどいのは嫌いだから、単刀直入に言おう」
その前置きが回りくどい、と内心で思いながら、春一は無言で続きを促した。
「ある妖怪の組織が、お前のことを狙っている。四季春一、お前をだ」




