7-2
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トイレには警備員と被害者の男、そして介抱をしていた男がいた。周りの人垣をかき分けて進むと、介抱をしていた男が春一を見て呼びかけたため、現場の中に入ることができた。被害者の男は頭から血を流していたものの、意識ははっきりとしていて、今は上体を起こして座っていた。
「大丈夫っすか?」
春一が被害者の男に話しかけると、男は顔を歪めながらも頷いた。
「はい。突然だったんで、びっくりしました」
「何が原因だったんすか?」
「それが、わかんないんですよ。俺が普通にトイレの前に立ったら、いきなり殴られて。相手チームの奴だったから、気に食わないのかとも思ったんですけど、でも試合はどっちかっていうとあいつらの方がおもしろいだろうし……本当、訳わかんねぇよ」
そう言って、被害者の男は首を捻った。彼はその後、医療班の人間に付き添われて医務室へと行った。
「本当、訳わかんねぇな。あの兄ちゃんは運が悪かったな」
介抱をしていた男が、春一に向かって声をかけた。彼は血の付いた手を水道で洗って、被害者の男と同じように首を捻っていた。
「犯人は見失っちまったかい?」
「すみません。スタンドに入られて、撒かれちまいました」
「まぁ、しょうがねぇな、この人数だもんよ。兄ちゃんも、びっくりしたろ?」
「ええ。何があったんでしょうね?」
「あの兄ちゃんの言うとおり、犯人はいきなり来ていきなり殴って、逃げちまったんだ」
「とりあえず、この件は警察に任せましょう。介抱ありがとうございました」
「気にすんな」
その後そのおじさんは、被害者の見舞いに行くと言って現場から離れた。春一もそこから離れ、外野スタンドへと戻った。
「おう、兄ちゃん、今日は中止だってよ。お疲れさん」
春一が自分のいたところに戻ると、隣のおじさんがそう言った。この豪雨で試合は中止らしい。五回終了時で試合は成立したため、この試合は引き分けということになった。
「お疲れ様っした」
春一はそのままその場に立ち尽くした。雨が降っているというにもかかわらず、構わず地面を睨む。
(あれは、間違いなく妖気だった。犯人は、妖だ。ちくしょう……!)