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「協力ご苦労様。後日署長から表彰あると思うが、どうする?」
春一から連絡を受けた藤が現場に着くと、そこには倒れ伏している二人の男と春一、丈がいた。何かと問いただすと、倒れている二人が犯人で、事件は解決したという。藤はとりあえず犯人の男たちをパトカーに乗せて、春一達に向き直った。
「やめてよおやっさん。手柄はおやっさんにあげる」
「そうそう、俺らには表彰なんてかったるいだけだってノ」
「まぁ、そういうと思ったぜ。でも、すーなんとかってところじゃなく俺に引き渡すってことは、奴らは人間なんだな?」
「そういうこった」
「でもわかんねぇな、種は何なんだ?確かにあの時、俺の目の前から消えたんだ。それに犯人は一人じゃねぇし……ったく、これじゃ俺が馬鹿みてぇじゃねぇか」
頭をぼりぼりと掻きながら言う藤に、二人は顔を見合わせて爆笑した。
「あっはっは、おやっさんは馬鹿『みたい』じゃなくて、正真正銘の馬鹿だって!」
「もーおやっさん、俺らの腹筋どうするつもりヨ?」
「っせえ!」
ここに琉妃香がいなくて本当に良かったと思う。彼女がいれば破壊力は二倍増しだ。
「種明かしするとね、奴らは二人一組で鏡を使ったトリックを用いたんだ」
「鏡?」
「琉妃香が気づいたんだけどね、そこの角には砂利が一直線になって並んでたんだ」
そう言って春一は右隅を差した。藤が見に行ってみると、成程確かに細かい砂利が一直線になっている。
「それで気付いた。おやっさんが追いつめた時、犯人の内一人はおやっさんの後ろから気づかれないように照明で光を当てた。それがもう一人の近くにあった、姿見の枠を外した鏡に反射して目くらましのフラッシュになった」
「そりゃあわかったけどよ……消えたのは何でだ?」
「おやっさんまだわかんないの?あのねぇ、そのフラッシュにおやっさんが視覚をやられてる時に、後ろの犯人は逃げて、追いつめた犯人の方は鏡を盾にしたんだ。そこの角に自分の身を潜めて、角と対角になるように鏡を置いた。すると、鏡は壁を映しておやっさんの前から消えたように錯覚する。夜の、増して街灯もないようなこんな路地だからこそできることだよ。だから犯人はいつも同じような所で事件を起こして、同じところに逃げ込んでたんだ」
「成程なぁ……」
うーんと唸る藤の頭をポンポンと叩いて、春一はニコリと笑った。藤が手を叩こうと払いのけた時には、春一の手はそこになかった。
「おやっさん、言いにくいんだけど、禿げた?」
「うるせぇ!お前らのせいだ馬鹿野郎!」
「うわ、責任転嫁」
「ダメな男だネー」
その後も藤は喚き散らしたが、警官がパトカーを出すというので渋々それに乗って署に戻った。
その後連続器物損壊事件はなくなり、数珠市には平和が戻った。……のだが、藤と春一達のこの時のやり取りを丈が琉妃香に全部ばらしたため、藤はしばらく嘲笑の対象になった、というのはまた別の話。