6-3
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三人は藤が犯人らしき男を見失った例の路地に来ていた。なんてことはない、三方を無機質なコンクリートの壁に覆われたただの行き止まりである。電柱もなければ雑草もない、そんなただの路地だった。壁の高さは二メートル以上あり、身長が百七十七センチある春一でも乗り越えるのは困難だった。
「おやっさん、本当はすり抜けられたんじゃないの?」
「いや、あの時は走ってくる音もしなかったし、風も感じなかった。犯人は消失したんだ」
「う~ん……」
「何だ春一、おかしいところでもあんのか?」
「いやね、おやっさん。妖怪ってのは人間と大差はない生き物なんだよ。基本的な構造は人間と同じだ。相手が幽霊ってんならともかく、人間がこの壁を乗り越えたりいきなり消えてなくなることはできないでしょ?妖怪もそれに漏れない。だからおかしいんだ」
「まぁ、霧化できる妖怪もいるにはいるんだけどヨ、そいつは発光なんてできないし、何しろ外国の妖怪だからナ。日本にはいねぇヨ」
「外国から来たのかもしんねーだろうが。霧になれるならパスポートもいらねぇだろうし」
「霧になれる時間は決まってるの。それに、枢要院の許可もいるしね」
「すーよーいん?ってなんだっけか」
琉妃香の言葉に、藤が首をかしげる。聞きなれない言葉だ。すると、例の如く三重のため息が藤に向けられた。
「妖怪世界の警察みたいなもんだよ。妖怪の秩序を守ってる奴ら。前に説明したのに、おやっさん本当に頭悪いね」
「人を馬鹿扱いすんな!」
「劣等生扱いしてんの」
「このヤロウ」
腕を振り上げる藤を春一はそそくさと無視して、地面を調べ始めた。全く相手にされない藤は振り上げた腕を持て余して、そのまま壁を殴った。骨に響く痛みが神経を支配した。
「おやっさん、何やってんノ?」
「さすが数珠市が生んだ劣等生。あたしたちには真似できないよ」
「俺仕事があるから帰るぞ!」
「うわ、依頼しといて自分だけ帰るとかマジ非常識」
「まさか人道も踏み外してるとはネ」
「おやっさんサイテー」
「じゃあ後頼んだからな!」
藤はそれだけ叫ぶと、近くに停めてあった車に乗って署へと帰った。
「ったく、これおやっさんじゃなかったら依頼料三倍増しだぜ?」
「おやっさんはホントしょうがねーナ」
「後でなんかおごらせよっか」
「「さんせー」」
春一と丈の声が重なったところで、琉妃香が何かに気付いた。
「ねぇ、これなんだろ?」
彼女が指差すのは、壁に向かって右隅の一角。春一と丈が琉妃香の指の先を覗き込むと、そこには斜め一直線に並んだ砂利があった。まるで箒で集めた埃を塵取りで取りそびれたみたいに、砂利が並んでいる。
「琉妃香、こりゃあもしかしたら大発見かもしれねぇぞ」
「え、マジで?」
「ハル、何かわかったのカ?」」
「俺、わかっちゃったかもしんねーわ。ちょっと実験手伝って」