5-4
5-4
ふれあい広場と名付けられたそこは、ウサギや羊を放し飼いにしていて自由に触ることができる。何匹ものウサギが行き交い、羊が鳴く。福良はウサギを追いかけたり羊の毛を触ったりして楽しんでいる。その傍らで夏の暑さにばてた男が二人、ベンチに腰掛けていた。
「おい、何でここのベンチは屋根がついてないんだ?」
「設計者に問い合わせてください」
「くそー、向かいのゲージにいるフラミンゴに腹立ってきた」
「それはフラミンゴが不憫すぎます」
夏の暑さもなんのその、福良は無邪気にこっちを向いて手を振っている。ウサギを捕まえて、そのウサギの前足を持って手(?)を振らせる。二人はそれに手を振り返して、何年前かの自分の姿に重ねる。
「でー、王女は何を調査して欲しいって?プリンス夏輝」
「そういう冗談はやめてください。・・・・・・彼女、名を岸瀬さんと言います。彼女は、あの事故が妖によって操作されたものではないかと思っているようです」
「ふぅん?」
「車を運転していたのは旦那さんで、彼女と息子さんは後部座席に座っていました。山道でカーブを曲がりきれずにガードレールに衝突、転落は免れたんですが、その時の衝撃で旦那さんは首を折られて・・・・・・。岸瀬さんは息子さんをしっかりと抱いていたので息子さんに怪我はなく、岸瀬さんも助手席に体をぶつける格好だったので、軽傷で済みました。彼女曰く、そのカーブを曲がる時に、旦那さんが叫んだらしいのです。『ハンドルが効かない!』と」
「それで妖怪だと?」
「事故直後に、見たそうです。山に登っていく人影を。それは蛙のように木々を飛び越え、瞬く間にいなくなったとか」
「怪しいねぇ」
「その調査をお願いしたいと頼まれました。もう時間も経っていますが、先輩の頼みなのであまり無下にできなくて」
「夏の色恋沙汰をからかってる場合じゃないらしい。本格的に乗り出すか」
「色恋沙汰ではありません」
キッパリという夏輝に、春一は「つまらん」と一言で切り捨てて、目の前に居を構えている羊の毛をつまんだ。
「この毛でかつら作ればみんなモーツァルトだな」
「冗談を言っている場合ではないと今言ったばかりです」
「お堅いやつめ。折角福良が楽しんでんだ。もうちょいいようぜ。お前だって二十年前はあんな感じだったろ?」
「まぁ・・・・・・」
自分が六歳の頃。正直あまり覚えていないが、自分にも福良のような無邪気な時期があったのは確かだ。
「よし、とりあえずその場所を教えろ。そしたら、調査開始だ」