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夏輝のところに戻ると、ちょうど件の女性が席を去るところだった。
「ほう、こりゃフラれたな」
あららと言う春一の意図がよくわからず、福良は夏輝に声をかけた。夏輝はちょっとびっくりして、こちらに手を振り返した。
「きりんにえさあげたんだよ」
「良かったね、福良」
頭を撫ぜる夏輝の横で、福良が今までのことを話して聞かせている。春一は弁当を出して、さっそくおにぎりを口に入れている。
「一杯どうっすか、お父さん」
語尾に音符がついた口調で春一がお茶を入った紙コップを夏輝に渡す。
「・・・・・・見てたんですか?」
「お前がああいう女タイプだとはな」
「違いますよ!」
春一の手からお茶をひったくって、一口飲む。夏輝が動揺するのも珍しいので、春一が更に面白そうな顔をする。
「大学の友人です。彼女はバイオリニストで、カルテットで一緒になったことがあるんですよ。まさかここで会うとは思わなかったので、驚きました」
「お前チェリストだもんな。んで、お前と悠長に話していられるってことは、旦那と来たってわけじゃねーんだ?」
「彼女、未亡人なんですよ。私よりも二つ年上で、昨年旦那さんを事故で亡くしているんです。息子は三歳になるんですが、今日は彼女の母親と来ているらしいです」
「年上趣味だったのか」
「だから!違いますよ。福良の前で変な言葉を使わないで下さい」
「さっき『ナンパ』って教えたぞ。あと『人の頭を叩く者乗るべからず』」
「そういう言葉を教えないで下さい。ハル二世にしないでください」
「大丈夫だ。今のところお前に似てる」
こんな所を似せては大変だと、夏輝はひそかに嘆息した。その嘆息の隙間を縫って春一の鋭い質問が刺さる。
「で、何を相談されたんだ」
「・・・・・・わかってましたか」
「当たり前だろ。旦那の事故関連か?」
「はい。調べてほしいと」
「とりあえず、メシを食ってからでも遅くないんだろうな?」