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今日も四季文房具店にはクライアントが訪れていた。夏輝はいつもの熱いコーヒーではなく、ストローを差した冷たいアイスコーヒーを差し出した。理由は、クライアントである若い男が首を傾けることができなかったからだ。
彼は首にコルセットを巻いて、頭には包帯も巻いていた。とても痛々しい姿で、全身に傷の痕があった。
「あ、すみません。ありがとうございます」
「いえ、お口に合うかわかりませんが」
「あ、うまいっす」
相談に来たのは木嶋亮介、二十五歳。以前何かの噂でこの文房具店の存在を知り、その記憶を頼りに来たらしい。彼が言うには、自分の車を数珠市内の山道で運転中、目の前に大きな猿のようなものが飛び出し、結果として事故を起こしてしまった。それが原因で、こんな姿になったのだという。しかしその猿というものがどうも引っかかる。猿にしては大きすぎるし、手が異様に長かった。助けてもらった通行人に「最近多いんだ、みんな妖怪じゃないかって噂しているよ」と言われ、気になってここに来たのだという。
「俺以外にも被害にあってる人いるみたいだし、まさか妖怪じゃないとは思うんすけど、このままじゃ俺、事故らせたFDに合わせる顔がないっす!お願いします、調べてみてくれませんか?」
結果、夏輝は例の如く誓約書を書いてもらい、進展があったら連絡しますと言って亮介とは別れた。
「ハル、お帰りなさい」
「おー」
若干春一の顔が険しい。何かあったのだろうか。
「何かあったんですか?」
「いや、何でもねーよ。それより、それ。客来たのか?」
春一は空になったアイスコーヒーが入っていたグラスを差して言った。夏輝は事の経緯を春一に聞かせた。春一は眉間に皺を寄せて、拳を握りしめた。