TAKE8 テレビの前のちびっこよ!
さて、一週間ぶりです。風車です。
以前、活動報告の方でも言ったので知っている方もいらっしゃると思いますが、本小説『おん・えあ!?』がPV1000、ユニーク500を越えました。
この小説を書きはじめて約三ヶ月。長かったような、短かったような。
ひとえに、この小説を御愛読していただいている皆様のお陰でございます。この場をお借りして御礼申し上げます。
ついで、と言ってはなんですが……そろそろ感想もいただきたいですね。
では、本編に移りたいと思います。
前回は、ちぃちゃんの問題発言とそれを聞いた放送委員の驚愕の声で終わりました。
さて、今回はどうなるのでしょうか?
それではどうぞ!
――やっとカコバナ終わった……。
「えぇ~~~っ!?」
僕の話を聞いて、レンはかなり驚いたようだ。無理もない。あの時の僕たちだって驚愕の度合いは半端なかった……。
特に男子陣は相当なダメージを受けた。……心に。
だって、パッと見は可愛い女の子なのに歳が……。ねぇ?
特にあの隼の驚き方は凄かった。今思い出してもかなり笑える。
「いや~、あの時はビックリしたな……」
僕が色々な出来事を思い出しながら遠い目をしていると、目前に迫っていた放送室のドアが勢いよく開いた。
「おい、天津! お前、レンに何かしたか?」
放送室からはリンが僕に向かってそう言いながら飛び出してきた。
「は? いや、別になにもしてないけど……」
僕が驚きつつ小さな声で言うと、リンは更に疑うように聞いてきた。
「本当か?」
「本当だって。なにもしてない」
「まぁ、そうだな。隼じゃあるまいし……」
「そうだよ、隼じゃあるまいし」
「でも、レンの声がしたような気がしたんだが……」
リンは腕を組んで考えるように呟いた。
レンの声……って?
「……あ」
「どうした?」
「いや、さっきレンにちぃちゃんの話をしてあげてたんだよ」
「小山先生? というと、あの話か……。なら驚くのも無理はないな」
「っていうか、リンはレンの驚いた声に反応して出てきたのかよ……」
僕はリンの妹想いなところに驚いていた。
「当たり前だ。たった一人の妹だぞ」
たった一人の妹ね。
確かに妹とか弟のことを心配する気持ちは分かるけど、わざわざ放送室から出てくるほどなのか?
そんな疑問を持った僕の頭に浮かんだのは、さっきのリンの寂しそうな表情だった。
あれはたしか、リンがリン自身とレンの生まれた時のことを話したときの表情だ。
どうしてあのとき、あんな表情をしていたのだろう?
僕は疑問に思ったが、今更リンに聞けるはずもなく、僕たちはそのまま放送室へと入ってしまった。
――『マジックが無事生還♪』――
「はい! ということで、マジックが無事帰ってきたので明日の入学式の役割分担をしたいと思いま~す!
みんな知ってるだろうけど、入学式は体育館でやるからそのつもりで」
そう言って、風花先輩が司会となりこの場を取り仕切る。
委員長という役割はこういう話し合いの時に、必ず仕切る立場にならなくてはならないから大変だと思う。
しかし、それを風花先輩は嫌な顔一つしないでする。僕は、そんな先輩をいつもすごいと感じている。
「まぁ、基本的にはいつもと同じだけど。この前赤堀先輩が卒業しちゃったからね。私が司会をやるんだけどそれでいいかな?」
もちろん、委員長である風花先輩が式の司会をやるのが妥当だ。だから、ここでは誰も異論はなかった。
「オッケー。じゃあ、私が司会ね」
「はいはい、いいんちょが司会。っと」
隼が風花の名前をホワイトボードの司会と書かれた場所の下に書いていく。
こうして見ると隼の字が意外に綺麗なことがわかる。隼のすごいところは一見手を抜いているようで、実は何でも丁寧にこなしているところだ。
ちなみに、式中の役割分担としてはこうなっている。
司会……式の進行役。放送委員の仕事の中で最も目立つ役割。立ち位置は生徒側から見て舞台の右側。仕事は、もちろん式の流れを作ること。
A地点……司会の補佐役。式のプログラムに変更があった場合、それに合わせて司会用のカンペを書き換えたりする。司会と同じく舞台の右側にいるが、舞台裏にいるため生徒からは姿が見えない。
B地点……放送室の音響設備担当。放送室といっても校舎内の放送室ではなく体育館内の放送室のこと。具体的にはワイヤレスマイク(コードを使わないマイク)の音量とBGMの管理をする。
C地点……舞台の音響設備担当。有線マイク(コードを使用するマイク)の音量調整とマイクの移動を担当している。待機場所はA地点の逆サイド。左側の舞台裏で、そこには有線マイク用の端子があり、音量の調整ができる。
以上が放送委員の式中の役割分担だ。
ついでに言うと、去年までの僕たちの担当はこんな感じだった。
司会 ……赤堀先輩
A地点……風花先輩
B地点……隼、僕
C地点……天井先輩、リン
例年の配置の決め方として委員長が司会、副委員長がA地点、新人はB地点、その他がC地点というふうになっている。
なので、今年の現放送委員長である風花先輩が司会になるのだ。
それに合わせて、副委員長の僕がA地点。去年の引き継ぎでC地点は天井先輩。残るB地点を隼とリンが担当することになった。
整理するとこうだ。
司会 ……風花先輩
A地点……僕
B地点……隼、リン
C地点……天井先輩
「はい、それじゃあ入学式の役割分担は終わりね」
風花先輩がそう言ったと同時に隼がホワイトボードに文字を書き終えた。
「じゃあ、次はグラブ紹介の役割分担の確認するよ」
風花先輩がそう言うと、隼が今度はホワイトボードの脇についているストッパーを外して、ボードの部分を回転させた。
新しくこちらに向いた面には右端に大きく『グラブ紹介役割分担』と書かれていた。
「まぁ、みんなも知ってると思うけど、明日の入学式は二部構成になっていて、一部は午前中の入学式。
そして、昼食に学校から支給されるお弁当を食べてから、午後の二部。
その二部の内容こそがグラブ紹介なんだよ!
テレビの前のちびっこたち! わかったかな?」
風花先輩がシュビシッ! と誰もいない前方を指差す。
「あの~? そこ誰もいませんけど……。っていうか、誰に言ってるんですか?」
やれやれ、という感じに僕は風花先輩にツッコミを入れる。
「もちろん、テレビの前のちびっこよ」
風花先輩は自信満々にそう言った。
意味分かりません……。
「高校生の難しい大人の事情をちびっこにも分かりやすく伝えることができなくちゃ、立派なキャスターにはなれないのよ!
わかったかな? 翔くん」
風花先輩が何もない空間から今度は僕を指差して元気よくそう言った。
いや、わかった……けど。
先輩の信念的なものは十分に理解できたけど。
「最後の一言に悪意を感じるんですが……」
「感じない、感じない!
気にしない、気にしない!」
「いや、そういう反応されるとすっごく気になるんですけど……」
「それで、グラブ紹介なんだけど」
「無視ですか!?」
「前回の集合で、司会が翔くんなのは決まったんだよね?」
「そうですけど。
って、あくまで無視の姿勢を貫くんですね……」
僕はとりあえず黙ることにした。無視されるならなにもしなければいいのだ!
「で、私たちの、クラブ紹介での仕事は司会進行や音響管理だけじゃないんだよ」
やっぱり風花先輩は僕の言葉を無視して続けた。
まったく、返答に困ったら無視するなんて子供ね~。
………………。
べ、別に悲しくなんかないもん! ただ、ちょっとかまって欲しいだけなんだから。
ふ、ふん。もう知らないんだから!
「いいんちょ~。翔くんが泣いていまーす」
あ、こら。隼! 余計なこと言ってんじゃない。
「えっ!? 翔くん? 大丈夫? どうしたの、どこか痛いの?」
「ふぇ。こ、心が痛いです……」
――『で?』――
「ごめんね。ごめんね翔くん。
そんなに傷つくとは思わなかったから……」
風花先輩が今にも泣きそうな顔をして謝っていた。
「別に……」
僕はツーンとして風花先輩に返す。
「僕のことは無視していいですから。どーぞ、先に進んでください」
そして、更に冷たい態度で風花先輩にこう言った。
風花先輩が先に僕を無視したんだから、僕もこういう態度をとったっていいだろう。
僕だって、だてに風花先輩と一年間同じ部活にいた訳じゃない。風花先輩にとって、冷たい態度をとられることが嫌なことくらい分かっている。そして、それを無視できないことも……。
「そんなことできるわけないじゃない。翔くんがいなくちゃ会議もおもしろくならないよ」
「誰が最初に無視したんですか……」
「だって、無視された時の翔くんが可愛いんだもん」
「誰がっ――!
……………………はぁ~」
危ない危ない。危うくツッコミをしてしまうところだった。こういうときはため息って便利だ。
あくまでもこの場は冷たい態度を続けなくては……。
「で、そんなどうでもいい理由で僕を無視したんですか?」
「……………………」
「どうなんですか?」
「……………………ふぇ」
「は?」
「うわーん!」
突然、風花先輩が泣き出した。
そして、そこへすかさず隼が登場。
「さぁ、いいんちょ。俺の胸で泣き――フゲッ」
しかし、一瞬で風花先輩に突き飛ばされてフェードアウト。
「うえーん。リンちゃーん。翔くんがいぢめるよ~」
最終的にリンの胸に飛び込んだ。
「え? あ、うーん。よしよし?」
リンはためらいがちに風花先輩の頭を撫でてあげていた。
「翔先輩。謝ったほうがいいと思いますよ」
一部始終を呆然と眺めていた僕に、レンが耳打ちした。
「う、うん……。そうだよね」
たしかに、僕は少しやり過ぎたかもしれない。ここは素直に謝るべきだ。
「風花先輩……」
「ぐずっ。……なに?」
「ごめんなさい。
僕が大人げなかったです」
しかし、僕はこのときよく考えて行動すべきだった。
なぜなら……
「わーい。勝った!」
僕が風花先輩の弱点を知っているなら、その逆も十分にあり得たからだ。