TAKE6 君のお腹にヘッドバッド
前回の投稿から丁度一週間が経ちました。今年二度目の投稿です。最近は何とか一週間に一話ペースで投稿することができています。とりあえず、一週間一話を最低限の目標として頑張りたいと思います。
さて、前回は無事ちぃちゃんからマジックを取り返すことに成功した翔とレン。このまま、放送室に帰ることはできるのか!?
では、本編です。どうぞ!
ちぃちゃんからマジックを貰い、目的を達成した僕たちは放送室に戻ろうとしていた。
そのとき、突然レンに問いかけられた。
「翔先輩?」
「うん? なに?」
「小山先生って、いったいいくつなのでしょうか?」
「……それを僕たちが聞かなかった訳無いだろ?」
僕が少し落胆気味に答えると、レンはこちらの様子を窺うように尋ねてきた。
「もしかして……何かあったんですか?」
「うん……ちょっとね……。聞きたい?」
「はい、聞きたいです」
「この先は、すごく危険だよ。もう、進んだら後には戻れない。それでもいいかい?」
「なんか、ゲームのラスボス直前みたいな発言ですね……。でも、大丈夫です。私、そういう緊張感……大好きですから」
レンは拳を握りしめて、僕の目を真っ直ぐに見てきた。
うん。これが本当にラスボスの前だったらカッコイイのに……。昼間の廊下じゃあ様にならないな。
しかも、これからすることは、ただのカコバナだし。
まぁ、ただのとは言っても、僕や隼の心には深い傷をつけたことには変わらないか。
「わかった、話してやろう! でも、決して後悔すんなよ!」
「はい!」
レン……。いい返事だ。って、何!? このノリ!?
僕は一人ボケ、一人ツッコミを心の中でしてみたが、何故か哀しくなってしまったので、気を取り直してその時のことを話し始めた。
――『カコバナ!?』――
僕は急いでいた。とにかく急いでいた。
何故かって? それは、先輩から集合をかけられたからだ。しかも、放送で……。
これが何を意味するか……。ぶっちゃけると、分からない。しかし、元々「今日は掃除当番なんで遅れます」と連絡を入れておいたにも関わらず、集合がかかった。
これは……事件のニオイがする! という根も葉もない理由で、僕は放送室へ向かう足を速めているのだった。
放送室に向かうために、廊下の角を曲がろうとした時だった。
突然、小さな人影が僕の胸に飛び込んできた。
飛び込んできたといえば聞こえがいいけれど、実際は角を曲がる瞬間まで全速力で走っていたらしい相手が、少し急ぎながらも廊下は走らない精神を守っていた僕の胸にヘッドバッドを喰らわしたのだった。
その痛みは、なんというか……口では表したくないような痛みだった。それだけでなく、一瞬呼吸が止まった気さえした。
「グハッ! ゲホッ!」
ドサッと地面に倒れ込む僕。そのまま気を失えたら、どんなに良かったことか。
いや、結局気絶したとしても殴られるから変わらないのかも……。
「だ、大丈夫ですか? …………あの~?」
僕にぶつかってきた人は、僕の安否を気遣うように聞いてきた。しかし、意識が朦朧としていた僕はそれに答えることができなかった。
「た、大変です……死んでしまいました」
いや、まだ死んでな――
「あっ! そうですよ! 死んだ人でも心臓に刺激を加えれば生き返るっておじいちゃんが言ってました」
は? いや、心臓に刺激を、って……
「えい!」
「ウゲッ」
胸を平手打ち……。
おもいっきり胸に喰らわされた一撃は、心臓ではなく肺に刺激を与えた。圧迫された肺から無理矢理に押し出された空気で、僕はむせてしまった。
「ゲホッ! ゴホッ! オエッ」
吐き気が起こるほどの強い刺激を僕の心臓は耐えたのかと思うと、自分の心臓が少し誇らしく思えてきた。
「わ~い、よかったです。生き返りました!」
いや、そもそも死んでねぇから。というツッコミはむせていたのでできなかった。
……さて、いったい出会い頭にヘッドバッドをしてきたのは誰なのか。やっと、その顔が拝見できるぜ。
と思って、僕は声の主の方を見た。
…………小学生?
そこには、ハートの刺繍が所々に施された水色のワンピースに身をつつみ、髪の毛をさくらんぼのついたゴムで束ねている少女。
どこからどう見ても高校には不釣り合いな女子小学生が、心配そうな顔つきでこちらの顔色を伺っていた。
「へ?」
普通にウチの学校の生徒だと思っていたから完全に予想外だった。
そして、人間は自分にとって意外なことが起きると、間抜けた声しか出ないということを身をもって体感した。
「どうかしたんですか? 私の顔に何かついてます?」
「いえ、そういうわけでは……」
「そうですか? まぁ、いいです。
ここで会ったのも何かの縁です。道を聞いてもいいですか?」
小学生にしては随分しっかりした子だな。とか考えていた僕は、少し反応を遅らせながらも肯定をした。
「えっ? あ、うん、大丈夫だよ。で、どこに行きたいの?」
僕がそう聞くと、その子はニッコリ笑いながらこう言った。
「放送室です」
――『それで!?』――
「へ~。美鳥ちゃんって言うんだ。可愛い名前だね」
僕は、階段を登りながら美鳥ちゃんに話しかけた。
先程ぶつかってきた少女は、小山美鳥という名前らしい。
話を聞くと、美鳥ちゃんも放送室に行こうとしていると言うので、僕たちは一緒に放送室へ行くことにした。
「えへ、ありがとうございます。私も結構気に入っているんですよ、この名前」
美鳥ちゃんは笑いながら階段を一気に駆け上った。
僕は美鳥ちゃんを追っかけて、階段を急いで登りながらこんなことを聞いた。
「そういえば、美鳥ちゃんはなんで放送室に行くの? 何か用でもあるの?」
「え? あ、まぁそんな感じです」
「ふ~ん」
誰かの親戚の子なのかな?
僕は、そんなことを考えながら廊下の角を曲がった。すると、前方約10mに放送室のドアが見えた。
「ほら、あそこが放送室だよ」
「わ~。ありがとうございます。助かりました。翔ちゃん」
「か、翔ちゃん!?」
僕は思わず聞き返してしまった。
「そうですよ? 天津翔。だから翔ちゃん。何の問題もないじゃないですか」
「ん~。まぁ、そうだね」
僕は人の呼び方もいろいろあるんだなと思った。しかし、そこで一つの疑問が浮かんだ。
あれ? 僕、名前言ったっけ?
しかし、僕がその疑問を口に出す前に美鳥ちゃんは放送室の中へと入ってしまった。
「あっ、ちょっと!? 美鳥ちゃん!?」
僕も遅れて、放送室の扉を開けた。
すると、中には僕以外の放送委員が全員集合していた。
「おう、天津。丁度いいところに来たな」
僕が放送室に入るなり委員長の赤堀章先輩に、そう言われた。
この頃のメンバーは、現放送委員のメンバーに3年生の赤堀先輩が加わった計6人で構成されていた。
「ほら、翔くん。章先輩が重大発表があるんだって。早く座りなよ」
風花先輩が僕を手招きして、椅子に座ることを勧めた。
「いや、別に重大発表というわけでもないんだがな……」
赤堀先輩が困ったように呟いていた。僕は、そんな赤堀先輩の横を通って席についた。
そこで、赤堀先輩の隣に美鳥ちゃんが立っているのに気がついた。
「で、重大発表というのは、その可愛らしいお嬢さんのことですか?」
と天井先輩が赤堀先輩の隣に立っている美鳥ちゃんに目を向けながら言った。
「そうですよ。いったい、その娘は誰なんすか? もしかして、先輩の妹ですか?」
「そうだな。それが一番あり得そうな話だ」
隼の質問にリンが同意した。
しかし、美鳥ちゃんの苗字は、さっき聞いたように小山だ。赤堀先輩の妹というのはまずないだろう。
僕たちがそんなことを言っていると、ついに赤堀先輩が口を開いた。
「あ~。お前たち? さっきからいろいろな憶測が飛び交っているが、この人は先生だぞ?」
そのとき、放送室内の時間がたっぷり3秒は完全に停止した。
『……………………………………………………え? えぇ~~~~~~~~~~っっっっっ!?』