TAKE5 不思議な人ですね
さて、前回はリンとレンが並んで立っていたところに、天井先輩が乱入。
いったい、どうなってしまうのか!?
それでは、どうぞ!
「皆、遅れてごめん……ね!?」
振り向くと、天井先輩が目を見開きながら、いかにも「驚いてます」って顔をしていた。
「え? あれ? リン君が……二人? ……って、もしかしてドッペルゲンガー!?」
天井先輩はずり落ちた眼鏡を押さえながら、驚いた調子で言う。
「あぁ、天井先輩。これはですね――」
軽く混乱状態の天井先輩に僕が説明しようとしたら、
「ドッペルゲンガーってことは……もしかしてリン君、死んじゃうんじゃ」
「あの~。もしもし? 天井先輩?」
軽く暴走し出した。
「だってほら。本人がドッペルゲンガーと会うと死の予兆って言うし……。どうしよう、リン君が死んじゃうなんて。そんなこと考えてもみなかった。これから放送委員3人でどうやっていくのさ」
「あの、天井先輩? そうじゃないんですけど……。っていうか、3人だと1人いなくなってるんですけど…………ダメだ。聞いてない……」
そんな暴走状態の天井先輩を止めるために、何か打つ手はないかと考えていると、
「(翔くん、私に任せて)」
突然、風花先輩に耳打ちされた。
「(……? ……分かりました。お願いします)」
僕がそう言うと、風花先輩は頷き机を迂回して天井先輩の後ろに回り込んだ。
「あぁ。お葬式って制服でいいんだよね? あれ? お金とか必要だっけ?」
いつの間にか天井先輩はリンの葬式まで話がいってるし……。後、お葬式はお祝いではないのでご祝儀はご遠慮ください……。
「成輝くん! 少し落ち着いて」
風花先輩はそう言って天井先輩の両脇の下に手をいれた。
「あははは!? ちょっ!? 風花くん? やめっ!? あはははは!?」
「成輝くん。落ち着いた?」
そう言いながらも風花先輩はくすぐる手を緩めない。
「お、落ち着いたから。あはは!? や、止めて……」
「うん。よろしい」
天井先輩がそう言うと、風花先輩はようやくくすぐりを止めた。
くすぐりから開放された天井先輩は、一度深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「…………皆、ごめん。一番辛いのはリン君なのに……」
天井先輩は深刻な表情でそんなことを呟いていた。
結局、天井先輩は壮大な勘違いをしたままだったけど、さすがに双子という選択肢はこの中には存在しないと思った。
――『で!』――
「え? 双子の妹!? 通りで瓜二つな訳だよ」
あ~。びっくりした~。と言いながら、天井先輩は椅子にぐったりと腰かけた。
「さてと、みんな揃ったことだし、ちゃっちゃと役割分担しちゃおうか」
風花先輩が明るい調子でそう言った。
「と言うことだ。任せたぞ書記」
リンが隼にホワイトボードを指差しながらそう言うと、
「おう。任しとけ」
隼は席を立ってホワイトボードのところまで歩いていった。
すると、首を傾げながら隼がこちらを振り返った。
「あのさ、マジックが無いんだけど?」
「はぁ? なんで?」
僕が問いかけると
「知るかよ、ないもんはないんだ」
と隼は言ってホワイトボードの周りを探しだした。その時、僕の横で天井先輩が思い出したように言った。
「そういえば、小山先生が放送室のマジックを借りていかなかったかな?」
「あぁ、そういえばそんなこと言ってたね」
風花先輩も思い出したようだ。
「それって、いつのことですか?」
リンが聞くと、
「学年末の最後のホームルームでね、ちぃちゃんが私たちにマジック借りたから~って」
風花先輩がそう答えた。
そのとき、レンが、あの~、と言いながら小さく手を挙げた。
「それなら、その小山という先生のところまで行ってマジックを貰ってくればいいんじゃないですか?」
このレンの一言で、放送室の空気が変わった。
「ああ、レンの言うとおりだな」
「でも、全員で行くと面倒だからな。……誰が行くか決めないとな」
リンと隼が拳をポキポキ言わせながら睨み合っていた。
「ということで、後輩諸君。マジックの件は任せたよ!」
先輩たちは参加しないようだった……。
僕は、覚悟を決めてこう言った。
「いざ……」
『ジャンケン、ポイッ!』
勝負は、一瞬だった。
――『で!』――
「……なんで僕が行くんだ?」
僕は今、職員室へ行くために、廊下を歩いているところだった。
「まあまあ、いいじゃないですか」
ちなみに、レンも一緒にいる。
結局、ジャンケンをした訳だが……。負けた。
だから、ジャンケンは嫌なんだ。絶対、負けるから。しかしなぁ、どうしてみんなグーなんだよ。やっぱり、好戦的な奴等は最初にグーを出すという漫画的な法則は合っているのだろうか?
「ただ、職員室で先生からマジックを貰えばいいだけなんですから」
そうだな、レンもこう言ってる訳だし、ポジティブ思考でいこう!
そう決意した僕、とレンは、職員室へ行くために曲がり角を右へ曲がろうとした。しかし、曲がろうとしたところで、胸の辺りに衝撃が走った。
「グハッ!」
「へ?」
あぁ、世界がなんか遠退いて……。
そして、僕は廊下に倒れ込んで意識を失った。……訳ではなく。
「ゲホッゲホッ。うわ、痛い。苦しい。な、何があったんだ?」
あぁ、痛かった。胸を鈍器で叩かれたような気がした。そういえば、昔、似たようなことがあったような……。
あぁ、ダメだ。やっぱり眠いよ……。おやすみ、パト――グハッ!
安らかに眠ろうとしたら、再び胸に衝撃を受けた。
「いつまでに寝てるんですか! 早く起きてください!」
僕に危害を加えたであろう犯人Kは、とても理不尽な暴力を更に僕に加えた。
「いや、待って、待って、起きます。起きますから!?
どうして、さっき衝撃を受けたばかりの胸を叩くんですか!?」
「だって、ここが一番痛くなさそうじゃないですか?」
「ここが一番心臓に近いところなんですがねぇ!」
「じゃあ、顔は?」
「明日のクラブ紹介の司会が、ボコボコの顔で務まりますか?」
「じゃあ、どこを叩けばいいんですか?」
「もう! どこも叩かなくていいんですよ!」
ここで、一人取り残されていたレンが、こんなことを言った。
「あの~、この子はいったい、誰ですか?」
「あぁ、この人はさっき言ってた小山先生」
僕がレンにそうやって言うと、レンはとても驚いたように目を丸くした。
なんか、今日は驚愕の表情ばっかり見てるな……。
「はい?」
まぁ、無理もないか……。
明らかに小学生みたいな女の子をいきなり先生として紹介された訳だしな。
「あれ? リンちゃんもいたんですか」
あっ、もう一人分見ることになりそうだ……。
「あ、私、リンお姉ちゃんの妹のレンです」
「え? レン?………………あぁ! レンちゃんですか。そっか、リンちゃんは双子の妹さんがいたんでしたね」
あら、意外にも驚くこともなく終わってしまった。しかし、ちぃちゃんが生徒の家族構成を知っていたのは驚いたな。いろいろ、忘れっぽそうなのに……。
「翔ちゃん? なんか失礼なこと考えなかった?」
「いえ、別に……」
あぶねぇ……。殺されるかと思った。
小学生みたいなって言うより、小学生そのものな、ちぃちゃんから殺気が出ているのを見るのは、なんともシュールな光景だった。
「そうそう、君たちにマジックを返そうと思ったんですよ……ハイ」
「あっ。ありがとうございます」
「それじゃ、私は仕事が残ってますので。バイバイ!」
「失礼します」
ちぃちゃんは職員室の方へと戻っていった。
「不思議な先生ですね」
「まあね」
新年明けましておめでとうございます。
突然ですが、今年の私の目標は、おんえあ!? を頑張って完結させることです。
私のこの小説を読んでいらっしゃる方のためにも、日々努力をして、最高の形で完結させられるように頑張ります。
今年もよろしくお願いいたします