TAKE4 10分間の意味
どうも、一週間ぶりです。
さて、前回はリンが意味深な発言をしたところで終わりました。果たしてその発言の意味とは? ということで本編いってみましょう!
「あたしとレンは双子ではあるが同じ学年ではないんだ」
僕の目の前に座っているリンがそう答えた。
「なるほど! ……さっぱりわからん」
この発言だけではいまいち理解ができない僕に、レンがこう言った。
「私は明日から高校一年生なんです」
「双子なのに僕たちの一つ下の学年なの?」
やはりよく状況を把握できていない僕に、今度はリンがこんな質問をした。
「じゃあ天津。あたしの誕生日を知っているか?」
えーと、リンの誕生日?
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「………………ごめん」
「いや、話した覚えは無いから知らなくて当然だ」
「お~い、俺知ってるぞ。今日だろ?」
その時、僕の左隣に座る隼が答えた。
「ああ。正解だ」
「今日って……。4月1日?」
「そうだ。4月1日。つまり今日があたしの誕生日。正確に言うと、17年前の今日、23時50分にあたしは生まれた」
「23時50分? 随分と夜遅いな。というか、リンって後10分生まれるのが遅かったら僕たちの一つ下の学年だったのか」
僕がそう言うと右隣に座る風花先輩がパチンと手を打って言う。
「なるほど。だから、リンちゃんとレンちゃんは双子なのにレンちゃんの方が一つ下の学年なんだ」
「えっ? 風花先輩分かったんですか?」
僕が驚きつつも風花先輩に聞いてみると、隼が横から口を挟んできた。
「お前、さっき自分で答え言ってたぞ」
「嘘、マジ?」
「あ~。分かった人もいるみたいだが――」
リンが何か言おうとしたのを遮ってレンが話し出した。
「私が生まれたのが、お姉ちゃんの生まれた10分後で、その時ちょうど日付が4月2日に変わっちゃったってことですよ」
レンの話をリンが更に続ける。
「つまりは、そういうことだ。あたしたちは母親の腹の中で同じ時間を過ごしたのに、出てくるときの時間差で学年を区切られた。たったの10分の間で超遅生まれと超早生まれの双子の出来上がり、という訳だ」
と、姉妹のことを話すリンの顔はどこか寂しそうだった。
そんなリンを見て何を思ったのかレンが焦ったように言った。
「と、とにかくですね。私も明日から皆さんと同じく、青雲学園の一員になる訳ですよ。だからその挨拶も兼ねて放送委員の皆さんを驚かせるためにお姉ちゃんの真似をして放送室に潜り込んだんです」
なるほど。だからあんなことしてたのか。
「いや~。泉川先輩はすっかり騙せたんですけどね。まさか、初っぱなで岩城先輩に一瞬で気づかれるとは……迂闊でした」
「ん? どういうこと?」
「つまりですね」
「………………」
「………………」
「………………」
「ということがあったんです」
「なるほどな、そんなことが」
レンの話はというと、大体こんなかんじだ。
朝。昨日、リンから放送委員の集まりがあると聞いたので、レンは急いで制服に着替えて青雲学園までやって来た。そして、レンはそのまま放送室に向かい、そのドアを開けた。
レンは少し前から放送委員になることは決めていたらしい、またリンから放送委員の話を色々と聞いていて委員の顔と名前は知っていたという。そこでレンは考えた。どうすればはじめから僕たちと打ち解けることができるのか。
そうして考えついたのが今回の『もうひとりのリン計画』(?)だったらしい。
その計画の第一段階として、よし放送室に入ろう! と思った訳だ。それで意気揚々とドアを開けようとしたら、突然ドアが開いたらしい。それに驚いたレンは後ろに飛び退いた。そしたら、知らないうちに後ろにいた風花先輩とぶつかったという。
なるほど、だから風花先輩のおでこが赤かったのか。
ここでレンたちは先程の僕たちと同じ状況になったわけで、リンの行動パターンを理解しているレンは隼をボコしたと。
この行動で風花先輩を騙せたと思ったら、隼が突然
「この優しさのこもった力加減……君はリンじゃないな。いったい誰だ?」
こんなことを口走ったらしい。さすが一日一回はリンの攻撃を受けているだけある。しかも最近、「リンのパンチを受けないと一日が始まった気がしないな」とか血迷った発言をしてたしな。
当然レンはこんな状況を想定していた訳もなく一旦思考がフリーズした。そんなレンの状態を知ってか知らずか、隼はレンに顔を近づけてこう言った。
「顔立ちはリンとそっくりだけど、よく見ると目元が少し違うな」
「え? この娘、リンちゃんじゃないの?」
「はい。俺の感覚を信じて下さい!」
「う~ん、妙に説得力があるのが不思議だよ……。で、結局あなたは誰なの?」
そうやって、風花先輩に問われたレンは顔がどうしようもなく熱くなりながらもなんとか自己紹介をしたとか。
「あ、あの、あの、り、リンお姉ちゃんのふ、双子の妹の双葉レン……でふ…………う……うー……うにゃっ!!」
レンはこんな風に男の人に近づかれたことはなかったらしく、頭が混乱してしまい隼をもう一度殴ってノックアウト。
隼曰く、あのときの赤面顔は軽くキュン死ものだったらしい。
まあ、そのことを口に出した途端、隼はリンとレンからチョップを喰らっていたが……。
という訳で、一通りの話の流れは大体分かったが、まだいまいちわからない点がある。
「で、さっきの5分36秒ってのは?」
「いつになったら私とお姉ちゃんの違いに気づくのか時間を計ってたんです」
「あぁ。左様ですか」
「ちなみに泉川先輩と隼先輩は5分を越えるか越えないか賭けをしていましたよ」
「それか!?」
「ちなみに何を賭けていたかと言うとな。いいんちょの――」
隼が何か言おうとしたのをすかさず風花先輩が遮る。
「フライドポテトだから!? フライドポテト奢るだけだから」
「ええっ? 先輩に集るのか……ダメな奴だとは思ってたけどまさかそんなに」
「いやいや、冗談だって。実際、賭けに勝っても奢ってもらわないつもりだったし」
隼は顔の前で手を振って否定をする。
「負けたときは?」
「もちろん奢るさ」
「さすがドM」
いい笑顔で宣言してやがる。
「ちげぇよ!? そんなんじゃないから!」
「お姉ちゃん。隼先輩……ドMなの?」
レンが隣に座るリンに聞いた。
「あぁ、そうだぞ。だからたくさん殴ってやりな」
「いや、その役回りはお姉ちゃんだけで充分だと思う……」
リンは……ブロックとか割れるからな。
「でもさ、二人ってすごく似てるよね」
ふと、風花先輩がそんなことを言い出した。
「ねぇねぇ、ちょっと髪ほどいてそこに並んでみてよ」
「別に構わないが」
「私も構いませんよ」
リンとレンはそれぞれ答えて席を立った。そして、放送室の入り口とちょうど反対側に位置するホワイトボードの前に並んで立った。
「しかし、本当に似てるわね」
そう呟く風花先輩に僕も同意する。
「そうですね。僕ももう、どっちがリンでどっちがレンなのか分からないです……」
しかし、世の中には例外というものがある。これはどこにだって必ずと言っていいほど存在しているものだ。そしてやはり、ここにも例外が存在した。
「そうか? もう、楽勝に見分けられるぞ」
隼が僕の隣で普通に言ってのけた。
「俺たちから見て、右がリンで左がレンだろ?」
「そ、その通りです……」
「よ、よく分かったな……」
隼が見分けられるというのはどうやら本当だったらしい。
そのとき、放送室のドアが開いた。
「皆、遅れてごめん……ね!?」
振り向くと、天井先輩が目を見開きながら、いかにも「驚いてます」って顔をしていた。
あぁ、僕もさっきはこんな顔をしていたんだろうな……。