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TAKE2 休日の学校って寂しいよね

ひゃっほう!! ついに試験が終わった。ということで、小説を書くことを解禁しました。

 校門を通過したあと、天井先輩とは下駄箱のところで一旦別れることとなった。


 何故、そうなったのかというと、青雲学園の校舎は下駄箱の位置が二つに別れているからだ。


 先程通った校門から真っ直ぐに歩いて行き、突き当たったところに本館西口があり、2・3年生の下駄箱が設置されている。


 また、西口に入らず、右に曲がって行くと左手に二号館と1年生の下駄箱がある二号館東口があるのだ。


 このような特殊な構造のお陰で、仲の良い先輩と雑談しながら登校する場合、丁度流れに乗ってきたところで話が中途半端に終わってしまうのだった。


「それにしても、どうしてウチは下駄箱が二つもあるんだよ。

すごく面倒じゃないか?」


 下駄箱への入り口を開けて校舎の内側に入った僕は、休日の学校特有の寂しい空気を感じながらそう言った。


 実際、誰かに答えを求めたわけでもなく、本来ならばその独り言は閑散とした薄暗い校舎の空気に吸い込まれていくはずだった。


 そう……本来ならば。


「それは、一年生の教室が、この東口の真上に建てられた二号館に集中しているからだと思うぞ?」


「っ!? ――痛ッ」


 突然、誰もいないと思っていた自分の背後から声をかけられた。


 そのことに驚いた僕は、丁度靴を履こうと前屈みになっていた頭を勢いよく元の位置に戻そうとした。そのため、上履きを取り出す際に開いておいた下駄箱のドアに頭を思いっきりぶつけてしまった。


 それを見た声の主――双葉リンその人は、


「ちょっ!? おい? 大丈夫か? いや、そこまで驚くとは思わなかった。すまん」


 物凄い勢いで謝ってきた。


 ちなみに、彼女は僕と同じ一年生だ。肩の長さまで伸ばされた艶のある黒髪は、綺麗に頭の後ろにまとめられている。


「いた~い、死ぬ~。頭が割れる~。ねぇ? 血出てない? 死なないよね?」


「いや、大丈夫だ。少なくとも血は出ていない。死ぬことは無いだろう」


「そっか。ありがとう」


「いや、元はといえば、あたしが気配を消して、天津の後ろからいきなり声をかけたのが悪いんだ」


「いや、待てよ。なんで、気配を消す必要があったんだよ」


「あ、すまん。昨日、影が薄い主人公の小説読んだからだ」


「マジかよ……じゃあ、これから視認できなくなるほど影が薄くなったり……」


「するかもな」


「するの!?」


「あ、大丈夫。死体になったら見えるようになるから」


「どんなバットエンドだよ!?」


「トラックに……」


「えっ……轢かれるなんて……そんな、酷い」


「轢かれそうになったのを避けようとして、電信柱に頭をうった」


「ダサっ!?」


 そんなくだらない話をしながら、僕たちはこの学校のとある場所に向かって歩を進めていた。


 リンと合流してから、くだらない話をしながらも階段を上り、四階までやって来た。


 この学校の四階には二号館と本館を繋ぐ連絡橋がある。その連絡橋を渡り本館に侵入完了。


 そこからは、廊下を真っ直ぐ進み、突き当たったところを右に曲がる。すると、目の前に一つのドアが現れる。


 目の前のドアにはA4サイズのコピー用紙に『放送委員以外立入禁止』とオレンジ色の達筆な文字で書かれたものが貼られていた。

 そう、ここは放送委員以外の立ち入りが禁じられている放送室。


 そして、その放送室に向かっている僕たちは、放送委員だ。


 ちなみに今朝の電話の相手の隼も、一緒に登校してきた天井先輩も放送委員である。


 僕は、L字型のドアノブに手を掛けてドアを開けようとした。


 いや、正確に言うなれば、ドアを開けようと思い、ドアノブに手掛けようとした。


 ――次の瞬間


 ドアノブが消えた。


 ――いや、違う。


 ドアノブが回された。


 ――誰に?


 決まってる。……内側の人間にだ。


 そして、放送室のドアが勢いよく開かれた。


 僕の身体へ向けてボディーブローのように開け放たれたドアを見て、僕は反射的に後ろへ飛び退こうとした。


――が、しかし。

 飛び退こうとした先には、事態を理解できていないリンが立っていた。


「おい!? 何やっ――ッ」


 何かを言おうとしたリンを巻き込みながら、僕は体勢を崩して後ろに倒れ込んだ。


 僕とリンはそのままもつれ合いながら後ろに倒れ込んだ。


 幸いなことに僕には異常は無かったようだ。

 意識を失っているわけではないし、どこかが痛いわけでもない。


「ははっ! コケてやんの――って、あれ? リン? ……………………わわっ!? ごめん。リン、怪我してないか?」


 でも、コイツを許すわけにはいかないな。


「おい、翔。いつまで乗ってる気だ?」


「おっ、すまん」


 特に僕の下敷きになってる人が……。


 自分の下から怒気を含んだ低い声が聞こえたので、すぐに自分はその場所から離れた。


 リンは、重しがなくなって自由になった身体を一切の無駄のないスムーズな挙動で持ち上げた。


 そして、先程の怒気を含んだ声でこう告げた。


「さぁ、隼。言い残しておきたいことはあるか?」


 そこには、修羅が立っていた。


「いや、その……待ってくれ、今のは事故なんだ」


「成程、お前は事故で転んだ相手に『ははっ! コケてやんの』って言うのか」


「いえ……そういうわけでは」


 僕は、後ろで起きている出来事を無視して放送室のドアを開けた。


「おい、翔ッ!!。俺を見捨てるのか!?」


 後ろから隼の悲痛な叫び声が聞こえたような気がするが、気にしては駄目だ。


 元はといえば、隼が僕を驚かすために内側からドアを勢いよく開くという遊びを始めたのが悪いのだ。


 しかし、何も言わないで見捨てるのもよくないかもしれない。そう思った僕は、


「きちんと罪を償いな。確信犯だろ?」


 と事実上の死刑宣告を突きつけ、放送室のドアを閉めた。


 その後、隼の絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。南無。


「あの~、ねぇ? 翔くん?」


「何です? 風花先輩?」


 放送室の中に入ると、中にいた軽くパーマのかかったブラウンの髪が印象的な少女に話しかけられた。


 彼女は風花先輩。本名は泉川風花。放送委員並びに放送委員長だ。


 風花先輩は呆れたように笑いながらこう言った。


「隼くん、ドアの窓から人影が見えたら、いきなりドアを開けてくるんだけど。なんか理由でもあるの?」


 僕にそう問いかけてきた風花先輩の顔をよく見ると、おでこが赤くなっていることに気がついた。


「風花先輩? そのおでこ――」


 どうしたんですか? と聞こうとしたところで、僕は先ほどの彼女の言葉を思い出す。


――「ドアの窓から人影が見えたら、いきなりドアを開けてくるんだけど」


 あぁ、そうか。……アイツか。


「先輩。ヒト狩りいってきます」


「ちょっ!? 翔くん!? なんか字が変だよ?」


「ひゃっほう!! 狩猟解禁!!」


 と僕がガッツポーズをしていると、


「まぁ、落ち着けよ。翔」


 突然、近くのパイプ椅子に座っていた人物に話しかけられた。


 よく見るとそこには、黒髪のポニーテールに、落ち着いた雰囲気を纏った少女がいた。


「あれ? リン。戻ってたのか」


「ああ」


 そう。そこには、今頃隼をギッタギタのメッタメタにしているはずのリンが座っていたのだった。


「それにしてはドアが開いた気がしないんだが……」


「気のせいだろ」


「……そうか。じゃあ、隼は?」


「外で転がってると思うぞ?」


 と言いながら、リンはドアの方を指差した。


「分かった。とりあえず、トドメさしてくるわ」


「いや、大丈夫だ」


「え? なんで?」


 と、僕が問いかけてみると。


「放置しておいた方が色々と面白そうだ」


 いや、先生に見つかったらヤバイから。っていうか、リン。


 ……お前はいつからそんな黒いキャラになってしまったんだ!?


「それに、成輝先輩が来たときに回収してくれると思うからな」


 ついには先輩任せかよ!? という突っ込みはとりあえずしないでおく。


 なぜなら、こんなリンを見るのは実は僕も初めてで、どのように扱ったらいいのか頭の中で算段を立てていたからだ。


 実際問題、リンは空手の初段を持っていて、レンガだろうがブロックだろうがなんでも粉々にしてしまうことが可能である。


 というのも慎重にならざるおえない理由の一つなのだが……。


 そういえば、最近のリンは「あたし、遂に〇重の極みを完成させたぞ!」って言いながら、隼に襲いかかってたな……。


 たぶん嘘だろうけど……。空振って壁にぶつかったら、壁が粉々になってたけど……。


 うん、そうだ。気にするな。気にするな天津翔。


 ということで、まずは当たり障りない質問をしておこう。


「ん? 天井先輩、まだ来てないの?」


「あぁ。成輝くんね。ちぃちゃんのところに用があるから遅れるって言ってたよ」


「ちぃちゃんの?」


 ちぃちゃんとは僕たち放送委員の顧問をやっている先生だ。


 本名は小山美鳥。ちなみに、彼女の先生としてのモットーは『生徒は友達』というものらしい。


 もちろん――どこぞのサッカー漫画のパクリだよ!? という突っ込みを放送委員総出で行ったのは言うまでもない。


 しかも、この台詞。よく考えたら、熱いのかぬるいのか分からないので、非常にしまらない。


「っていうか。リンはなんで天井先輩がまだ来てないことを知ってるんだ? 僕たちは一緒に来たはずだろ?」


 ビクッ!! とリンの体が、一瞬驚いたように跳ね上がった。


 しまった!? 選択肢を間違えたか? 僕の人生もここで終わりのようだ……。はぁ。考えてみれば――


「え? あぁ。そう、だったな。いや、でも、そんなの部屋の中を見ればわかるでしょ」


 やった!! 助かった。


「? ……あ、ああ。そうだな」


 でも、あれ? なんかリンの言動に違和感があった気がするが……気のせい……だよな? 


 そんなことを考えていると、不意に放送室のドアが開いて、誰かが入ってきた。


「ふぅ~。全く、岩城にも困ったもんだな」


 振り返るとそこには、隼を引きずりながら放送室に入ってくる黒髪ポニーテール。


 二人目のリンが、そこにはいた。

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