TAKE1 始まりは朝からだった
それでは、ここからが本編です。どうぞ!
ピンポンパンポーン♪
突然のことで、何が起きているのか分からない人も多いと思うので、事の発端である昨日の朝まで時間を巻き戻してみようと思う。
ピンポンパンポーン♪
時を遡ること約一日。僕の朝は一本の電話から始まった。
ポップス調のメロディに前向きな内容の歌詞。そんな僕のお気に入りの曲が朝日の射し込む部屋を駆け巡った。
おかしいな、目覚ましなんてかけたっけ? などと寝ぼけながら、僕――天津翔は、軽快な音楽を発しているケータイを掴んでみた。
すると、サブディスプレイには僕の親友――岩城隼の名前が表示されていた。
あぁ、電話か……。
そう思った僕は、ケータイを開き通話ボタンを押した。そして、マイクに向けてこう言った。
「おやすみ」
『おい、ちょっと待て!』
「ZZZ」
『寝てんじゃねぇぞ、おい!?』
「おいおい、うるせぇよ! このおい惚れが!」
『誰が上手いこと言えって言った!?』
「ワタシニホンゴワカリマセン」
『黙らっしゃい!』
「ったく、お前がうるさいから眠気が冷めちゃっただろ」
『それはようござんした。こっちはお前との友情が冷めそうだぜ』
なんか色々と愉快な感じになっている電話の相手の名前は岩城隼。
隼は、僕の小学校からの付き合いで、数少ない、親友と呼べる人間のうちの一人だ。
そんな隼とは、今も同じ高校に通い。同じ部活にも所属している。とんだ、腐れ縁というわけである。
「ところで、何のよう?」
『あぁ、今日な――』
「つまらない話だったら、後で覚えてろよ」
『まさか……。集合だよ』
「え? マジ?」
『今日の10時に放送室だと』
僕は、一旦通話を止めて時計を見てみた。
時計は9時少し前を指していた。
しばらく考えて、僕はひとつの可能性を見出した。
「夜の?」
『アホか! 一時間後の10時だよ』
しかし、その可能性は無残にも一行ともたずに潰されてしまった。
やっぱりもう、起きなくちゃダメか。
「あ~、分かった。サンキュー」
『ユーアーウェルカム』
「あっそうだ」
『?』
「後で覚えてろよ」
『ワタシニホンゴワ――ブチッ』
僕は、そのまま通話を強制終了した。
「さてと、メシでも食うか」
誰にでもなく一人でそう呟くと、僕はベッドから起き上がって部屋を後にした。
今日はちょうど4月1日。
今の時期、新たに高校に入学する学生達にとっては気持ち新たに高校生活を心待ちにしている頃だろう。
ちなみにあの後、軽く朝食を摂ってから手早く制服に着替え、10時に30分程度の余裕をもって家を出発した。
僕は今、視界の所々にピンク色の花をつけた桜が見受けられる通学路を歩いている。
僕の通っている高校――青雲学園は、青雲町のほぼ中心に位置している県立高校だ。
生徒数は全体で約400人。
多くもなく、少なくもない、至って中くらいの高校。
それが、我らが青雲学園である。
そういえば僕も去年は、今年からは高校生なんだから頑張らなくちゃ! なんてことを思いながら、この時期を過ごしていたのだろうか?
たった一年前のことのはずなのに忘れてしまっているみたいだった。
そんなことを考えながら歩いていると、目の前に見覚えのある後ろ姿があった。
「天井先輩?」
僕は、その後ろ姿にそう呼び掛けてみた。
その後ろ姿はこちらの声に気づいたようで、一旦立ち止まってこちらを振り向いた。
「あぁ、天津くんか」
「おはようございます、天井先輩」
この人は天井成輝。僕の一つ上の先輩だ。ついでに言うと、僕のご近所で、この高校に入る前からの知り合いだったりする。
いつもニコニコと辺りに笑顔を振りまいている天井先輩は、青雲学園内優男選手権なんてものを作ったら、余裕で一位通過できそうな程整った顔をしている。
天井先輩と合流した僕は、再び学校に向けて歩き始めた。
そこで僕は、朝からの疑問を口にしてみた。
「そういえば、今日って何の集合なんですか?」
すると、天井先輩は意外そうな顔をしながらこう言った。
「あれ? 知らなかったのかい? 明日は入学式だから、今日はその準備だよ」
「あっ、そういえばそうでした」
確かに、明日の4月2日には入学式があった気がする。
ちなみに、これだけ聞くと、青雲学園は他の学校に比べて入学式が早いと思われるかもしれないが、これには理由がある。
実は、その翌日である4月3日から、5日までの3日間、新一年生たちは新たな友情を育むためとかいう名目で、学校に泊まり、プチ修学旅行のようなものをすることになっているのだ。
「それにしても……」
突然、天井先輩は懐かしそうに目を細めながら言った。
「どうかしたんですか?」
と僕が聞いてみると、天井先輩は、大切な我が子を見守るような、優しさを含んだ視線をこちらに向けながらこう言った。
「天津くんも遂に、先輩になるんだなぁって」
「そりゃ、そうですよ。僕だって成長します」
「さっき、入学式の日程忘れてたけどね」
「あはは、精進します……」
「ふふっ。でも何だか、君たちが入部――って言うのかな? まぁいいか、君たちの入部したての頃のおどおどした感じも無くなって、一人の立派な部員として頑張っているのかと思うと、ボクがこれまでしてきたことは無駄じゃなかったんだと思ってね」
そう言いながら、天井先輩は顔を上げて前を見た。
僕もつられて前を見ると、目の前には高台から辺りの町を見下ろすように建っている青雲学園の校舎があった。
「さてと……」
天井先輩は、フゥ~と息を吐きながらこう言った。
「今日も一日頑張るか」
「はい」
そう言って僕たちは、満開の桜並木の中、校門をくぐり抜けて校舎に入っていった。




