TAKE13 独りで抱え込むな!
あ、どうも。お久しぶりです。風車です。なんとか生きてます。
世間では東日本大震災によって、いろいろなニュースが連日報道されていますね。私の家も結構揺れました。怖かったです。
沢山の方が亡くなっておられます今回の地震ですが、亡くなってしまった方々のご冥福を祈ります。
私にできることはあまりありませんが、小説を投稿して、楽しみにしていらっしゃる方が少しでも勇気を貰えたらと思います。
それでは、どうぞ。
「いやぁ、さっきは大変でしたね」
ここは、校舎内の放送室。
僕たちは色々とハプニングもあったが、なんとか入学式を成功させ、今は昼食をとっている。
「うん、私もビックリだよ。まさか、マイクが音を拾わないなんてね~」
風花先輩が笑いながら話している。
「だな。今までこんなことなかったから、正直驚いてるぜ」
隼も笑っている。
「にしても、風花先輩」
「何? 翔くん」
「これが弁当って、本気ですか?」
「え? これ?」
僕の言葉に風花先輩は不思議そうに首をかしげる。
僕の指差した先。そこにあったのは、ビックマックとマックフライポテト。
「先輩が『私がお昼ご飯頼んどくよ!』って言ったときには、まさかと思いましたが……」
「だって、さっき言ったでしょ。これが終わったら、みんなでポテト食べようねって」
「いや、言ってましたけど……」
あの言葉にこんなどうでもいい意図があったとは思わなかった。
あれ? ダメだった? と言いながら、わたわたと僕と隼を交互に見る先輩。隼はそんな先輩を見て、放送室内の空気を変えるためにか口を開いた。
「そういえば、天井先輩とリンはどこ行ったんすかね?」
「そういえば、そうだね。二人とも遅いな~?」
風花先輩も気になるようだ。
僕は先程の二人を思い出した。
『あたしは、あたしのしたい通りしているだけなのだ』
『……ありがとう』
あのときの二人は……実にいい雰囲気だった。うん、公園を手を繋ぎながら二人で歩いても違和感が無いくらい。
しかし、どこか引っ掛かるところもあった。
それは、入学式が終わった直後のことだった。
新一年生たちが退場口から退場していき、それぞれの教室で担任の先生が話をしたり、生徒自身が自己紹介をしているであろう時間帯。
僕は昨日会ったばかりの少女――レンはクラスメイトと仲良くなれているのだろうか。などと考えていた。そのとき。
「お、おい? 天井先輩?」
リンの声がした。
不思議に思って、声のした方を見てみる。
「大丈夫、先に放送室に戻るだけだから」
天井先輩がリンに優しく笑いかけていた。
「そ、そうなのか?」
「うん、だから安心して」
「わ、分かった。では、あたしが付き添わなくてもいいのだな?」
「ふふっ、リン君は優しいなぁ。でも、いいんだ。一人で考えたいこともあるし。じゃあね」
天井先輩は最後にニコッと笑いかけ、リンの頭を撫でていった。
天井先輩が体育館から出ていった後、一人残されたリンはというと、天井先輩に撫でられた頭を自分でちょんちょんと触り、続いて自分の顔を両手で覆ってそのまま左右にブンブンと振っていた。
「おーい、リン。一人で何やってんだ?」
「ひゃう!?」
僕がリンに話しかけると、リンはビクッと飛び上がった。しかも、比喩表現とかじゃなくて、本当に1m近く飛んだから驚きだ。
「お、おおお、おう! あま、あ、あま、つ? 天津じゃないか? ど、ど、ど、ど、どうした……んだ?」
「お前、驚き過ぎて、二度僕を認識し直したぞ?」
「い、いや! そんなことは………………ないッ!!」
「なぜ、溜めたし!?」
「た、ためてなどいない!」
何故か、リンが面白いほどに壊れていた。
このまま、もう少し弄ろうかと思ったが止めた。なぜなら、リンが胸の前で右手の拳を握ったり、開いたりし始めたからだ。ここから、更に弄るとどうなるか、隼が身をもって証明してくれている。
「んで、何やってたんだ?」
「え? い、いや、何も……」
僕の口調が普通になったからか、リンも少し落ち着いてきたようだ。
「じゃあ、天井先輩は何か言ってたか?」
「いや……。――って、天津はどこから見ていたのだ!?」
「え~と、天井先輩が立ち上がって、リンが引き止めて、天井先輩が笑いながらリンの頭を撫でて、リンが――」
「わ~! もういい、もういいってば!」
「えっ? これからがいいところなのに?」
「いいんだ! まったく……公開処刑もいいところだ。で、何が聞きたいんだ?」
リンは多少不機嫌そうだが、一応完全に落ち着いたようなので聞いてみる。
「入学式の時に、リンが天井先輩のところに来てから、天井先輩は何か言ってなかった?」
「いや、特に何かを言ったわけではないが」
「うーん、そうか……」
昨日のこともあって、今日の天井先輩の行動には引っ掛かるところがあったきがしたのだが……。気のせいみたいだったようだ。
「でも、気になることを言っていたな」
しかし、そこでリンが思い出したように言った。
「何て?」
「たしか、僕って人間はどうして大事なときばかりミスを犯すんだろう。とかなんとか」
「で、リンはそれに対して何か言ったのか?」
「え? えーと、ミスを犯さない人間などいないのだから、やってしまったものは仕方ない。大事なことはそれからどうするかだ。と言ったと思う」
リンの言っていることは正しい。そう、正論はいつだって正しいのだ。でも、正論が必ずしもその人を救うとは限らない。
それからどうするか。
それから、先輩はどうするだろう?
どんな行動をするだろう?
「それから、天井先輩は何て?」
「そうだねって言って黙ったままだった。……なあ、天津」
リンが不思議そうに聞いた。
「天井先輩が弱音を吐く姿なんて見たことあるか?」
「いや、無いけど」
「もしかしたら、天井先輩は何もかも一人で抱え込みすぎているのではないだろうか?」
リンが神妙な顔つきで腕を組んだ。
「……そうかも知れない」
「何か、あたし達にできることはないのだろうか?」
「どうだろう……」
しばらく考えた後、リンは僕に向かって言った。
「あたし、天井先輩を追うよ。それで、一人で抱え込むなって言ってくる」
そして、リンは天井先輩を追いかけて、体育館を後にした。
後に残された僕は、風花先輩と隼と合流してから放送室へと戻った。
そして、今に至る。
リンも、天井先輩も、一体どこにいるのだろう?
僕たちが放送室に戻ったときには、中には誰もいなかった。
ということは、リンは天井先輩を追いかけて放送室に行ったが、中には誰もいなかったため、校舎内を捜索中ということだろうか。
何はともあれ、リンと天井先輩がいなくては、今日のクラブ紹介に支障をきたす。
昼休みが終わるまでにはちゃんと帰ってきて欲しいのだが……。
「よし! では、ここに、リンちゃんと成輝くん捜索部隊の発足を宣言します!」
突然、風花先輩が席を立ち言い放つ。
「い、いきなりどうしたんですか!?」
僕は風花先輩の発言に驚きつつも言った。
「もちろん、二人を捜すのよ!」
腰に手をあてて、高らかに宣言する先輩の目の前には食べ終わったハンバーガーの包み紙とポテトの空箱が置いてあった。
……あぁ、さてはこの先輩、暇になったな。
「ということで、翔くん! 隼くん! 二人を捜しにいくよ!」
「えっ!? 俺も行くんすか!?」
「当たり前だよ。ほら、さっさと準備する」
「……は~い」
隼は諦めたように返事をした。そして、よっこいしょと言いながら席を立つ。……オッサンか。
「あ、二人とも。念のため、コレ持ってって」
そう言って、風花先輩は僕と隼に向かって何かを放り投げてきた。
「……インカムすか?」
隼が聞き返す。
「そうよ。この前、学校内ではどこでも使えるように設定しといたから、二人を見つけたら連絡して」
「りょ、了解です」
風花先輩に向かって敬礼する隼。
僕は疑問に思ったので聞いてみる。
「いつの間にそんなことしたんですか?」
「うーん、それは、大人の事情?」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、風花先輩は言った。
一体、この人は何をしたんだろう……。
「じゃあ、そろそろ行こうか。一時三十分までにはココに戻ってくること。それまでに二人を見つけておくこと。OK?」
『了解!』
僕たちは放送室を飛び出した。