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TAKE10 言わなかった、言えなかった

 唐突ですが皆さん、部活ってどんなものですか?


 きっと、アツいものだったり、楽しいものだったりと明るめの意見が多いと思います。


 しかし、時として部活は足枷となることもあるんです。


 部活があるから、友達と遊べない。部活があるから、家族と旅行に行けない。部活があるから、引っ越ししにくい……。


 大抵の場合、練習して強くなる、仲間内で楽しくやれる。そんな対価を支払っているわけで、そんなことを感じません。


 ですが、その対価が無かったとしたらどうでしょう?


 友達もいない、やりがいもない……。そんな部活に意味なんてあるのでしょうか?


 それでは、本編に入りたいと思います。


 前回は、風花先輩が何かを告白する!?


 という感じで終わりました。さて、風花先輩はそのあと何を言うのだろうか……。


 それではどうぞ。

「あのね、翔くん。

 私ね、翔くんに言わなくちゃいけないことがあるの」


 風花先輩は真剣な表情で、ゆっくりと言った。


「な、なんですか……?」


 僕は今まで、こんなに真面目な顔をした風花先輩を一度も見たことが無かった。


 風花先輩のその真剣な表情に、僕はなにも言うことができずにいた。


「実は……」


「……ゴクリ」


「コーラって糖分がたくさん含まれてるんだって」


 ガクッ!


「急に真剣な表情するから、なにを言い出すかと思ったら……」


 すごくどうでもいい……。


「っていうか、僕が飲んでるのコーラじゃなくてファンタなんですけど」


「……………………それは置いといて」


 風花先輩は目の前の物を脇に退ける動作をした。


 置いとくのかよ。


「これからが本題なんだけど」


「じゃあ、今の会話要らないでしょ」


「私はシリアスの手前にギャグパートを盛り込みたい人間なの」


「はぁ、果てしなく要らない主義だ……」


 コホン、と風花先輩が話題を転換するように咳払いをした。


「で、本題ね」


「で、いったい何ですか?」


「実は……」


 風花先輩はゆっくりはっきりと言った。


「成輝くんが転校しちゃうんだって」


「…………え?」


 何だ……それ?


「しかも、明日の入学式が最後なんだって……」


 明日……。最後……。


「それって、いくらなんでも急すぎませんか?」


「仕方ないよ、私も昨日聞いたばかりなんだから……」


 でも、と風花先輩は続ける。


「引っ越し自体は一年くらい前から決まっていたらしいよ……」


 風花先輩は床を見つめながら言った。


「なんで、天井先輩は黙っていたんですかね」


「違うよ翔くん。成輝くんはこのことを言わなかったんじゃないよ。言えなかったんだよ。最後の最後まで……」


 最後の最後まで……。


 僕は、風花先輩の言葉を胸の内で復唱してみた。しかし、風花先輩の言葉の意味も、天井先輩の考えも読み取ることは出来なかった。


「きっと、成輝くんにとってこの一年間は、凄く楽しくて、それでいて凄く苦しい一年だったと思うよ」


 楽しかったのだろうか。


 苦しかったのだろうか。


 天井先輩の心は僕には分からない。でも、分かりたい……。


「だからこそ、成輝くんは、最後の放送委員会を完璧にこなしたい。笑いながらこの学校を去りたい。って、私に言ったんだよ」


 風花先輩はそこでニコッと笑った。それは悲しみを含んだ笑顔だった。


「なんで、我慢なんてしちゃうんだろうね? もっと早く言ってくれれば、もっと楽しく過ごせたのに……。もっといっぱい楽しめたのに……」


 こんな問い掛けをしながらも、風花先輩は天井先輩の考えていることを分かっているのだろう。


 だって、分からなかったら、涙なんて流せないよ……。


「うっ、……クズッ。ヒック……」


 風花先輩は涙を袖で拭いながら、嗚咽を漏らさないように静かに泣いていた。


 こういう時こそ、ハンカチを渡すべきなんだろうけど……。


 クソッ、ティッシュしかない。


「あの、風花先輩。これ使って下さい」


「う、うん。……グズッ。ありがどう……」


 結局、ティッシュを渡した。


「――フフッ…………アハハ」


 突然、風花先輩が笑いだした。


「もう……フフフ、なんでこういう時にティッシュ渡すかな~。こういう時はハンカチでしょ? せっかくのシリアス空気が台無しだよ、ハハハ」


「あー、すみません。これしかなくって……」


「なんかね、翔くんを見てると深く考えることが馬鹿らしくなってくるんだよね」


「それって褒めてるんですか? それとも馬鹿にしてるんですか?」


「さあね?」


「なんですか、それ」


 僕が言うと、風花先輩は笑いながらハンバーガーを一口頬張った。


 なんか釈然としないまま、僕もハンバーガーに噛みついた。


――『その後』――


「じゃあ、翔くん。明日はよろしくね」


 帰り道の十字路のところで、風花先輩は言った。


 この道を僕は真っ直ぐ進み、風花先輩は左に曲がるのだ。


「はい、わかりました」


 僕は、風花先輩の言葉に頷いた。


 結局、あの後は口数が少ないまま、明日に天井先輩を送り出す会を行うということだけ伝えられた。


 送り出す会と言っても、そんな大したものではなく、放送室でお菓子やジュースをつまむくらいだ。


「じゃあね」


 風花先輩は軽く右手を振りながら言った。


「はい、さようなら」


 それに合わせて、僕も軽く手を挙げて応える。


 すると、風花先輩は左に曲がって歩いていった。――が、少し歩いたらこっちを振り返った。


 振り返って、僕がまだいることに気がついた風花先輩は再び、笑いながら手を振った。


 僕も再び手を挙げて応えた。


 こうして、いつも通りの動作を終えて、僕達はそれぞれの道を真っ直ぐと歩きだした。


 いつからか忘れてしまったが、僕達はこんなふうに二回手を振ってから、別れるようになったのである。


 風花先輩と別れた後、僕は一人で家路をゆっくりと歩いていた。


 独りになってから考えることは、もちろん先程の風花先輩の言葉だ。


『コーラって糖分がたくさん含まれてるんだって』


 そうか、コーラには糖分が……………………ん?


 いかん、少しあの先輩に毒されたようだ。シリアスの手前にギャグパートを入れてしまった。


 考えようと思ったのはこれじゃなくて、こっち。


『言えなかったんだよ。最後の最後まで……』


 天井先輩はなんで引っ越しのことを今日まで伝えられなかったのだろう?


 そりゃ確かに言いづらいのは分かるけど、引っ越しや転校なんて言わないでおくわけにはいかないことだ。


 だから、言いづらかったからなんていう簡単な理由じゃないんだろう。


 だったらなんで……? なんで天井先輩はもっと早くこのことを言ってくれなかったんだ?


 僕の思考は家に帰ってからも続いた。


 とはいっても、先程から同じようなことをぐるぐると考えているだけだ。


 先輩はなぜ引っ越しのことを言えなかったのか、なにか理由があるのだろうか、だとしたらどんな理由か……。


 色々な状況を考えてはみたが、どれも普段の天井先輩では考えたり、やりそうにないことばかり。


 僕は今、自分の部屋のベッドにねっころがりながら音楽を聞いている。考え事をしているときはこれが一番なのだ。


 しかし、ここまで詰まってくると、音楽も耳障りな雑音にしか聞こえない。


 やはり、天井先輩がどう思っているのか。それが分からなくては、考えても始まらない。


 しかし、天井先輩の思っていることなんて、本人以外分かるはずもない。


 そこで、天井先輩の考えについて仮説を立ててみたのだが、どれもしっくりくるものがなかった。


 その中で一番有力なものをあえて挙げるとすると、


 天井先輩は引っ越しのことを嫌がっていて、そのためギリギリになるまで引っ越しのことを言えなかった。


 ということになるのだが、これは普段の天井先輩からは想像しがたい。


 いくら嫌だからといっても、真面目な天井先輩が一回決まったことを僕達に話さないはずがないからだ。


 その時、家のインターホンが鳴った。続いて、廊下を小走りで走る音と、玄関の鍵を開ける音がした。


 誰が来たのかと思い、いったん思考を中止する。


 すると、誰かが階段を上ってきたようだった。


 そう思った直後、母さんが僕の部屋のドアを開けて訪問者を中に入れた。


「翔。天井先輩がいらっしゃったわよ」


 そう、僕の部屋に入ってきたのは天井先輩だった。

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