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第9話:トラップ・カフェ(同行要求)

すっかり晴れ渡った、透き通るような朝。

車内に差し込む眩しい陽射しの中で、今日の俺は英単語帳(TOEIC対策)すら開く気になれなかった。


ずっとスマホの画面を握りしめ、何かを決意したようにギュッと唇を噛む彼女の姿を横目で見ながら、俺は嫌な予感を感じていた。

そして彼女は深呼吸を一つして、バッ!と俺の目の前にスマホの画面を突き出してきた。


「……これ」


画面に映っていたのは、来週から駅前で始まるあのドラマの『期間限定コラボカフェ』の告知ページだった。

「あそこ、『男女ペア限定入店』っていう謎の鬼ルールのせいで行けないんだよね。どうしてもそこの限定アクリルスタンドが欲しくて。でも、一人じゃ入れなくて」


彼女からの突然の提案に、俺の脳内システムに致死レベルの警告アラートが鳴り響いた。


(休日に! 45歳のおっさんが! 女子高生と! パンケーキを!?)


「む、無理だ……っ!」

俺の唇が微かに震える。

「通報される……! もし会社の同僚や取引先の人間に見られでもしたら、俺の社会人生命は終わりだ! 懲戒免職だ!!」


脳内で己の社会的リスクを瞬時に計算し、断固として首を横に振ろうとした、その時だった。


「えー……パフェ代、私が出すって言おうと思ったのに」


俺が断ろうとする空気を察し、彼女は悲しそうにシュンと下を向いた。


……ダメだ。

理不尽な取引先の無茶振りには、鉄の意志で「NO」と言える俺の鋼のメンタルが、音を立てて崩れ去っていく。

こんな、今にも泣きそうな顔をされて、断れる大人がいるだろうか。いや、いない。


「……わ、私が奢りますから! だから、泣かないでくださいっ!」

俺はギュッと目をつむり、思い切ったように叫んだ。


「ふふっ。おじさんがそこまで言うなら、しょうがないですね」

「えっ!?」


俺の一世一代の決死の叫びを聞いた瞬間、先ほどまでの悲しそうな顔はどこへやら、彼女はパァッと顔を輝かせた。

(……謀られた?)

俺がその小悪魔的な笑顔に絶句していると、プシューッとドアが開いた。


「じゃあ、土曜の10時に駅前の時計台でね。ちゃんと来てね、おじさん!」

「あ、はい……ッ!」


しっぽを振る大型犬のような元気さで彼女がホームに降り立つのを見送りながら、俺は己の人生の社会的リスクをすべてテーブルに乗せ、破滅への扉を開いてしまったことを悟った。

見上げた空は、皮肉なほどに清々しい青空が、どこまでも広がっていた。


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