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第6話:三毛猫パフェと恋?の始まり

駅前の通りを少し歩き、目的の『期間限定コラボカフェ』に到着した。

店外からすでに、ドラマ『三毛猫シェフの気まぐれダイナー』の可愛い世界観が溢れ出ている。


「わぁ……すごい!」


店内に入ると、壁一面にドラマのポスターや可愛い三毛猫のキャラクターが配置され、BGMにはおなじみのほんわかしたテーマ曲が流れていた。

私は思わずはしゃいだ声を上げてしまい、ハッとして大人げなかったかと彼を振り返った。しかし彼もまた、少し緊張した面持ちで店内の装飾をキョロキョロと見渡していた。


「……なんか、すげぇ可愛い空間ですね」

「ふふっ、圧倒されるよね。でも、付き合ってくれてありがとう。一人じゃ絶対入れなかったから」

「……俺の方こそ。来てくれて嬉しいです」


案内された席に着き、店内のモニターで流れるドラマの限定映像にすっかり釘付けになっていると、やがて注文の品が運ばれてきた。


「……お待たせしました」


店員さんがテーブルに置いたのは、三毛猫の顔がデカデカと乗った、甘そうなパフェが二つ。

いつも満員電車で涼しい顔をしている彼が、猫耳のついたこんなラブリーなパフェを前にしてちょっと真面目な顔をしているギャップに、私は思わず吹き出してしまった。


「あはは。それ、猫耳のクッキーから食べる?」

「えっ、そ、そうですね。……いや、崩すのもったいないな」


なんだかんだと他愛のないドラマの話をしながら、私たちは甘いパフェをつっついた。

ひんやりとした冷たいアイスの口当たりとは裏腹に、彼と共有する時間はとても温かく、心を満たしていく。

パフェの甘さが引いていく頃、ふとテーブルの隅に置かれた小さな銀色の袋に気づいた。

レジ横で売られていた、ドラマの限定アクリルスタンドだ。


「それ……欲しかったやつだよね?」

「あー、はい。なんか、レジ横にあったんで。つい」


彼はそっぽを向きながら、その袋を私の前にすっと差し出した。


「えっ、でもこれ結構するよね!? 何種類か買うつもりだったんじゃないの? 私、自分でお金出すよ。高校生に出させるわけには……」


私が慌てて財布を取り出そうとすると、彼は少しだけ眉を下げて、私の手を軽く制した。

軽く触れた彼の手は、パフェのグラスを持っていたせいかほんのり冷たかったけれど、その感触はしっかりと力強かった。


「……いいんです。これ、受け取ってほしくて」

「えっ……でも」

「今日のために、先週バイトのシフト増やしたんで」


彼がまっすぐに見つめてくるその瞳は、さっき待ち合わせで見せた「大型犬」のような可愛さではなく、少しだけ背伸びをした「一人の男」の真剣な表情だった。


「年下に奢られるの、嫌ですか?」


(今日のために、バイト頑張ってくれたんだ……)


その不器用な誠実さが、三毛猫パフェなんかよりもずっと甘く、私の胸の奥をギュッと締め付けた。

大人ぶったプライドなんて、もうどうでもよくなっていた。


「……ううん。嫌じゃない。すっごく嬉しい。ありがとう。大事にするね」


私が素直に微笑んでお礼を言うと、彼は耳まで真っ赤にして「……なら、よかったです」と呟き、照れ隠しのように残っていたパフェのクッキーをかじった。


窓の外を見上げると、透き通るような青空がどこまでも広がっている。

憂鬱だった雨の満員電車の記憶は、すっかりこの甘くて温かい休日の空気に上書きされていた。

明日からの7時15分が、私にとって一番楽しみな時間になることは、もう間違いない。

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