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第3話:十数秒の進展

さらに数日後。

どんよりとした日が続いていたが、今日は雲の切れ間から少しずつ日差しが差し込むような、穏やかな朝だった。


電車の中は相変わらずの混雑ぶりだけれど、私の心持ちはずいぶんと違う。

今日の彼は、いつもなら涼しい顔で読んでいるはずの英単語帳を全く開いていなかった。それどころか、チラチラとこちらを窺うような視線を肌に感じる。


(なんかソワソワしてるな……)


私は気づかないフリをして、スマホのニュースをスクロールし続けた。大人の余裕というやつだ。

やがて、私の降りる駅のアナウンスが流れた時のこと。


「……あのっ」

彼が、蚊の鳴くような声で話しかけてきた。


「昨日の回……見ました? あの、猫がオムライス落とすところ」

「あー、見た見た。あれ可愛かったよね」

「……ですよね」


会話はたったそれだけ。私が電車を降りるまでの、わずか十数秒の出来事。

でも、彼はそれだけの会話ができただけで、どこかホッとしたような、満足そうな顔をして口元を緩めていた。


改札を抜けて外に出ると、ちょうど雲がすっかり晴れ、淡い朝の光が濡れたアスファルトを照らしていた。

ぽかぽかとした心地よい日差しを頬に受けながら、私はふふっと思い出し笑いをして、職場への道を歩き始めた。


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