雨上がりのキーホルダー
翌朝。
昨日の大雨は過ぎ去ったものの、空はまだ分厚い雲に覆われており、駅のホームには少し湿った冷たい空気が漂っていた。
電車に乗り込むと、彼はいつも通り私の近くに立っていた。
どうにも意識してしまって視線のやり場に困る私だったが、ふと、彼の胸元で揺れる通学リュックのキーホルダーに目が止まった。
それは、最近私が夜な夜な癒やされている、深夜のゆるふわグルメドラマ『三毛猫シェフの気まぐれダイナー』のキャラクターだった。
(えっ……この子、あれ見てるの?)
私が驚いてキーホルダーを見つめていることに気づいたのか。彼はハッとして、慌てて手でそれを隠した。
「……あの」
くぐもった電車の走行音に紛れるような、小さな声。
「これ、笑わないでくださいよ。妹のやつ、勝手につけやがって……」
耳を赤くして必死に言い訳をする彼がおかしくて、昨日までの気まずさが嘘のように溶けていくのを感じた。
「ふふっ、笑わないよ。私、昨日もそのドラマ見たし」
「えっ」
私がそう答えると、彼は驚いて目を丸くした。
いつもは大人びた顔つきで単語帳を開いている彼の、年相応の無防備な表情。
「それじゃ、また」
私の降りる駅に着き、今度は自然な笑顔で手を振って電車を降りる。
ホームに吹き込む風はまだ少し冷たかったけれど、昨日までのような息苦しさはなく、私の足取りは羽が生えたように軽かった。
見上げれば、曇り空の隙間から、ほんのりとした明るい光が差し込み始めているような気がした。




