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第11話:加齢による早起き(待ち合わせ)

土曜日の朝。

雲ひとつない快晴。肌を撫でる風が少しだけ冷たい、澄んだ空気の休日日和だった。


待ち合わせの、実に1時間半前。駅前の広場。

若手社員の言いつけ通り、朝イチでユニクロに駆け込み、マネキンから剥ぎ取ったシンプルな白いパーカーと黒のパンツに着替えた俺は、すでに時計台の下に陣取っていた。


決して、デートが楽しみで浮かれて早く来たわけではない。

ただ単に、歳をとって朝4時に目が覚めてしまい、二度寝もできず、家で暇を持て余した結果だった。(悲しいことに、これは加齢による紛れもない物理現象である)


ベンチに腰掛け、心を落ち着けるために持参した日経新聞を広げて読んでいると、広場に住み着いている人懐っこい茶トラの野良猫が寄ってきた。

ふわりとした猫の毛並みを優しく撫でていると、不意に背後から声がした。


「おじさん、おはようございます。……えっ、なんか今日、若く見えますね?」


「わっ!?」

俺はビクッと肩を跳ねさせ、持っていた日経新聞を取り落としそうになりながら慌てて立ち上がった。


振り返ると、そこには見慣れた制服姿ではない、柔らかい印象のワンピースに身を包んだ彼女が立っていた。

私服姿の彼女のあまりの破壊力に、俺の心臓は文字通り「ドクンッ」と大きく跳ね、リアルな不整脈を起こしそうになった。


「お、おはようございます。いや、全然。俺も今来たとこなんで……」

平然を装って答えたものの、俺が両手でギュッと握りしめている自販機の缶コーヒーは、1時間半の冷風にさらされて、もはや氷のように冷たくなっていた。


「ふふっ、嘘だ。そのコーヒー、もうすっかり冷めてるよ? もしかして、ずいぶん前から待っててくれた?」

「……1時間半前、です」

「えっ!? 1時間半!? なんでそんな早く……家、遠いの?」

「いや、ここから電車で10分くらいなんですけど……」

「10分!?」


加齢による早起きだとは死んでも言えず、俺は観念したように視線を泳がせ、頭をガシガシと掻いた。

バツが悪そうにうつむく俺を見て、彼女は少し驚いたように、けれど嬉しそうに目を細めた。


「……その、いつもと雰囲気違うんで、一瞬わかんなかったです。……すごく、綺麗です」

不整脈を起こした心臓のまま、モゴモゴと絞り出したような不器用な褒め言葉だったが、彼女はほんのりと頬を染めて笑ってくれた。


「あ、ありがとうございます……。それじゃあ、コラボカフェ行きましょうか」

「はい!」


しっぽを振る大型犬のような、あるいはただの疲れ切ったサラリーマンのような返事をして、俺は彼女の隣を歩き出す。

いつもは満員電車の息苦しい距離でしか会っていなかったから、こうして明るい日差しの下で隣に並んで歩くのは、なんだか不思議な感覚だった。

少しだけよそよそしい距離感を保ちながらも、私たちの歩幅は自然と同じリズムを刻み始めていた。


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