表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見上げるだけの天文部  作者: こおりがし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/14

第9話 余韻と、クリームソーダ

第9話 余韻と、クリームソーダ

「――でね!そのバイトの先輩がマジで使えなくてさー!」


 池袋の雑居ビルにあるレトロな喫茶店。星野キキのマシンガントークは場所を変えても止まらない。彼女の目の前には巨大な『タワーパンケーキ(5段)』が鎮座している。さっき「お腹空いた」と言っていたのは本気だったらしい。


「、、、よく入るね、その胃袋」


深月あおいが、呆れながら自分のアイスコーヒーを混ぜる。テーブルの上には四色のドリンクが並んでいた。


 あかりの『イチゴソーダ(赤)』。

みどりの『メロンソーダ(緑)』。

キキの『レモンスカッシュ(黄)』。

あおいの『ブルーハワイ(青)』。


 まるで示し合わせたかのように髪色とリンクしている。


「、、、動かないで」


あおいがカメラ(今日はスマホ)を構えた。カシャッ。四つのグラスが光に透けるエモい構図。


「あ!今の絶対インスタ映えじゃん!あおい先輩のアカウント教えてよー!」


「、、、やってない。これは記録用」


「嘘だー!絶対裏垢あるー!」


 キキが騒ぐ中、夏目みどり先輩はメロンソーダの上のサクランボをつまんで、ふふっと笑った。


「みんなでこうしてお茶するの初めてだねぇ」


「そう言えばそうですね。いつも部室だし」


小日向あかりが頷く。


 部室の延長線上にあるけれど、私服で学校の外で会う感覚。それはなんだか少しこそばゆくて、特別な感じがした。


「ねぇねぇ!せっかくの女子会だしさ!」


パンケーキを半分平らげたキキがフォークを突きつけた。「『恋バナ』とか、しちゃう!?しちゃうよね!?」


「、、、出た。この世で最も生産性のない会話」


あおいが即座にバリアを張る。


「いいじゃんケチー!あおい先輩って好きなタイプとかないの?カメラより大事な人とか!」


「、、、ない。強いて言うならシャッター速度の設定を黙って待てる人」


「地味!」


 キキはめげずにあかりに向いた。


「あかりは!?隠れファン多そうだけど!」


「えっ、私?・・・私は、その」


 あかりは言葉に詰まった。ポエムノートには『銀河の果てで待つ君』みたいな妄想ポエムが書いてあるが、現実の男子となると想像がつかない。


「、、、ふつうの人、かな。一緒にいて疲れない人」


「無難!あかりの回答、置きに行きすぎ!」


「じゃあ、みどり先輩は?」


全員の視線が緑色の部長に集まる。3年生。大人びた雰囲気。もしかしたら、すごい恋愛経験があるのかもしれない。


「ん~、私?」


先輩はストローをくるくると回し、氷の音を鳴らした。


「私はねぇ、、、『一番星』みたいな人がいいかなぁ」


「一番星?」 「うん。夕暮れに最初に光って、ずっとそこにあるの。でも、夜が深くなると他の星に紛れてわからなくなっちゃう」


 先輩は少しだけ遠い目をして、窓の外のビル群を見た。


「捕まえられないけど見上げれば必ず会える。そういう距離感も悪くないかなぁって」


 シン、と場が静まった。なんだか急に切ない空気が流れた気がした。


「、、、部長。それ、実体験ですか?」


あおいが鋭く突っ込む。


「ふふ、どうだろねぇ?内緒だよぉ」


先輩はメロンソーダを飲み干し、ニコッと笑ってけむに巻いた。やっぱり、この人は読めない。


     


 夕暮れの池袋駅。ホームは帰宅ラッシュの人混みで溢れかえっていた。


「うへぇ、満員電車確定じゃん、、、」キキがげんなりしている。


「、、、あ」あおいが小さく声を上げた。その視線の先。柱の陰に見覚えのある黒髪の少女が立っていた。


 白のブラウスに、上品なロングスカート。手にはデパートの紙袋(有名洋菓子店のロゴ入り)。佐条ユキノだ。


「、、、げっ。風紀委員長」


キキが露骨に嫌な顔をする。


 気づいたユキノもまた、「げっ」という顔をした。しかし逃げ場はない。


「、、、奇遇ですね、天文部の皆さん」


ユキノはコホンと咳払いをしてメガネの位置を直した。私服姿だといつもの堅苦しさが抜けて、普通に美少女だ。


「サジョちゃんもお買い物?その袋、美味しいケーキ屋さんだよねぇ?」みどり先輩が紙袋を指差す。


「っ!こ、これは頼まれ物です!家族への!」


ユキノが慌てて袋を隠す。


「、、、ふーん。頼まれ物なのに、新作の『季節限定タルト』の保冷バッグ持ってるんだ」あおいがジト目で袋の隙間をスキャンする。


「う、うるさいですね!深月さんこそ、その格好は何ですか?不審者ですか?」


「、、、機能美と言って。あんたみたいに歩きにくそうなヒール履いてないから」


「なっ、、、!これはマナーです!」


 ホームで火花を散らす青と黒。あかりは苦笑しながらユキノと目を合わせた。ユキノが一瞬バツの悪そうな顔をする。(テスト勉強中の『深夜のコンビニ共犯』の記憶が蘇る)


「そのお店のタルト、美味しいですよね」


あかりが助け舟を出すと、ユキノの表情がパッと緩んだ。


「ええ、特にカスタードが濃厚で、、、あっ」


自分で墓穴を掘りかけ、ユキノは口を押さえた。


「ま、いいじゃん!電車来たよ!乗ろ乗ろ!」


キキが何も気にせずユキノの背中を押した。


「ちょ、押さないでください!」


 滑り込んできたオレンジ色の電車。ドアが開くと、四人と一人は人波に押されて車内へ吸い込まれていった。


 偶然の帰り道。吊革つりかわに捕まる五人の影。窓の外には都会の夜景が流れ始めている。こうして、天文部の長い一日は甘いクリームソーダの余韻と共に幕を閉じるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ