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見上げるだけの天文部  作者: こおりがし


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第7話 都会の迷子と、いけふくろう

第7話 都会の迷子と、いけふくろう

 土曜日午前十時。JR池袋駅の地下、待ち合わせの名所『いけふくろう』像の前。小日向あかりは緊張で胃が痛くなっていた。


(、、、派手すぎたかな。いや、地味すぎ?)


 ショーウィンドウに映る自分を見る。白いブラウスに膝丈の赤いフレアスカート。昨夜タンスの中身をひっくり返して選んだ「精一杯のよそ行き」だ。  自分の髪色に合わせた赤だが、街ゆくオシャレな人々に比べるとなんだか芋っぽい気がしてくる。


「あーかーりー!」


 人混みを切り裂くような大声。振り向くと黄色い台風――星野キキが突進してきた。


「おっはよー!うわっ、あかり超可愛いじゃん!イチゴみたい!」


「お、おはようキキ。。。イチゴって褒め言葉?」


 キキの私服は、さすがの「きれいめギャル」だった。肩が出たオフショルダーのカットソーに、ショートパンツ。足元は厚底サンダル。安物ばかりのはずなのに着こなしが上手いのでモデルみたいに見える。


「へへーん、これ全部で二千円!フリマアプリで勝ち取った戦利品!」


「たくましい、、、」


「、、、うるさい。地下街が共鳴してる」


 背後から低い声がした。深月あおいだ。宣言通りの黒パーカーに、デニムパンツ。首にはいつものゴツいヘッドホンと重そうな一眼レフカメラ。完全に「撮影機材を運搬するアシスタント」のような出で立ちだが、整った顔立ちのせいで妙にスタイリッシュに見える。


「あ、あおい先輩おはようございます。、、、人多いですね」


「、、、地獄。酸素が薄い。帰りたい」


あおいは既にライフがゼロに近いようだ。


「あれ?部長は?」


キキが辺りを見回す。集合時間は過ぎているが夏目みどりの姿がない。


「LINEしてみる」


あかりがスマホを取り出した時、通知が鳴った。



みどり部長:『今ねぇ、西武デパートが見えるよぉ』



みどり部長:『でも看板には東口って書いてあるの。狐につままれたみたいだねぇ』




「で、出たー! 池袋トラップ!」


キキが叫ぶ。


『東が西武で、西、東武』。池袋の東口には西武百貨店があり、西口には東武百貨店がある。田舎者を混乱の渦に叩き落とす初見殺しの罠だ。


「、、、動かないでって送って。私が回収してくる」


あおいが溜息をつき、人混みの中へ消えていった。


 十分後。ぐったりしたあおいに手を引かれ、みどり先輩が連行されてきた。


「やぁやぁ、ごめんねぇ。駅が広すぎて冒険しちゃったよぉ」


 悪びれもせず笑う先輩の姿を見て、三人は息を呑んだ。


「「「、、、お、お嬢様?」」」


 甚平じんべいではなかった。みどり先輩が着ていたのは淡いグリーンのロングワンピース。生地は上質で、歩くたびにふわりと揺れる。頭には大きな麦わら帽子。まるで避暑地の別荘から抜け出してきた深窓の令嬢だ。いつもの『ゆるさ』が、私服だと『はかなげな上品さ』に変換されている。


「え、部長すごくない?実家どこ?お城?」


キキが目を丸くする。


「ん~? 商店街の古着屋さんだよぉ。五百円」


「五百円!?」


「素材がいいからねぇ。掘り出し物だったよ」


 やはりこの人はタダモノではない。


「、、、よし、全員揃ったな。移動する」


あおいが隊長のように宣言した。


「目的地はサンシャインシティ。ここから大体徒歩十分くらい。はぐれたら置いていく」


「ラジャー!」 「はーい」 「、、、頑張ります」


 四人は地上へ出た。梅雨明けの太陽が眩しい。ビル風と、車の音と、無数の人々の話し声。


「うわー!人いっぱい!お店いっぱい!」


キキがキョロキョロと視線を彷徨さまよわせる。


「あ、クレープ!タピオカ!10円パン!」


「キキ、寄り道しない。上映時間に遅れる」


あかりがキキのリュックを掴んで制御する。まるで散歩中の犬だ。


「、、、あ」


あおいが立ち止まりファインダーを覗いた。レンズの先には信号待ちをする雑踏と、その隙間から見える青空。


 カシャッ。


重厚なシャッター音が都会の喧騒けんそうを一瞬だけ切り取る。


「、、、東京の空も、意外と悪くない」


ボソッと言って、あおいはまた歩き出した。


「待ってぇ~、歩くの速いよぉ~」みどり先輩が麦わら帽子を押さえながらついていく。


 赤、黄、青、緑。カラフルな四人がサンシャイン通りの人波を泳いでいく。目指すはビルの屋上にある「満天の星」。いつもの学校の屋上とは違う、作られた星空への旅が始まった。

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